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転生勇者の黒歴史(19~20)
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19
エリスは、マルコの様子が気になって仕方が無かった。
転生勇者様と二人きりで、一体どんな話をしているのだろう?
マルコが見る夢の話に違いないとは思ったけれども、転生勇者様が、自分からマルコと話をしたいなんて言うとは思わなかった。
まさか、本当に口封じなんて、されないわよね?
マルコの部屋に一番近い席に座って、それとなく聞き耳を立ててみたけれども、『スダマサピくん関連の一連の詩が何とか』以降は、ほぼ聞き取れない。
おばさんたちの会話が、盛り上がるにつれて、爆音化したためだ。
おざなりに会話に参加しながら、やきもきと、ずっとマルコが出てくるのを待っていたら、「いゃぁあああ」という、転生勇者様の絶叫が聞こえた。
エリスは、マリーベル、オフィーリアと顔を見合わせた。
マルコの奴、一体何をやったのだろう?
エリスは立ち上がり、マルコの部屋の前に行くと、コンコンコンと三回ノックした。
三回ノックは、エリスだという二人の合図だ。マリーベルも知っているけれど。
「マルコ、大丈夫?」
と、声をかける。
「心配ない」
マルコの返事は即答だった。
「問題ない」と、転生勇者様の声も続いた。あまり、元気ではなさそうな気がする。
「なら、いいけど」と、エリスは食卓に戻った。
「大丈夫みたい」と、食卓の二人に報告する。
「向こうも話が盛り上がっているのかしら? シレンさんが大声を出すなんて珍しい」
少しして今度は、「あはははは」という、転生勇者様の楽しそうな笑い声。
「あらあら、シレンさんが笑っているなんて、もっと珍しい。やっぱり、同じ年頃の男の子と一緒だからかしら」
エリスの胸が、ずきりとうずいた。
あいつめ!
と、マルコの部屋の扉に目をやる。
瞬間、扉がバタンと開いて、興奮した様子で、マルコが駆けだしてきた。
「かあちゃん、シレンが僕も王都に連れてってくれるってぇ!」
マルコは、一番近くにいたエリスに、ぎゅっと抱きついた。
一瞬で離れて、マリーベルの元に行く。
抱きつかれたのは、初めての経験だ。
エリスは、ボッとなった。
「待てい!」という、転生勇者様の怒声が続く。
怒っているというより、慌てた様子で、転生勇者様もマルコの部屋から飛び出してきた。
なぜか、髪が、ぼさぼさだった。
20
マルコは、マリーベルの隣の席に座っていた。
一生懸命、自分も王都に行けるんだという話を母親にしているが、要領を得ていない。
シレンは、天井を頭にぶつけそうになりながら、仁王立ちになって、マルコを見下ろした。
「違うだろ、マルコ。自分でオフィーリアを説得するのではなかったのか」
「そうだった。オフィーリアさん、シレンが、僕も王都に連れてってくれるって」
「汚ね。そんなの説得じゃないだろ」
けれども、マルコは、きょとんとした顔だ。
シレンは、ため息をついた。
空いている椅子を引き、腰をかける。
「おかあさん、マルコくんは何というかその」と、マリーベルに声をかけた。
「とても無邪気だ」
「まったく、お恥ずかしいかぎりです」と、マリーベルは頭を下げた。
「おばか。変なこと言って転生勇者様を困らせるんじゃないよ」
マリーベルは、マルコの頭を、拳骨でゴチンとした。
「いってぇの」
「シレンさん、どういうことかしら?」
オフィーリアの発言で、緊張が部屋を包む。
エリスが自分の椅子を持って移動し、マリーベルとは反対側のマルコの隣に着席した。
食卓を挟んで、一方の側に、マリーベル、マルコ、エリス。もう一方の側に、オフィーリア、シレンだ。
「お母さんは、マルコくんの夢の話をご存知でしょうか?」
「ああ、あんなの全部でたらめですよ」
「嘘じゃないよ」
「おだまり」
マリーベルには、マルコの夢を『でたらめ』ということにしておきたいという真意があるが、マルコにはわからない。
夢が真実で、秘密を知った者は生かしておけない、となったら大変だ。
「あながち、でたらめとは言いきれなそうです」
「はあ」と、マリーベルは、沈みこんだ息を吐いた。
「先程、マルコくんから話を聞いた限りでは、転生前のわたしの過去と、大体あってる」
「ほら」
と、マルコは誇らしそうだ。
まったく、親の心、子知らずである。
オフィーリアだけが、夢の話題について行けない。
「話が、まったくわからないわ」
シレンが、簡潔に、マルコには『転生勇者の転生前の日常生活の夢を見る』能力があることを、オフィーリアに説明した。
「あら、不思議。それで何のお役に立つの?」
「別に何も」と、シレンはにべもない。
シレンは、マリーベルに顔を向けた。
「ただ、これはまったくの転生勇者としての勘なのですが、マルコくんには、もしかしたら『召喚士』の才能があるのかも知れません」
「まぁ!」と、マリーベルが、驚いた声を上げた。
『召喚士』とは、異世界から勇者を転生する能力を持つ者だ。
シレンも、お世話になったわけだが、一人の召喚士が何人もの転生勇者を召還しているので、人数で言えば転生勇者より遙かに少ない。
転生勇者がレアだとしたら、召喚士はウルトラレアだ。
「何の取り柄もない子だと思っていたけれど、マルコにそんな才能があるなんて!」
「いや、お母さん。まだ『あるかも』です。『あるかも』」
興奮気味のマリーベルを、シレンが、慌てて落ち着かせる。
「ああ、そうね、『あるかも』」
マリーベルは、がっかりした口調で、シレンの言葉を繰り返した。
「ただ、『あるかも』が、本当にあるかないか知るためには、ここにいてはダメです。王都であれば、たまには召喚士が訪れるので確認の機会もある。今のままでは、もし、宝だとしても持ち腐れだ。どうでしょう。マルコくんを王都に行かせてみては?」
「行きたい!」と、マルコも追随する。瞳が、キラキラだ。
「ちょっと、シレンさん!」
オフィーリアが口を挟んだ。
「もし、特待生を何とかもう一人とか思っておられるのでしたら、絶対、無理ですよ」
釘を刺された。オフィーリアが、『絶対』と言うからには、『絶対』なのだろう。
マリーベルが、慎重に確認する。
「やっぱり、何日か旅行に行く程度の日数ですむ話ではないのですよね?」
「召喚士は、大陸帝国の帝都には常にいますが、クスリナには年に何度か訪れる程度です。わたしのもとにも寄ってくれますが、こちらから連絡はつけられません。マルコくんに近くにいてもらい、来訪の機会に備えようとすると、数ヶ月はみておかないと」
「ですよねぇ」
「行っちゃえば何とかなるよ」
マルコは気楽だ。
「おばか。いきなり行ったってどこに住む気だい? 仕事だってないし」
「兄ちゃんとこ」
「戦士団の寮に一緒に住めるわけないじゃない」
「じゃ、エリスんとこ」
「もっとダメよ」
「ちょっと。おにいちゃん、戦士団員なの?」
オフィーリアが食い付いた。
「うちの旦那、そこの戦士団長」
「まあ! いつも息子がお世話になっております」
マリーベルは、立ち上がって、オフィーリアに頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそ、お世話になっております」
オフィーリアも立ち上がり、頭を下げ返す。
二人とも椅子に座り直してから、
「お名前は何さん?」
「ペペロです」
「あらやだ、若手四天王の一人じゃない。旦那がたまに、『飯を食わせろ』って連れてくるわよ。マオック村の出身だなんて全然知らなかった。世間は狭いわねえ」と盛り上がる。
「オフィーリア、何か、いい手はないだろうか? 本音を言えば、わたし自身もマルコを王都へ連れて行きたい。近くにいてもらい、色々話を聞いてみたいのだ」
オフィーリアは、思案顔だ。
腕を組む。
「マリちゃんは、どうなの? マルコさんまで王都に行っちゃうと、一人になっちゃうでしょ」
途端に、キラキラと夢と希望に満ちあふれたマルコの顔が、くしゃりと泣きそうな顔に変じた。マリーベルのことまで、思いが至っていなかったのは明らかだ。
「かあちゃんも一緒に行けばいいよ」
「いやよ。誰がお父さんのお墓のお世話するの。もし、行けるなら、一人で行きなさい」
「いいの?」
「親は、子どもが幸せに生きていると思えば、寂しさなんて乗り越えられるのよ」
マリーベルは、どんと自分の胸を叩いた。
「よし! じゃあ、うちに下宿なさい」
と、オフィーリア。
「枠があるから、うちの旦那の従者見習いということにすれば、ほんとに少しだけど、戦士団からお給料も出せるはずよ。実際には、わたしの補佐として、シレンさんのマネージメントの手伝いをしてもらいます。ちょうど、わたしも人手が欲しいなと思っていたから、一石二鳥だわ」
最後の一言は、もちろん、嘘だ。シレンは、オフィーリアから、そのような話を聞いた覚えはない。恐らく、マリーベルも察しただろう。
「ありがたいお話だけれども、この子、自分のことすら、ろくにできないわよ。まして、転生勇者様のマネージメントなんて」
「いいの。いいの。ただ近くにいてくれればそれだけで。今まで三年、シレンさんを見てきたけれど、人前で感情をあらわにしたり、砕けた口調でしゃべったりするシレンさんを、はじめて目にしたわ。多分、こんなおばちゃんと一緒ばかりじゃ、窮屈なのよね。一緒に出歩ける同年代の子が近くにいれば、シレンさんも気が休まるでしょう」
「いや、べつに、そんなことは」
シレンは力一杯否定しようとしたが、なぜか尻すぼまりになってしまった。
「ほら」と、オフィーリアは笑い、
「エリスさんも、シレンさんをよろしくね」
「ひゃい」と、突然、話を振られてびっくりしたのか、エリスの返答は裏返っていた。
「はい。これで決まり」
オフィーリアが、話をまとめた。
マリーベルが、あらためて、オフィーリアに頭を下げる。
「マルコをよろしくお願いします。ほら、マルコも、よくお願いなさい」
「お願いします」と、慌てて、マルコも頭を下げた。
「気にしないで。そのかわり、マルコさんに何か手伝ってもらいたいことがあったら、遠慮なく借りるわね、あと、ペペロさんも」
「もちろん、二人とも、こきつかってやってちょうだい」
その後は、またおばちゃんたちの、長い茶飲み話が始まった。
エリスは、マルコの様子が気になって仕方が無かった。
転生勇者様と二人きりで、一体どんな話をしているのだろう?
マルコが見る夢の話に違いないとは思ったけれども、転生勇者様が、自分からマルコと話をしたいなんて言うとは思わなかった。
まさか、本当に口封じなんて、されないわよね?
マルコの部屋に一番近い席に座って、それとなく聞き耳を立ててみたけれども、『スダマサピくん関連の一連の詩が何とか』以降は、ほぼ聞き取れない。
おばさんたちの会話が、盛り上がるにつれて、爆音化したためだ。
おざなりに会話に参加しながら、やきもきと、ずっとマルコが出てくるのを待っていたら、「いゃぁあああ」という、転生勇者様の絶叫が聞こえた。
エリスは、マリーベル、オフィーリアと顔を見合わせた。
マルコの奴、一体何をやったのだろう?
エリスは立ち上がり、マルコの部屋の前に行くと、コンコンコンと三回ノックした。
三回ノックは、エリスだという二人の合図だ。マリーベルも知っているけれど。
「マルコ、大丈夫?」
と、声をかける。
「心配ない」
マルコの返事は即答だった。
「問題ない」と、転生勇者様の声も続いた。あまり、元気ではなさそうな気がする。
「なら、いいけど」と、エリスは食卓に戻った。
「大丈夫みたい」と、食卓の二人に報告する。
「向こうも話が盛り上がっているのかしら? シレンさんが大声を出すなんて珍しい」
少しして今度は、「あはははは」という、転生勇者様の楽しそうな笑い声。
「あらあら、シレンさんが笑っているなんて、もっと珍しい。やっぱり、同じ年頃の男の子と一緒だからかしら」
エリスの胸が、ずきりとうずいた。
あいつめ!
と、マルコの部屋の扉に目をやる。
瞬間、扉がバタンと開いて、興奮した様子で、マルコが駆けだしてきた。
「かあちゃん、シレンが僕も王都に連れてってくれるってぇ!」
マルコは、一番近くにいたエリスに、ぎゅっと抱きついた。
一瞬で離れて、マリーベルの元に行く。
抱きつかれたのは、初めての経験だ。
エリスは、ボッとなった。
「待てい!」という、転生勇者様の怒声が続く。
怒っているというより、慌てた様子で、転生勇者様もマルコの部屋から飛び出してきた。
なぜか、髪が、ぼさぼさだった。
20
マルコは、マリーベルの隣の席に座っていた。
一生懸命、自分も王都に行けるんだという話を母親にしているが、要領を得ていない。
シレンは、天井を頭にぶつけそうになりながら、仁王立ちになって、マルコを見下ろした。
「違うだろ、マルコ。自分でオフィーリアを説得するのではなかったのか」
「そうだった。オフィーリアさん、シレンが、僕も王都に連れてってくれるって」
「汚ね。そんなの説得じゃないだろ」
けれども、マルコは、きょとんとした顔だ。
シレンは、ため息をついた。
空いている椅子を引き、腰をかける。
「おかあさん、マルコくんは何というかその」と、マリーベルに声をかけた。
「とても無邪気だ」
「まったく、お恥ずかしいかぎりです」と、マリーベルは頭を下げた。
「おばか。変なこと言って転生勇者様を困らせるんじゃないよ」
マリーベルは、マルコの頭を、拳骨でゴチンとした。
「いってぇの」
「シレンさん、どういうことかしら?」
オフィーリアの発言で、緊張が部屋を包む。
エリスが自分の椅子を持って移動し、マリーベルとは反対側のマルコの隣に着席した。
食卓を挟んで、一方の側に、マリーベル、マルコ、エリス。もう一方の側に、オフィーリア、シレンだ。
「お母さんは、マルコくんの夢の話をご存知でしょうか?」
「ああ、あんなの全部でたらめですよ」
「嘘じゃないよ」
「おだまり」
マリーベルには、マルコの夢を『でたらめ』ということにしておきたいという真意があるが、マルコにはわからない。
夢が真実で、秘密を知った者は生かしておけない、となったら大変だ。
「あながち、でたらめとは言いきれなそうです」
「はあ」と、マリーベルは、沈みこんだ息を吐いた。
「先程、マルコくんから話を聞いた限りでは、転生前のわたしの過去と、大体あってる」
「ほら」
と、マルコは誇らしそうだ。
まったく、親の心、子知らずである。
オフィーリアだけが、夢の話題について行けない。
「話が、まったくわからないわ」
シレンが、簡潔に、マルコには『転生勇者の転生前の日常生活の夢を見る』能力があることを、オフィーリアに説明した。
「あら、不思議。それで何のお役に立つの?」
「別に何も」と、シレンはにべもない。
シレンは、マリーベルに顔を向けた。
「ただ、これはまったくの転生勇者としての勘なのですが、マルコくんには、もしかしたら『召喚士』の才能があるのかも知れません」
「まぁ!」と、マリーベルが、驚いた声を上げた。
『召喚士』とは、異世界から勇者を転生する能力を持つ者だ。
シレンも、お世話になったわけだが、一人の召喚士が何人もの転生勇者を召還しているので、人数で言えば転生勇者より遙かに少ない。
転生勇者がレアだとしたら、召喚士はウルトラレアだ。
「何の取り柄もない子だと思っていたけれど、マルコにそんな才能があるなんて!」
「いや、お母さん。まだ『あるかも』です。『あるかも』」
興奮気味のマリーベルを、シレンが、慌てて落ち着かせる。
「ああ、そうね、『あるかも』」
マリーベルは、がっかりした口調で、シレンの言葉を繰り返した。
「ただ、『あるかも』が、本当にあるかないか知るためには、ここにいてはダメです。王都であれば、たまには召喚士が訪れるので確認の機会もある。今のままでは、もし、宝だとしても持ち腐れだ。どうでしょう。マルコくんを王都に行かせてみては?」
「行きたい!」と、マルコも追随する。瞳が、キラキラだ。
「ちょっと、シレンさん!」
オフィーリアが口を挟んだ。
「もし、特待生を何とかもう一人とか思っておられるのでしたら、絶対、無理ですよ」
釘を刺された。オフィーリアが、『絶対』と言うからには、『絶対』なのだろう。
マリーベルが、慎重に確認する。
「やっぱり、何日か旅行に行く程度の日数ですむ話ではないのですよね?」
「召喚士は、大陸帝国の帝都には常にいますが、クスリナには年に何度か訪れる程度です。わたしのもとにも寄ってくれますが、こちらから連絡はつけられません。マルコくんに近くにいてもらい、来訪の機会に備えようとすると、数ヶ月はみておかないと」
「ですよねぇ」
「行っちゃえば何とかなるよ」
マルコは気楽だ。
「おばか。いきなり行ったってどこに住む気だい? 仕事だってないし」
「兄ちゃんとこ」
「戦士団の寮に一緒に住めるわけないじゃない」
「じゃ、エリスんとこ」
「もっとダメよ」
「ちょっと。おにいちゃん、戦士団員なの?」
オフィーリアが食い付いた。
「うちの旦那、そこの戦士団長」
「まあ! いつも息子がお世話になっております」
マリーベルは、立ち上がって、オフィーリアに頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそ、お世話になっております」
オフィーリアも立ち上がり、頭を下げ返す。
二人とも椅子に座り直してから、
「お名前は何さん?」
「ペペロです」
「あらやだ、若手四天王の一人じゃない。旦那がたまに、『飯を食わせろ』って連れてくるわよ。マオック村の出身だなんて全然知らなかった。世間は狭いわねえ」と盛り上がる。
「オフィーリア、何か、いい手はないだろうか? 本音を言えば、わたし自身もマルコを王都へ連れて行きたい。近くにいてもらい、色々話を聞いてみたいのだ」
オフィーリアは、思案顔だ。
腕を組む。
「マリちゃんは、どうなの? マルコさんまで王都に行っちゃうと、一人になっちゃうでしょ」
途端に、キラキラと夢と希望に満ちあふれたマルコの顔が、くしゃりと泣きそうな顔に変じた。マリーベルのことまで、思いが至っていなかったのは明らかだ。
「かあちゃんも一緒に行けばいいよ」
「いやよ。誰がお父さんのお墓のお世話するの。もし、行けるなら、一人で行きなさい」
「いいの?」
「親は、子どもが幸せに生きていると思えば、寂しさなんて乗り越えられるのよ」
マリーベルは、どんと自分の胸を叩いた。
「よし! じゃあ、うちに下宿なさい」
と、オフィーリア。
「枠があるから、うちの旦那の従者見習いということにすれば、ほんとに少しだけど、戦士団からお給料も出せるはずよ。実際には、わたしの補佐として、シレンさんのマネージメントの手伝いをしてもらいます。ちょうど、わたしも人手が欲しいなと思っていたから、一石二鳥だわ」
最後の一言は、もちろん、嘘だ。シレンは、オフィーリアから、そのような話を聞いた覚えはない。恐らく、マリーベルも察しただろう。
「ありがたいお話だけれども、この子、自分のことすら、ろくにできないわよ。まして、転生勇者様のマネージメントなんて」
「いいの。いいの。ただ近くにいてくれればそれだけで。今まで三年、シレンさんを見てきたけれど、人前で感情をあらわにしたり、砕けた口調でしゃべったりするシレンさんを、はじめて目にしたわ。多分、こんなおばちゃんと一緒ばかりじゃ、窮屈なのよね。一緒に出歩ける同年代の子が近くにいれば、シレンさんも気が休まるでしょう」
「いや、べつに、そんなことは」
シレンは力一杯否定しようとしたが、なぜか尻すぼまりになってしまった。
「ほら」と、オフィーリアは笑い、
「エリスさんも、シレンさんをよろしくね」
「ひゃい」と、突然、話を振られてびっくりしたのか、エリスの返答は裏返っていた。
「はい。これで決まり」
オフィーリアが、話をまとめた。
マリーベルが、あらためて、オフィーリアに頭を下げる。
「マルコをよろしくお願いします。ほら、マルコも、よくお願いなさい」
「お願いします」と、慌てて、マルコも頭を下げた。
「気にしないで。そのかわり、マルコさんに何か手伝ってもらいたいことがあったら、遠慮なく借りるわね、あと、ペペロさんも」
「もちろん、二人とも、こきつかってやってちょうだい」
その後は、またおばちゃんたちの、長い茶飲み話が始まった。
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