抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

4.初めてと初めて

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 目が覚めたら知らない部屋に居た。息がまだ苦しい。体が熱くて仕方がない。
 けれど、腕から伸びる点滴から抑制剤が流れているのか、初のヒートを迎えた直後のような震えはなかった。
 恐る恐る尻に手を伸ばした。誰かに襲われていないだろうか。体が熱くてわかりづらいけれど、何かを入れられたような違和感は無いと思う。
 ほうっと息を吐きながら周りを確認した。無機質な個室は、どうやら病院のようだった。コンコンッと遠慮がちな音がドアからすると、看護師が顔を覗かせた。
「目が覚めたんですね。体、大丈夫ですか?」
「あっつい……」
「初ヒートですよね? 先ほど親御さんが入院の手続きを済ませています。このままヒートが収まるまで入院になります」
 点滴の残量を確認し、脈を測るとにこりと笑っている。
「私もΩですから。苦しい時は発散して頂いて大丈夫ですからね」
「女の人の前じゃ……しにくいって」
「ここはΩ専用の病棟ですから。医師、看護師も全てΩです。苦しい気持ちは皆、知っていますから」
 ポンポンッと胸を叩かれる。
「意識ははっきりしているようですから、最低限の確認だけ行います。点滴外すので、錠剤タイプの抑制剤を忘れずに飲んで下さいね。飲み過ぎるのは体に悪いので、苦しいでしょうけど容量は守って下さい。何かあったらボタン押して下さいね」
 説明しながら点滴を外した看護師はすぐに出て行った。部屋に一人きりになる。俺の今の状態を理解しているかのように。
「くそっ……!」
 掛け布団をめくった。ズボンと下着を下ろしてしまうと、腫れ上がってしまった自身を握りしめる。自慰行為を行わないと狂ってしまいそうだ。
 何度か梳くと、すぐに果ててしまう。果てたのに、腫れが引かなくて。奥歯を噛み締めながら何度も梳くのに、体に熱がこもって発散できない。

 自分がΩなのだと、改めて実感した。

「何だよ……これ……!」
 後ろからも何か溢れ出てきている。奥が疼いてどうにかなりそうだ。前だけの刺激だけでは収まりそうに無い。
 濡れている尻に指を当ててみる。前が連動してじんじんしてくる。

 怖かった。

 俺が、俺ではなくなりそうで。

「くそっ……」
 震える中指を、中に入れた。奥まで飲み込んでいく。それだけで白濁が飛び散った。体がガクガク震えてしまう。
「くそっ……くそくそくそっ……!」
 悔し涙が溢れてしまう。俺は男でいたいのに、まるで女のように濡れている。

*欲しい……! 欲しい……!!

「うるせーよ!! 誰だよ、お前!!」
 頭の中に響く声。αを求めて叫んでいる。
 男で子供を身ごもる体を持っているのはΩだけ。男女と馬鹿にするαも居る。
 いつ終わるか分からない快感の波に飲まれながら、何度も何度も絶頂を迎えては虚しさを噛み締めた。

***

 入院して一週間で、ヒートは収まった。俺に合った薬を処方してもらい、三ヶ月に一回訪れるヒート期のための入院手続きも行った。
 これから俺は、番を見つけない限りこのヒートで苦しむことになる。一生来なくて良いと思っていたのに、とうとう来てしまった。
 大きな溜息をついていると、Ωだという男性医師が笑っている。
「暗い顔だね」
「そりゃそうでしょ。先生はもう、番を見つけたんですか?」
「うん。噛まれた跡が残っているでしょう?」
 見せてくれた首筋には、番のαに噛まれた歯形が残っていた。ああやって俺も、αの支配を受けることになるのか。
 俺を馬鹿にしてきたαに守ってもらうなんて考えたくもない。溜息が止まらない俺の頭に、先生の手が乗せられた。
「初めての時は、ショックだよね。僕もそうだったから」
「……どうにかなりませんか?」
「子供の事を考えると、ヒートそのものを抑える強い薬を作ることは難しいとされていてね」
「俺は男だから、子供とか、考えられないんだけど」
「うん、今はそうかもしれない。でもね、君が心から好きな人ができて、子供が欲しいと思う時がくるかもしれない」
「来ないですよ、きっと」
 αなんて嫌いだ。俺は俺のままでいたい。また溜息を吐いてしまう俺を見つめた先生は、ポンッと俺の両肩を叩いている。
「それにしても田津原君は良い体をしているね。モデルみたいだ」
 にこにこと笑っている先生は、線が細く、女性的な人だった。男のΩは線が細い人が多く、華奢だと言われている。
 それが嫌で体を鍛え上げてきた。身長も希望通り百八十㎝を超えている。両親には体格の良い男Ωだともらい手が無くなるから細くなれと言われていたけれど、それに反発してきた。
 俺は守ってもらう気など無い。俺のことは俺が守ってみせる。
 そう思っていたけれど、実際にヒートを迎えてみて分かったことがある。俺の意思だけでは体を動かせなくなるということだ。
 頭の中がαのことでいっぱいなる。抱かれてぐちゃぐちゃにして欲しいとさえ、思ってしまった。
 そんな自分が気持ち悪くて仕方が無い。どうにかしてヒートが来ないようにできないのだろうか。抑制剤を使ってフェロモンの量は減らせても、体の熱を完全に封じることはできなかった。
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