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抱き締めても良いですか?
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夕方、パトカーで巡回に出た。念のため、人気の少ない公園のトイレ方向にも向かっていた。監視カメラを設置したので、大丈夫だとは思うけれど念には念を、だ。
パトカーを走らせていた俺達に無線が入る。例の公園から通報が入っていると。
「え、出たんですか!?」
「いや、それが高校生かららしいんだが、いつもと様子が違うって。とにかく行くぞ」
「はい」
サイレンを鳴らすと現場へ向かう。公園の中のギリギリまでパトカーを乗り入れた。下りると、独特なΩのフェロモンが溢れている。
「大丈夫ですか!?」
「待て! お前は近づくな! ヒートだ!」
気付いた時には、杉野がΩのフェロモンを吸ってしまっていた。高校生がトイレ入口前で倒れているのが見える。男なのか、彼からフェロモンが溢れていた。
咄嗟に杉野を押さえ込んだ。息が乱れている。苦しそうに顔を赤くした彼の口と鼻を袖で押さえた。
「吸うな、聞こえるか?」
「せ……んぱい……やばい!」
胸をかきむしっている。押さえ込みながら高校生に声を掛けた。
「救急車を呼べるか!?」
「手が……震えて……! 初めてで……!」
初ヒートか。だからフェロモンの出方が激しいのか。通報してきたということは、何かあったからだ。身を守るために無意識に大量のフェロモンを出している可能性がある。
「くそっ! 暴れるな!」
杉野を押さえ込みながら下がった。これ以上、吸わせる訳にはいかない。
「離れて……くれ……」
高校生の方も這うようにして離れようとしてくれている。彼が頑張っているのに、大人が頑張らない訳にはいかない。杉野を肩に担ぎ上げた。暴れる彼をパトカーの方まで連れて行く。
「堪えろ、杉野!」
「俺……!」
一度吸ってしまったせいか、意識と体が別々に動いている。Ωのフェロモンに惹きつけられてしまった彼を離せば、高校生の所へ走り出してしまうだろう。
かといって、このまま何もしなければあの子が危ない。ベストの胸ポケットに入っているのはΩ用の緊急抑制剤しかない。パトカーにあるα用の抑制剤を取りたいけれど、杉野を押さえるので精一杯だった。
高校生が心配で振り返れば、見知った人が立っていた。フラフラ、フラフラ、歩いている。
「僕の……病院の……救急車を……! よ、呼んでいます……!」
桃ノ木真澄、桃ノ木病院の院長の次男だった。体が弱く、αでありながら、Ωのフェロモンに反応したことがない人だった。彼ならあの高校生の側でも抑制剤を打ってもらえる。
ベストごと脱ぐと、真澄の方へ思い切り投げた。
「Ω用の抑制剤が入ってる! 打ってくれないか!」
聞こえたのか、頷いている。ベストを拾い、抑制剤を取り出すと高校生の体に触れた。
「あぁ……!!」
叫んだ高校生に、危険を感じた。まだフェロモンが出るかもしれない。杉野を捕まえたままドアを開けるとダッシュボードからα用の緊急抑制剤を取り出した。杉野の腕に打ってやる。効き目は早いはずだ。
「俺の声が聞こえるか!? しっかりしろ!」
「先輩……俺、すみません……あの子、見てやって下さい」
「意識はあるな?」
「はい……堪えます」
意識が戻ってきたのか、杉野は自分の手の甲に噛みついた。痛みで朦朧としていた意識を戻している。
「俺があの子襲ったら遠慮無くぶん殴って下さい」
「ああ、そうするよ」
杉野をパトカーに残し、高校生に駆け寄った。側で真澄も倒れている。今までΩのフェロモンには反応したことが無いと言っていたのに何故だ。
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