11 / 152
抱き締めても良いですか?
4.初めてと初めて
しおりを挟む目が覚めたら知らない部屋に居た。息がまだ苦しい。体が熱くて仕方がない。
けれど、腕から伸びる点滴から抑制剤が流れているのか、初のヒートを迎えた直後のような震えはなかった。
恐る恐る尻に手を伸ばした。誰かに襲われていないだろうか。体が熱くてわかりづらいけれど、何かを入れられたような違和感は無いと思う。
ほうっと息を吐きながら周りを確認した。無機質な個室は、どうやら病院のようだった。コンコンッと遠慮がちな音がドアからすると、看護師が顔を覗かせた。
「目が覚めたんですね。体、大丈夫ですか?」
「あっつい……」
「初ヒートですよね? 先ほど親御さんが入院の手続きを済ませています。このままヒートが収まるまで入院になります」
点滴の残量を確認し、脈を測るとにこりと笑っている。
「私もΩですから。苦しい時は発散して頂いて大丈夫ですからね」
「女の人の前じゃ……しにくいって」
「ここはΩ専用の病棟ですから。医師、看護師も全てΩです。苦しい気持ちは皆、知っていますから」
ポンポンッと胸を叩かれる。
「意識ははっきりしているようですから、最低限の確認だけ行います。点滴外すので、錠剤タイプの抑制剤を忘れずに飲んで下さいね。飲み過ぎるのは体に悪いので、苦しいでしょうけど容量は守って下さい。何かあったらボタン押して下さいね」
説明しながら点滴を外した看護師はすぐに出て行った。部屋に一人きりになる。俺の今の状態を理解しているかのように。
「くそっ……!」
掛け布団をめくった。ズボンと下着を下ろしてしまうと、腫れ上がってしまった自身を握りしめる。自慰行為を行わないと狂ってしまいそうだ。
何度か梳くと、すぐに果ててしまう。果てたのに、腫れが引かなくて。奥歯を噛み締めながら何度も梳くのに、体に熱がこもって発散できない。
自分がΩなのだと、改めて実感した。
「何だよ……これ……!」
後ろからも何か溢れ出てきている。奥が疼いてどうにかなりそうだ。前だけの刺激だけでは収まりそうに無い。
濡れている尻に指を当ててみる。前が連動してじんじんしてくる。
怖かった。
俺が、俺ではなくなりそうで。
「くそっ……」
震える中指を、中に入れた。奥まで飲み込んでいく。それだけで白濁が飛び散った。体がガクガク震えてしまう。
「くそっ……くそくそくそっ……!」
悔し涙が溢れてしまう。俺は男でいたいのに、まるで女のように濡れている。
*欲しい……! 欲しい……!!
「うるせーよ!! 誰だよ、お前!!」
頭の中に響く声。αを求めて叫んでいる。
男で子供を身ごもる体を持っているのはΩだけ。男女と馬鹿にするαも居る。
いつ終わるか分からない快感の波に飲まれながら、何度も何度も絶頂を迎えては虚しさを噛み締めた。
***
入院して一週間で、ヒートは収まった。俺に合った薬を処方してもらい、三ヶ月に一回訪れるヒート期のための入院手続きも行った。
これから俺は、番を見つけない限りこのヒートで苦しむことになる。一生来なくて良いと思っていたのに、とうとう来てしまった。
大きな溜息をついていると、Ωだという男性医師が笑っている。
「暗い顔だね」
「そりゃそうでしょ。先生はもう、番を見つけたんですか?」
「うん。噛まれた跡が残っているでしょう?」
見せてくれた首筋には、番のαに噛まれた歯形が残っていた。ああやって俺も、αの支配を受けることになるのか。
俺を馬鹿にしてきたαに守ってもらうなんて考えたくもない。溜息が止まらない俺の頭に、先生の手が乗せられた。
「初めての時は、ショックだよね。僕もそうだったから」
「……どうにかなりませんか?」
「子供の事を考えると、ヒートそのものを抑える強い薬を作ることは難しいとされていてね」
「俺は男だから、子供とか、考えられないんだけど」
「うん、今はそうかもしれない。でもね、君が心から好きな人ができて、子供が欲しいと思う時がくるかもしれない」
「来ないですよ、きっと」
αなんて嫌いだ。俺は俺のままでいたい。また溜息を吐いてしまう俺を見つめた先生は、ポンッと俺の両肩を叩いている。
「それにしても田津原君は良い体をしているね。モデルみたいだ」
にこにこと笑っている先生は、線が細く、女性的な人だった。男のΩは線が細い人が多く、華奢だと言われている。
それが嫌で体を鍛え上げてきた。身長も希望通り百八十㎝を超えている。両親には体格の良い男Ωだともらい手が無くなるから細くなれと言われていたけれど、それに反発してきた。
俺は守ってもらう気など無い。俺のことは俺が守ってみせる。
そう思っていたけれど、実際にヒートを迎えてみて分かったことがある。俺の意思だけでは体を動かせなくなるということだ。
頭の中がαのことでいっぱいなる。抱かれてぐちゃぐちゃにして欲しいとさえ、思ってしまった。
そんな自分が気持ち悪くて仕方が無い。どうにかしてヒートが来ないようにできないのだろうか。抑制剤を使ってフェロモンの量は減らせても、体の熱を完全に封じることはできなかった。
0
お気に入りに追加
342
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

俺の基準で顔が好き。
椿英-syun_ei-
BL
学校一の美少年と噂される男と出会い頭に衝突してしまった。。
放課後、その美少年が部活中の俺のところにやってきて、飯を奢れと言ってきた。
怒っているのか、遊ばれているのか分からないが、俺はその申し出を受けることにする。
荒っぽく鈍感な上条 翔(かみじょう かける)と、
いまいち素直になれない学校一の美少年、竹内 楓(たけうち かえで)。
上条の親友の中西 灯夜(なかにし とうや)は少しずつ状況を理解し始めたようだが…?
青春系恋愛BLです。いかがわしいシーンはありません。後半まぁまぁシリアスな雰囲気になりました。タイトルに反してコメディ要素はないです。
------------------------------------------------------
2019/11/12(火)
無事完結しました!結局性癖は隠せないのですね。学びました(笑)
最後数話を書くのが寂しくて嫌すぎて辛くて楽しかったです。
1つでも感想もらえたら嬉しいな。
2作目もぼちぼち書き始めます。これからもよろしくお願いします✨


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる