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第4話
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「ひょぇぇぇえぇぇぇ! 魔物やぁぁアァァァァァァ!!」
「キュウゥゥゥウゥゥゥ!!??」
飛び上がって尻餅をついた俺と、同じく飛び上がりながらも華麗に着地を決めた魔物。
サイズは俺の膝までの大きさだった。
これが小さいのか、大きいのか分からないが、とにかくこれまでに見たこともない生物だ。
「殺さんといて! 俺、絶対に不味いと思うから! 毎年、健康診断で中性脂肪の数値が引っかかってるから!」
「フシャーッ!」
「ひぃぃ……ん? お前、怪我してるんか?」
威嚇してくる割にいつまで経っても飛びかかって来ないと思ってよく見れば、この魔物の前足には爪痕のような傷があった。
「これは痛いわ。ちょっと待って。なんか、手当てできるもんないか……」
ポケットの中には何もない。
仕方なく、服の袖を破って傷の保護をしようと近づく。
「シャーッ!」
鋭い爪が俺の腕を切り裂いた。
不思議と痛みはない。
何が起こったのか分からず、飛び散った真っ赤な血が描く放物線を眺めていた。
そして、数秒遅れて脳が正しく現象を理解した。
「い゛った!」
またしても魔物が飛び退く。
なにこれ!?
転生したらチートで攻撃を受けてもノーダメージとか、すぐに回復とかするんちゃうの!?
あっ、俺、勇者2号やったわ。
チートスキルは全部、ヤンキー勇者が持っていったんやった。
怖い。
柴犬サイズの謎の化け物が怖い。
いきなり爪で引っ掻いてきた凶暴で獰猛な魔物が……いや、待てよ。
こいつにとっての俺は自分の体よりも2倍近く大きい存在。
そんな奴が奇声を上げたり、突然近づいてきたら――
「そりゃ、怖いわな」
俺はジンジン痛む腕を見ないようにしながら、腰掛けて頭を下げた。
「ごめんな。俺の方がデカいから怖かったやろ。言い訳やけど、傷つけるつもりはないんや。手当てしたいだけなんや」
これで心を通わせるとは思わない。
だけど、少しでも可能性があるのなら――
それに人間と魔物が仲良くなれたら素敵やん?
「キュゥゥ」
威嚇のポーズで全身の毛を逆立てている魔物が腰を落として、にじり寄ってきた。
細身の体型で大きな尖った耳と尻尾。
そして、モフモフな被毛。
柴犬というよりもキツネっぽい。
しばらく、じっとしているとキツネに似た魔物がしゃがみ込み、俺の手の傷を舐め始めた。
ガサッ!!
「っ!?」
「キュッ!?」
同時に反応して顔を上げる。
物音がした対岸から飛び立った大きな影が簡単に川を飛び越え、俺たちの前に着地した。
「グルルルルル」
オオカミだ。
黒い被毛の巨大なオオカミの魔物が涎を垂らしている。
「こいつから逃げて来たんか?」
よく見ると、オオカミの爪は赤黒く染まっていた。
「ほな、仲良くなる方法は簡単やな」
キツネの魔物は立ち上がった俺を見上げながら小さく鳴いた。
「こいつをぶっ飛ばす。腹も減ったし、一石二鳥やろ?」
さぁ、シンキングタイムスタート。
俺はどうやってこいつに勝てばいい?
スキルは常時発動しているだけのポンコツ。
ぶん殴ろうにも体格差があって、一発殴ったところで怯みそうにもない。なんなら、近づけない。
こういう場合、前世で剣道とか合気道を習っていたけど、いじめられて辞めてしまった的な回想が入るもんやろ?
そんで、大切なものを守るためにその辺に落ちている棒を拾って戦うみたいな。
そしたら実はそれが聖剣で――
「って、それ女神様が望んでた展開やん! なに、勝手にフラグ回収してくれてんねん!」
1人で騒いで、頭を抱えている俺に憐れんだ瞳を向けてくるキツネの魔物。
こんなことをしている間にもオオカミの魔物は後ろ足で地面を踏み締め、いつでも突進できる態勢を取っている。
「俺、習い事してないねん。理由は簡単。親が送り迎えをめんどくさがったんや。ごめんな、キツネ」
オオカミの魔物が地面を蹴り上げて、飛び掛かってくる。
あまりの巨大さに身動きが取れなかった。
転生したからといって筋力が増強しているわけではない。
非力な俺が両手でオオカミの魔物を受け止めても、ぺちゃんこにされるのがオチ。
それでも――
「お前だけは逃がしたるからな」
目を瞑ってバンザイしていた俺はいつまで経っても押し潰されないことを不思議に思い、おそるおそる目を開けた。
「うわぁ……(ドン引き)」
俺の手とオオカミの魔物との間には紫色の魔方陣が描かれ、衝撃を受け止めていた。
重さは一切感じない。
宙に浮いたままで前後の足をバタつかせているオオカミの魔物は実に滑稽だった。
そのまま肘を曲げて、押し返すように突き出す。
すると、魔方陣に貼り付いて離れなかったオオカミの魔物が吹っ飛んで川の中に落ちた。
「うわぁ……(歓喜)」
イケる! これイケるで!
一気にポジティブスイッチが入った俺の頭の中にイメージが湧き上がる。
体の中心から迸る何か。
それが魔力であることに気づくのに時間はかからなかった。
詠唱? そんなものは要らん。
無詠唱? ちゃうちゃう。
魔物がわざわざ呪文の詠唱をしたり、技名を叫んだりするか?
それは人間様の専売特許や。
今の俺なら――この環境に適応している俺なら、ノーモーションで魔法を撃てる。
「"ヘルフレイム"!!」
手のひらから放たれた火球は一直線にオオカミの魔物へと向かい、体を燃やすどころか貫いた。
「悪いなぁ。俺は人間様やから全力で技名を叫ばせてもらうで。男やったら死ぬまでに一回はやってみたいやん? あ、もう死んでるくせにっていうツッコミはナシやで」
魔物の腹に空いた穴からはドクドク血が流れている。
このままでは死ぬのも時間の問題だろう。
「ほら、トドメをさしてこい」
俺がオオカミの魔物を指さすと、キツネは察したように走り出し、爪を振りかぶった。
俺の腕を切り裂いたアレだ。
「涙ちょちょぎれるほど痛いで」
キツネの魔物の切り裂く攻撃を受けた直後、オオカミの魔物が倒れ、地面を大きく揺らした。
【経験値を獲得しました。レベルが上がりました】
俺の頭の中だけに聞こえた不思議な声かと思ったが、キツネの魔物も反応している。きっと世界の声だ。
【進化します】
俺、進化すんの!?
「キュウゥゥゥウゥゥゥ!!??」
飛び上がって尻餅をついた俺と、同じく飛び上がりながらも華麗に着地を決めた魔物。
サイズは俺の膝までの大きさだった。
これが小さいのか、大きいのか分からないが、とにかくこれまでに見たこともない生物だ。
「殺さんといて! 俺、絶対に不味いと思うから! 毎年、健康診断で中性脂肪の数値が引っかかってるから!」
「フシャーッ!」
「ひぃぃ……ん? お前、怪我してるんか?」
威嚇してくる割にいつまで経っても飛びかかって来ないと思ってよく見れば、この魔物の前足には爪痕のような傷があった。
「これは痛いわ。ちょっと待って。なんか、手当てできるもんないか……」
ポケットの中には何もない。
仕方なく、服の袖を破って傷の保護をしようと近づく。
「シャーッ!」
鋭い爪が俺の腕を切り裂いた。
不思議と痛みはない。
何が起こったのか分からず、飛び散った真っ赤な血が描く放物線を眺めていた。
そして、数秒遅れて脳が正しく現象を理解した。
「い゛った!」
またしても魔物が飛び退く。
なにこれ!?
転生したらチートで攻撃を受けてもノーダメージとか、すぐに回復とかするんちゃうの!?
あっ、俺、勇者2号やったわ。
チートスキルは全部、ヤンキー勇者が持っていったんやった。
怖い。
柴犬サイズの謎の化け物が怖い。
いきなり爪で引っ掻いてきた凶暴で獰猛な魔物が……いや、待てよ。
こいつにとっての俺は自分の体よりも2倍近く大きい存在。
そんな奴が奇声を上げたり、突然近づいてきたら――
「そりゃ、怖いわな」
俺はジンジン痛む腕を見ないようにしながら、腰掛けて頭を下げた。
「ごめんな。俺の方がデカいから怖かったやろ。言い訳やけど、傷つけるつもりはないんや。手当てしたいだけなんや」
これで心を通わせるとは思わない。
だけど、少しでも可能性があるのなら――
それに人間と魔物が仲良くなれたら素敵やん?
「キュゥゥ」
威嚇のポーズで全身の毛を逆立てている魔物が腰を落として、にじり寄ってきた。
細身の体型で大きな尖った耳と尻尾。
そして、モフモフな被毛。
柴犬というよりもキツネっぽい。
しばらく、じっとしているとキツネに似た魔物がしゃがみ込み、俺の手の傷を舐め始めた。
ガサッ!!
「っ!?」
「キュッ!?」
同時に反応して顔を上げる。
物音がした対岸から飛び立った大きな影が簡単に川を飛び越え、俺たちの前に着地した。
「グルルルルル」
オオカミだ。
黒い被毛の巨大なオオカミの魔物が涎を垂らしている。
「こいつから逃げて来たんか?」
よく見ると、オオカミの爪は赤黒く染まっていた。
「ほな、仲良くなる方法は簡単やな」
キツネの魔物は立ち上がった俺を見上げながら小さく鳴いた。
「こいつをぶっ飛ばす。腹も減ったし、一石二鳥やろ?」
さぁ、シンキングタイムスタート。
俺はどうやってこいつに勝てばいい?
スキルは常時発動しているだけのポンコツ。
ぶん殴ろうにも体格差があって、一発殴ったところで怯みそうにもない。なんなら、近づけない。
こういう場合、前世で剣道とか合気道を習っていたけど、いじめられて辞めてしまった的な回想が入るもんやろ?
そんで、大切なものを守るためにその辺に落ちている棒を拾って戦うみたいな。
そしたら実はそれが聖剣で――
「って、それ女神様が望んでた展開やん! なに、勝手にフラグ回収してくれてんねん!」
1人で騒いで、頭を抱えている俺に憐れんだ瞳を向けてくるキツネの魔物。
こんなことをしている間にもオオカミの魔物は後ろ足で地面を踏み締め、いつでも突進できる態勢を取っている。
「俺、習い事してないねん。理由は簡単。親が送り迎えをめんどくさがったんや。ごめんな、キツネ」
オオカミの魔物が地面を蹴り上げて、飛び掛かってくる。
あまりの巨大さに身動きが取れなかった。
転生したからといって筋力が増強しているわけではない。
非力な俺が両手でオオカミの魔物を受け止めても、ぺちゃんこにされるのがオチ。
それでも――
「お前だけは逃がしたるからな」
目を瞑ってバンザイしていた俺はいつまで経っても押し潰されないことを不思議に思い、おそるおそる目を開けた。
「うわぁ……(ドン引き)」
俺の手とオオカミの魔物との間には紫色の魔方陣が描かれ、衝撃を受け止めていた。
重さは一切感じない。
宙に浮いたままで前後の足をバタつかせているオオカミの魔物は実に滑稽だった。
そのまま肘を曲げて、押し返すように突き出す。
すると、魔方陣に貼り付いて離れなかったオオカミの魔物が吹っ飛んで川の中に落ちた。
「うわぁ……(歓喜)」
イケる! これイケるで!
一気にポジティブスイッチが入った俺の頭の中にイメージが湧き上がる。
体の中心から迸る何か。
それが魔力であることに気づくのに時間はかからなかった。
詠唱? そんなものは要らん。
無詠唱? ちゃうちゃう。
魔物がわざわざ呪文の詠唱をしたり、技名を叫んだりするか?
それは人間様の専売特許や。
今の俺なら――この環境に適応している俺なら、ノーモーションで魔法を撃てる。
「"ヘルフレイム"!!」
手のひらから放たれた火球は一直線にオオカミの魔物へと向かい、体を燃やすどころか貫いた。
「悪いなぁ。俺は人間様やから全力で技名を叫ばせてもらうで。男やったら死ぬまでに一回はやってみたいやん? あ、もう死んでるくせにっていうツッコミはナシやで」
魔物の腹に空いた穴からはドクドク血が流れている。
このままでは死ぬのも時間の問題だろう。
「ほら、トドメをさしてこい」
俺がオオカミの魔物を指さすと、キツネは察したように走り出し、爪を振りかぶった。
俺の腕を切り裂いたアレだ。
「涙ちょちょぎれるほど痛いで」
キツネの魔物の切り裂く攻撃を受けた直後、オオカミの魔物が倒れ、地面を大きく揺らした。
【経験値を獲得しました。レベルが上がりました】
俺の頭の中だけに聞こえた不思議な声かと思ったが、キツネの魔物も反応している。きっと世界の声だ。
【進化します】
俺、進化すんの!?
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