チートな環境適応型スキルを使って魔王国の辺境でスローライフを ~べっぴんな九尾族の嫁さんをもらった俺が人間やなんてバレへん、バレへん~

桜枕

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第40話

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 魔王様襲来から数日が経ち、俺たちはデロッサの森に住まいを移した。

 リフォームしたばかりのマイホームも黒羊ノワールムートン族の転移魔法で移動させて新生活を送る上で万全の状態が整った。

 ただ、問題がないわけではない。

「旦那様、また雑魚が入り込んでいましたわ」

「あれま。帰ってもらったか?」

「もちろんです。妾たちの愛の巣に土足で入る不届者にはお引き取り願いました」

 邪悪な笑顔は不安になる。
 木々が血まみれとかやめてくれよ。

「トーヤ。国境付近の街で不穏な動きがあります」

「人族も懲り奴らやな。勇者はただの人になったっていうのに」

「別に命を奪ったわけではないですからね。トーヤは甘いのですよ」

「右腕と勇者の証とも言える聖剣を失ったんやで。十分やろ」

「首一つにして送り返すべきでした。私があの場にいれば進言できたのに!」

 変な形で不甲斐なさを噛み締めるクスィーちゃんに苦笑することしかできなかった。

 クスィーちゃんは真面目な子だけど、魔王国基準のため発想がぶっ飛んでいる。
 それを不思議にも思っていないから余計に恐ろしかったりするのだ。

「次があったら、その時はな」

「次ですか……。トーヤはまだ事の重大さを理解していないようですね」

 俺だけじゃなくてギンコもウルルも分かってないと思うよ。
 大真面目なクスィーちゃんと違って、ギンコたちは呑気にじゃれあっている。

「ここは人族の国と魔王国の境にある森です。これまでは誰も立ち入ることができなかった土地を魔族のトーヤが獲ったとなれば、間違いなく争いが起きます」

「人族が攻めてくるって?」

「人族だけではありません。他の魔族も黙っていないでしょう」

「なんで?」

「トーヤは魔王軍の四天王でもなければ、幹部でもない、ただの野良です。そんな者が土地を賜ったとなれば、目の敵にされて当然です」

「それは困るで。そんなつもりはないんやけど」

「人族にとってのここは神聖な森です。それを穢されたとなれば怒り狂うでしょう。それに、易々と自国に魔物や魔族の侵入を許すことになります。見過ごすと思いますか?」

 分かりやすい説明を聞いた俺は膝の震えが止まらなかった。

「つまり、俺は全方向に喧嘩を売ったってこと?」

「そうなります。魔王様にも何か意図があるかもしれませんが、私もそこまでは……」

 饒舌に語っていたクスィーちゃんが申し訳なさそうに目を伏せた。

「教えてくれてありがとう。俺、アホやからそこまで考えてなかったんよ。クスィーちゃんが居てくれてよかった」

「ありがとうございます。あともう一つ」

「妾の問題やね」

 俺の隣にはギンコがいた。

「オババたちが人族にも魔族にも悪いことをしていたなら妾も同罪でしょうね」

「アホか。そんなこと気にすんな。守るって約束したやろ?」

「はいっ! 旦那様」

 涙をためるギンコの笑みは心に来るものがある。
 これが九尾族の持つ魔性のスキルかもしれないけれど、俺にとってのギンコは大切な仲間で嫁だ。

「ウルッッ!!」

 突然、騒ぎ出したウルルを宥めているとギンコも同様に警告してきた。

「森の西側に人族の群れが」

 今の俺は種族が混在しているから九尾族のような嗅覚がない。こういう時はギンコとウルルが頼りになる。

 木々に隠れて見ると隻腕のヤンキー勇者を先頭に人族が集結していた。

 数は数えられないほどだ。
 とにかく武装していて、戦争でも始めようという雰囲気だった。

「本気かよ」

「良かったですね、トーヤ! 勇者の首をはねて、送り届けてやりましょう!」

 なんでそんなに生き生きしてんの?

「一人当たりどれだけ殺せばいいんやろ。ウルルの訓練にもちょうどいいですわね」

 やる気満々やん。
 たった4人でどうにかなる数じゃないと思うんやけど。

「落ち着いてや。穏便に行こう。俺が九尾族になって、"ドミネーション99ナインティナイン"で帰ってもらうから」

「ちぇー」

 なんで不服そうやねん。
 どんだけ暴れたいんや。そういうお年頃か?

「でも、今は人族側だけやからいいけど、魔族も攻めてくるようなら厄介やな」

 しばし、考えてみる。
 ここは俺がスローライフを始めるに相応しい森だから死守したい。

「どっちか結界を張ったりできひんの?」

 首を横に振るギンコと眉をひそめるクスィーちゃん。

「できなくはないですけど、効果は薄いと思いますよ。力技で破られますし、森全部となれば広範囲すぎます」

 それに、と付け足す。

「結界魔法よりも、加護してもらうほうが早いでしょうね」

「誰から?」

「無論、ホワイトドラゴンです」

 フォオォォォォォォ!!

 遂にドラゴンの名が出てきた。
 やはりファンタジーといえばドラゴン。

 絶対に会いたい!

「よし! さっさと人間様を追い返して、そのドラゴンを探しに行こう! どこにいるん!?」

「ホワイトドラゴンもダークドラゴンも魔王城の裏山を産卵場所にしています。その辺りではないと」

 俄然やる気が出た俺は集結している人族の前に出ようとしたのだが、クスィーちゃんに服を引っ張られた。

「プライドの高いホワイトドラゴンがトーヤの言うことを聞くとは思えません。それに、竜の加護は一生に一度しか発動できないと聞きます。そんな貴重なものをトーヤのために使ってくれるかどうか……」

「その辺は交渉すればいい。まずは会えるかどうかやろ?」

「それはそうですけど」

「心配は無用よ、耳とがり。旦那様ですもの」

 謎理論なのにクスィーちゃんは納得し始めていた。

「じゃあ、とりあえずドミネってくる」

「行ってらっしゃいませ」

 差し出されたギンコの手に自分の手を重ねて、大切に唱える。

切替スイッチステータス――ギンコ」

 九尾族になった俺は今にもデロッサの森に入ってきそうな勢いの人族に向かって魔法を発動させた。
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