抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

5.近くて遠い距離 でも近づきたくて

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 バンッと自分の頬を打った。隣のデスクに座っていた杉野がビクッと体を震わせている。
「急に何ですか! どっきり止めて下さいよ! コーヒー吹っ飛んだじゃないですか!」
「ごめん……」
 零したコーヒーを急いで拭いている。思い出さないよう、気をつけているけれど、グルグル回ってどうしようもない。
 あの日は何だったのだろう。
 頭を抱えてしまった。

~*~

 高校生の初ヒートに遭遇後、真澄が倒れてしまったのが気になって。家に戻ってからも大丈夫だったかと気が気じゃなくて。桃ノ木家の秘書として働いている浩介に連絡を取ったら、今から帰ると返信があり待っていた。
 帰ってきた浩介は、いつものオールバックではなかった。仕事帰りに髪がボサボサになっているのは珍しくて、一瞬、真澄の事を聞きそびれるところだった。
「ぼっちゃんなら大丈夫です。熱が出ているのは、別の原因だそうです」
「本当に?」
「はい。安心してほしいと桃ノ木様に伝言を頼まれました」
「良かった……!」
 真澄の体がΩのフェロモンに反応したのは初めてだったから。後から何か影響が出ていないかと心配だった。安堵の息をついた俺の手を、どうしてか浩介が握り締めてきて。
「どうした?」
 見上げれば、見つめられて。
「しても良いですか?」
 淡々と確認された。この男は、雰囲気というものがない。いつも急に言い出してくる。せめてそういった雰囲気を出してから誘って欲しいのだが。
 数少ないチャンスだから、できるだけ断りたくはない。
「そ、それは……良いけど……お前、夕飯は……」
「では」
 ぐいぐい引っ張って行かれる。寝室に入ると、テキパキと服を脱ぎだした。皺にならないよう上着を掛け、脱いだ服をたたんで置いている冷静さ。
 溜息が出そうになる。たまには脱いだり、脱がせたり、してみたい。
 やはり男の俺には、色気が無いのだろうか。
 俺も着ていた服を脱ぐと、もう、ベッドで待っていた浩介の隣に寝転んだ。
「どうぞ」
 両手を広げて待ってやる。こちらは心臓がバクバクしているのに、無表情で折り重なってくる。愛撫もなく、いきなり奥に指が入ってくるのも結構、辛い。
 でも、それでも、浩介がしたいのなら、抱き合っている間なら、俺も抱き締めても良いだろう。
 そっと逞しい肩に手を乗せた。まだ濡れていない場所を行き来する指に顔がしかめていたのだろう、浩介の手が止まる。
「嫌ですか?」
 指が抜かれてしまう。慌てて首に抱きついた。
「嫌じゃない。まだ濡れてないから……」
「無理をさせたくありません」
 俺の腕を外し、離れてしまった。

 ああ、駄目だ。

 今夜はできそうにない。

 久しぶりだったのに、俺の馬鹿……!

 自分で体を弄れば濡れるだろうか。せっかく浩介がしたいと思ってくれたのに、このまま眠るなんてできない。
 後ろへ指を入れようとした俺の唇に、浩介の親指が触れている。じっと、唇を見つめられている。
「キスをしても、良いでしょうか?」
「……へ?」
「ずっと、したいと思っていました。あなたが嫌でなければ……」
 ふにふに、ふにふに、触られている。
 ゴクリと、生唾を飲み込んでしまう。

 そんな、本当に?

「う、うん……お前が……嫌じゃなければ……」
「失礼します」
 薄い唇が重なってくる。ふにっとした感触に目眩がする。
 ヒートの時、浩介と番になった時に、フェロモンの影響でハードにキスをしていたはずだけれど。
 番になってからは、浩介は俺にキスをしなかった。きっと、男だと意識してできないんだろうと、俺からもしなかったけれど。
 ただ、重なっているだけで、体が震えてくる。浩介から、αのフェロモンが出てきている。そのフェロモンを嗅いでいると力が抜けて、唇が少し開いてしまう。
「……良いんですか?」
 何のことだろう、閉じていた瞼を開いたら、また唇が重なった。俺の唇の隙間から、彼の舌が滑り込んできた。
 どっと心臓が跳ね上がる。啄まれ、吸い上げられている。奥が、じんと痺れて濡れてきた。
 たまらない。遠慮がちに口内を啄まれ、追い掛けるように絡めてしまう。離したくなくて、彼の首にしがみついた。夢中で吸ってしまう。

 駄目だ。

 やり過ぎるな……!

 言い聞かせても、止められない。無意識に足をすり寄らせてしまう。奥が疼いて、早く触れて欲しくて、彼の頭をかき抱いた。
「浩介……!」
「……しても良いんですか?」
 問われて何度も頷いた。濡れた場所へ指が入ってくる。今度はすんなり受け入れた。広げるように掻き回され、腫れた彼のモノが押し入ってくる。
「ああ!」
 いつもと違う。じんじんしてくる。しがみついたまま震えてしまう。
「痛いですか? 大丈夫ですか?」
 奥に入ったまま、浩介が顔を上げている。震えながら見上げたら、いつもの無表情ではなくて。心配そうに見つめられている。
「いい……から……」
「でも……あなたが辛いのは駄目です」
「このまま止められる方が辛いって……!」
 ここまで来て、止めて欲しくはない。離さないよう力一杯しがみついた。
 俺の項に顔を埋めた浩介は、奥に入ったままこねてくる。彼はいつもそうだ。俺を抱き込んだままこねるように動く。ずっと奥を突かれたままなので、痺れて仕方が無い。
 密着している体が汗ばんでくる。浩介のαのフェロモンをもろに受けながら抱かれると、Ωとしてのフェロモンも出てしまうのか、彼はずっと項を嗅いでいる。
 グッと押し込まれ、声も無くイッて中に出された。熱いそれを感じると俺もイッた。首にしがい付いたまま、彼に気付かれないよう、肩にキスをした。

~*~

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