抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

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 毎朝、両親が追い掛けてくる。逃げるように玄関を飛び出した。
「愛歩! もう、本当に危ないのよ!? 首輪を着けなさい!」
「いらないって! 襲ってきたらぶっ飛ばすから!」
「ヒートがきたらあなただって動けなくなるの! 母さんも苦しかったんだから!」
「大丈夫だって! 行ってきます!」
 全速力で走って行く。追い掛けてきた母さんの足では追いつけない。
「おばちゃん、おはよう! おーい、愛歩-!」
 走る俺を追い掛けてくる幼馴染み。俺より足の速い彼は笑いながら並んだ。
「おばちゃん、毎朝大変だな」
「要らないって言ってんだけどしつこいんだよ」
「気持ちは分かる。高三になってもまだヒート来てないからな、お前」
「……怖いなら離れてろよ?」
 母さんが追い掛けてきていないことを確認して足を止めた。歩く俺の隣に並びながら背伸びをしている。
「なに、大丈夫。俺もう、番になったし」
「ふーん……ん? はぁ!? いつだよ!?」
 親友の衝撃発言に大声で突っ込んだ。

~*~

「起きて下さい。今日も早いのでしょう?」
「……う~ん、もうちょっと……」
 枕を抱き寄せた。ぐずる俺の肩を揺さぶってくる。
「先ほどもそう言って寝てしまって。七時を過ぎていますよ?」
「……え!?」
 時間を聞いて飛び起きた。瞼を擦りながらベッドから飛びしていく。急いで顔を洗って着替えてしまう。朝食を食べている時間は無さそうだったけれど。
 リビングのテーブルには、時間を掛けて作ってもらった朝食が並べられていた。これを食べていかないのは失礼極まりない。
「頂きます!」
 浩介が作ってくれるご飯はどれも美味しい。味わって食べたいけれど時間が無い。バタバタ詰め込む俺の前にお茶を置いてくれた。
「あの……」
「うん?」
 最後の漬け物を頬張る俺に、何か言いたそうだったけれど、結局何も言わなかった。作ってくれた弁当箱を差し出される。
「ありがとう、今日も遅いから、先寝てて良いからな」
「……はい」
 弁当箱と鞄を掴み、家を飛び出した。

~*~

「起きて下さい、瑛太さん。朝ですよ」
「……さっき寝たばかりだよ」
 優しい声が起こしてくれるけれど、寝てすぐ起きるなんて嫌だ。
「いいえ? ぐっすり眠って六時間経っていますけど?」
「……そう?」
「ええ」
 クスクス笑っている声も気持ちが良い。肩を揺さぶる手を取るとベッドに引き込んだ。細い体を抱き締める。男だけれど、Ωの彼の抱き心地はすこぶる良好だ。
「もう少し寝よう」
「駄目ですよ。ぁ……」
「大丈夫。身支度なんてすぐ終わるんだから」
「……もう」
 項にキスをするとうっとりしている。昨日は疲れて眠ってしまったから、今から補給しよう。
「僕も……行かないといけないんですけど?」
「大丈夫、大丈夫」
 宥めながら服に手を掛けた。

~*~



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