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第6話
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先頭に立つ褐色の少女と顔を合わせ、お互いに叫んでしまった。
「エルフ!?」
「人族!?」
ファンタジーに登場するエルフにそっくりだが、髪と肌の色が違う。
それに似合わない麦わら帽子を被っている。
「エルフ族なんかと一緒にしないでください! 我らはダークエルフ族です!」
「……はぁ。それはすみません」
怪訝な目つきで俺の頭からつま先まで見回していた少女は俺の発言に対して訂正を求める抗議の声を上げた。
彼女の背後には9人の集団がいる。
後ろの方に配置されているダークエルフ族の男性は弓を構えていた。
俺はすぐに両手を上げて、戦う意思がないことを示す。
「どうして人族がズブカ平原にいるのですか!? 向こう側には魔素の沼地しかないのに、どこから侵入しましたか!?」
「待ちなさい、クスィー。人族にしては魔力量がぶっ飛んでいる。半魔ではないか?」
警戒している集団の中から、ダンディな声の男性がゆっくり歩いてきた。
――ぶっ飛んでいる。
この上ない高評価をいただき、俺は満足顔だ。
ただ、侮蔑するような目付きと声色で"半魔"と呼ばれることは、決して気分の良いものではなかった。
「俺に戦う意思はありません。気づけばあっちの沼地にいたので、帰り道を探しているところです」
隣でダークエルフ族を威嚇していたキツネの魔物が驚いた顔で俺を見下ろす。
お前、標準語話せるの!? とでも言いたげな視線だった。
知らんけど。
「そうであったか。私はダークエルフ族のセフィロという」
「初めまして。俺は冬弥といいます。こっちは少し大きめのキツネです。数分前に友達になりました」
「キュウ!」
自己紹介を終え、セフィロさんが背後に手を向けたことで弓を引いていたダークエルフ族の男たちも構えを解いた。
「そのブラックウルフを倒したのは君か?」
「こいつブラックウルフっていうんですか? 俺とこのキツネで倒しましたよ」
正直に答えると、セフィロさんの背後から顔を出した少女が声を荒げた。
「嘘をつかないで! 武器も持たない軟弱者に倒せる魔物ではありません!」
セフィロさんは少女をひと睨みして、俺に謝罪する。
「非礼を許して欲しい。ブラックウルフは集団で追い込み、弓を用いた遠距離攻撃でやっと仕留められる害獣なんだ。いくら九尾族を連れていようとも君のような子が倒したとは考えられない」
相当、厄介な魔物だったらしい。
実際に魔法が使えなければ、俺たちもやられていたに違いない。
それにしても魔王国に住んでいるのに魔物と仲良くやっているわけではないのか。
前世でいうところのタヌキとかクマと一緒か。
「えっと、ダークエルフ族の皆さんはどうしてここに?」
「我ら一族の子供がそのブラックウルフに傷を負わされてしまってね。被害が拡大する前に仕留めようとしたんだが、お恥ずかしながら取り逃してしまって」
あの爪の血液はダークエルフ族の子供のもの?
こいつは逃げる体力を回復するためにキツネの魔物を襲ったとか?
これが魔王国――弱肉強食の世界か。
「もう一つ聞いても?」
二つ返事すると、セフィロさんは慎重に言葉を選ぶように告げた。
「魔素の沼地では何ともなかったのかな? 体に異常は?」
「特にステータス異常はありませんね」
むしろ、魔力というものが体の中に宿って絶好調です。
と、いうのは伏せておいた。
「あ、でも、お腹は空いていますね。一仕事を終えた後なんで」
倒れているブラックウルフを指さす。
今はダークエルフ族の男女がブラックウルフの死骸を確認中だ。
腹に空いた穴からの出血で毛皮が汚れていることが気になるらしい。
「もし良ければ、我らの集落に来てくれないか。歓迎する。宴の準備もしよう」
「ほんとですか!? 助かります! 人っ子一人いなくて不安で仕方なくて」
俺が情けなくも縋るように言うと、ブラックウルフを囲っていたダークエルフ族の男女が戻ってきて恐ろしいものでも見るような目を向けられた。
「セフィロ様、あのブラックウルフは血抜き済みでした」
「きっと、臭みを抜くために大穴を開けて余計な血を抜いたのでしょう」
「……となると」
ぎこちない動きで俺を見るセフィロさん。
「君はこれを食べるつもりだったのか?」
その声は怯えきっていた。
「あー、いやー。この子の餌になるかなーっとは思っていましたね。えぇ!」
下手に誤魔化して変な疑いをかけられるのも面倒だったから嘘をついた。実際には何も考えてない。
誰が"ヘルフレイム"と聞いて、貫く系の魔法攻撃だと想像するというのか。
俺はてっきり漆黒をまとう地獄の業火でブラックウルフを骨も残さずに焼き尽くす魔法だと思っていた。
「もっと美味い料理をご馳走しよう。お礼もしたいしね」
「そうですか? じゃあ、お言葉に甘えて」
まだダークエルフ族全員が俺という存在を受け入れたわけではないようだが、少なくとも敵対心は解いてくれたようだった。
「我らに遠慮は不要だぞ、トーヤ殿」
「ほんま!? 助かるわ。こっちの世界に来てまで空気読んで、敬語使うのしんどいねん」
俺が砕けた態度を取ったことに驚いているのは後ろにいる9人。
ただ1人、セフィロさんだけはニコニコしていた。
「それが、トーヤ殿の本性だったか。いやはや、まんまと化かされてしまったな」
はて……? 何のことやら。
「半魔などと差別的な発言をしてしまい申し訳ない。確か、獣の姿からヒト型になるとか。その若さでレベルマックスとは畏れ多い」
んー? んんー!?
困惑している俺に気づいたセフィロさんは、さも当然のように信じられない言葉を漏らし、他のダークエルフ族たちを震撼させた。
「君もその子と同じ九尾族なのだろう? ほら、髪色と同じ艶のある尻尾が揺れてるよ」
俺は自分の尻を見て、過去一の絶叫を木霊させることになった。
「エルフ!?」
「人族!?」
ファンタジーに登場するエルフにそっくりだが、髪と肌の色が違う。
それに似合わない麦わら帽子を被っている。
「エルフ族なんかと一緒にしないでください! 我らはダークエルフ族です!」
「……はぁ。それはすみません」
怪訝な目つきで俺の頭からつま先まで見回していた少女は俺の発言に対して訂正を求める抗議の声を上げた。
彼女の背後には9人の集団がいる。
後ろの方に配置されているダークエルフ族の男性は弓を構えていた。
俺はすぐに両手を上げて、戦う意思がないことを示す。
「どうして人族がズブカ平原にいるのですか!? 向こう側には魔素の沼地しかないのに、どこから侵入しましたか!?」
「待ちなさい、クスィー。人族にしては魔力量がぶっ飛んでいる。半魔ではないか?」
警戒している集団の中から、ダンディな声の男性がゆっくり歩いてきた。
――ぶっ飛んでいる。
この上ない高評価をいただき、俺は満足顔だ。
ただ、侮蔑するような目付きと声色で"半魔"と呼ばれることは、決して気分の良いものではなかった。
「俺に戦う意思はありません。気づけばあっちの沼地にいたので、帰り道を探しているところです」
隣でダークエルフ族を威嚇していたキツネの魔物が驚いた顔で俺を見下ろす。
お前、標準語話せるの!? とでも言いたげな視線だった。
知らんけど。
「そうであったか。私はダークエルフ族のセフィロという」
「初めまして。俺は冬弥といいます。こっちは少し大きめのキツネです。数分前に友達になりました」
「キュウ!」
自己紹介を終え、セフィロさんが背後に手を向けたことで弓を引いていたダークエルフ族の男たちも構えを解いた。
「そのブラックウルフを倒したのは君か?」
「こいつブラックウルフっていうんですか? 俺とこのキツネで倒しましたよ」
正直に答えると、セフィロさんの背後から顔を出した少女が声を荒げた。
「嘘をつかないで! 武器も持たない軟弱者に倒せる魔物ではありません!」
セフィロさんは少女をひと睨みして、俺に謝罪する。
「非礼を許して欲しい。ブラックウルフは集団で追い込み、弓を用いた遠距離攻撃でやっと仕留められる害獣なんだ。いくら九尾族を連れていようとも君のような子が倒したとは考えられない」
相当、厄介な魔物だったらしい。
実際に魔法が使えなければ、俺たちもやられていたに違いない。
それにしても魔王国に住んでいるのに魔物と仲良くやっているわけではないのか。
前世でいうところのタヌキとかクマと一緒か。
「えっと、ダークエルフ族の皆さんはどうしてここに?」
「我ら一族の子供がそのブラックウルフに傷を負わされてしまってね。被害が拡大する前に仕留めようとしたんだが、お恥ずかしながら取り逃してしまって」
あの爪の血液はダークエルフ族の子供のもの?
こいつは逃げる体力を回復するためにキツネの魔物を襲ったとか?
これが魔王国――弱肉強食の世界か。
「もう一つ聞いても?」
二つ返事すると、セフィロさんは慎重に言葉を選ぶように告げた。
「魔素の沼地では何ともなかったのかな? 体に異常は?」
「特にステータス異常はありませんね」
むしろ、魔力というものが体の中に宿って絶好調です。
と、いうのは伏せておいた。
「あ、でも、お腹は空いていますね。一仕事を終えた後なんで」
倒れているブラックウルフを指さす。
今はダークエルフ族の男女がブラックウルフの死骸を確認中だ。
腹に空いた穴からの出血で毛皮が汚れていることが気になるらしい。
「もし良ければ、我らの集落に来てくれないか。歓迎する。宴の準備もしよう」
「ほんとですか!? 助かります! 人っ子一人いなくて不安で仕方なくて」
俺が情けなくも縋るように言うと、ブラックウルフを囲っていたダークエルフ族の男女が戻ってきて恐ろしいものでも見るような目を向けられた。
「セフィロ様、あのブラックウルフは血抜き済みでした」
「きっと、臭みを抜くために大穴を開けて余計な血を抜いたのでしょう」
「……となると」
ぎこちない動きで俺を見るセフィロさん。
「君はこれを食べるつもりだったのか?」
その声は怯えきっていた。
「あー、いやー。この子の餌になるかなーっとは思っていましたね。えぇ!」
下手に誤魔化して変な疑いをかけられるのも面倒だったから嘘をついた。実際には何も考えてない。
誰が"ヘルフレイム"と聞いて、貫く系の魔法攻撃だと想像するというのか。
俺はてっきり漆黒をまとう地獄の業火でブラックウルフを骨も残さずに焼き尽くす魔法だと思っていた。
「もっと美味い料理をご馳走しよう。お礼もしたいしね」
「そうですか? じゃあ、お言葉に甘えて」
まだダークエルフ族全員が俺という存在を受け入れたわけではないようだが、少なくとも敵対心は解いてくれたようだった。
「我らに遠慮は不要だぞ、トーヤ殿」
「ほんま!? 助かるわ。こっちの世界に来てまで空気読んで、敬語使うのしんどいねん」
俺が砕けた態度を取ったことに驚いているのは後ろにいる9人。
ただ1人、セフィロさんだけはニコニコしていた。
「それが、トーヤ殿の本性だったか。いやはや、まんまと化かされてしまったな」
はて……? 何のことやら。
「半魔などと差別的な発言をしてしまい申し訳ない。確か、獣の姿からヒト型になるとか。その若さでレベルマックスとは畏れ多い」
んー? んんー!?
困惑している俺に気づいたセフィロさんは、さも当然のように信じられない言葉を漏らし、他のダークエルフ族たちを震撼させた。
「君もその子と同じ九尾族なのだろう? ほら、髪色と同じ艶のある尻尾が揺れてるよ」
俺は自分の尻を見て、過去一の絶叫を木霊させることになった。
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