チートな環境適応型スキルを使って魔王国の辺境でスローライフを ~べっぴんな九尾族の嫁さんをもらった俺が人間やなんてバレへん、バレへん~

桜枕

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第36話

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 目覚めると、質素な石造りの天井が見えた。

 鏡張りの部屋じゃない。
 そう考えるのと同時に何かぽよん、ぽよんとしたものに包まれていることに気づいた。

「お目覚めですかメェ」

「ネロちん。ここは?」

「魔王様の居室の一つ。安息と英気のパールの部屋ですメェ」

「魔王の部屋はいくつもあるんか。このベッドはなんや?」

「お気に召しませんかメェ? 魔王様が特注で作らせた多機能型超絶回復ベッドです」

 大袈裟なことを言っているが、ウォーターベッドにマイナスイオン効果を付け足したようなものだった。
 浅いプールの中に沈んでいくような心地よさと、痛みを吸い取られるような安心感がある。

「親友はおらんか?」

「はい。魔王様とお話中ですメェ」

「俺を転移魔法で魔素の沼地に飛ばしてくれん? そこで勇者と話し合いをする予定やねん」

「勇者と一騎打ちですか!?」

「人の話を聞きなさい。話し合いやって言うてるやろ」

「どうして話なんてするのですかメェ。トーヤ様がどんなインチキをしたのか分かりませんが、転置魔法を使えるならその右腕の傷を返してやればいいのです」

「その通りや。話し合いの結果、分かり合えないなら迷わずに転置魔法を使う。これはプテラヴェッラには内緒にしといてや」

 ネロはもちろん、としっかり頷いてくれた。

「転移魔法もご自分で使えるならお好きなタイミングで向かえば良いのではありませんかメェ?」

「それな~。そこまで便利な体じゃないんよな」

 俺はベットから体を起こそうとして、右腕で自分の体重を支えられないことに気づいた。

「おわっ」

「そのお体で本当に行くのですか? もしも、戦闘になったら片腕で勝ち目はありますのかメェ?」

「その時は速攻で逃げるから」

 そうは言っても俺の転移魔法は不完全だ。
 俺の発言は強がりにすぎない。

 体を支えてくれたネロに微笑んでも彼女は不安そうに目を閉じた。

「大丈夫やって。転置魔法は俺が知る中でも最強の魔法や。片腕でも発動できるし」

 これもはったり。
 こっそりステータスオープンして気づいたが、プテラヴェッラが近くにいないと俺のステータスに白羊ブランムートン族が反映されなかった。

 即刻インスタント切替スイッチも無効ということになる。
 つまり、プテラヴェッラを連れて行かなければ俺は転置魔法を使えない。

 ……これ以上、あの子を危険な目に遭わせられるか

 左手に力を込めたはずなのに、失った右手まで拳を握ったような感覚が脳に伝わってきて気持ちが悪かった。

「わたしも行きます」

 突然開いた扉と室内に響いた少女の声。

 驚いて2人して扉の方を向く。
 案の定、そこにはプテラヴェッラがメイド服のスカートを握り締めて立っていた。

「話を聞いていたのかメェ!?」

「魔王城で隠し事はできません。ネロはもちろん知っているよね」

 外で出会った時よりも強い意思を感じる。
 確固たる覚悟を持って、この部屋に入ってきたのだと見てとれた。

「こうなるきっかけを作った人族を許すことはできません。その話し合いを見届けて、場合によってはわたしの転置魔法で報いを受けさせます」

「もしも、傷を負ったらどうするつもりや? 致命傷になったら? きみは絶滅危惧種なんやろ」

「その時は死にます」

 ギョッとしたネロが取り乱す。
 俺はプテラヴェッラの言葉に耳を傾けることしかできなかった。

「ま、魔王様の許可は得ました。わたし、その人も自分自身も許せないんです。魔王様が襲われた時は気づきもしなかったし、右腕の傷を引き受けることもできなかった。一人で逃げ出して、あなた様に傷を受けさせてしまった。だから、わたしの手で……大嫌いな転置魔法で終わらせたい、のです」

 段々と小さくなるプテラヴェッラの声。

 俺は右肩を掴み、痛みに耐えながら笑った。

「ほな、一緒に行こか。俺もきみが居てくれた方が心強いし。いざとなったら俺が守るから」

「あっ」

 小さな吐息を漏らしたプテラヴェッラと俺は再び魔法陣の光に包まれた。


◇◆◇◆◇◆


 ネロの転移魔法で向かったのは俺がヤンキー勇者によって追放された場所。
 魔素の沼地という誰も寄りつかない地帯である。

「どうして、こんな場所なのですかメェ。とても話し合いができるとは思えませんメェ」

「ありがとうな、ネロちん。頃合いを見て戻って来てや。それまでに片を付けておくから」

 心配そうな視線を向けてからネロは転移魔法で魔王城へと戻った。

「平気か?」

「す、座りたいのです。こんなに魔素の濃い地域があるなんて知りませんでした」

 きみは箱入りやからね。

 しゃがみ込み、深呼吸しているプテラヴェッラだったが、呼吸するということは口から空気を汚染している魔素を取り入れることになり、何度もむせることになった。

 え、俺?
 俺はほら、スキル『超適応』があるから。

「勇者様のお出ましやで」

 ヤンキー勇者の使う『超転移』とネロと俺が使う転移魔法の魔方陣は模様が異なる。

 俺たちの転移魔法の方が魔方陣は複雑で、外周に書かれた謎の文字も細かくて読めない。何よりも禍々しい。

 ヤンキー勇者はいかにも主人公が放つ光の中から現れた――が、すぐに膝をついて、えずき始めた。

「……魔素酔いなのです。人族をこんな害悪な場所に招くなんて、鬼のようなお方なのです」

 へぇ、そうか。
 俺はそんな場所に追放されたんか。

「どっちが鬼やろうな」

 俺は平然と歩き出し、うずくまるヤンキー勇者を見下ろした。
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