妖艶幽玄奇譚

樹々

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第一幕

奇ノ六十八『守護者達』

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 悪鬼が外に出て、東京の街で暴れてから二週間が経っていた。
 連日、ニュースになっていた謎の少年A。視聴者に撮られていた映像が何度も流れていた。
 ビルとビルを飛びながら駆け抜けていた映像。どこの誰なのか、噂が噂を呼んでいたけれど。二週間も経つと他の大きなニュースに流されて消えていた。
 ある程度は、特別機関の隊長・白崎剣が政府にかけあって、情報操作をしたようだった。ぼんやりと映されていた俺の姿は、闇に消えることになる。
 七海の言霊に関しては、多くの人が聞いている。電波という電波を使い言霊を発し、強い耳鳴りも鳴っている。
 誤魔化すのは難しいかに思えたけれど、強引に悪戯として押し通したようだった。その件も連日、ニュースになっていたけれど、アナウンサーの見解のみで話は発展しないまま話題に上らなくなっていた。
 俺も清次郎につられてニュースを見るようになっていたけれど、一時的にスキャンダルや政治の汚職事件が流されても、数日も経つと話題から消えていた。他の大きな話題があればそちらに移っていく。
 俺達はテレビを通して事件を知るけれど、それ以上の知識を得ることができない。テレビが発信するものに興味を示し、流さなくなればまた別のことに目を向ける。
 俺や七海のことも、もう、次の話題に移ったことで、世間の人たちは忘れていくのだろう。破壊された建物、一時切断されたライフラインのことも、原因は不明のまま片付けられた。
 大量に発生した悪霊も、秘密裏に成仏されていた。戻せた霊達は時が来るまでこの世に残っているけれど、戻せなかった悪霊は、人を傷つける前に送るしかない。
 混乱の原因は悪鬼にある。
 分かっているけれど。
「悪鬼にしてみれば、俺達が悪い奴なんだよな」
 ポツリと呟いた俺に、デスクに向かって事務作業に追われていた一希が振り返る。
「達也君?」
「ああ、ごめん。気にしないで」
 特別機関のメンバーは、未だに処理に追われている。数日前まで俺も七海も、執務室のソファーで眠っていた。一希が外に出ていたし、俺の悪鬼が暴れた時に、誰かが側に居ないと気付かないからだ。
 執務室内の死角にいても監視カメラにバッチリ見られていた。ずっと、誰かに見守られていた生活だったけれど、ようやく一希の部屋に戻ってこられた。一希が戻っている間だけ、という条件付きで。
 敷かれていた布団に転がりながら、天井に付けられている監視カメラを見つめた。今は一希がいるから、眠るまではスイッチが切られている。
 剣は、駄目だと言った。悪鬼と引き離す方法が無いのなら、俺を選ぶと。
 でも、どうしても、俺は悪鬼達を会わせてやりたかった。胸の奥が、ざわめいて仕方がない。
「達也君、気になることがあれば話してほしい」
「何でもないって。あ、気になることって言えばさ!」
 ガバリと起き上がり、胡座をかきながら一希を見上げた。握っていたペンを置くと体を向けてくれる。
「雪ちゃんってさ、隊長のことが好きなの?」
 こっそりと聞いた。監視カメラは繋がっていないはずだけれど、なんとなく小声になってしまう。
 一希の細い目を見上げていたら、僅かに見開いたように見える。
「な、何でそう思うんだい?」
「だってさ、雪ちゃん、隊長のこと分かってるっぽいし、手懐けてたし」
 剣の膝を折らせた膝カックン、見事な腕前だった。アクション物やヒーロー物のアニメを見ているだけはある。
 剣もまた、初音の言うことには素直に従っていたように見えた。大人しく膝枕も受けていた。
「いや、まてよ。隊長、実は雪ちゃんが好きなんじゃ……!」
 男好きと見せかけて、本当は初音が好きなのだろうか。だからあんなにされるがままに膝枕を受けたのかもしれない。
 腕を組んで唇を引き結んだ俺に、一希はたまらず吹き出した。
「それは無いな。そもそも、心路に付き合おうと言い出したのは、隊長だから」
「え、そうなの?」
「ああ。私も、初音さんも、他のメンバーも居る前で突然、付き合わないかと切り出してね。驚いたよ」
 一希によれば、伊達政宗たち前メンバーと引き継ぎ期間のある日のこと。コンピューター関係を任されることになった心路が来て数日後のことだという。
 葵に引き継ぎを受け、新しいデータの構築も考案していた心路の様子をじっと見ていた剣は、おもむろに心路に近づくと、皆が見ている前で付き合ってほしいと切り出した。

『ああ、付き合うというのは、もちろん体の関係も含めてになります』

 至極真面目な顔をしていたけれど、一希は心底呆れたという。皆の前で体の関係を求められて、それも心路は男だ、応えられるはずがないと、助け船を出そうとしたけれど。
 心路は顔を真っ赤にしながら受け入れた。
「心路も特別機関に入る前に、隊長と知り合っていてね。彼を引き入れたのも隊長だ」
「も、ってことは、雪ちゃんも?」
「ああ。初音さんは……正直なところ、驚いた」
 出会った時のことを思い出しているのか、鋭い目元を緩めて笑っている。そわそわしながら話してくれるのを待っていたのに、一希はクルリと背を向けてしまった。
「後で初音さんに聞いてみてくれ」
「えーー!! そりゃないぜ!」
「私も最初から見ていた訳じゃないんだ。どうやって知り合ったかは知らなくてね。ただ、まあ、驚いたよ」
「そこ! 肝心なとこが抜けてる!」
 仕事に戻ろうとしている一希の広い背中にのしかかるようにして抱きついた。難なく受け止めている彼の肩を揺さぶってみる。
「一希さん!」
「落ち着いて。ほら、七海君が上がってくるぞ」
 笑うばかりで教えてくれない。ブッと頬を膨らませた時、七海が風呂から上がってくる。髪を拭きながら歩いてきた。
「どうしたの?」
「一希さんがもったいぶってんだよ」
 七海にも協力してもらおう。隊長のことと、初音のことと、聞き出そうとしている最中だと説明する。七海も気になるのか、逞しい一希の腕を取っている。
「僕も聞きたいです」
「困ったな」
「ほら、仕事できなくなるぞ?」
 俺と七海で、一希の腕を一本ずつ封じた。苦笑するばかりで教えてくれる気はないらしい。こうなったら初音を呼んで、目の前で聞いてやろう。
 思った心が通じたのかは分からないけれど、一希の部屋のインターホンが鳴っている。次いでコンコン、とドアをノックしながら初音の声が重なった。
「クッキー焼いたんですけど、お夜食にいかがですか?」
 七海と目配せするとドアに駆け寄った。開けてやれば、お盆にクッキーとオレンジュース、ホットコーヒーを乗せた初音が立っていた。
「やっぱり起きてた。お邪魔しても良い?」
「大歓迎!」
 ドアを大きく開けて招き入れてやる。布団の横にあるテーブルにお盆を置いている。香ばしいコーヒーの香りが部屋に溶け込んでいく。
「一希さんも、休憩しませんか?」
 にこにこと笑っている初音。その様子を見ていた一希が、少し眉根を寄せている。じっと、初音を見つめている。
「……ごめんなさい。お邪魔でしたか?」
「ん? ああ、いや、大丈夫。そうだな、少し休憩させてもらおう」
 立ち上がると、小さなテーブルを四人で囲った。俺と七海は早速、クッキーを頬張った。プレーンとチョコチップが入っている物がある。硬い物と、ソフトタイプのクッキーもある。
 持ってきてもらったオレンジジュースも遠慮無く飲んでいた俺と七海は、にこにこと笑ったまま食べない初音が気になった。
「雪ちゃんは食わねぇの?」
「私は良いの。味見してお腹いっぱいだから。一希さん、お味はどうですか?」
 プレーンのクッキーを一枚、食べた一希に、初音はやっぱり笑ったままで。
 反対に、一希の眉間の皺が少し濃くなった。コーヒーで流し込んでいる。大きな手がコーヒーカップを離すと、初音の頭に乗せられた。
「どうした? 何かったのか?」
「……え?」
「いつもよりずいぶん甘い」
 そう言うと、初音の顔を覗き込もうとしている。咄嗟に離れた初音は、照れたように笑って見せた。
「分量、間違えちゃったかな。ごめんなさい」
「まあ、甘いっちゃ甘いけど、全然旨いぜ?」
「うん。美味しいです」
 確かに、プレーンでも甘いけれど、おかしな味では無い。それなのにどうして一希の眉間に皺が寄るのだろう。そんなに甘い物が嫌いなのだろうか。
 せっかく作ってくれたのに、もう一つ頬張ろうとした俺の目の前に、ポタリと滴が落ちてきた。
 クッキーから顔を上げたら、初音の目から流れた涙だと分かった。
「あれ……ごめんなさい。やだな、何泣いてるんだろ」
 手で涙を擦っているけれど、次々に溢れてくる。一希に甘いと言われたのがショックだったのだろうか。七海と顔を見合わせると、なんとかフォローしようと頷き合ったけれど。
 一希が、締めていたネクタイを解いた。泣いている初音に向き合っている。もう一度、大きな手が初音の頭に乗せられた。
「何があった?」
 問いかける一希に、初音はフルフルと首を横に振っている。
「顔……見ないで下さい。今、不細工になってるから……!」
 泣きながら立ち上がり、一希の背中に回り込んでいる。俺と七海にも背を向けると、大きな一希の背中に寄りかかっている。
 その細い背中が震えている。嗚咽を堪えている姿に、どうにかしてやりたいけれど掛ける言葉が見つからない。
 静かに見守ることしかできなくて。
 クッキーを甘いと言われたのが原因ではないことは分かった。きっと、この部屋に入ってくる前から何かがあったのだろう。気付いていた一希が、どうにか慰めようと手を伸ばしているけれど拒んでいる。
 七海にそっと目配せした。気付いた七海も頷いている。
 枕と、掛け布団を手にした俺達は、二人の邪魔にならないよう一希の部屋を出ることにした。
「達也君、先に隊長に連絡してくれるかな?」
 勝手に出て行ってはいけない。執務室に繋げると、すぐに剣が画面に出ている。
「そっちで寝るから」
[良い子ですね。一希、ちゃんと慰めないと後でお仕置きしますからね?]
 画面ごしにウィンクした剣は、すぐに通信を切っている。俺達も少し駆け足になりながら一希の部屋を後にした。
 廊下に出ると、エレベーターの方へ駆けていく。執務室がある最上階まで上がった時には、剣が廊下まで出迎えにきていた。
「さ、中へ。少々、忙しくなりそうです」
「雪ちゃん、何があったんだ?」
 俺の質問には答えずに、執務室の中に押しやられた。室内には剣と心路しか居ない。足早に自分のパソコンの前に座っている。
「取れましたか?」
「うん。大丈夫。始発を予約したよ」
「松尾さんに空港まで送って頂きましょう。一日しか時間をげられないのが心苦しいところです」
 剣と心路は、初音の様子がおかしかった理由を知っているようだ。飛行機のチケットを予約したり、松尾勤にも連絡を入れて早朝、送ってもらう算段までつけている。
 俺と七海だって初音のことが心配なのに、大人だけで話を進めている。
「雪ちゃんどうしたんだよ! すっげー泣いてたし!」
「僕たち、気付いてあげられなくて。何があったんですか?」
 大人しい七海までも、剣に詰め寄っている。剣のデスク前から顔を突き出す俺達に、やれやれと肩をすくめて見せた。
「大人の事情です」
「子供だって心配すんだよ!」
 初音にはたくさん優しくしてもらっている。一緒に料理をしたり、美味しい物を食べさせてもらったり。まるで姉ができたような気持ちになっていた。
 その人が凄く泣いていた。最初から気付いてやれなかった悔しい気持ちが、剣に分かるだろうか?
「俺達ガキだから。隊長達みたいに察してやれねぇけど、めっちゃ心配なんだよ」
 理由が分かったところで、何もしてあげられないかもしれない。それでも、泣いた理由が分からないままだと、ふとした拍子に彼女を傷つけてしまうかもしれない。
 それだけは嫌だ。
 剣の目を見つめる俺達を交互に見返した彼は、小さな溜息をついて見せた。
「甘いクッキー、あまり好きではなくて。一希も、政宗さんも、苦手なんです」
「今、クッキーの話なんてどうでも……」
「プレーンクッキーはいつも甘さ控えめなんですよ。私達のために、ね」
 立ち上がった剣は、心路のデスクまで歩いて行く。俺と七海もついていくと、置かれていたクッキーを指さしている。
「とても甘かった。恐らく何かを紛らわしたくて無心で作ったんでしょうね。何かあったのかと聞いても、教えてくれなくて」
 だから一希の所へ差し入れを持っていくように伝えたのだと言う。少し躊躇っていたけれど、子供達も喜ぶだろうから、と説得したらしい。
 その間に、剣は初音の実家へ連絡を入れた。
「お婆様が、亡くなられたそうです。今日がお通夜、明日がお葬式です」
 初音の実家は北海道だった。東京からならそれほど遠くはない。飛行機で行ける距離だ。
「何でお通夜出なかったんだよ! 言えば良かったのに!」
「言わないでしょうね。彼女も特別機関の隊員ですから」
 俺を静かに見つめてくる。
「現状、ギリギリです。それは彼女もよく分かっています。本当なら明日、初音さんにも地方へ飛んで頂く予定でした」
 悪霊の発生状況を、視覚的に確認することと、悪霊になる前の段階である霊達が発生している場所へ、初音も行く予定になっていた。
 悪鬼が引き起こした影響が、地方にも少しずつ及び始めている、というのは聞いていた。霊場が乱れ、大人しかった地区の霊も悪霊になりかけていると。
 俺はずっとここに居るけれど、政宗や克二、初音や一希は、地方へも出向いていた。戻っては出て、出ては戻ってくる。
 期間限定の隊員達も使っているけれど、直接、特別機関が確認しなければならないことは多かった。
「仕事には、誇りをもって当たるべきです。大人ですから」
 にこりと、笑って見せる剣にブッと頬を膨らませた。
「……悪かったよ、子供で」
「ふふ、子供らしくて宜しい。まあ、そんな訳です。彷徨ってしまう方が出るかもしれない。そんな状況で、彼女は休むような方ではありませんから」
 剣は心路に合図を送っている。頷くと、スイッチを入れた。
 パソコン画面に一希の部屋が映し出された。部屋を出る前は一希の背中にもたれて泣いていたけれど、今は腕にしがみついて泣いている。その頭に、大きな一希の手が乗っていた。
「一希、聞こえますか?」
 声に反応して顔を上げている。
「優しいキスの一つでもして差し上げれば良いものを。堅物にもほどがありますよ」
 監視カメラの映像だけれど、一希の顔がしかめられたのが分かった。
「初音さん、北海道行きのチケットは取りました。始発ですので用意を。ああ、喪服はご実家で用意して頂きました」
 剣の言葉に、初音の顔がゆっくり上がる。涙に濡れた顔で監視カメラを見上げた。
[……隊長?]
「一日しかあげられなくて申し訳ありません。あなたなら、まだお婆様に会える可能性があるでしょう?」
 霊が見える、初音なら。
 葬儀を見届けてから旅立つ霊も多いという。もしかしたら、まだ成仏せずに初音を待っているかもしれない。
[でも……苦しんでいる方が……まだいます]
「おや? 私が信じられませんか? スケジュールは調節しました。問題ありません」
 言い切った剣に、初音の手に力がこもる。一希の腕に力一杯しがみついている。
[……会いに……行っても?]
「もちろんです。きっと喜びますよ。安心して成仏して頂かなくては」
[……ふぇ……たいちょう……!]
 それ以上、言葉にならなかった。我慢していたものがこみ上げてきたように、次から次に涙が流れている。一希の大きな手で拭われても、その手をすぐに濡らした。
「落ち着いたら用意をさせて下さい」
[はい。感謝します]
 見上げた一希に、剣は少しだけ微笑むように笑っている。通信を切ると、さて、と左手で顎を摘んだ。
「心路、あなたにも出てもらいますが、大丈夫ですか?」
「うん。雪ちゃんのためだから。頑張る」
「良い子です」
 俺と七海が見ている前で、心路の唇にキスをしている。当たり前のように受け止めた心路は、嬉しそうに笑っている。
 俺達が居ても遠慮を知らない剣のことだ、もっと何かするかもしれない。そっと側から離れると来客用のソファーへ行こうとした。
「歯磨き、忘れていますよ。予備の歯ブラシがありますからきちんと磨きなさい」
 振り向きざまに言われてしまう。一日くらい良いのではないか、と無視して寝ようとしたけれど。
「良いキスは良い息から、ですよ」
 つまり、歯磨きをしなければ良いキスはできない、と言いたいのだろうか。
 そっと振り返ればニヤリと笑っている。無視して眠ってしまいたいのに、足は自然と台所へ向かっていた。棚に仕舞ってあって予備の歯ブラシを二本取り出すと、一本を七海に渡した。
 二人でシャコシャコ磨いてしまう。台所にも監視カメラがあるので、大人しく磨いて早々にソファーへ戻った。
 もう、剣は声を掛けてはこなかった。ソファーの近くにも監視カメラがあるからだろう。時々それで、俺の様子を監視する。初音のためにも、悪鬼をもう一度、暴走させる訳にはいかないから。
「お休み-!」
「お休みなさい」
「はい、お休みなさい」
 挨拶だけは忘れずに、ソファーに寝転んだ。心路がソファー付近の電気を消してくれる。寝る時間にしては少し早いけれど、他にすることもない。丸まりながら横を向くと、七海もこちらを見ていた。
「俺達、ガキだな」
「うん。まだまだだね」
 クッキーの味の違いで気付いた剣と、顔を見ただけで気付いた一希。
 俺達から見ればいつもの初音に見えたのに。大人は少しの変化で気付いたりするのか。
 もう、数年したら俺も人を気遣える人間になれるだろうか。変態だと思っていた剣でさえ、悔しいことに良い大人に見えてしまう。
「あれ……ってか」
「どうしたの?」
 自分の顎を摘んで考えた。
 初音は、剣が好きなのではないかと思っていたけれど。
 彼女が泣いたのは、一希の前だった。今も、一希の側に居る。彼もまた、初音を受け止めている。
 仕事をしている時はネクタイをしていないと落ち着かないと、言っていた一希。
 そのネクタイを外したのは、仕事ではなく、プライベートで受け止めるためだとしたら。
「……おおぉ! マジか!」
「どうしたの?」
「大人ってすげー」
「達也君?」
 二人は恋人同士なのかもしれない。剣に聞いてみたかったけれど、彼は今、初音が一日抜ける間のスケジュール調整をしているので邪魔できない。
 後で、一希にこっそり確かめてみよう。
「達也君? 何、気になるよ」
「明日な」
 起き上がりかけた七海に、自分の唇に人差し指を当てて止めた。内緒話は明日、二人だけでしよう。
 じっと見つめてくる七海に、明日、と声に出さずにもう一度言えば、諦めた様に目を瞑っている。
 俺も瞼を閉じると仰向けになった。少しはみ出してしまう足をそのままに、どうやって照れる一希から聞き出すかを考える俺だった。

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