チートな環境適応型スキルを使って魔王国の辺境でスローライフを ~べっぴんな九尾族の嫁さんをもらった俺が人間やなんてバレへん、バレへん~

桜枕

文字の大きさ
上 下
6 / 41

第6話

しおりを挟む
 先頭に立つ褐色の少女と顔を合わせ、お互いに叫んでしまった。

「エルフ!?」
「人族!?」

 ファンタジーに登場するエルフにそっくりだが、髪と肌の色が違う。
 それに似合わない麦わら帽子を被っている。

「エルフ族なんかと一緒にしないでください! 我らはダークエルフ族です!」
「……はぁ。それはすみません」

 怪訝けげんな目つきで俺の頭からつま先まで見回していた少女は俺の発言に対して訂正を求める抗議の声を上げた。

 彼女の背後には9人の集団がいる。
 後ろの方に配置されているダークエルフ族の男性は弓を構えていた。

 俺はすぐに両手を上げて、戦う意思がないことを示す。

「どうして人族がズブカ平原にいるのですか!? 向こう側には魔素の沼地しかないのに、どこから侵入しましたか!?」

「待ちなさい、クスィー。人族にしては魔力量がぶっ飛んでいる。半魔ではないか?」

 警戒している集団の中から、ダンディな声の男性がゆっくり歩いてきた。

――ぶっ飛んでいる。
 
 この上ない高評価をいただき、俺は満足顔だ。

 ただ、侮蔑ぶべつするような目付きと声色で"半魔"と呼ばれることは、決して気分の良いものではなかった。

「俺に戦う意思はありません。気づけばあっちの沼地にいたので、帰り道を探しているところです」

 隣でダークエルフ族を威嚇していたキツネの魔物が驚いた顔で俺を見下ろす。

 お前、標準語話せるの!? とでも言いたげな視線だった。
 知らんけど。

「そうであったか。私はダークエルフ族のセフィロという」

「初めまして。俺は冬弥とうやといいます。こっちは少し大きめのキツネです。数分前に友達になりました」

「キュウ!」

 自己紹介を終え、セフィロさんが背後に手を向けたことで弓を引いていたダークエルフ族の男たちも構えを解いた。

「そのブラックウルフを倒したのは君か?」

「こいつブラックウルフっていうんですか? 俺とこのキツネで倒しましたよ」

 正直に答えると、セフィロさんの背後から顔を出した少女が声を荒げた。

「嘘をつかないで! 武器も持たない軟弱者に倒せる魔物ではありません!」

 セフィロさんは少女をひと睨みして、俺に謝罪する。

「非礼を許して欲しい。ブラックウルフは集団で追い込み、弓を用いた遠距離攻撃でやっと仕留められる害獣なんだ。いくら九尾族を連れていようとも君のような子が倒したとは考えられない」

 相当、厄介な魔物だったらしい。
 実際に魔法が使えなければ、俺たちもやられていたに違いない。

 それにしても魔王国に住んでいるのに魔物と仲良くやっているわけではないのか。
 前世でいうところのタヌキとかクマと一緒か。

「えっと、ダークエルフ族の皆さんはどうしてここに?」

「我ら一族の子供がそのブラックウルフに傷を負わされてしまってね。被害が拡大する前に仕留めようとしたんだが、お恥ずかしながら取り逃してしまって」

 あの爪の血液はダークエルフ族の子供のもの?
 こいつは逃げる体力を回復するためにキツネの魔物を襲ったとか?

 これが魔王国――弱肉強食の世界か。

「もう一つ聞いても?」

 二つ返事すると、セフィロさんは慎重に言葉を選ぶように告げた。

「魔素の沼地では何ともなかったのかな? 体に異常は?」

「特にステータス異常はありませんね」

 むしろ、魔力というものが体の中に宿って絶好調です。
 と、いうのは伏せておいた。

「あ、でも、お腹は空いていますね。一仕事を終えた後なんで」

 倒れているブラックウルフを指さす。

 今はダークエルフ族の男女がブラックウルフの死骸を確認中だ。
 腹に空いた穴からの出血で毛皮が汚れていることが気になるらしい。

「もし良ければ、我らの集落に来てくれないか。歓迎する。宴の準備もしよう」

「ほんとですか!? 助かります! 人っ子一人いなくて不安で仕方なくて」

 俺が情けなくもすがるように言うと、ブラックウルフを囲っていたダークエルフ族の男女が戻ってきて恐ろしいものでも見るような目を向けられた。

「セフィロ様、あのブラックウルフは血抜き済みでした」

「きっと、臭みを抜くために大穴を開けて余計な血を抜いたのでしょう」

「……となると」

 ぎこちない動きで俺を見るセフィロさん。

「君はこれを食べるつもりだったのか?」

 その声は怯えきっていた。

「あー、いやー。この子の餌になるかなーっとは思っていましたね。えぇ!」

 下手に誤魔化して変な疑いをかけられるのも面倒だったから嘘をついた。実際には何も考えてない。

 誰が"ヘルフレイム"と聞いて、貫く系の魔法攻撃だと想像するというのか。

 俺はてっきり漆黒をまとう地獄の業火でブラックウルフを骨も残さずに焼き尽くす魔法だと思っていた。

「もっと美味い料理をご馳走しよう。お礼もしたいしね」

「そうですか? じゃあ、お言葉に甘えて」

 まだダークエルフ族全員が俺という存在を受け入れたわけではないようだが、少なくとも敵対心は解いてくれたようだった。

「我らに遠慮は不要だぞ、トーヤ殿」

「ほんま!? 助かるわ。こっちの世界に来てまで空気読んで、敬語使うのしんどいねん」

 俺が砕けた態度を取ったことに驚いているのは後ろにいる9人。
 ただ1人、セフィロさんだけはニコニコしていた。

「それが、トーヤ殿の本性だったか。いやはや、まんまと化かされてしまったな」

 はて……? 何のことやら。

「半魔などと差別的な発言をしてしまい申し訳ない。確か、獣の姿からヒト型になるとか。その若さでレベルマックスとは畏れ多い」

 んー? んんー!?

 困惑している俺に気づいたセフィロさんは、さも当然のように信じられない言葉を漏らし、他のダークエルフ族たちを震撼しんかんさせた。

「君もその子と同じ九尾族なのだろう? ほら、髪色と同じ艶のある尻尾が揺れてるよ」

 俺は自分の尻を見て、過去一の絶叫を木霊させることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...