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第2章
第3話 不覚にもときめいてしまった
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きっかけは一人のメイドからの提案だった。
「不躾ですが、ご当主様やリファ様にお顔をお見せになるのはいかがでしょう」
主人に指示するなんて! と怒鳴る貴族が大半かもしれないが俺は、妙案だ! と声を上げた。
リューテシアも都合がつくなら一緒に帰ろう。
ブルブラック伯爵家からファンドミーユ子爵家までは馬車で行ける距離だ。
たまには里帰りして子爵たちを喜ばせてあげてほしい。
嫁入り前に手を出し、学生の身分で結婚して、実家から離れた王都に住まわせているわけで。
あれ、なんか胃がシクシクしてきたぞ。
怒られないか、俺?
そんな不安を見せないようにリューテシアを誘った俺は数人のメイドと執事を連れて久々に帰郷した。
ちょうど王立学園の長期休みの時期と被っているから、帰省しているならばリファにも会えるはずだ。
まずはリューテシアを子爵家に送り届け、軽くお茶を飲みながら近況を話して、すぐに実家へと出発した。
久々の親子水入らず。義理の息子なんていない方が良いに決まっている。
そんなわけで到着した我が家の庭園は昔よりも立派になっていた。
正式に庭師を雇ったらしい。今は教育費はリファにしかかからないから、屋敷の手入れに力を入れているとか。
王都の屋敷も気に入っているが、やはり実家が一番だ。
馬車が到着すると、すぐに執事長に出迎えられ、学生の頃と同じように荷物を奪われた。
そして、リビングへと案内される。
「お兄様!」
満開の笑顔で迎えてくれた愛くるしい妹が胸に飛び込んできた。
しっかりと受け止め、クルクル回ってから着地。まるで映画のワンシーンのようだ。
「やぁ、久しぶりだね、リファ。随分と重くなった」
「もうっ。レディーに対して失礼ですよ」
「ごめん、ごめん」
ぷくっと頬を膨らませるリファの頭を撫でてやる。
赤みがかった黒髪の髪は肩にかかるほどの長さで切り揃えられている。
ロングヘアのリューテシアはもちろんだが、ショートになったリファも中々の美少女だ。
「髪、切ったんだな」
「はい。薬草の採取に邪魔になったので!」
まぁ、思い切りの良いこと。
見事にお転婆娘に成長したリファは、学園初となる交換留学まで経験し、隣国の野原を駆け回ったとか。
そんな自由ができるなら成績優秀ということだ。兄としても鼻が高い。
「似合っていますか?」
一歩離れて、ドレスを翻してからのカーテシー。そして、上目遣いで問われれば、ほとんどの健全な男子は落ちるだろう。
「可愛いと思う」
「まぁ、お兄様ったら」
妹ながら、なんという破壊力。
ほんのりピンクに染めた頬を隠すように照れる妹を前にたじろいでしまうなんて一生の不覚だ。
…………おや?
リファさん、もしやお兄様を破滅に導こうとしてます?
久々の、しかも身内からの攻撃に反応が遅れてしまった。
よく考えると今の状況で下半身が暴走した方がマズいのではないか。
今や俺も妻帯者。不倫したとなればとんでもないことになる。
しかも相手が実の妹だなんて。天国のお母様に顔向けできない。
「勘弁してくれよ。そ、そうだ、学園生活はどう? もう三年生だから忙しいんじゃないか?」
「最終学年で剣術大会に参加されていたお兄様がいかに優秀だったか思い知りました」
「そんなことはないと思うけど。研究課題は? もうそろそろ発表の時期だろ」
「……はい。そうなんですけど」
歯切れの悪いリファが視線を逸らした。
何か行き詰まっているのか。それとも言いにくいことがあるのか。
「リファお嬢様の研究課題を却下したのです。心苦しいですが、決まりですので」
「サーナ先生!」
ブルブラック家専属の家庭教師として契約満了した後、名門王立学園の教員となったサーナ先生。
こちらも約二年ぶりにお会いすると以前にも増してお綺麗になっていた。
「どうしました?」
「い、いえ。なんというか、久しぶりに会ったので人見知り中です」
「幼い頃から寝食を共にした間柄ではありませんか」
くすっと笑う姿は大人の余裕があって、簡単には出せない色気がある。
「……ここにも危険人物がいた」
「なんですか?」
「いえ、こちらの話です。それで、研究課題を却下したとは? 俺の代でそんな生徒はいませんでしたよ」
「実はリファお嬢様は黒薔薇を研究の題材にしようとなされていまして」
黒薔薇とは、この大陸の遥か南の孤島に咲いている花で、知る人ぞ知る植物だ。
俺の父は学園在学中に船を出し、わざわざ黒薔薇を採取して母にプレゼントしたと聞いた。
俺たち兄弟は実物を見たことがないからどのような花なのか想像もつかない。
「確かに黒薔薇を調べようとした生徒はいませんでしたが、それの何がいけないのですか?」
「黒薔薇は取り扱い危険植物に指定されていますから」
そんな話は初めて聞いた。
では、うちの父は相当な問題児だったということになるのか?
そして、そんな危険な花を贈られた母は平気だったのだろうか。
「仕方がないので、諦めて別の研究発表資料を仕上げました」
残念がるリファの力になってやりたいが、こればかりはどうしようもできない。
「時間があれば発表会を聞きに行くよ」
遠慮がちに微笑むリファの背後ではサーナ先生が困ったように眉をひそめていた。
「今年は問題を起こす子が入学してきて大変なのです」
「へぇ。それはご苦労様です」
サーナ先生が弱音というか愚痴を言うなんて珍しい。
それだけ俺も頼れる男になったということか。そういうことにしておこう。
◇◆◇◆◇◆
久々の里帰りを終えて王都に戻った俺は、お土産を持って王宮へ向かった。
正式に騎士となったディード、王宮魔術師になったマーシャルに手渡しして回り、最後にルミナリオの部屋へ。
「親愛なる友よ、ちょうど話があったのだ」
こいつが猫なで声で俺を呼ぶときはろくな事がない。
さっさと土産を渡して帰ろうとする俺に向かって、ルミナリオは満面の笑みで告げた。
「一週間程、王立学園の臨時講師を頼まれてくれんか。ウィルフリッド以外に推薦できる男がいないのだ。頼む」
俺なんかに講師が務まるとは思えないが、そんな風に言われると断れない。
しかも、ルミナリオには以前の婚約依頼騒動のときに手を煩わせたからな。
俺は渋々了承し、事の顛末をリューテシアに伝えることにした。
「不躾ですが、ご当主様やリファ様にお顔をお見せになるのはいかがでしょう」
主人に指示するなんて! と怒鳴る貴族が大半かもしれないが俺は、妙案だ! と声を上げた。
リューテシアも都合がつくなら一緒に帰ろう。
ブルブラック伯爵家からファンドミーユ子爵家までは馬車で行ける距離だ。
たまには里帰りして子爵たちを喜ばせてあげてほしい。
嫁入り前に手を出し、学生の身分で結婚して、実家から離れた王都に住まわせているわけで。
あれ、なんか胃がシクシクしてきたぞ。
怒られないか、俺?
そんな不安を見せないようにリューテシアを誘った俺は数人のメイドと執事を連れて久々に帰郷した。
ちょうど王立学園の長期休みの時期と被っているから、帰省しているならばリファにも会えるはずだ。
まずはリューテシアを子爵家に送り届け、軽くお茶を飲みながら近況を話して、すぐに実家へと出発した。
久々の親子水入らず。義理の息子なんていない方が良いに決まっている。
そんなわけで到着した我が家の庭園は昔よりも立派になっていた。
正式に庭師を雇ったらしい。今は教育費はリファにしかかからないから、屋敷の手入れに力を入れているとか。
王都の屋敷も気に入っているが、やはり実家が一番だ。
馬車が到着すると、すぐに執事長に出迎えられ、学生の頃と同じように荷物を奪われた。
そして、リビングへと案内される。
「お兄様!」
満開の笑顔で迎えてくれた愛くるしい妹が胸に飛び込んできた。
しっかりと受け止め、クルクル回ってから着地。まるで映画のワンシーンのようだ。
「やぁ、久しぶりだね、リファ。随分と重くなった」
「もうっ。レディーに対して失礼ですよ」
「ごめん、ごめん」
ぷくっと頬を膨らませるリファの頭を撫でてやる。
赤みがかった黒髪の髪は肩にかかるほどの長さで切り揃えられている。
ロングヘアのリューテシアはもちろんだが、ショートになったリファも中々の美少女だ。
「髪、切ったんだな」
「はい。薬草の採取に邪魔になったので!」
まぁ、思い切りの良いこと。
見事にお転婆娘に成長したリファは、学園初となる交換留学まで経験し、隣国の野原を駆け回ったとか。
そんな自由ができるなら成績優秀ということだ。兄としても鼻が高い。
「似合っていますか?」
一歩離れて、ドレスを翻してからのカーテシー。そして、上目遣いで問われれば、ほとんどの健全な男子は落ちるだろう。
「可愛いと思う」
「まぁ、お兄様ったら」
妹ながら、なんという破壊力。
ほんのりピンクに染めた頬を隠すように照れる妹を前にたじろいでしまうなんて一生の不覚だ。
…………おや?
リファさん、もしやお兄様を破滅に導こうとしてます?
久々の、しかも身内からの攻撃に反応が遅れてしまった。
よく考えると今の状況で下半身が暴走した方がマズいのではないか。
今や俺も妻帯者。不倫したとなればとんでもないことになる。
しかも相手が実の妹だなんて。天国のお母様に顔向けできない。
「勘弁してくれよ。そ、そうだ、学園生活はどう? もう三年生だから忙しいんじゃないか?」
「最終学年で剣術大会に参加されていたお兄様がいかに優秀だったか思い知りました」
「そんなことはないと思うけど。研究課題は? もうそろそろ発表の時期だろ」
「……はい。そうなんですけど」
歯切れの悪いリファが視線を逸らした。
何か行き詰まっているのか。それとも言いにくいことがあるのか。
「リファお嬢様の研究課題を却下したのです。心苦しいですが、決まりですので」
「サーナ先生!」
ブルブラック家専属の家庭教師として契約満了した後、名門王立学園の教員となったサーナ先生。
こちらも約二年ぶりにお会いすると以前にも増してお綺麗になっていた。
「どうしました?」
「い、いえ。なんというか、久しぶりに会ったので人見知り中です」
「幼い頃から寝食を共にした間柄ではありませんか」
くすっと笑う姿は大人の余裕があって、簡単には出せない色気がある。
「……ここにも危険人物がいた」
「なんですか?」
「いえ、こちらの話です。それで、研究課題を却下したとは? 俺の代でそんな生徒はいませんでしたよ」
「実はリファお嬢様は黒薔薇を研究の題材にしようとなされていまして」
黒薔薇とは、この大陸の遥か南の孤島に咲いている花で、知る人ぞ知る植物だ。
俺の父は学園在学中に船を出し、わざわざ黒薔薇を採取して母にプレゼントしたと聞いた。
俺たち兄弟は実物を見たことがないからどのような花なのか想像もつかない。
「確かに黒薔薇を調べようとした生徒はいませんでしたが、それの何がいけないのですか?」
「黒薔薇は取り扱い危険植物に指定されていますから」
そんな話は初めて聞いた。
では、うちの父は相当な問題児だったということになるのか?
そして、そんな危険な花を贈られた母は平気だったのだろうか。
「仕方がないので、諦めて別の研究発表資料を仕上げました」
残念がるリファの力になってやりたいが、こればかりはどうしようもできない。
「時間があれば発表会を聞きに行くよ」
遠慮がちに微笑むリファの背後ではサーナ先生が困ったように眉をひそめていた。
「今年は問題を起こす子が入学してきて大変なのです」
「へぇ。それはご苦労様です」
サーナ先生が弱音というか愚痴を言うなんて珍しい。
それだけ俺も頼れる男になったということか。そういうことにしておこう。
◇◆◇◆◇◆
久々の里帰りを終えて王都に戻った俺は、お土産を持って王宮へ向かった。
正式に騎士となったディード、王宮魔術師になったマーシャルに手渡しして回り、最後にルミナリオの部屋へ。
「親愛なる友よ、ちょうど話があったのだ」
こいつが猫なで声で俺を呼ぶときはろくな事がない。
さっさと土産を渡して帰ろうとする俺に向かって、ルミナリオは満面の笑みで告げた。
「一週間程、王立学園の臨時講師を頼まれてくれんか。ウィルフリッド以外に推薦できる男がいないのだ。頼む」
俺なんかに講師が務まるとは思えないが、そんな風に言われると断れない。
しかも、ルミナリオには以前の婚約依頼騒動のときに手を煩わせたからな。
俺は渋々了承し、事の顛末をリューテシアに伝えることにした。
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