チートな環境適応型スキルを使って魔王国の辺境でスローライフを ~べっぴんな九尾族の嫁さんをもらった俺が人間やなんてバレへん、バレへん~

桜枕

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第18話

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「尻尾の中に隠してあるブラックウルフの赤ちゃんについて話を聞かせてくれるか?」

 なんで分かったかって?
 今の俺はステータス上は九尾族に戻ってて、嗅覚が異常に発達してるからや。

 昨日、ギンコの尻尾に包まって一緒に寝たから『超適応』のスキルでステータスが変化した。ダークエルフ族の状態なら気づかなかった。

 改めて便利さと厄介さが表裏一体になったスキルを与えられたと思う。
 
 さて、ギンコが器用にまとめていた9本の尻尾を解くと中からブラックウルフの赤ちゃんが出てきた。

 大きさはまだ産毛が生え揃わないパンダの赤ちゃんくらいだ。

 先日のブラックウルフの巣に取り残されたこの子をセフィロさんが拾ってきた後、どうなったのか詳細を聞かされていなかったが、まさかギンコが隠していたとは驚きだ。

「この子、独りぼっちなんよ? これから先、どうやって生きていくのか、餌の獲り方も、巣の作り方も、誰かが教えてあげないと」

「それはギンコの役目なんか?」

「役目? 子供を守るのに理由がいりまして?」

「連れて行くのか構わんけど、ブラックウルフの集団を見かけたら返したれよ」

「そんな、殺生な! どこの誰の子かも分からんのにブラックウルフが仲間に入れると思えません」

「それが答えや。俺も同じ理由で却下する」

 ブラックウルフの赤ちゃんを抱き締めるギンコが後ずさる。

「生き物を育てるのには責任が伴う。こいつが成長して誰かを襲った時、お前は躊躇ちゅうちょなく殺せるんか?」

 ギンコは赤ちゃんを見下ろし、唇をきつく結んだ。

「俺には無理や。中途半端な覚悟ならやめとけ。今からでもセフィロさんに返して処理を任せるんや」

「……嫌です」

 背筋がゾワゾワするほどの威圧感。

 なんやこれ。
 ペットを飼うか飼わんかで喧嘩って、同棲したてのカップルかい。

 あ、俺ら新婚さんやったわ。

「この子は突然、独りぼっちになったんです。妾が喰い殺したから育ててくれる家族を失った」

 何が役目や。それが一番の理由やんけ。

「これが妾の責任の取り方です」

 ギンコの潤んだ金色の瞳が俺を睨みつける。
 まだ付き合いは短いが、これ以上俺が何を言っても意見を曲げないと察するには十分な眼力だった。

「好きにせえ」

 ギンコは突き放されたと思ったのか、キツネ耳を垂らして眉をひそめた。

「名前は?」

「……え?」

「飯の時間になんて呼べばいいんや?」

 パァァと笑顔が輝き、ギンコが即答する。

「モフコ!」

「なんでやねん! どう見てもツルツルやろ」

「じゃあ、ツルコ!」

「小さい頃はツルツルだったから、あなたの名前はツルコなのよ、って説明されたら絶対にしょぼんってなるやん!」

「では、ウルコでどうでしょう」

「誰が売るか!」
「なんで売りますの!」

「………………へぁ」

 静観を決め込んでいたクスィーちゃんの発言を却下する声がハモってしまった。
 言うまでも無くクスィーちゃんは項垂れている。

「名前は親からの最初のプレゼントやぞ。適当に決めんな」

「そんなこと言うても、どんな風に成長するか想像もつきませんし」

 視界の端からそーっと手が伸びる。

「尚更、ウルコで良いのでは? ブラックウルフになるのは変わりないので」

 ごもっともな意見に俺もギンコも反論できなかった。
 でも、なにか反応しないと関西人として負けた気がする。

「……うんこみたいやん」

「まぁ、お下品」

 すかさず合いの手を入れてくれたギンコに思わずハイタッチを求めてしまう。

「あぁ、そうですか――」

 二人の手のひらが気持ちいい音が鳴らした時、クスィーちゃんが足を止めた。

「なら、ウルルでいいじゃないですか! 何をさっきから人前でイチャイチャしてるんですか! 私も入れてくださいよ! どうせ、お二人が途中で育児放棄するのは目に見えているんですからね!」

 そして、キレた。

「散歩もろくにしないで、適当な遊び道具を渡すだけのダメな主人になるんです。何が責任ですか。どの口が言ってるのやら!」

 きっついお言葉に俺もギンコも黙って、機械のように返事するしかできない。

 クスィーちゃんはやっぱり出来る妹キャラなんや。
 そして、出来る妹キャラはしばしば、おかん化する。

「ごめん、クスィーちゃん。きみの言う通りや。名前はウルルにしよう。うん、似合ってると思う。良い名前やわ」

「そうやね。きっと立派なブラックウルフに育つでしょう。耳とがりにしては良い命名です」

 ふんすっと得意顔のクスィーちゃんは鞄から取り出した地図を広げて、現在地を示した。

「適当に歩いていましたが、このまま南に行くと人族の領土に入ります。反対に北に行くと魔王様の王宮があります」

 クスィーちゃんはずっとこの話をしたかったらしい。
 それなのに、俺たちがブラックウルフの赤ちゃんの話を始めた上に、いつまで経っても話が終わらないからフラストレーションが溜まっていたようだ。

「東と西は?」

「東にはトーヤが居た魔素の沼地があります。西にはデロッサの森という神聖な領域があります」

「人族も魔族も寄りつかんのはどっち?」

「デロッサの森ですね。ただ、生活できないと思いますが」

 なんでですの? とギンコ。

「浄化され過ぎているからです。人族にとっても、私たち闇の眷属けんぞくにとっても有害な土地ですので、住むなら闇魔法でけがす必要があります」

 魔王国の領土なのに闇魔法でけがすとは、これ如何いかに。

「元々は人族の領土だったのですが、魔王軍に侵攻されないように神聖魔法で浄化されたのです。魔族が立ち入れば一瞬で存在が消し飛びます」

「へぇ、なんで誰もけがさんの?」

「聖魔法と闇魔法を両立できる者がいないからですね」

 むしろ、そんな器用なことができる奴が存在する方が恐ろしいけど。

「勇者が扱う聖魔法がないと近づけず、魔族が扱う闇魔法がないとけがせません。現時点では人族にも魔族にも手に負えない領土となっています」

 異世界にはとんでもない場所もあったもんや。
 それで、俺たちはどこの田舎に向かえばいいのかが問題だった。

「なので、南西に向かいます。人族の国との国境ですが、デロッサの森に近いので人が寄りつきません。闇の眷属けんぞくも同様です。平穏な暮らしが送れるかと」

 トレードマークの眼鏡をくいっとやって話を締めたクスィーちゃん。
 彼女がついて来てくれなかったら、俺たちは間違いなく路頭に迷っていた。

「ありがとう、クスィーちゃん。やっぱり君が必要みたいや」

「え、あっ。そんな……」

 ついうっかり、やってもうた。
 ギンコ姉さんの目が据わっとる。
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