チートな環境適応型スキルを使って魔王国の辺境でスローライフを ~べっぴんな九尾族の嫁さんをもらった俺が人間やなんてバレへん、バレへん~

桜枕

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第14話

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 ギンコは俺とクスィーちゃんを乗せても、失速することなく長距離移動が可能なキツネの魔物だ。
 その速度はブラックウルフを凌駕りょうがする。

 俺たちの前には二匹のブラックウルフがトップスピードで走っている。
 このまま行くとダークエルフ族と獣人族が住む集落に着いてしまうから、その前に討伐する必要があった。

「ギンコ、片方は任せる。経験値をしこたま貰ってこい」

「キュウ! キュゥ、キュゥゥ」

「…………分かった。分かったで。俺らはここで降りるから後で合流しよう」

 うん、何言ってるか、さっぱり分からん。

 どんどん加速していたギンコが急ブレーキをかけて、俺とクスィーちゃんを降ろしてくれた。

 ギンコの獰猛どうもうな瞳が俺の尻と耳を見比べる。
 そして、2秒程の短い時間だったけれど、ギンコがクスィーちゃんを睨んだような気がした。

「頼むぞ、ギンコ。お前だけが頼りや。いっぱい喰って、レベルを上げるんやで」

――そして、俺を守ってくれ。

 弓矢の魔法しか使えなくなった俺は圧倒的に接近戦が不利。

 九尾族に戻ったとしても、ドミネーション99ナインティナインとかいう意味不明な魔法しか使えんからな。

 接近戦は奥さんに任せるで。

「トーヤ、本当にここで降りてよかったのですか?」

 どんどん小さくなるギンコの姿を見送ったクスィーちゃんが不安げに問いかけてくる。

「ギンコの上から正確に射貫く自信ないし。でも、ここなら絶対に外さへん」

 さっきの"ラグナ・ヴェロス"でブラックウルフを倒したことによって得た経験が俺に自信をつけさせた。

 足を開き、肩の力を抜いて左手を構える。
 俺の手にはダークエルフ族の弓はない。弓がないのにどうやって矢をるのかって?

 全部、魔力で補うんや。

 実物の弓も矢も必要ない。
 あんな重いもんを常に持ち歩けるかいな。

 せっかく前世ではなかった魔力があるのに、それを体の中で飼い殺しにするのは勿体ない。

 関西人はケチや。有限のものは出すのを渋る。例えば、お金とか。
 でも、折角あるものを使わないと意味がないという考えも根強い。

 だから、俺は湧き出る魔力を全部使い切るつもりで魔法を放つ。

 左手には魔力で出来た弓を、右手には同じく魔力を練り上げた矢を。

 魔力の弦を限界まで引き伸ばして、狙いを定める。

「クスィーちゃん、一匹が右に曲がったけど、あの先には何があるんや?」

「結構、離れていますが、国境があります」

「向こう側は人間の国ってこと?」

「そうなります」

「じゃあ、あのオオカミは人間を襲うんやな?」

「はい。特に子供の肉は柔らかいのでブラックウルフが好みます。ダークエルフ族と獣人族の子供が襲われたのは味を覚えているからだと思います」

 俺にはブラックウルフを狩る理由がない。
 別に俺の土地を荒らされたわけではないし、傷つけられたわけでもない。

 そのことをずっと気にしていた。

 でも、あいつらが人間を襲うタイプの魔物なら、それは立派な理由になる。

 向こうにはヤンキー勇者がいるから全部任せておけばいいのかもしれない。

 だが、ここでブラックウルフを見逃して人族に被害が出たとしたら、俺は自分を許せなくなる。

「……すぅ…………集中」

 どんどん矢に魔力が凝縮していき、やがて耳をつんざく音を奏で始めた。

「ええか、犬っころ。関西弁糸目キャラが片目を開けたら、処刑用BGMが鳴り出す合図や」

 ギチギチに伸び切った弦につがえた矢を放つ。

 ボンッ! と、とても弓から聞こえたとは思えない音が鳴り、地面を削りながら矢が飛んでいく。

「クスィーちゃん、いずれは君がこれを習得するんやで」

 低空飛行していた矢は夜空に浮かぶ星々を目指して上昇し、一直線に落ちていく。

 そして、最後は標的であるブラックウルフの脳天に突き刺さった。

「"スターダスト・ダークネス・アロー"」

 俺の隣で全身を小刻みに震わせるクスィーちゃんに申し訳ない思いで微笑む。

 格好つけて偉そうなことを言ったくせに失敗しているから恥ずかしい。それを伝えなくてはいけなかった。

「ごめんな。失敗してもうた。やっぱり、ダークエルフ族の技は俺には合わんのかも」

「え……? だって、ブラックウルフには直撃したのに――」

「この技、オールレンジ攻撃みたいやねん。だから、一匹相手なら外すはずがないんよ」

「………………へぁ?」

「だから、もし次があったら完成系を披露させてや」

 クスィーちゃんはオバケでも見たような顔で膝を震わせて、その場にへたり込んだ。

「ちょっ、大丈夫!? どっか痛い? 具合が悪いなら家で待ってたらよかったのに!」

「い、いえ。あまりにも規格外すぎて」

 女の子座りのクスィーちゃんはぎこちなく笑って俺に問いかけた。

「私にも出来るでしょうか?」

「できるよ。だって、俺みたいな胡散臭い奴にできたんやもん。君、真面目やん? 明日から呆れるほど努力するんやろうな」

「うぐっ」

 図星だったのか、クスィーちゃんが気まずそうに顔を逸らした。

「ほら、ギンコを迎えに行って帰ろう」

 差し出した手を掴んでくれた。
 初対面のときは、おっかない子やと思ったけど、今ではしおらしくなってしまって。

 俺、一人っ子やから分からんけど、妹がいるってこんな感じなんかな。

 立ち上がったクスィーちゃんと歩き出して気づく。

 ギンコが走って行った方角からとんでもない魔力を持った化け物が近づいてくる。

「……なんや」

 夜と朝が交わる空の境界線から歩いてくる人影。
 ゆらゆらと何かが揺れている。

「尻尾、でしょうか?」

「まさか――」

 蜃気楼のように消えた人影を目で追うよりも早く、冷ややかなものが俺の頬に触れた。

「妾を一人にするなんて、いけずな旦那様やわ」

 細くて長い指が俺の頬を撫でる。

「ギンコ、お前なんか?」

 俺の隣には金髪、金色の瞳、黄金色のキツネ耳と9本の尻尾を持つ色白の美女が立っていた。

「これは、また……とんでもない姿やな」

「惚れ直しはった?」

「……ははっ」

 朝日に照らされて輝く姿は、あの女神様と比べ物にならないくらいに美しかった。
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