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第34話
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黒羊族のネロはモンスター感が強くて、色っぽい羊顔のヒトが喋っているという雰囲気だ。
対して白羊族のプテラヴェッラは人感が強い。おどおどした美少女が羊のコスプレをしているイメージだ。
「どうしてネロちゃんがここにいるの? わたし、役立たずの要らない子なのに」
「何を言っているメェ! 魔王様にとってプティの存在がどれほど大きいか知りもしないで!」
ネロに叱られ、ビクッと体を震わせるプテラヴェッラはとてもではないが魔物とは思えない。
「……これは保護対象にもなるわ」
「ウル?」
「いや、なんでもない」
父性とか母性をくすぐってくるタイプなのだろう。
俺はまだ人間として未熟で父性には目覚めていないが、それでも守ってあげたいと思えた。
「これ、回復薬。人族用やから効くか分からんけど渡しておくわ。そのまま隠れといて」
「トーヤ様?」
「ネロちんの親友を追ってるのは俺らだけじゃないみたいや」
俺たちを囲んでいる多数の獣臭。
足音を立てないように近づいて羊を食べようとしている狼がいる。
「いくで、ウルル。狩りの訓練や」
「ウルッ!」
飛びかかってきたのはブラックウルフだった。
今の俺のステータスは九尾族。
気配を感じることは大得意で、魔法を使わなくても攻撃と防御は9本の尻尾でまかなえるチートまがいの種族になっている。
俺はブラックウルフを倒すことに躊躇いはないけど、ウルルにとっては同胞だ。
戸惑っていないかと横目で見る。
「……ははっ。誰に似たんや」
ウルルは向かってくるブラックウルフの喉元に噛みつき、目を爪で引っ掻き、逃げ出す個体の後ろ足を噛み千切るという野獣のような戦い方をしていた。
同胞だろうが関係ない。
目の前の敵は全て殺す、そんな勢いだった。
「ウル~~ッ!」
ブラックウルフの死骸が転がる渓谷にウルルの遠吠えが反響する。
まるで勝ち鬨だ。
「お疲れ様、平気か?」
「ウル!」
「レベル上がったやろ?」
「ウル?」
「おいで。血を洗い流そう」
流れる川でウルルの毛皮についたブラックウルフの血を落とす。
大人しく洗わせてくれたウルルは体を振って、水滴を振り払った。
「ん~、ん~? やっぱり、こいつらとウルルは似ても似つかんよな」
生き絶えたブラックウルフとウルルを見比べても、似ているのは骨格だけで毛並みや毛色は全然違う。
ウルルはエメラルド色のサラサラヘアだが、ブラックウルフは黒色のゴワゴワヘアだ。
育った環境が違ったとしても、ここまで特徴が異なると別種族としか思えない。
俺は他者のステータスを確認する手段を持っていないから、落ち着いた頃に自分のステータスを変化させて確認してみよう。
「終わったで。そっちはどうや? 傷は治ったか?」
「いえ、やはり人族用だと体に合わないみたいですメェ」
「自己再生とかはできんの? ギンコは1日寝たら全快してるけど」
「そんな化け物と一緒にしないで欲しいですメェ。それに、プティは転置魔法の継承と同時に回復機能を失っています。些細な傷も他者に移すしかありません」
それは衝撃的な話で俺は思わず聞いてしまった。
「ささくれとかできたらどうするん!?」
岩に腰掛けさせられ、ネロに肩を抱かれるプテラヴェッラはおどおどしながら答えてくれた。
「か、体に傷を作らないように注意深く生きてきました」
「でも、転けて擦りむいたり、角に小指をぶつけたりするやろ?」
「た、単純な痛みだけなら我慢します」
俺が納得のいく答えを持っていないのか。それとも答えたくないのか。
ネロの方を見ると「仕方ない」と言いたげにため息をついた。
「基本的に部屋から出ない生活を送っていますメェ。本来なら風呂掃除もさせたくないのですが、本人を尊重してのご決断ですメェ」
「それは、また随分と過保護やな」
「魔王様とはそういうお方なのです」
「それで、傷が治らん場合はどうするんや?」
ちらっとプテラヴェッラを見て、同意を得てからネロが答えた。
「どうしてもの場合は奴隷として監禁している人族に転置します」
俺は思わず握りそうになった拳を必死に抑えつけた。
ここで俺の気分を害したと思われたくない。
俺は魔族、九尾族、ダークエルフ族。
人族じゃない。
そうやって気持ちを落ち着かせてから小さく息を吐いた。
「奴隷がおるんか」
「本当に最終手段ですメェ。プティは転置魔法を使いたがらないので、普段から十分に気をつけて生きているのですメェ」
俺はとんでもない箱入り娘の捜索に首を突っ込んでしまった。
この子が傷を負えば、捕まっている人族が代わりに傷を引き受ける。
でも、ささくれ程度なら普通の人はすぐに治るから、そこまでのダメージではない……かも。
それにこの子――
どう見ても無害なんよ。
涙目でこっちを上目遣いで見てくるし、常にビクビクしてるし。
ほんまに魔王国の住人かよって感じ。
「人族の奴隷については今後詳しく教えてや。今はその子の手当てを優先するで」
「でも、回復薬は効果がないですメェ」
何のためにこんな長い時間、雑談してたと思ってるねん。
「ほら、手出して」
不信感のある瞳が向けられ、プテラヴェッラは手を伸ばさなかった。
俺は彼女の目を見つめ返してじっと待つ。
やがて、ネロに促されて遠慮がちに伸びた手が俺の手に重ねられた。
「プテラヴェッラを対象にとり、その全ての傷を引き受ける。転置」
次の瞬間、俺の全身を鋭痛と鈍痛が貫いた。
対して白羊族のプテラヴェッラは人感が強い。おどおどした美少女が羊のコスプレをしているイメージだ。
「どうしてネロちゃんがここにいるの? わたし、役立たずの要らない子なのに」
「何を言っているメェ! 魔王様にとってプティの存在がどれほど大きいか知りもしないで!」
ネロに叱られ、ビクッと体を震わせるプテラヴェッラはとてもではないが魔物とは思えない。
「……これは保護対象にもなるわ」
「ウル?」
「いや、なんでもない」
父性とか母性をくすぐってくるタイプなのだろう。
俺はまだ人間として未熟で父性には目覚めていないが、それでも守ってあげたいと思えた。
「これ、回復薬。人族用やから効くか分からんけど渡しておくわ。そのまま隠れといて」
「トーヤ様?」
「ネロちんの親友を追ってるのは俺らだけじゃないみたいや」
俺たちを囲んでいる多数の獣臭。
足音を立てないように近づいて羊を食べようとしている狼がいる。
「いくで、ウルル。狩りの訓練や」
「ウルッ!」
飛びかかってきたのはブラックウルフだった。
今の俺のステータスは九尾族。
気配を感じることは大得意で、魔法を使わなくても攻撃と防御は9本の尻尾でまかなえるチートまがいの種族になっている。
俺はブラックウルフを倒すことに躊躇いはないけど、ウルルにとっては同胞だ。
戸惑っていないかと横目で見る。
「……ははっ。誰に似たんや」
ウルルは向かってくるブラックウルフの喉元に噛みつき、目を爪で引っ掻き、逃げ出す個体の後ろ足を噛み千切るという野獣のような戦い方をしていた。
同胞だろうが関係ない。
目の前の敵は全て殺す、そんな勢いだった。
「ウル~~ッ!」
ブラックウルフの死骸が転がる渓谷にウルルの遠吠えが反響する。
まるで勝ち鬨だ。
「お疲れ様、平気か?」
「ウル!」
「レベル上がったやろ?」
「ウル?」
「おいで。血を洗い流そう」
流れる川でウルルの毛皮についたブラックウルフの血を落とす。
大人しく洗わせてくれたウルルは体を振って、水滴を振り払った。
「ん~、ん~? やっぱり、こいつらとウルルは似ても似つかんよな」
生き絶えたブラックウルフとウルルを見比べても、似ているのは骨格だけで毛並みや毛色は全然違う。
ウルルはエメラルド色のサラサラヘアだが、ブラックウルフは黒色のゴワゴワヘアだ。
育った環境が違ったとしても、ここまで特徴が異なると別種族としか思えない。
俺は他者のステータスを確認する手段を持っていないから、落ち着いた頃に自分のステータスを変化させて確認してみよう。
「終わったで。そっちはどうや? 傷は治ったか?」
「いえ、やはり人族用だと体に合わないみたいですメェ」
「自己再生とかはできんの? ギンコは1日寝たら全快してるけど」
「そんな化け物と一緒にしないで欲しいですメェ。それに、プティは転置魔法の継承と同時に回復機能を失っています。些細な傷も他者に移すしかありません」
それは衝撃的な話で俺は思わず聞いてしまった。
「ささくれとかできたらどうするん!?」
岩に腰掛けさせられ、ネロに肩を抱かれるプテラヴェッラはおどおどしながら答えてくれた。
「か、体に傷を作らないように注意深く生きてきました」
「でも、転けて擦りむいたり、角に小指をぶつけたりするやろ?」
「た、単純な痛みだけなら我慢します」
俺が納得のいく答えを持っていないのか。それとも答えたくないのか。
ネロの方を見ると「仕方ない」と言いたげにため息をついた。
「基本的に部屋から出ない生活を送っていますメェ。本来なら風呂掃除もさせたくないのですが、本人を尊重してのご決断ですメェ」
「それは、また随分と過保護やな」
「魔王様とはそういうお方なのです」
「それで、傷が治らん場合はどうするんや?」
ちらっとプテラヴェッラを見て、同意を得てからネロが答えた。
「どうしてもの場合は奴隷として監禁している人族に転置します」
俺は思わず握りそうになった拳を必死に抑えつけた。
ここで俺の気分を害したと思われたくない。
俺は魔族、九尾族、ダークエルフ族。
人族じゃない。
そうやって気持ちを落ち着かせてから小さく息を吐いた。
「奴隷がおるんか」
「本当に最終手段ですメェ。プティは転置魔法を使いたがらないので、普段から十分に気をつけて生きているのですメェ」
俺はとんでもない箱入り娘の捜索に首を突っ込んでしまった。
この子が傷を負えば、捕まっている人族が代わりに傷を引き受ける。
でも、ささくれ程度なら普通の人はすぐに治るから、そこまでのダメージではない……かも。
それにこの子――
どう見ても無害なんよ。
涙目でこっちを上目遣いで見てくるし、常にビクビクしてるし。
ほんまに魔王国の住人かよって感じ。
「人族の奴隷については今後詳しく教えてや。今はその子の手当てを優先するで」
「でも、回復薬は効果がないですメェ」
何のためにこんな長い時間、雑談してたと思ってるねん。
「ほら、手出して」
不信感のある瞳が向けられ、プテラヴェッラは手を伸ばさなかった。
俺は彼女の目を見つめ返してじっと待つ。
やがて、ネロに促されて遠慮がちに伸びた手が俺の手に重ねられた。
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