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抱き締めても良いですか?
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しおりを挟む「真澄君!?」
顔が真っ赤になっていた。高校生の方は緊急抑制剤が効いているのか、フェロモンの量は抑えられている。呼吸が乱れているが、これは仕方が無い。腫れている下が苦しそうで、同じ男Ωとしてこれから先の彼を思うと辛くなる。せめてズボンのベルトを緩め、楽にしてやった。
α用の緊急抑制剤を真澄にも打ってやると、ぼんやりと瞼を開けている。
「慎二……さん?」
「どうした? まさかフェロモンに当てられたのか?」
「分かりません……でも、下が苦しくて……!」
「……え」
「どうしよう……僕、初めてで……!」
意識はしっかりしているようだが、下が腫れている。俺が知る限り、真澄は男としての反応が無かったはずだが。
とにかく引き離さなければと抱え上げた。杉野が待機しているパトカーの後部座席に寝かせてやる。
「杉野、もう一台救急車を呼んでくれ。この子を頼む」
「はい」
「ぼっちゃん!?」
年配の男性がよろめきながら走ってきていた。手にスポーツドリンクを持っている。
「桃ノ木家の方ですか?」
「は、はい!」
「真澄君を頼みます。様子がおかしいので救急車を呼んでいます」
判断ミスだっただろうか。真澄がΩのフェロモンに反応してしまうなんて。意識の混濁はみられなかったけれど、もし、意識障害が出てしまったら取り返しがつかない。
「先輩、この子熱が出てる!」
「冷やせる物はあるか?」
「あ、これ、これは冷えていますから」
年配の男性が額にスポーツドリンクを当ててやっている。その様子が気になりながらも、高校生の方も心配だった。緊急抑制剤を打っているのに、フェロモン量があまり抑えられない。このままではまた、溢れてしまうかもしれない。
あまり強い薬は使いたくないけれど、震え始めた彼に、二本目の抑制剤を投与した。
「頑張れ。もうすぐ、救急車が来るから」
同じΩだ、大量の汗を掻いている額に手を当てた。少し、和らいだ表情になる。苦しそうな胸元のボタンを二つ開けてやると、救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
「すみません、先にこの子を運びます。真澄君の様子は?」
「会話はできています。意識ははっきりしているようです」
杉野が確認してくれている。真澄は任せ、担架を持ってきた救急隊員を確認した。
「失礼ですが、αの方ですか?」
「はい。番はいます」
「この子、少し様子がおかしくて。俺が運びます。αの方は触れないようにお願いしたい」
「抑制剤が効かないんですか?」
「二本目を打っていますが、まだ苦しそうで」
ゆっくり抱え上げた。救急車まで運んでいく。中にΩ隊員も居たので安心した。桃ノ木病院にはΩ病棟がある。専門スタッフなので高校生を任せた。
救急車が遠ざかっていくのを見送りながら急いで真澄のもとへ戻った。確かに熱は出ているけれど、会話は正常に行えている。苦しそうな下に泣いていた。
「僕……初めてで!」
「仕方は? 俺が触るわけにもいかなし」
番を持っている俺が、別のαのモノに触る訳にはいかないし、それも元見合い相手の弟だ、彼も気まずくて仕方がないだろう。
どうにか彼自身で発散してもらわなければ、脱がせてやるしかないかと思っていると、瞼が下りていく。
「は……はぁ……ぁ」
真澄の呼吸が落ち着いていく。腫れていた下の熱が自然と引いていった。気絶するように眠ってしまっている。
「え、念力ですか?」
「いや、そんな力無いって」
「ぼっちゃん、ぼっちゃん!」
「大丈夫です、落ち着いて。熱の方をどうにかしないと」
スポーツドリンクを首に当ててやる。かなり汗をかいているのでタオルで拭いてやった。かいた汗が冷えると彼の体に触ってしまう。
薄い頬に触れた。細い体が熱を上げている。
二台目の救急車が到着した頃には、Ωのフェロモンの影響は消えていた。
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