妖艶幽玄奇譚

樹々

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第一幕

奇ノ九『温かな家』

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「だ、誰だ⁉」

 超慈が見ると、自身の魂道具である魂天堕を構える、夜明永遠の姿があった。姫乃が笑う。

「これ以上ない良いタイミングだ……」

「……」

「あ~」

「⁉」

「なっ⁉」

 倒れていた織田桐がむくっと起き上がる。夜明が舌打ちする。

「ちっ……」

「お~誰かと思えば夜明か、強い魂力を感じたからな、ギリギリでガードして助かったぜ」

「くっ、なんという反射神経……」

「よ、夜明さんの手引きで各勢力の代表がこぞって反旗を翻しました……」

 倒れていた小森が苦しそうに呟く。織田桐が尋ねる。

「マジか、鈴蘭」

「は、はい……」

「ふ~ん、確かに各部屋からよく覚えのある魂力や魂破を感じたから妙だとは思ったんだが……なるほど、そういうわけだったのか……」

 織田桐が顎髭をさすりながら呟く。姫乃が問いかける。

「あまり動揺していないな?」

「まあ、この立場でこういう気性だ、裏切られるのには慣れている……」

「嫌な慣れだな……」

「一応聞いておいてやるか……夜明、何故俺様に対して銃を向ける?」

 夜明は一呼吸置いてから答える。

「多少自覚はされているようですが、会長の苛烈なやり方に反感を持ったり、強引に事を進める姿勢を危険視する向きが増えてきています。取り返しのつかない事態になる前に誰かが止めなければならない……そう思ったからです」

「こいつら合魂部の起こした騒ぎに乗じてか?」

「利用出来るものはなんでも利用します」

「ふふふ……やっぱりお前は優秀だよ。だが、反旗を翻したのであれば……それ相応のお仕置きをしなくちゃなあ!」

「!」

 織田桐の急激な魂波の高まりを感じ、夜明は素早く銃を構えて、発砲しようとする。

「遅えよ!」

「がはっ!」

 織田桐が腕を振るうと、夜明はあっけなく吹っ飛ばされてしまう。超慈が驚く。

「な、なんだ⁉」

「ぐっ……」

「ふん……」

 夜明を見下ろす織田桐の右腕には長い刀のようなものが握られている。

「あ、あれは……刀?」

「そうだ、あれが織田桐覇道の魂道具、『魂空理刀(コンクリート)』だ……」

「リーチが長い上に硬くて、一撃が重くしかもデカい……あんなものを軽々と振り回すなんて、凄い力だ……」

 姫乃の言葉を聞き、超慈が息を呑む。姫乃は笑みを浮かべながら織田桐に語りかける。

「その圧倒的な膂力を信頼していたはずの味方に向けなければいけないとは悲しいな」

「そういう煽りはもう無駄だぜ……」

「何?」

「俺様は己が名の通り、常に覇道を突き進んできた……そんな俺様についていけない奴らは大勢いた……いちいち嘆いている暇なんてねえ」

「なるほどな……」

「そして……」

「そして?」

「俺様の行く手を阻もうとする奴らもそれこそ沢山いた……そんな奴らを俺様はことごとく叩き潰してきた……てめえらもまた叩き潰すまでだ!」

 織田桐が刀を姫乃たちに向ける。姫乃が苦笑する。

「奴さん、気合十分だな」

「部長が変なこと言うからじゃないですか⁉」

「煽ってみた結果、悪い方に出てしまったな」

「余裕をかましている場合じゃないですよ!」

「おらあ!」

「ちっ! ぐぅ……うおあっ!」

 織田桐が振るった刀を前に進み出た超慈が受け止めるが、勢いを完全に殺しきれず、たまらず吹き飛ばされ、背後にいた姫乃とともに派手に吹っ飛ばされてしまう。

「反応はなかなかだな……しかし、その程度の力で俺を止められると思うなよ!」

「くっ……」

「貴様、よくあの刀にヒビを入れたな……どうやったのだ?」

「分かりません、無我夢中でしたから……」

「火事場のなんとやらというやつか。そいつは再現を期待するのは無理な相談かな……」

 体勢を立て直した姫乃は腕を組んで頭を捻る。織田桐が叫ぶ。

「まぐれは二度もねえ! 今度こそ叩き潰す!」

「く、来る!」

「……遠い夜空にこだまする♪ 魂の叫びに呼応して♪」

「はっ⁉」

 姫乃が唐突に歌い出し、超慈が困惑する。

「愛京高校に詰めかけた我らをじんとしびれさす♪」

「な、何を歌っているんですか、部長⁉」

「1番朝日が蹴り飛ばし♪」

「うおりゃあ!」

 脇から飛び出してきた燦太郎が俊足を飛ばし、織田桐に飛び蹴りを喰らわせる。

「2番鬼龍がかき回す♪」

「『分身斬り』!」

 魂白刀の鏡を利用して数体に分身した瑠衣が織田桐に一斉に斬りかかる。

「3番中運天が舞い踊り♪」

「『常識を超える』!」

 クリスティーナが常識に囚われない前衛的なダンスを披露し、織田桐の動きを止める。

「4番礼沢放電だ♪」

「『放電』!」

 亜門が魂旋刀を地面に突き立て、織田桐に向かって大量の電気を流し込む。

「5番外國宙を飛び♪」

「そらあ!」

 仁が身軽な動きで間合いを詰め、二本の魂棒で織田桐に思い切り殴りつける。

「6番釘井が畳みかけ♪」

「『魂蒻』! 『糸魂蒻』! 『玉魂蒻』!」

 ステラが3種の魂蒻を織田桐に向かって立て続けに叩きつける。

「7番桜花が円を描き♪」

「『製図』!」

 爛漫が頭を地面に突き立て、両足を高速で回転させ、織田桐を蹴りつける。

「8番竹村不思議呼ぶ♪」

「今は昔、摂津国……」

 四季が魂昔物語集を読み上げると、巨大な建物が出現し、織田桐を圧迫する。

「ぐはあっ!」

 続けざまの連続攻撃を喰らい、織田桐が苦悶の表情を浮かべる。超慈が叫ぶ。

「き、効いている! っていうか皆、生徒会の幹部たちを退けたのか!」

「メンバー一の単細胞、優月超慈が場を荒らす♪」

「ひ、酷い言われよう⁉ と、とにかくチャンスだ! 喰らえ!」

 超慈が二本の魂択刀で斬りかかる。

「そして最後は美人部長、灰冠姫乃が勝ち掴む♪」

「じ、自分で美人って言った⁉」

「喰らえ!」

 姫乃が魂杖から仕込んでいた刀を出し、織田桐を切り裂く。織田桐がうめき声を上げる。

「うぐうっ⁉」

「いいぞ、頑張れ合魂部♪ 燃えろ合魂部♪」

「ど、どっかで聞いたことのあるメロディー⁉」

「細かいことは気にするな……さて、10人の連続攻撃、さすがに堪えたようだな?」

「くそが……」

「大分足元がふらついているな……先ほどの夜明の狙撃を防いだコンクリートのシールドを張るのも間に合わなかったと見える」

「ふん、俺様のことをなかなか調べ上げているようじゃねえか……」

「当然だ。何の対策も無しに貴様を相手にまわすほど愚かではない」

 苦しそうな声で呟く織田桐に対し、姫乃は笑みを浮かべて答える。

「だが……調べが足りなかったようだな?」

「なんだと?」

「奥の手は隠しておくもんだぜ……! 喰らえ、『コンクリートジャングル』‼」

「⁉」

「ぐああっ⁉」

 織田桐が両手を広げると、彼の周囲の床からコンクリート群が急に生え、まわりにいた合魂部のメンバーたちを一斉に吹き飛ばしてしまう。姫乃が戸惑う。

「こ、これは……⁉」

「コンクリートの建物を林立させることによって、お前らは容易に手出し出来ない。だが、こちらからは……!」

「ぐおっ⁉」

 コンクリート群の一つが倒れ、姫乃を襲う。姫乃はなんとかかわそうとするが、肩に当たってしまう。姫乃は痛みに顔を歪める。織田桐が笑う。

「この無数のコンクリート群を俺様は自分の手足のように扱える! 攻防一体となった戦い方だ! お前らに勝ち目はねえ!」

「くっ……」

「どんどん行くぜ! おらあ!」

「なっ⁉」

 織田桐が複数のコンクリートの建物を振り回す。合魂部のメンバーたちは成す術もなく、その攻撃を喰らってしまい、みんなが倒れ込んでしまう。超慈が声を上げる。

「みんな! くそ! 一気に形勢逆転かよ!」

「優月!」

「部長! 何か策はないですか⁉」

「……推測に近いが、無いことはない!」

「ええっ⁉」

「いいか? よく思い出せ。魂択刀とは『魂を選択する』刀だ……」

「! それって……どういうことですか?」

 超慈の間の抜けた返答に姫乃はずっこけそうになるが、すぐに体勢を立て直す。

「相手の魂の中心、いわゆるコアの部分を見極めることが出来る魂道具だ」

「そういえばそうでしたね……」

「コアの部分に貴様の全魂力を注ぎ込めば、奴を沈黙させることも可能な……はずだ」

「は、はずだって……」

「満足に動けるものがもはや私と貴様くらいしか残っていない」

 超慈が周囲を見回すと全員が倒れて動けないでいる。

「た、確かに……」

「私が織田桐の注意を引く。あとはこう……なんとか上手いことやってくれ」

「さ、最後が雑⁉」

「とにかく頼んだぞ!」

 姫乃が走り出す。織田桐が叫ぶ。

「まだ動けるか!」

「喰らえ!」

 姫乃が魂杖に仕込んでいた銃を何発か発砲するが、コンクリートの壁に弾き返される。

「ふん! 無駄な足掻きを!」

「……ちぃっ!」

「くっ、どうする⁉ このままじゃ部長が! この間はどうやったんだっけ⁉」

「くたばれ! 灰冠!」

「そうだ! 確かこうやって……」

 超慈が片目をつむると、その瞬間、コンクリート群に囲まれた中から一部分が光ったように見えた。織田桐は姫乃に気を取られている。

「終わりだ!」

「ええい! ままよ!」

「なにっ⁉」

 織田桐の振り下ろしたいくつかのコンクリートを利用して、大きく飛び上がった超慈の振るった刀が織田桐の体の光った部分を突く。超慈は無我夢中で叫ぶ。

「お、『お持ち還り』だ!」

「……! ば、馬鹿な……」

 織田桐は倒れこみ、コンクリート群も消失する。超慈が恐る恐るのぞき込み、呟く。

「や、やったのか……? な、なんか気が抜けちまった……」

 超慈は気を失ってその場に倒れ込む。
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