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第8話
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白髪、褐色、そして眼鏡。
ただでさえ、美少女のクスィーちゃんに付加された属性が俺を歪めようとしてくる。
最初は警戒していたクスィーちゃんだが、俺が人族や半魔族の類いではないと分かり、打ち解けることができた。
彼女の案内で集落の奥へと進むと、すでに宴会の準備が整っていた。
「起きたばっかりやのに準備万端やん」
「料理も装飾も獣人族の仕事です。もちろん片付けも」
明日の朝にはなりますが、とクスィーちゃん。
「でも、一緒の席で食事を楽しむわけじゃないんや」
「我らは住処の一区画と安全を提供し、彼らは労働力を提供してくれます。必要以上に馴れ合うつもりはありません。この時間に起きているのは給仕係の獣人だけです」
クスィーちゃんの言う通り、ダークエルフ族の戦士は櫓の上に立ち、警戒を怠らない。
「昼間は寝ているダークエルフ族の子供がブラックウルフに襲われたんか?」
「ダメと言っても昼間に獣人族の子供と一緒に集落の外に遊びに出てしまうのです」
そういった理由なら仕方ない。
子供にとっては遊び相手がダークエルフ族だろうが、獣人族だろうが関係無いのだ。
「子供って。クスィーちゃんも子供みたいなもんやろ?」
「くっ。否定はできません。昨日、308歳になったばかりなので」
「……おめでとう」
ダークエルフ族にとっての308歳が人間の何歳に相当するのか気になったが怖くて聞けなかった。
「何度もしつこいですが、トーヤは本当に魔素の沼地から来たのですか?」
異世界転生したんですよ、と言っても理解されないだろうし、またあの冷ややかな目で見られても困る。
いや、考えようによってはご褒美にも……。
邪な考えを振り払い、素直に質問に答える。
「自分のことは名前しか思い出せへんねん。あのオオカミが襲いかかってきたから、やり返しただけで。なぁ、キツネ」
巨大なキツネの魔物へと進化してしまった魔物が頷いた。
やがて宴会が始まり、ダークエルフ族はお猪口に注いだ酒をお上品に飲み始めた。
もっと大学生みたいに笑い合いながら酒を酌み交わすのかと思っていたが、なんだか老人会みたいなノリだ。
もっとも俺はどっちもイケるから関係ない。
だってスキルが常時発動しているから。
キツネの魔物は生肉にかじりついている。
俺の皿に盛られた謎肉を――お腹壊さないかな、と失礼なことを考えながら眺めていると、クスィーちゃんが小さいお口をもぐもぐしながら説明してくれた。
「デビボアの包み焼き肉です。美味しいですよ」
火が通っているなら大丈夫だろう。ダークエルフ族が火を扱う種族で良かった。
香ばしい匂いなのは違いないが、嗅覚がキツネレベルまで上昇しているからか、その奥に潜む獣臭さが俺を躊躇させていた。
が、クスィーちゃんに勧められたなら断れない。
「いただきます」
フォークを突き刺して、ぱくりと一口。
口の中に広がる獣臭さを数種類のハーブがかき消してくれる。
熱々の肉汁があふれ出し、濃厚なタレの味が口内を満たした。
「うっま! あと100個は食えるわ」
「沢山あるので心ゆくまで召し上がってください」
「冗談やって。そんなに食べられへんわ。にしても美味い料理やな」
「長年、料理の腕を磨いた猫又族がいるのです。そろそろ、魔王様の住む王宮に召し抱えられてもおかしくないかもしれません」
「その話、詳しく聞かせてくれる?」
「構いませんが……」
不思議そうにするクスィーちゃんが続ける。
「魔王様はもっと北にある王宮に住んでおられます。魔王国の中で優秀な魔物は王宮務めになれます。私の兄たちはそうです」
出世できるってことね。
俺はいらんわ。
人間の国に戻ろうと思ってたけど、このスキルがあるなら魔王国の田舎でひっそりと住むのも悪くないかも。
あのヤンキー勇者の言う通りになるのは癪やけど、今更、向こうに戻るのもなぁ……。
「こちらには何日滞在されますか?」
「一泊の予定やけど。長居しても迷惑やろうし、もっと田舎に行く予定やから」
「田舎ですか。九尾族というのは変っているのでしょうか。みんな、北の王宮に行きたがるのに」
多分、人間は好き好んで敵の本拠地に乗り込みたくないと思う。
そんな話を最後にクスィーちゃんとは離れ、セフィロさんやダークエルフ族の重鎮たちが集まる席にお呼ばれされた。
「まさか、滅んだと聞いていた九尾族が番いで旅をしているとは」
「いや、夫婦ではないんよ。さっき知り合った仲なもんで」
「えぇ!? こんなに仲睦まじいのに!?」
そう言われても不思議ではないくらいにキツネの魔物は俺にべったりだった。
いくら彼女いない歴=年齢だったとしてもキツネ、しかも魔物を恋人にするのはクレイジーが過ぎると思う。
「この子の気持ちを考えてあげて、トーヤさん!」
「危ないところを助けてくれた命の恩人ですって。素敵なお顔と尻尾、それに心意気にもうメロメロって言っていますよ」
酔っ払いのダークエルフのねーちゃんは俺とキツネの魔物をくっつけようと愉快そうにしている。
給仕担当の獣人族のねーちゃんは嘘か本当かキツネの魔物の心情を代弁してくる。
「名前もつけて欲しいとのことです」
「名前ないんか!?」
「いつまでも、キツネ呼びなんてあんまりです。私たちだって、『おい、ダークエルフ』なんて呼ばれたら、ぶっ殺したくもなりますよ」
大分、酔いが回っているのか発言が物騒になっていく。
そこにセフィロさんたち男性陣がたきつけてくるから収集がつかない。
それで、当事者である俺はというと――
「九尾の狐が求婚ってか! かーーっ。よっしゃ! 結婚したるわい!」
酒と深夜テンションによって、ぶっ壊れていた。
この際、クレイジーでもええわい。
その場のノリに合わせるのが俺のスキルなんやからな!
空気を悪くするような真似はできんのや!
美人女神の名にかけて!
ただでさえ、美少女のクスィーちゃんに付加された属性が俺を歪めようとしてくる。
最初は警戒していたクスィーちゃんだが、俺が人族や半魔族の類いではないと分かり、打ち解けることができた。
彼女の案内で集落の奥へと進むと、すでに宴会の準備が整っていた。
「起きたばっかりやのに準備万端やん」
「料理も装飾も獣人族の仕事です。もちろん片付けも」
明日の朝にはなりますが、とクスィーちゃん。
「でも、一緒の席で食事を楽しむわけじゃないんや」
「我らは住処の一区画と安全を提供し、彼らは労働力を提供してくれます。必要以上に馴れ合うつもりはありません。この時間に起きているのは給仕係の獣人だけです」
クスィーちゃんの言う通り、ダークエルフ族の戦士は櫓の上に立ち、警戒を怠らない。
「昼間は寝ているダークエルフ族の子供がブラックウルフに襲われたんか?」
「ダメと言っても昼間に獣人族の子供と一緒に集落の外に遊びに出てしまうのです」
そういった理由なら仕方ない。
子供にとっては遊び相手がダークエルフ族だろうが、獣人族だろうが関係無いのだ。
「子供って。クスィーちゃんも子供みたいなもんやろ?」
「くっ。否定はできません。昨日、308歳になったばかりなので」
「……おめでとう」
ダークエルフ族にとっての308歳が人間の何歳に相当するのか気になったが怖くて聞けなかった。
「何度もしつこいですが、トーヤは本当に魔素の沼地から来たのですか?」
異世界転生したんですよ、と言っても理解されないだろうし、またあの冷ややかな目で見られても困る。
いや、考えようによってはご褒美にも……。
邪な考えを振り払い、素直に質問に答える。
「自分のことは名前しか思い出せへんねん。あのオオカミが襲いかかってきたから、やり返しただけで。なぁ、キツネ」
巨大なキツネの魔物へと進化してしまった魔物が頷いた。
やがて宴会が始まり、ダークエルフ族はお猪口に注いだ酒をお上品に飲み始めた。
もっと大学生みたいに笑い合いながら酒を酌み交わすのかと思っていたが、なんだか老人会みたいなノリだ。
もっとも俺はどっちもイケるから関係ない。
だってスキルが常時発動しているから。
キツネの魔物は生肉にかじりついている。
俺の皿に盛られた謎肉を――お腹壊さないかな、と失礼なことを考えながら眺めていると、クスィーちゃんが小さいお口をもぐもぐしながら説明してくれた。
「デビボアの包み焼き肉です。美味しいですよ」
火が通っているなら大丈夫だろう。ダークエルフ族が火を扱う種族で良かった。
香ばしい匂いなのは違いないが、嗅覚がキツネレベルまで上昇しているからか、その奥に潜む獣臭さが俺を躊躇させていた。
が、クスィーちゃんに勧められたなら断れない。
「いただきます」
フォークを突き刺して、ぱくりと一口。
口の中に広がる獣臭さを数種類のハーブがかき消してくれる。
熱々の肉汁があふれ出し、濃厚なタレの味が口内を満たした。
「うっま! あと100個は食えるわ」
「沢山あるので心ゆくまで召し上がってください」
「冗談やって。そんなに食べられへんわ。にしても美味い料理やな」
「長年、料理の腕を磨いた猫又族がいるのです。そろそろ、魔王様の住む王宮に召し抱えられてもおかしくないかもしれません」
「その話、詳しく聞かせてくれる?」
「構いませんが……」
不思議そうにするクスィーちゃんが続ける。
「魔王様はもっと北にある王宮に住んでおられます。魔王国の中で優秀な魔物は王宮務めになれます。私の兄たちはそうです」
出世できるってことね。
俺はいらんわ。
人間の国に戻ろうと思ってたけど、このスキルがあるなら魔王国の田舎でひっそりと住むのも悪くないかも。
あのヤンキー勇者の言う通りになるのは癪やけど、今更、向こうに戻るのもなぁ……。
「こちらには何日滞在されますか?」
「一泊の予定やけど。長居しても迷惑やろうし、もっと田舎に行く予定やから」
「田舎ですか。九尾族というのは変っているのでしょうか。みんな、北の王宮に行きたがるのに」
多分、人間は好き好んで敵の本拠地に乗り込みたくないと思う。
そんな話を最後にクスィーちゃんとは離れ、セフィロさんやダークエルフ族の重鎮たちが集まる席にお呼ばれされた。
「まさか、滅んだと聞いていた九尾族が番いで旅をしているとは」
「いや、夫婦ではないんよ。さっき知り合った仲なもんで」
「えぇ!? こんなに仲睦まじいのに!?」
そう言われても不思議ではないくらいにキツネの魔物は俺にべったりだった。
いくら彼女いない歴=年齢だったとしてもキツネ、しかも魔物を恋人にするのはクレイジーが過ぎると思う。
「この子の気持ちを考えてあげて、トーヤさん!」
「危ないところを助けてくれた命の恩人ですって。素敵なお顔と尻尾、それに心意気にもうメロメロって言っていますよ」
酔っ払いのダークエルフのねーちゃんは俺とキツネの魔物をくっつけようと愉快そうにしている。
給仕担当の獣人族のねーちゃんは嘘か本当かキツネの魔物の心情を代弁してくる。
「名前もつけて欲しいとのことです」
「名前ないんか!?」
「いつまでも、キツネ呼びなんてあんまりです。私たちだって、『おい、ダークエルフ』なんて呼ばれたら、ぶっ殺したくもなりますよ」
大分、酔いが回っているのか発言が物騒になっていく。
そこにセフィロさんたち男性陣がたきつけてくるから収集がつかない。
それで、当事者である俺はというと――
「九尾の狐が求婚ってか! かーーっ。よっしゃ! 結婚したるわい!」
酒と深夜テンションによって、ぶっ壊れていた。
この際、クレイジーでもええわい。
その場のノリに合わせるのが俺のスキルなんやからな!
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美人女神の名にかけて!
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