チートな環境適応型スキルを使って魔王国の辺境でスローライフを ~べっぴんな九尾族の嫁さんをもらった俺が人間やなんてバレへん、バレへん~

桜枕

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第41話 レイラルーシス視点

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 場所は変わって、魔王国にそびえ立つ魔王城。

 7つある魔王の居室の1つ――真実と誠実のダイヤモンドの部屋で水晶を覗き込んでいた魔王レイラルーシスはため息をついた。

 まるで、予見していたかのように扉がノックされて、黒羊ノワールムートン族の執事、ネロが入室した。

「魔王様、デロッサの森の西側に人族が展開していますメェ」

「ちょうど見ていたところだ。あの忌々しい勇者の姿もある。右腕の借りを返しに来たのかもな」

 右腕の借りとは、白羊ブランムートン族の血統魔法である転置魔法によって負わされた傷のことだ。
 元はと言えば勇者が魔王の右腕を切り落とさなければ、大問題には発展しなかった。

 その業が巡り巡って、勇者に返ってきたというだけだ。

「トーヤが対処している。どんな魔法を使ったのか知らんが、人族は撤退を始めたぞ」

「撤退でございますか」

「血を流さないやり方を選んだようだ。そんなことは時間稼ぎにしかならないと分かっているだろうに」

「トーヤ様はあまりにも規格外すぎて理解が及びませんメェ」

 魔王レイラルーシスにとってもトーヤという男の素性はわかっていない。
 唯一、判明していることは、様々な種族になれる魔人であることだけ。

 別に魔人は珍しいものではない。
 問題は奴が囲っている女どもが曲者揃いということだ。

「九尾族、ダークエルフ族、そしてケンロウ族か。見事に希少種だけを揃えたな」

「ダークエルフ族もですか?」

 質問した後でネロは失念していたことに気づき、頭を下げた。

「デプスダークエルフですメェ」

「可能性の話だがな。あの女がダークエルフ族の中でも上位の存在であれば希少種デプスすらも手中に収めていることになる」

 それに、と魔王はネロに視線を送る。

黒羊ノワールムートン族もだ」

 わざとやっているのかと思ってしまうほどに狼狽えるネロの姿に笑ってしまった。

「あぁ……白羊ブランムートン族もだったか」

 この場に白羊ブランムートン族のプテラヴェッラはいないが、いればネロと似たような反応を示しただろう。

「ネロはともかくプテラヴェッラにまで手を出すとはな。転置魔法を完璧に扱えるようになれば、余でも手に負えなくなる」

「魔王様でもですかメェ?」

「余も女だからな。そして、今では絶滅寸前の魔王種だ。トーヤが純粋な闇魔法を扱えるのなら余とつがいになれる。そんな殿方を手にかけることはできぬだろ?」

 妖艶な笑みにネロは思わずドキッとした。

 魔王レイラルーシスに仕えるようになって初めて見る表情。
 いつもは冷酷冷徹な仮面を被っている魔王がこんなにも柔らかく微笑むなど想像できなかった。

 保護対象であるプテラヴェッラに向ける微笑みとは違って、甘美な雰囲気が滲み出ている。

「魔王様はトーヤ様を手に入れるおつもりですかメェ?」

「その価値があると判断すれば、な」

 レイラは別の水晶に目を落とし、探し物を再開した。

「まだ見つからないですかメェ?」

「うむ。魔王国にはいない。人化の魔法で人族の国に雲隠れしている可能性が高い」

「それは厄介ですメェ」

「だが必ず見つけ出して報いを受けさせる」

 レイラルーシスの目が彼女の怒りに呼応して真っ赤に染まる。

「他でもない、余の大切な右腕を切り落とした愚者を運んだのだからな」

 魔王城はネロ以外の者が転移魔法を発動できないように妨害結界を張っている。
 例え勇者であったともしても転移は不可能な場所だ。

 では、どうやって奇襲に成功したのか。

 異世界から来た勇者は、あろうことか遥か上空から落ちてきたのだ。

 思い出すだけではらわたが煮えくり返そうになる。
 奥歯を噛み締める音だけが静かな部屋に反響した。

「裏切り者のホワイトドラゴンを見つけ出して余の前に連れてくるのだ」

「はっ」

「絶対に許さんぞ。四肢も翼もいで、惨めたらしく地を這わせてやる」

 レイラルーシスは掴んだ水晶を砕き、心に誓った。

 魔人だと勝手に勘違いしているトーヤがそのホワイトドラゴンを探し始めたことも、実は予期せずホワイトドラゴンとすでに接点を持っていることも知らずに――
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