妖艶幽玄奇譚

樹々

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第一幕

奇ノ六十四『愛情』

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 背中に当たる衝撃。
 すぐに俺の胸と腹の間に手を差し込んできた人。
 どれほど空を飛んでいたのだろう、体に当たっていた風が弱くなる。
「しっかりなさい!」
「たい……ちょう……!」
 俺の体を全身で受け止めた白崎剣は、意識が外れかけた封印の珠の輝きを強くしている。緑色の光がビルの屋上を照らし、溢れ出ていた悪鬼の気を急速に吸い込んでいく。
 剣が外から俺の封印の珠を操ってくれるおかげで、押し負けていた力を押し返していく。俺の魂と体がしっかりと繋がり、悪鬼の気を珠に押し込んでいく。

 ……会いたい。

 俺の中の悪鬼の声が遠ざかっていく。

 ……あい……た……ぃ。

 フッと、悪鬼の気配が消えた。封印の珠の中へと戻ったようだ。
 確かめるように剣の手の上から封印の珠の存在を感じる。一枚スクリーンを隔てたような妙な感覚はもう、無くなっていた。
 安心すると大量の汗が噴き出した。剣の胸に抱き締められたままだというのに、全身の力を抜かずにはいられない。
 悪鬼の力で、人間の力を超えた動きをしていたのだ、負担が大きかったのかもしれない。体はとても重い。
 目を閉じて呼吸を整えていたら、そっと頬を撫でられた。顔を上げたら、七海の顔が滲んで見える。
「達也君、どこか痛いの?」
「……え?」
「泣いてる……」
 頬に流れていた涙を七海が拭ってくれた。俺も自分の腕で擦る。
「これはたぶん、悪鬼だ」
「悪鬼が泣くの?」
「ああ……すげー悲しい人だった」
 記憶は断片的だったけれど。あの炎の中に突き落とされた人が弟なのだろう。
 俺の中の悪鬼はきっと、あの人に会いたいだけ。
 それだけなのに、俺達はそれを邪魔している。
 会えば俺も、もう一人の人も、自分の意思では体を動かせなくなるからだ。魂が悪鬼にとってかわれば、俺という人間ではなくなる。
 もしも悪鬼だけを会わせられるのなら、誰も傷つけないと約束してくれるのなら、会わせてやりたい。
 考え込んでいた俺の股間を、剣が無遠慮に握った。
「……はぁ!? 何してんだこのエロじじぃ!!」
 人が真剣に考え事をしているというのに、こんな大変な時でもエロイことをしようというのだろうか?
 握っている手を思い切り引っぱたいたら、あっさり手を引いた。
「……達也君のようですね。七海君、良く頑張りました」
 俺の髪をくしゃっと撫でた剣は、その手で右手を握り締めてくる。引っ張られるように立たされた。
「時間がありません。お嫌でしょうが、手をお預かりしますよ」
「ちょ、何だよ」
「心路、解除して。政府からの連絡は待ってもらって下さい」
 耳に付けたハンドフリーの電話で、連絡を取った剣。
 ここは特別機関があるビルの屋上だった。ずいぶん離れていたはずなのに、七海の言霊でここまで飛んで戻ってきたのか。
 いつもとは違う口調だった。命令口調で放たれた言霊は、より強さを増していた。
 七海の性格で、あんな言葉遣いはしない。きっと、剣が言わせたのだろう。言霊の力がより強くなると、分かっていたのだろうか。
 右手を握られたまま、剣が何をするつもりなのかと見守った。俺の左隣には七海が立っている。
「七海君、君には少し辛いかもしれません。離れていても構いませんよ」
「いえ、大丈夫です。僕も、皆が見ている世界がみたいです」
 俺の左手を、七海が握った。屋上で三人、手を繋いでいるなんて。
 そう思った時、背中に寒気がする。全身にぞわっと鳥肌がたつ。
「私から離れないように」
 強く握られた右手。
 迫ってくる嫌な気配。
 どうしてか、霊感の無い七海も怖がるように俺の手を握り締めて体を寄せてくる。
 高いビルの屋上に、黒い影が這い上がってくる。一体、また一体と。ふらつきながら飛んでくる影もある。
 悪霊だった。
 空から、大地から、悪霊が俺たちの方へと向かってくる。
「こちらへ。苦しかったでしょう、私が吸って差し上げます」
 剣は折れている右手を差し出すように伸ばしている。言葉が分かるのか、悪鬼の一体が這ってくる。七海が俺の左腕に強くしがみ付いている。
 剣の右手に、悪霊が絡みついた。僅かに顔をしかめた剣は、それでもその悪霊を振り払ったりはせずしがみ付かせている。
 すると、黒い影に変わっていた悪霊が人間の姿へと戻り始めた。スーツを着ている三十代くらいの男性だった。
 人間の姿まで戻ると剣の手をすり抜けている。呆然と佇む霊に、剣はにこりと笑って見せた。
 それは初めてみる表情だった。俺や七海をからかっている時の顔とは全然違う。
 愛しそうに、霊を真っ直ぐに見つめている。
「大気中にあなた方にはいけない物が混ざっています。この屋上に、しばらく居て下さい。さ、あなたもどうぞ」
 俺たちの頭上からもう一体、降りてきた。剣の背中に巻き付くようにしがみついてくる。右手で影に触れた剣は、目を閉じている。
 僅かに、俺の中の封印の珠が反応した。剣の手を通して、悪霊の影を吸い込もうとしているのだろうか。
 見守っていると、今度は髪の長い女性に戻っていく。怖かったのだろう、剣の体をすり抜けるまで離れなかった。
「達也君、苦しくはないですか?」
「平気」
「良い子ですね。後でご褒美をあげなくては」
「いらねーし。封印の珠、あんたなら使えるだろう? この人達を戻すためならガンガン使ってくれ」
「言われずとも、お借りしています。できるだけ多くの悪霊をこちらへ呼びますよ」
 また一体、這い上がってくる。小ぶりだった悪霊は、初めは剣を警戒するように屋上の縁を這っていたけれど。
 背後から飛び込むようにしがみついてきた。受け止めた剣が右手で触れると、五歳くらいの子供へと戻っていく。
 短い黒髪にスカートを履いていた女の子は、人間の姿に戻っても剣の側から離れなかった。手を握りたそうに何度も触れようとしては空をかいている。
 震えている女の子を手を見ていた剣が、七海を呼んだ。
「私の腰にあるホルスターから鞭を出して頂けませんか?」
 頷いた七海が、剣の腰のホルスターから鞭を取り出している。紫藤の札に描かれている物と同じ仏字か刻まれた鞭を、輪にして屋上に置いている。剣と女の子を囲った鞭は、封印の珠と微かに共鳴している。
「どうぞ」
 差し出した右手に、おそるおそる女の子が触れた。触れられた手に顔を上げている。ギュッと握った後、慌てたように手を離している。
 腫れている剣の手に、痛むのではないかと思ったようだ。
 遠慮した女の子の頭を腫れた右手で撫でている。
「大丈夫ですよ。あなたが受けた苦しみに比べれば、大したことではありません」
 もしもこの子が生きていたなら、泣いているような気がする。どうして死んでしまったのか、独り彷徨って怖かっただろうに。
 自分の足にしがみ付かせた剣の顔を見上げた。女の子を受け止めたこの人は誰だろう? 俺が知っているどの剣とも違う。
 この人は今、ここに居る全ての悪霊を受け止める気だ。
「七海、頼みがある」
 また一体、悪霊が彷徨ってくる。七海に小声で囁いた。
「分かった。すぐに戻るから」
「わりぃ。ほっとけねぇ」
「うん、僕も気になってた」
 七海は俺の手を放すと屋上を走って行く。ドアから階下に降りていく。下の階では特別機関の心路と葵が居るはずだ。二人に頼んでもらいたいことがある。
 握られている俺の右手。見上げた視線の先に見える剣の首筋。
 きっと、今俺が何を言ってもこの人は聞かないだろう。悪霊を呼ぶことを止めないだろう。
 だから。
「達也君、持ってきたよ!」
 戻ってきた七海の肩には大きなクーラーボックスが掛けられていた。その中に数個のアイスノン、氷、水の入ったペットボトル等が入れられている。
 一緒に持たされたタオルに小さめのアイスノンを包んだ七海は、剣の背後に回ると背伸びをしながら首に巻いている。
「おや、気がききますね」
「あんた、いてーのにいてーって言わねぇからな」
 握り締められている俺の右手は、剣の汗で滑りそうなほどだ。折れた右手、締められた跡が残る首、どちらもきっと、相当痛いはずだ。
 首に巻き終わった七海は、右手にも巻こうとしたけれど、剣はスッと上に上げてしまう。
「こちらは大丈夫ですよ」
「そっちが相当やばいだろうが」
「まだ、助けが必要な方が居ますからね。おや?」
 耳に付けた電話を腫れた右手で押している。心路から通信が入ったようだった。
「そうですか、繋いで下さい」
 七海がどうにか冷やしてやろうと背伸びをしたり、腕を捕まえたりしようとするけれど、剣は器用に逃げている。その様子に、腰にしがみついていた女の子が、少し笑ったように見えた。
「はい、白崎です。どうしましたか?」
 電話中ならと、七海が右手を捕まえようとしたけれど、避けられた上に胸に抱き留められてしまう。右腕でガッシリ掴んで放さない。
「強情だな、あんた! ボッコリ腫れてんだ、ちょっとでも冷やした方が良いって」
「しっ! 静かに」
 七海の背を押し、俺に預けた剣は、電話の声に耳を傾けている。七海を受け止めながら漏れて聞こえる会話に聞き耳をたてた。
[あ、悪霊が多くて……どうしたら良いですか!?]
「どれくらい発生していますか?」
[急に増えて……! 封鎖した場所に札を貼って誘導していますが、現在、八体ほど確認しています!]
 相手の声は、剣が育てた一般の警察官のようだ。霊が見える人たちで構成している。俺を預かっている間、特別機関の代わりに悪霊を導いている。
 この光景が、彼らにも見えている。俺の中の悪鬼から吹き出した黒い影が、まだ悪霊になるはずではなかった霊達を巻き込んでしまった。苦しめてしまった。
 会話が気になって、背伸びをして耳を近づけた。七海も女の子の霊に触らないようにしながら聞いている。
 剣は、遠い場所を見るように、一部、明かりが消えている東京の街を見つめた。
「今、その方々を救えるのは、あなた方だけです」
 静かな声だった。艶っぽさはどこにもなく、隊長、白崎剣として話している。
「できるだけこちらに呼んでいますが、近い場所の方はそちらへ行くでしょう。どうか恐れないで下さい」
 足にしがみついている女の子の頭を優しく撫でている。
「訓練通り、囲い込んであげて下さい。悪鬼の気でやられたばかりの方なら、札の力である程度は落ち着くはずです」
[はい……]
「蘭丸さんの札は強力ですから。どうしても落ち着かない悪霊が居るなら、チームを組んで直接貼って下さい。何度も練習したはずです」
 また、一体、悪霊が姿を現した。剣に向かって飛んでくる。正面から受け止めた剣は、その背中に右手を乗せた。 
「死んでなお、苦しまないよう、彼らをお願いします」
 剣の力と、封印の珠の力を使って、暴れる悪霊を抑え込んでいる。かなり変貌した後だったのか、肩に噛みついているように見える。
 肩が黒く変色していく。俺が触るともっとまずいような気がして、見守ることしかできない自分が歯がゆい。
「大丈夫、落ち着いて下さい」
 電話の相手に言っているのか、しがみ付く悪霊に言っているのか。
「どうかもう、苦しまないで」
 右手で触れていた場所から黒い気が立ち上り始めた。混濁していた悪霊が人間の姿へと戻っていく。十代の少年へと戻った霊は、慌てて辺りを確認している。周りにも同じような霊が居るからか、安堵したようにへたりこんだ。
「すみません、話の途中に」
[いえ……こちらこそ、弱気になって申し訳ありませんでした! 訓練どおり、彼らをここで守ります]
「あなた方なら大丈夫です。私がしこんだんですからね」
[はい。ご指示どおりやってみせます!]
 電話を切った剣は、遠い空を見つめた。後何体、発生しているのだろう。今夜だけでずいぶんたくさんの悪霊を見ている。
 剣のところだけではない。先に現地に向かった政宗や克二、一希の方にもきっと、発生してしまっている。
 引き起こしたのは俺の中に居る悪鬼で。静かに過ごしていた霊を巻き込んだ張本人だけれど。
 今の剣になら、話せるような気がする。
 話してみたい。
 右手を冷やすことを諦めた俺と七海は、新たに痣ができた肩にタオルで包まれたアイスノンを当ててやった。
「あのさ、隊長」
 悪霊が周辺に居ないことを確認してから声を掛けた。注意深く気を張らせている剣が視線だけを俺に向けてくれる。
「悪鬼、助けてやれないかな?」
 俺の服を握っていた七海が驚いたように引っ張っている。
「達也君?」
「分かってる! この人達を苦しめたのは悪鬼だし、隊長の手をそんなにしたのも悪鬼だ。俺がむざむざ操られたのが原因だってのはすげー分かってる!」
 それでも。
 流れてきた記憶に、どうしても胸が苦しくなってしまう。
「俺の中の悪鬼は、弟を目の前で殺された。この人はただ、もう一度会いたいだけなんだよ。それを叶えてやる方法は無いかな?」
 俺も、もう一人の人も、意識を保ったまま、悪鬼だけを再会させてやれれば、もしかしたらこんな悪さはしないかもしれない。
 望みを叶えてやれば、静かに旅立てるかもしれない。
 ただ、会わせてさえやれれば。
「……蘭丸さんが言っていました。あなたと悪鬼は、切り離せないと」
「七海の言霊は? すげー強かったし、悪鬼が押し負けてたし!」
「確証がありません」
 握られていた右手に力がこもる。ゆっくりと顔を向けた剣は、首を横へ振った。
「あなたと悪鬼なら、私は迷わずあなたを選びます」
「でも……」
「達也君。君が君でなくなることは、蘭丸さんや清次郎さん、七海君が耐えられませんよ」
 じっと見つめてくる剣に、何も言えなくなってしまった。
 俺が俺でなくなってしまう、悪鬼の望みを叶えるということは、そういうことだ。
 七海の言霊で引き離すことができるならば、望みはあるのだろうか?
「困りましたね。そんな顔をされたら慰めたくなるじゃないですか」
「うっせー。心路にチクるからな」
「ふふ、あいにく、今は気を緩める訳には……」
 続けようとした剣の声に、屋上のドアが開く音が重なった。七海はここに居るのに誰が開けたのだろう。
 顔だけで振り返ると、ヘリを飛ばしていたはずの初音が足早に駆け寄ってきた。
「遅くなってごめんなさい!」
「初音さん? どうして……」
 カクンッと、剣の膝が折れている。初音が後ろから膝裏を自分の膝で押したからだ。膝から倒れかけた剣の両脇に腕を通して捕まえている。
「あの……初音さん、何を……」
 珍しく剣が戸惑っている。構わずに屋上に座らせた初音は、自分も座ると剣の肩を引き寄せた。
 無抵抗に膝に頭を乗せている。自分でも信じられないのだろう、吊られて座ることになった俺と意味も無く見つめ合ってしまう。耳に掛けられていたハンドフリーの電話も取り外された。
「さ、寝て下さい。心路君の話だと、悪鬼が出した気はずいぶん、落ち着いたみたいですから」
「しかしですね、まだ、苦しんでいる方が……」
「隊長の力を借りて、私が導きますから。今の内に休んで下さい」
「でも……」
「お休みなさい、隊長。たくさん頑張りましたね」
 初音の手が剣の髪を撫でている。頬も撫でている。落ち着かせるように、肩を撫でると、剣の瞼が閉じていった。
 数秒で、眠ってしまう。握り締められていた俺の右手から力が抜けた。
「え、マジで?」
「しー。七海君、アイスノン取ってくれる?」
「あ、はい」
 頑なに拒まれていた剣の腫れ上がった右手の下に、大きめのアイスノンを敷いた。上からはビニールに入れた氷を置いている。
 一度、病院で見てもらわないと、と呟きながら、側に立っていた女の子を振り返っている。
「さ、あなたもどうぞ。隊長が側に居るから、私にも触れるはずよ」
 剣とは違う方の膝を叩いて見せている。確かめるように手を伸ばした女の子は、初音の膝に触れている。
 思い切って寝転んでいる。その小さな頭に初音の手が触れた。短い髪を撫でている。
「達也君、隊長の手を放さないでね」
「お、おう。つか、雪ちゃん、すげーな」
「私じゃないの。隊長の体質なの。隊長の側に居ると、霊力の波長が隊長に似るから。霊感が無い人でも見えるくらい、同じ波長になるのよ」
 だから鞭で囲んだ中なら、剣と同じように女の子にも触れるのだと言う。
 それも凄いと思うけれど、それよりも。
 剣をまるで子供を寝かしつけるみたいにあっさり眠らせてしまった初音に驚いていた。七海と顔を見合わせると吹き出してしまう。
「最強だな、雪ちゃんは」
「え? 何で? あ、こっちへ」
 悪霊がまた、フラフラしながら飛んでくる。右手を伸ばした初音は、巻き付くように触れてくる悪霊を受け止めた。
 彼女が言ったように、剣の側に居ると彼の波長に合ってくるのだろう。俺が悪鬼に意識を持って行かれた時も、剣の側に居る間は意識を取り戻すことができた。
 今も、悪霊であったはずが、霊へと戻っていく。震えている女性の霊は、頭を抱え込んでいる。
「もう、大丈夫です。早く来てくれて良かった」
 悪霊になってしまった時間が長くなり、霊に戻せなくなると、剣や初音だけでは抑えられなくなる。紫藤の力が必要になる。
 破壊の珠の力で溜まってしまった悪霊の力を削ってから、あの世へと導くしかないのだと聞いている。
 そうなる前に、特別機関は動く。痛い思いも、苦しい思いも、しなくて済むように。
「認めたくねーんだけどさ」
 力が抜けている剣の左手をなんとなく握り締めた。相変わらず汗が酷い。眠っている額からも汗が滲んでいる。
 怪我のせいで熱が出ているのだろう。七海が時々、氷で冷やしたタオルで拭ってやっている。
「基本は優しい人なんだな」
「うん。そう!」
「すげーエロイけどな」
「それは否定できないけど、とっても優しい人なの」
 初音は少し苦しげに顔をしかめた剣の頬を撫でている。そうすると、子供のようにあどけない表情になった。
「あまり寝かせてあげられないかもしれないけど、少しでも休んでもらわないと。すぐ無茶するんだから」
 そう言って、剣の頭を撫でている姿は、まるで母親のようだった。剣の方が年上なのに、なんとなく、思った。
 それは女の子の霊も感じたのだろう。初音の膝に頭を預けたまま、淡い光を放ち始めている。
「逝くのね。今度はたくさん、笑える場所に産まれてきますように」
 俺の中の封印の珠が光り輝いている。俺から剣、剣から初音へと伝わった力が、女の子の旅立ちを静かに導いた。
 初音の膝でにこりと笑った女の子は、光の粒子になって消えた。
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