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第3章
第4話 娘がヒロインと接触した
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それから三年の間にリューテシアには全部説明した。
娘であるリムラシーヌの中に転生者がいること。
その転生者はカーミヤ嬢の中にいた神谷と違って完全に共存しているということ。
将来のためにルミナリアス殿下と婚約させたくないこと。
問題に巻き込まれ慣れているからか、それとも母になったからか、リューテシアは毅然とした態度を崩さなかった。
不安そうに立ち尽くすリムラシーヌを抱き締め、「二人ともわたしたちの子よ」と言ったときの表情はまさに聖母だった。
リムラシーヌも涙を流していたし、二人の姿を見て俺も感極まった。
現在、リムラシーヌは九歳だ。俺が転生した年齢と同じになった。
容姿はどんどんリューテシアに似てくる。
リムの方は少し俺との壁を感じるが、シーヌはとにかく俺との距離感が近い。
性格面でもリムは幼い頃のリューテシアにそっくりだ。
「お父様、シーヌが明日のホームパーティー参加者を知りたいと申しています」
「いいよ」
即答したが、内心焦った。
なぜリムがシーヌのお使いを頼まれているんだ。
不思議に思いながらも参加者リストを読み上げていると娘の雰囲気が一変した。
「パパ、私もパーティーに参加したいわ。学園入学前にヒロインと仲良くなっておけば未来が変わるかも」
「えぇ!? 話が違うよ! 私はパーティーに行きたくないもん。ドレスいや!」
「えー、なんでよ。ママが選んでくれたドレス可愛いのに。きっと似合うって。ねぇ、パパ?」
コロコロ表情を変えながら二人だけで会話する娘たちに呆れる。
今では慣れたが、絶対に外でやるなよ。
「きっと似合うよ。リムラシーヌが希望するなら連れて行くことは可能だ。どうする?」
これは二人で決めればいい。
片方だけが行きたくて、片方は無理矢理連れて行かれるということは避けたい。
「お父様は私を連れて行って迷惑ではありませんか?」
「全然」
即答すれば、彼女は頬を染めてもじもじと手遊びを始めた。
その仕草もリューテシアにそっくりなんだよなぁ。
「で、では、行きます」
「けってーい! リムは心配しすぎなんだよ。パパが私たちを連れて行かないなんて言うわけないのに」
そういうことらしい。
リムは見た目は幼いが気を遣いすぎる。
反対にシーヌは言動こそ大人びている時はあるが、遠慮というものを一切しない。
互いを補い合っている関係ということだ。
翌日。
部屋から出てきたリューテシアのドレス姿を見ての第一声は「綺麗だ……」だった。
頬を染めて、お礼を言ってくれるリューテシアの可愛さは年齢を重ねても変わらない。いや、むしろ磨きがかかっている。
次いでリューテシアに続く娘の姿に絶句した。
ディープブルーのドレス姿はリューテシアを彷彿とさせる。俺は好きだ。
でも、もっと子供っぽい色味の方が良いだろうというのも本心だ。
「リュシー、いくらなんでもこれは」
「いくつかの中からこの色を選んだのはリムラシーヌですよ。黒はわたしだけの色ですから却下しただけです」
娘たちよ、黒を選んだのか。
父は信じられんぞ。
リューテシアも限りなく黒に近い色のドレスを着こなし、昔プレゼントした純白のストールを羽織っている。
「ど、どうでしょうか」
完璧なカーテシーをするリムラシーヌに、はっとさせられた。
この年でこのオーラを出せるとは末恐ろしい子だ。
「似合っているよ。では、行こうか」
「パパ。もっとママの時みたいに目を見て言って。恥ずかしがらないで」
娘に叱られた俺はしゃがみ込み、目線をリムラシーヌに合わせてから告げた。
「とても綺麗だ。カーテシーも完璧だ。リムラシーヌの努力を垣間見た。その年齢で、同じ所作は誰にもできない。父として誇りに思う」
ボンっと音を立てそうな勢いで顔を真っ赤にするリムラシーヌの頭を撫でてやると、彼女はふらふらと俺の後について歩き出した。
「あの子はウィル様に褒められ慣れていないので、言葉には気をつけてください」
そう耳打ちするリューテシアに眉をひそめる。
「そんなことはないだろ」
「ウィル様は気づいておられないかもしれませんが、あの子と話すときは必ずと言っていいほど目を見ていないのですよ」
俺はリューテシアに小声で何度も聞き返した。
自覚が全くない。
俺はしっかりと目を見て話しているつもりだったけれど違うらしい。
屋敷に隣接するパーティーホールで、主催者として貴族たちに挨拶回りをしていると今回の標的であるハーモル男爵を見つけた。
「行くぞ」
「はい」
短くリムラシーヌを呼び、一直線に向かう。
「ハーモル男爵」
「ブルブラック伯爵! 本日はお招きいただき、ありがとうございます」
恭しく頭を下げる男爵は俺よりも年上の小太りのおじさんだ。
ここが日本なら敬語を使うべきなのだろうが、貴族社会で舐められては困る。
今日のホームパーティーはこの男を誘い出すためのものと言っても過言ではない。
俺が男爵にそれとなく牽制するだけのつもりだったが、リムラシーヌと同年代の娘――『アオバラⅢ』のヒロインの名前が参加者リストに載っていたから急遽作戦を変更した。
招待状には子供同伴可としていたから、今回のホームパーティーには貴族令息、貴族令嬢があちらこちらにいる。
だからこそ、リムラシーヌも違和感なくパーティーに参加して、ヒロインと接触しようという大胆な行動に出た。
ハーモル男爵の背後では亜麻色の髪の少女が固まっていた。
「男爵の子も九歳だったか」
「えぇ。その通りです」
「お互い大人の世界にはまだ早いが、良い練習にはなるだろう。ほら、リムラシーヌ」
俺の後ろに控える娘を紹介すると、リムラシーヌは流れるようにカーテシーをして丁寧な自己紹介を終えた。
完璧なんだけど、少し下品というか。溢れ出る自信を隠しきれていないというか。
なんか、我が子ながら嫌な女に見えてきたな。
これが将来の悪役令嬢か。
幼い頃のカーミヤ嬢もこんな感じだったのかな。
「ほら、お前も挨拶しないか!」
「……あっ、あの、アリシア……です」
消え入りそうな声だったが、俺もリムラシーヌもはっきりと標的を確認してから頷き合った。
「リムラシーヌ、少しお話ししてくるといい。アリシア嬢、そんなに硬くならず、うちの子と仲良くしてやってくれ」
「そんな! この子には勿体ないお言葉です!」
「では男爵、我らは向こうで酒でも。昼間から酒が飲めるのは良いことだな。今だけは仕事を忘れようではないか」
「は、はいぃ!」
リムラシーヌの奴、可愛いらしくウインクしやがって。
とはいえ、これで我が子が破滅しないならお安い御用だ。
でも領民から文句を言われたら嫌だなー。
影では「働け、ポンコツ領主」とか言われてんのかな……。
娘であるリムラシーヌの中に転生者がいること。
その転生者はカーミヤ嬢の中にいた神谷と違って完全に共存しているということ。
将来のためにルミナリアス殿下と婚約させたくないこと。
問題に巻き込まれ慣れているからか、それとも母になったからか、リューテシアは毅然とした態度を崩さなかった。
不安そうに立ち尽くすリムラシーヌを抱き締め、「二人ともわたしたちの子よ」と言ったときの表情はまさに聖母だった。
リムラシーヌも涙を流していたし、二人の姿を見て俺も感極まった。
現在、リムラシーヌは九歳だ。俺が転生した年齢と同じになった。
容姿はどんどんリューテシアに似てくる。
リムの方は少し俺との壁を感じるが、シーヌはとにかく俺との距離感が近い。
性格面でもリムは幼い頃のリューテシアにそっくりだ。
「お父様、シーヌが明日のホームパーティー参加者を知りたいと申しています」
「いいよ」
即答したが、内心焦った。
なぜリムがシーヌのお使いを頼まれているんだ。
不思議に思いながらも参加者リストを読み上げていると娘の雰囲気が一変した。
「パパ、私もパーティーに参加したいわ。学園入学前にヒロインと仲良くなっておけば未来が変わるかも」
「えぇ!? 話が違うよ! 私はパーティーに行きたくないもん。ドレスいや!」
「えー、なんでよ。ママが選んでくれたドレス可愛いのに。きっと似合うって。ねぇ、パパ?」
コロコロ表情を変えながら二人だけで会話する娘たちに呆れる。
今では慣れたが、絶対に外でやるなよ。
「きっと似合うよ。リムラシーヌが希望するなら連れて行くことは可能だ。どうする?」
これは二人で決めればいい。
片方だけが行きたくて、片方は無理矢理連れて行かれるということは避けたい。
「お父様は私を連れて行って迷惑ではありませんか?」
「全然」
即答すれば、彼女は頬を染めてもじもじと手遊びを始めた。
その仕草もリューテシアにそっくりなんだよなぁ。
「で、では、行きます」
「けってーい! リムは心配しすぎなんだよ。パパが私たちを連れて行かないなんて言うわけないのに」
そういうことらしい。
リムは見た目は幼いが気を遣いすぎる。
反対にシーヌは言動こそ大人びている時はあるが、遠慮というものを一切しない。
互いを補い合っている関係ということだ。
翌日。
部屋から出てきたリューテシアのドレス姿を見ての第一声は「綺麗だ……」だった。
頬を染めて、お礼を言ってくれるリューテシアの可愛さは年齢を重ねても変わらない。いや、むしろ磨きがかかっている。
次いでリューテシアに続く娘の姿に絶句した。
ディープブルーのドレス姿はリューテシアを彷彿とさせる。俺は好きだ。
でも、もっと子供っぽい色味の方が良いだろうというのも本心だ。
「リュシー、いくらなんでもこれは」
「いくつかの中からこの色を選んだのはリムラシーヌですよ。黒はわたしだけの色ですから却下しただけです」
娘たちよ、黒を選んだのか。
父は信じられんぞ。
リューテシアも限りなく黒に近い色のドレスを着こなし、昔プレゼントした純白のストールを羽織っている。
「ど、どうでしょうか」
完璧なカーテシーをするリムラシーヌに、はっとさせられた。
この年でこのオーラを出せるとは末恐ろしい子だ。
「似合っているよ。では、行こうか」
「パパ。もっとママの時みたいに目を見て言って。恥ずかしがらないで」
娘に叱られた俺はしゃがみ込み、目線をリムラシーヌに合わせてから告げた。
「とても綺麗だ。カーテシーも完璧だ。リムラシーヌの努力を垣間見た。その年齢で、同じ所作は誰にもできない。父として誇りに思う」
ボンっと音を立てそうな勢いで顔を真っ赤にするリムラシーヌの頭を撫でてやると、彼女はふらふらと俺の後について歩き出した。
「あの子はウィル様に褒められ慣れていないので、言葉には気をつけてください」
そう耳打ちするリューテシアに眉をひそめる。
「そんなことはないだろ」
「ウィル様は気づいておられないかもしれませんが、あの子と話すときは必ずと言っていいほど目を見ていないのですよ」
俺はリューテシアに小声で何度も聞き返した。
自覚が全くない。
俺はしっかりと目を見て話しているつもりだったけれど違うらしい。
屋敷に隣接するパーティーホールで、主催者として貴族たちに挨拶回りをしていると今回の標的であるハーモル男爵を見つけた。
「行くぞ」
「はい」
短くリムラシーヌを呼び、一直線に向かう。
「ハーモル男爵」
「ブルブラック伯爵! 本日はお招きいただき、ありがとうございます」
恭しく頭を下げる男爵は俺よりも年上の小太りのおじさんだ。
ここが日本なら敬語を使うべきなのだろうが、貴族社会で舐められては困る。
今日のホームパーティーはこの男を誘い出すためのものと言っても過言ではない。
俺が男爵にそれとなく牽制するだけのつもりだったが、リムラシーヌと同年代の娘――『アオバラⅢ』のヒロインの名前が参加者リストに載っていたから急遽作戦を変更した。
招待状には子供同伴可としていたから、今回のホームパーティーには貴族令息、貴族令嬢があちらこちらにいる。
だからこそ、リムラシーヌも違和感なくパーティーに参加して、ヒロインと接触しようという大胆な行動に出た。
ハーモル男爵の背後では亜麻色の髪の少女が固まっていた。
「男爵の子も九歳だったか」
「えぇ。その通りです」
「お互い大人の世界にはまだ早いが、良い練習にはなるだろう。ほら、リムラシーヌ」
俺の後ろに控える娘を紹介すると、リムラシーヌは流れるようにカーテシーをして丁寧な自己紹介を終えた。
完璧なんだけど、少し下品というか。溢れ出る自信を隠しきれていないというか。
なんか、我が子ながら嫌な女に見えてきたな。
これが将来の悪役令嬢か。
幼い頃のカーミヤ嬢もこんな感じだったのかな。
「ほら、お前も挨拶しないか!」
「……あっ、あの、アリシア……です」
消え入りそうな声だったが、俺もリムラシーヌもはっきりと標的を確認してから頷き合った。
「リムラシーヌ、少しお話ししてくるといい。アリシア嬢、そんなに硬くならず、うちの子と仲良くしてやってくれ」
「そんな! この子には勿体ないお言葉です!」
「では男爵、我らは向こうで酒でも。昼間から酒が飲めるのは良いことだな。今だけは仕事を忘れようではないか」
「は、はいぃ!」
リムラシーヌの奴、可愛いらしくウインクしやがって。
とはいえ、これで我が子が破滅しないならお安い御用だ。
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