チートな環境適応型スキルを使って魔王国の辺境でスローライフを ~べっぴんな九尾族の嫁さんをもらった俺が人間やなんてバレへん、バレへん~

桜枕

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第2話

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 光の粒子が俺という存在を作り直す。

 目を開けると女神様はどこかに消えていて、俺は藍色の宇宙空間のようなところに浮いていた。
 慣れない浮遊感に吐きそうだ。

「なんだ、おっさんも転生したのかよ」

 頭の後ろに手を組んで、ふよふよ浮いているのはナツキと呼ばれた勇者だった。
 間違いなく、あのコンビニの前でヤンキー座りしてタバコを吸っていた奴だ。

「運が良かったな。まぁ、転生先のなんとか世界では、もっとはっきりと喋ることだ」

 俺はコンビニに寄りたかっただけなのに彼が邪魔で入れなかった。

 若いな~、なんて思いながら体を横に向けて、彼を見ながら通り過ぎたつもりだったのだが、それがいけなかったらしい。

 なにニヤけてんだ! と胸ぐらを掴まれたタイミングで運悪くトラックがダイナミック入店をかましたのだ。

「あのトラック、絶対に許さねぇ。つっても死んじまったものは仕方ねぇ。オレは異世界で悠々自適なセカンドライフを送る。まずはタバコを探すところからだ」

 いかにもな風貌の彼はこの摩訶不思議な現象を怖がる様子もなく、ソファに座るように身を任せている。

「……こいつに『超適応』のスキルは最初からいらんかったってことか」

「あぁん? なんだって?」

「なにも」

 これ見よがしに舌打ちしたヤンキー勇者は足を組み替えて、昼寝でもするような姿勢をとった。

 対して俺は広大な無重力空間でも部屋の隅っこにいるような感覚で、膝を抱えて縮こまっている。

 不安と恐怖で今すぐにでも吐きそうなのに、そんな悠長に構えていられる余裕なんてない。

 なにが、その場のノリに合わせられるや。
 クソスキルやんけ。

「オレが魔王を倒すまでそうやって隠れてろよ」

 転生後の運命さえも受け入れているヤンキー勇者は、俺よりも早く宇宙空間を抜け出し、突然現れた穴の中へと消えて行った。

 そして、数秒遅れて俺の体も穴の中へと引き込まれた。


◇◆◇◆◇◆


「おぉ! もう1人の勇者様がお越しになられたぞ!」

 しわがれた声に若い男女の歓声が続く。
 気づけば、俺は光を放つ魔方陣の中で三角座りしていた。

「ど、どこ!?」

 見渡すと神殿のような場所で、周囲には神官のような服装の男女が祈りを捧げていた。

「女神様の予言は本当じゃった。勇者様こちらへ。つるぎの間へご案内します」

 立派な白い髭のおじいちゃんが俺を立たせて背中を押す。
 連れられたのは石造りの部屋で、天井は吹き抜けていて太陽の光が差し込む神秘的な場所だった。

「さぁ、聖剣を抜けるのはどちらですか!?」

 興奮するおじいちゃんの見つめる先には金髪の男がいた。

 不格好な石に突き刺さった剣の柄を握ってはいるが、引き抜く気配はない。

「金髪勇者様と黒髪勇者様に対して聖剣は1本。どちらかが真の勇者様なのか、お教えください」

 黒髪勇者……って俺か。勇者2号よりはましかも。

 聖剣の前に立つ金髪勇者の後ろ姿には見覚えがあった。

 でも、あのヤンキーの髪はもっとくすんでいた。
 金からは程遠い、黄土色だったはず。

「ちょうど良かった。オレがこいつを抜くところを見ていけよ」

 このオレが世界の中心だ、とでも言いたげな話し方に嫌気がさす。

「おっさん、随分と若返ったな。でも、オレと比べるまでもなく異世界でも地味だぜ?」

 ピアスにネックレス、それにゴツい指輪。間違いない、あのヤンキーだ。

 それにしても若返った? はて……?
 いや、会社の中なら若い方やけど!?

 確かに学生よりかは年食ってるかもしれんけど!

「見とけよ、ジジイ! オレが勇者様で間違いねぇ!」


 ズズ……ズズズッ――――


 ヤンキー勇者が一気に聖剣を引き抜いた。
 別に一生懸命だったわけじゃない。

 片手を腰に当てたまま、いとも簡単に抜いていたように見える。

「おぉ! あなた様こそ聖剣に選ばれた勇者様です! さぁ、こちらへどうぞ。国王陛下への謁見えっけん後に催される宴の準備も整っていますぞ」

「待て待て。焦らすんじゃねぇよ。自分のステータスを確認させろ」

 ヤンキー勇者は何もない虚空を見つめ、スマホをスクロールするように指先を動かし始める。

 人差し指を上に弾く。弾く。弾く。

 って、どんだけ長い文書を読んでんねん!
 俺のステータスなんか、スクロール不可やぞ!
 50文字もないわ!

――――――――――――――――――――

【名前】トーヤ
【種族】人族
【スキル】超適応
【魔法】なし
【武器】なし

――――――――――――――――――――

 ヤンキー勇者と同じように簡素なステータスの確認を終えた俺は、自分の処遇を想像しながら待っている。

 ふと、ヤンキー勇者の指がせわしなくなった。

 あの動きは……スクロールじゃない!

 ニヤリと俺を見て、いやらしく笑った勇者が宙に浮かぶボタンを押したような気がした。

「あのおっさんは勇者じゃないから追放とする」

「しかし、女神様がお選びになったお方です! 聖剣に選ばれなくても、魔物被害から我らを守ってくれるはずです」

「いらねぇよ。勇者はオレ一人で十分だ」

 ヤンキー勇者は無慈悲な目を向けたまま手を振り、ゆっくりと口を開いた。

「スキル『超転移』発動。座標、"魔王国"」

「なっ!?」

 声を出す暇もなく、俺の足元に現れた魔法陣によって強制的な転移が開始する。

「魔物に食い殺されないように気をつけろよ、おっさん」

 一瞬にして体が飛ばされ、着地の衝撃で尻餅をついた。
 何かを壊してしまったような気もするが、そんなことよりも足元にあった魔法陣が消えた。

 何度、地面を叩いても出てこない。

 毒々しい色の沼地地帯。
 そのど真ん中に置き去りにされた。

 空が明るいからこそ、周囲の様子が鮮明に見れて余計に禍々しい。

「うわぁ。いきなり超ハードモードやん」

 そんな風に独り言をつぶやくのが精一杯だった。
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