妖艶幽玄奇譚

樹々

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第一幕

奇ノ四十五『心の扉』

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 市場できゅうりサンドと玉子サンドを売っていると、知らない男性に声をかけられた。
「おい、この前のパン、いつもよりまずかったぞ」
「申し訳ありませんでした。いつお買い求めいただいたものですか?」

 大翔が頭を下げ、男性に尋ねる。男性は眉間にしわを寄せて答えた。

「おとといだよ。女の子から買った、肉をはさんだパンだ」

「あの……その日は僕たちの店は休んでいたはずなんですけど」
 大翔が悩みながらも返事をする。
「ああ、その日は店を開いていない」
 俺も疑問に思いながら、会話に加わる。

「は? たしかに街はずれの食堂のパンだって宣伝してたぜ?」
 男性は腕を組んで俺たちを睨んでいる。

「!?」
 大翔と俺は顔を見合わせた。

「あのときの嬢ちゃんに聞けば分かるだろ?」
「あの、僕たち二人で店をやってるんですけど……」
 男性は、いら立ったような声で俺たちに言った。
「は? どういうことだ?」

「あの……僕たちもわかりません」

 男性は俺たちから玉子サンドを買い、目の前で食べ始めた。
「おお、ちゃんといつもの味だ。……俺は偽物でも買わされたのか?」
 男性は首をかしげながら去って行った。

「偽物?」
 大翔が不安そうな表情で俺を見つめる。
「だとしたら、放っておけないな……」
 俺たちは持ってきたパンを売った後、一通り市場を歩き回ってみた。

「あ、あれ? あの子もパンを売ってる?」
 耳を澄ましてみると、女の子の声が聞こえた。
「街はずれの食堂のパンです。一つ銅貨10枚です。美味しいですよ」

 俺は少女に近づいて声をかけた。
「一つもらおうか」
「銅貨10枚です」

 俺は銅貨を渡し、パンを買った。
 半分に割り、大翔に渡す。
 二人でパンをかじり、眉をひそめた。

「ぱさぱさで、肉も塩味だけだね……」
「ほかの店よりはうまいかもしれないが……」
 俺たちが渋い顔をして少女を見つめると、少年が少女に駆け寄ってきた。

「あの、何かありましたか?」
 少年が俺たちの顔を見て目を見開いた。
「……!! おい、帰るぞ!!」
 少年は少女の手を引っ張って走り出す。

「待て!」
 俺と大翔は少年たちの後を追った。
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