チートな環境適応型スキルを使って魔王国の辺境でスローライフを ~べっぴんな九尾族の嫁さんをもらった俺が人間やなんてバレへん、バレへん~

桜枕

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第1話

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  眩しい光に目を開けていられなかった。

「ようこそ、お越し下さいました。あなた様は勇者に選ばれたのです。これから異世界へ転生し、魔王を倒す勇者として歴史に残る偉業を達成されることでしょう」

 俺が勇者!? 異世界転生!? 魔王を倒す!?

 なんというファンタジー。
 聞いただけでワクワクする話に思わず、笑みがこぼれた。

 綺麗な声で紡がれる言葉を聞いていた俺はやっとのことで薄く目を開ける。
 そこには想像の斜め上をいく美しい女性が立っていた。

「転生先は剣と魔法の世界。伝説の聖剣を手にして世界に平和をもたらすのです。さぁ、気持ちの準備はよろしいですか? 行きますよ、ナツキ様!」

「おう!」

 え!? ちょっ、ちょっと待って!?

 ナツキ様ってどちら様!?
 今の話って俺にしてたんとちゃうの!?

 隣を見るといかにも不良な男が拳を握り締めて不敵に笑っていた。
 
 次の瞬間、男の体が光り始め、キラキラな光の粒子となって目の前からいなくなった。

「ふぅ。これでお仕事はお終いっと。……あら? どなたでしょうか?」

「それはこっちのセリフや! ここはどこで、あなた誰ですか!?」

 辺り一面真っ白な世界では色白の俺が目立たなかったのか。
 はたまた最初から眼中になかったのか。
 美しい女性は眉をひそめて、小さな声でつぶやいた。

「あれ、やっちゃった……? 私、やっちゃった?」

「えっと……あの人が勇者なら俺は?」

「………………」

 長い長い沈黙を経て、女性は腰に手を当てて胸を突き出した。

「ようこそお越し下さいました、勇者2号様! あなたも勇者のはずです! きっとそう! 今、決めた。女神である私が今決めました。異論は認めません!」

 この人、無茶苦茶や。
 しかも、2号って……。仮○ライダーじゃないんやぞ。

「幸運なことにあなたもデグダラ世界へ転生することになりました。伝説の聖剣を手にして世界に平和をもたらすのです! えい、えい、おー!」

 無理にテンションを上げた女神様は、ナツキという勇者1号を送り出した時と同じセリフを言いながら右手を天に突き上げた。

「でも、聖剣はあの人のためにあるんじゃ……。それに勇者が2人がかりで魔王を倒すっていうのはちょっと可哀想じゃないですか?」

「聖剣が1本だなんて誰が決めたんですか! きっと2、3本ありますよ。その辺の草むらを探して下さい!」

 その辺の草むらにある聖剣を拾った勇者なんて格好つかへんやろ。
 異世界でも笑い者にされるなんて御免やぞ。

「それから、結局は数で圧倒するのは一番効率的なんです。魔王は大軍を率いて人族の国へ進軍するんですよ。そんな甘い考えでは世界を救えません! しっかりして2号!」

「誰が2号やねん!」

 大学卒業後、中小企業に就職し、休みの日はアニメ、ゲーム、ラノベを堪能するような平凡な独身貴族に何を求めてるんや。

 あれ、でも、こういうありきたりなパターンならスキルとか貰えるんちゃうの!?

「転生することは確定なんですか?」

「それはもちろん。だって、勇者ナツキも2号も元の世界では死んでしまって、肉体はボロボロでしょ。トラックにどーんっ、だもん」

 思い出した。
 コンビニ前にたむろしていたヤンキーと一緒に、店に突っ込んできたトラックにかれたんやった。

 あの運転手、絶対にアクセルとブレーキを間違えたやろ。

「じゃあ、何かスキルをください。女神様ならスキルの1つや2つ与えられますよね?」

「えーっと」

 視線を彷徨さまよわせる女神様は指を折りながら、ぶつぶつとつぶき始めた。

「『超攻撃』も『超防御』も『超速度』も渡しちゃったし。『超成長』もない。『超鑑定』もやっぱりない。『超魔法』は当然ない」

 しばらくして、女神様は開き直ったように俺の目を見つめ返した。

「ごめんなさい。勇者ナツキに全部渡しちゃいました。手持ちはありません!」

「そんな!? じゃあ、俺は予定外に見知らぬ世界に転生させられて、スキルも聖剣もなしで化け物と戦えってことですか!? それが女神様のやることですか!?」

「そう言われると罪悪感が……」

 うぐっと胸元を押える女神様。
 もう一押ししてみてダメなら諦めるけど、何もせずに諦めるような真似はしない。

 関西人舐めんなや。
 こちとら、生まれた瞬間からハングリー精神で生きる呪いをかけられてんねん。

 遠慮しないでって言われたら、一瞬たりとも遠慮はせん。
 タダで貰えるものは何でも貰う。いらんかったら捨てればええだけの話や。

 これで何も貰えなかったら、魔王軍とやらに見つからないように田舎でひっそりと生活を送ればいい。
 俺には現代の知識がある。なんとでもなるはず。

「あー! ありましたよ、1つだけ!」

 眉間にしわを寄せて記憶の片隅まで探し続けたであろう女神様が手を打った。

「いつか捨てようと思っていたスキル。その名も『超適応』です」

「どんなスキルですか?」

「その場のノリに合わせられます」

 …………陽キャになれるスキルってこと?
 俺ってそんな陰キャオーラ丸出しですかね。

 まぁ、否定はできませんけど。
 彼女いたことないですし。

 あかん。言ってて悲しくなってきた。

「さぁ、気持ちの準備はよろしいですか? 行きますよ、2号様!」

 さっきと同じセリフをきっかけに俺の体が光の粒子となって消えていく。

「だから、俺の名前は2号じゃなくて――」

「よし、これでオッケー。お仕事終わり。転生者が1人増えたってバレない、バレない」

 厄介払いが済んだことで安堵したのか、人目もはばからずに欠伸あくびをする女神様へと全力で告げる。

冬弥とうやなんやってばぁぁあぁぁぁぁ」

 こうして俺はデグダラ世界へと転生するのだった。
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