チートな環境適応型スキルを使って魔王国の辺境でスローライフを ~べっぴんな九尾族の嫁さんをもらった俺が人間やなんてバレへん、バレへん~

桜枕

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第35話

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「プテラヴェッラを対象にとり、その全ての傷を引き受ける。転置スキュタレ・ア

 彼女の細い手と俺の手の中で魔力が交わり、傷が移動を開始する。
 俺の体中には引っかき傷がつけられ、反対にプテラヴェッラには傷一つなくなった。

「こんな強烈な痛みに耐えてたんか」

 激痛が腹部を襲う。
 きっと臓器を損傷しているのだ。

 血は外に排出されていないだけで体内には留まっている。
 かなり危険な状態だと脳が警告を鳴らしているようだった。

白羊ブランムートン族の魔法――!?」

「やっぱりおかしいですメェ。転移魔法も転置魔法も一族だけの血統魔法なのに……」

「そんなことはどうでもいいから回復薬をちょうだい。このままやと多分死ぬ」

 いくら痛みに慣れていると言っても限度がある。
 慌てた様子のネロが高級な回復薬の瓶を開けて、俺の口に注ぎ込んだ。

即刻インスタントステータス――人族」

 回復薬が人族用なら、人族として述べばいいだけの話。
 そんな風に簡単に考えていた数分前の自分をぶん殴りたい。

 ゲロ不味い薬はすぐに吸収されて、傷を回復させていく。
 だが、内臓を焼かれるような痛みはなかなか引かなかった。

「……ギンコにも来てもらうべきやったか」

「ウル~~~」

「大丈夫や。まだ手はある。即刻インスタントステータス――ギンコ」

 短時間でもいいから九尾族になって回復能力を高めて自己再生を促す。

 ギンコと出会っていなければ、プテラヴェッラを救えたとしても俺はここで死んでいただろう。
 帰ったら感謝を伝えないと。

 何もできないことを悔いるように、俺に寄り添ってくれるウルルの頭を撫でる。
 また少し大きくなったか。

 ネロはずっと思案顔で、プテラヴェッラは泣き出してしまい何度も謝ってきた。

「わ、わた、わたしのせいで」

 全身を震わせ、顔をくしゃくしゃにして崩れ落ちる。

「わたしがお城を出たから。わたしが襲われたから。わたしが使えないから」

「違うよ。これは俺が勝手にやったことや。どうしても欲しいものがあってネロちんと約束した」

 今にも壊れてしまいそうなプテラヴェッラを擁護するように慎重に言葉を選ぶ。

「こうしなかったら、きみは死んでた。きみを探して助けるのが約束やからな。それにネロちんが悲しむやん?」

「トーヤ様、申し訳ありません! こんなことになるなら、あんな約束をしなければよかったですメェ」

「いや、白羊ブランムートン族の特異体質を考えると俺を選んでくれて正解や。二人ともそんな顔せんでこれからのことを考えようや」

 確実に痛みは和らいでいる。
 まだ動けそうにはないけど、考えを巡らせられる余裕は出てきた。

「ネロちん、魔王城に連れて行ってや」

「何故です!? 手当てが優先ですメェ!」

「傷は治すけど時間がないねん。魔王様に会って話したい。頼むわ」

 俺は残っている回復薬をがぶ飲みして、ネロの転移魔法の光に包まれた。


◇◆◇◆◇◆


 目の前には何の変哲もない扉がある。
 以前、魔王と初めて会った、あの全面鏡張りの部屋だ。

 ネロがノックして、中からの声に促されて入ると、以前と同じようにすだれの向こう側から変声機のような濁声だみごえが俺たちに語りかけた。

「何用だ?」

「右腕を持ち帰ってきました」

 ガタンっという音と共にすだれが大きく揺れる。

 ネロが魔王の右腕を両手で掲げると、室内の全ての鏡に右腕が写った。

「おぉ! まさしく余の腕! まさか本当に取り返してくれるとは!!」

 込み上げる嬉しさが伝わってくる。
 喜んでいただけたなら、危険を冒した甲斐があるというものだ。

 ……はたして、この腕は本当にくっつくのか?

 俺は素直に質問してみることにした。

「いや、方法がないわけではないが、基本的には不可能だ」

 さっきまでの歓声に近い声が萎れている。

「それでも人族に好き勝手されるのは嫌だ。こんなお願いをしてすまなかった」

 やっぱりしかないんだ。

「一つ、提案があります」

 声が硬くなったのを気取られたのか、それとも直感か、ネロとプテラヴェッラは同時に俺の手を掴んだ。

「ダメですメェ!」
「だめ!!」

 両手に花とはこういうことを言うのか。夢心地を味わえて良かった。

「大丈夫や。切替スイッチステータス――プテラヴェッラ」

 それだけを小さく言って、優しくネロの手を振り解く。
 少しだけ長めにプテラヴェッラの手を握ってから離れてもらった。

「近くに行っても?」

「あ、あぁ。だが、何をするつもりだ? 乱暴はやめろよ」

 情けないことを言う奴だ。
 仮にも魔王だろうが。
 それとも、片腕を無くすと自信も喪失するのか。

 まだ痛む腹部を無意識のうちに押さえながら歩き出す。

「顔は見せんでいいから、腕を出してください」

「で、でも――」

「いいから」

 語気を強めるとすだれの端っこから短い二の腕が顔を出した。

 失礼して手を触れみる。

 麻縄で強く縛られた二の腕の先端は肉も骨を断ち切られていた。

 正に一刀両断。

 これが聖剣の切れ味か。

「魔王を対象にとり、この惨い傷を引き受ける。……転置スキュタレ・ア!」

 2度目の魔法を発動させるのには相当の覚悟が必要だった。
 覚悟していたつもりだけど、想像を絶する痛みが貫く。

 そして、同時にゴトンと鈍い音を立てて何かが落ちた。

 腕を、全身を、脳を――五感の全てで痛みを知覚しているような感覚に襲われ、俺は膝をついた。

「ぐおぉぉぉおぉぉぉぉ。いってぇえぇぇえ」

 見ない方がいいのは分かっているのに見てしまった。

 予想通り、二の腕から先が床に転がっている。
 それなのに、そこにまだあるかのように右腕がずくん、ずくん痛んだ。

 まるで千本の針を突き刺しては勢いよく抜かれるような――

 血は出ていないのに焼けるように熱い。

 思わず右肩を握り締め、唇を噛み締めた。

「そんな!? 転置魔法だと!?」

 余裕のない魔王の声が遠くの方から聞こえる。

 俺は霞む視界の隅っこで魔王の右腕が繋がっている姿を見た。
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