1 / 41
第1話
しおりを挟む
眩しい光に目を開けていられなかった。
「ようこそ、お越し下さいました。あなた様は勇者に選ばれたのです。これから異世界へ転生し、魔王を倒す勇者として歴史に残る偉業を達成されることでしょう」
俺が勇者!? 異世界転生!? 魔王を倒す!?
なんというファンタジー。
聞いただけでワクワクする話に思わず、笑みがこぼれた。
綺麗な声で紡がれる言葉を聞いていた俺はやっとのことで薄く目を開ける。
そこには想像の斜め上をいく美しい女性が立っていた。
「転生先は剣と魔法の世界。伝説の聖剣を手にして世界に平和をもたらすのです。さぁ、気持ちの準備はよろしいですか? 行きますよ、ナツキ様!」
「おう!」
え!? ちょっ、ちょっと待って!?
ナツキ様ってどちら様!?
今の話って俺にしてたんとちゃうの!?
隣を見るといかにも不良な男が拳を握り締めて不敵に笑っていた。
次の瞬間、男の体が光り始め、キラキラな光の粒子となって目の前からいなくなった。
「ふぅ。これでお仕事はお終いっと。……あら? どなたでしょうか?」
「それはこっちのセリフや! ここはどこで、あなた誰ですか!?」
辺り一面真っ白な世界では色白の俺が目立たなかったのか。
はたまた最初から眼中になかったのか。
美しい女性は眉をひそめて、小さな声でつぶやいた。
「あれ、やっちゃった……? 私、やっちゃった?」
「えっと……あの人が勇者なら俺は?」
「………………」
長い長い沈黙を経て、女性は腰に手を当てて胸を突き出した。
「ようこそお越し下さいました、勇者2号様! あなたも勇者のはずです! きっとそう! 今、決めた。女神である私が今決めました。異論は認めません!」
この人、無茶苦茶や。
しかも、2号って……。仮○ライダーじゃないんやぞ。
「幸運なことにあなたもデグダラ世界へ転生することになりました。伝説の聖剣を手にして世界に平和をもたらすのです! えい、えい、おー!」
無理にテンションを上げた女神様は、ナツキという勇者1号を送り出した時と同じセリフを言いながら右手を天に突き上げた。
「でも、聖剣はあの人のためにあるんじゃ……。それに勇者が2人がかりで魔王を倒すっていうのはちょっと可哀想じゃないですか?」
「聖剣が1本だなんて誰が決めたんですか! きっと2、3本ありますよ。その辺の草むらを探して下さい!」
その辺の草むらにある聖剣を拾った勇者なんて格好つかへんやろ。
異世界でも笑い者にされるなんて御免やぞ。
「それから、結局は数で圧倒するのは一番効率的なんです。魔王は大軍を率いて人族の国へ進軍するんですよ。そんな甘い考えでは世界を救えません! しっかりして2号!」
「誰が2号やねん!」
大学卒業後、中小企業に就職し、休みの日はアニメ、ゲーム、ラノベを堪能するような平凡な独身貴族に何を求めてるんや。
あれ、でも、こういうありきたりなパターンならスキルとか貰えるんちゃうの!?
「転生することは確定なんですか?」
「それはもちろん。だって、勇者ナツキも2号も元の世界では死んでしまって、肉体はボロボロでしょ。トラックにどーんっ、だもん」
思い出した。
コンビニ前にたむろしていたヤンキーと一緒に、店に突っ込んできたトラックに轢かれたんやった。
あの運転手、絶対にアクセルとブレーキを間違えたやろ。
「じゃあ、何かスキルをください。女神様ならスキルの1つや2つ与えられますよね?」
「えーっと」
視線を彷徨わせる女神様は指を折りながら、ぶつぶつとつぶき始めた。
「『超攻撃』も『超防御』も『超速度』も渡しちゃったし。『超成長』もない。『超鑑定』もやっぱりない。『超魔法』は当然ない」
しばらくして、女神様は開き直ったように俺の目を見つめ返した。
「ごめんなさい。勇者ナツキに全部渡しちゃいました。手持ちはありません!」
「そんな!? じゃあ、俺は予定外に見知らぬ世界に転生させられて、スキルも聖剣もなしで化け物と戦えってことですか!? それが女神様のやることですか!?」
「そう言われると罪悪感が……」
うぐっと胸元を押える女神様。
もう一押ししてみてダメなら諦めるけど、何もせずに諦めるような真似はしない。
関西人舐めんなや。
こちとら、生まれた瞬間からハングリー精神で生きる呪いをかけられてんねん。
遠慮しないでって言われたら、一瞬たりとも遠慮はせん。
タダで貰えるものは何でも貰う。いらんかったら捨てればええだけの話や。
これで何も貰えなかったら、魔王軍とやらに見つからないように田舎でひっそりと生活を送ればいい。
俺には現代の知識がある。なんとでもなるはず。
「あー! ありましたよ、1つだけ!」
眉間にしわを寄せて記憶の片隅まで探し続けたであろう女神様が手を打った。
「いつか捨てようと思っていたスキル。その名も『超適応』です」
「どんなスキルですか?」
「その場のノリに合わせられます」
…………陽キャになれるスキルってこと?
俺ってそんな陰キャオーラ丸出しですかね。
まぁ、否定はできませんけど。
彼女いたことないですし。
あかん。言ってて悲しくなってきた。
「さぁ、気持ちの準備はよろしいですか? 行きますよ、2号様!」
さっきと同じセリフをきっかけに俺の体が光の粒子となって消えていく。
「だから、俺の名前は2号じゃなくて――」
「よし、これでオッケー。お仕事終わり。転生者が1人増えたってバレない、バレない」
厄介払いが済んだことで安堵したのか、人目もはばからずに欠伸をする女神様へと全力で告げる。
「冬弥なんやってばぁぁあぁぁぁぁ」
こうして俺はデグダラ世界へと転生するのだった。
「ようこそ、お越し下さいました。あなた様は勇者に選ばれたのです。これから異世界へ転生し、魔王を倒す勇者として歴史に残る偉業を達成されることでしょう」
俺が勇者!? 異世界転生!? 魔王を倒す!?
なんというファンタジー。
聞いただけでワクワクする話に思わず、笑みがこぼれた。
綺麗な声で紡がれる言葉を聞いていた俺はやっとのことで薄く目を開ける。
そこには想像の斜め上をいく美しい女性が立っていた。
「転生先は剣と魔法の世界。伝説の聖剣を手にして世界に平和をもたらすのです。さぁ、気持ちの準備はよろしいですか? 行きますよ、ナツキ様!」
「おう!」
え!? ちょっ、ちょっと待って!?
ナツキ様ってどちら様!?
今の話って俺にしてたんとちゃうの!?
隣を見るといかにも不良な男が拳を握り締めて不敵に笑っていた。
次の瞬間、男の体が光り始め、キラキラな光の粒子となって目の前からいなくなった。
「ふぅ。これでお仕事はお終いっと。……あら? どなたでしょうか?」
「それはこっちのセリフや! ここはどこで、あなた誰ですか!?」
辺り一面真っ白な世界では色白の俺が目立たなかったのか。
はたまた最初から眼中になかったのか。
美しい女性は眉をひそめて、小さな声でつぶやいた。
「あれ、やっちゃった……? 私、やっちゃった?」
「えっと……あの人が勇者なら俺は?」
「………………」
長い長い沈黙を経て、女性は腰に手を当てて胸を突き出した。
「ようこそお越し下さいました、勇者2号様! あなたも勇者のはずです! きっとそう! 今、決めた。女神である私が今決めました。異論は認めません!」
この人、無茶苦茶や。
しかも、2号って……。仮○ライダーじゃないんやぞ。
「幸運なことにあなたもデグダラ世界へ転生することになりました。伝説の聖剣を手にして世界に平和をもたらすのです! えい、えい、おー!」
無理にテンションを上げた女神様は、ナツキという勇者1号を送り出した時と同じセリフを言いながら右手を天に突き上げた。
「でも、聖剣はあの人のためにあるんじゃ……。それに勇者が2人がかりで魔王を倒すっていうのはちょっと可哀想じゃないですか?」
「聖剣が1本だなんて誰が決めたんですか! きっと2、3本ありますよ。その辺の草むらを探して下さい!」
その辺の草むらにある聖剣を拾った勇者なんて格好つかへんやろ。
異世界でも笑い者にされるなんて御免やぞ。
「それから、結局は数で圧倒するのは一番効率的なんです。魔王は大軍を率いて人族の国へ進軍するんですよ。そんな甘い考えでは世界を救えません! しっかりして2号!」
「誰が2号やねん!」
大学卒業後、中小企業に就職し、休みの日はアニメ、ゲーム、ラノベを堪能するような平凡な独身貴族に何を求めてるんや。
あれ、でも、こういうありきたりなパターンならスキルとか貰えるんちゃうの!?
「転生することは確定なんですか?」
「それはもちろん。だって、勇者ナツキも2号も元の世界では死んでしまって、肉体はボロボロでしょ。トラックにどーんっ、だもん」
思い出した。
コンビニ前にたむろしていたヤンキーと一緒に、店に突っ込んできたトラックに轢かれたんやった。
あの運転手、絶対にアクセルとブレーキを間違えたやろ。
「じゃあ、何かスキルをください。女神様ならスキルの1つや2つ与えられますよね?」
「えーっと」
視線を彷徨わせる女神様は指を折りながら、ぶつぶつとつぶき始めた。
「『超攻撃』も『超防御』も『超速度』も渡しちゃったし。『超成長』もない。『超鑑定』もやっぱりない。『超魔法』は当然ない」
しばらくして、女神様は開き直ったように俺の目を見つめ返した。
「ごめんなさい。勇者ナツキに全部渡しちゃいました。手持ちはありません!」
「そんな!? じゃあ、俺は予定外に見知らぬ世界に転生させられて、スキルも聖剣もなしで化け物と戦えってことですか!? それが女神様のやることですか!?」
「そう言われると罪悪感が……」
うぐっと胸元を押える女神様。
もう一押ししてみてダメなら諦めるけど、何もせずに諦めるような真似はしない。
関西人舐めんなや。
こちとら、生まれた瞬間からハングリー精神で生きる呪いをかけられてんねん。
遠慮しないでって言われたら、一瞬たりとも遠慮はせん。
タダで貰えるものは何でも貰う。いらんかったら捨てればええだけの話や。
これで何も貰えなかったら、魔王軍とやらに見つからないように田舎でひっそりと生活を送ればいい。
俺には現代の知識がある。なんとでもなるはず。
「あー! ありましたよ、1つだけ!」
眉間にしわを寄せて記憶の片隅まで探し続けたであろう女神様が手を打った。
「いつか捨てようと思っていたスキル。その名も『超適応』です」
「どんなスキルですか?」
「その場のノリに合わせられます」
…………陽キャになれるスキルってこと?
俺ってそんな陰キャオーラ丸出しですかね。
まぁ、否定はできませんけど。
彼女いたことないですし。
あかん。言ってて悲しくなってきた。
「さぁ、気持ちの準備はよろしいですか? 行きますよ、2号様!」
さっきと同じセリフをきっかけに俺の体が光の粒子となって消えていく。
「だから、俺の名前は2号じゃなくて――」
「よし、これでオッケー。お仕事終わり。転生者が1人増えたってバレない、バレない」
厄介払いが済んだことで安堵したのか、人目もはばからずに欠伸をする女神様へと全力で告げる。
「冬弥なんやってばぁぁあぁぁぁぁ」
こうして俺はデグダラ世界へと転生するのだった。
21
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる