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第四章 海中帝国サファリア
60.ライダンは鼻が利く
しおりを挟むーー光風の国ブリサルト
ここから東に向かった先にある女王の治める国で、彼女の見目麗しい容姿に加えて、思慮に富み慈悲深い方であり、国民からも厚い支持を得ていた。
そしてその女王、ミジャルーサは風を司る精霊でもあった。
魔王ガヴァルダは、美しく精霊の力を持つミジャルーサを娶ろうと彼女に近付くが、断固としてそれを拒絶され、怒り狂った魔王が女王を醜い女郎蜘蛛の姿へと変えてしまう。
美しさを失い、肉体から瘴気を放つ女郎蜘蛛の姿となったミジャルーサは、民を想い国外の洞窟へと身を潜めて姿を晦ます
しかし、それは既に手遅れとなり国中に瘴気が蔓延し厄病に苦しむ国民達は、精霊の息吹を持つ女王が行方知れずになったことを嘆く
そんな絶望的な状況下に、高度な治癒能力を持った謎の救世主が現れ民の病を治していく
それがこのゲームにおける第二ヒロインのローズ王家のサラだ。
サラと仲間になり、女王の神器である弓矢を使って女郎蜘蛛を共に倒し、元の美しい姿へと戻ったミジャルーサは、その弓矢に精霊の力を宿し、光風の弓矢として魔王を倒して欲しいと託される
これが光風の国ブリサルトでの一連のストーリーだ。
ここで出会うサラは、メルサと婚約を交わさなかった時の次の花嫁候補となる
なので、俺は変に拗れてしまった勇者の軌道修正をサラに任せたいと思う
これ以上ラシエルに好き勝手させる訳にはいかない!俺が本当に女の子にされてしまう!
帰還中もずっと上機嫌な勇者は、「このままあのビーチには戻らず二人でどこか遠くへ行きませんか?」などと勇者らしからぬことを抜かしている。魔王どうするんだよ
〈遅い!待ち侘びたぞ!〉
何とか説得してサファルトビーチに戻った俺達を待っていたライダンは、案の定ご機嫌斜めで、全身をバチバチと放電させながら遠くからリュドリカたちを見ていた
「お馬さん光ってる~」
「背中に乗せて~オデコにトゲがあるよ~」
こちらを睨みつけるライダンの周りには、サファリア湾が元に戻った事により集まってきた人間で溢れかえっていた
特に幼い少年少女が、楽しそうにキャッキャッとはしゃいでいる。
「あはは、ごめんごめん。でもライダンのおかげでレインガルロは正気に戻ったよ」
〈そんなことは分かっている!それより我の願いはどうした!〉
「あぁ、そうだったな……ところでライダン、随分モテモテじゃないか?」
〈貴様らの帰還が遅いせいだ!物珍しさにつられてワッパ共がわんさか湧いてきおって……全く、子守から漸く解放されたというのに、またこの始末だ!〉
前足を強く振り上げ砂浜を蹴り上げる。相当ご立腹の様子だが、その仕草に子どもたちはキャーやら格好いい!やら囃し立てるので、ライダンも鼻をブルリと鳴らして悪い気はしていなさそうだった
「そっちも意外と楽しくやってたみたいだな……」
〈そんな事はない!リュドリカ!早く我の願いを!〉
まだ面倒事が残っていた事をすっかり失念しており、また気疲れするようなものじゃないことを心底祈りながら、ライダンに向き合う
「うん……分かった、聞くよ。何して欲しい?」
〈そっそれは……〉
ライダンは口籠りながらブルルッと鼻を鳴らす
ゆっくりと近付いて、リュドリカに頭を擦り寄せてきた
〈膝枕だ。リュドリカ、そこに座って、我に膝枕をしてくれ〉
「………へ?」
気恥ずかしそうにライダンは耳をピクピクとさせている。
とんでもない要求が来たらどうしようと身構えていた俺は拍子抜けした
ライダン……!お前ってやつは……!
隣にいる変態にも見習って欲しいよ!
「あ、あぁ!そんなことなら任せてよ!」
リュドリカはその場にしゃがみ込み、笑顔で膝をポンポンと叩いてみせる
ライダンは喜んで俺の横に座り込み、膝に頭を乗せる
その横でラシエルは「俺もまだしてもらったことがないのに……!」なんてボヤいているが、お前がしたことはそれどころじゃないだろうと睨みつけた
膝の上に横たわるライダンは、また鼻を鳴らした
〈ム……?リュドリカ、何かにおうぞ……〉
「へ?」
ライダンは険しい顔をしてたてがみを逆立てる
〈穢らわしいにおいがする……一体何があった〉
「えっ!?そ、それは……っ」
においって……まさか!?俺は冷や汗をかいて言い訳を考えるが、その横でラシエルがはっ、と嫌味に口を開く
「鼻が効くのならば聞かなくても分かるだろう。リュドリカさんは俺の手で、」
「ぅわあーーっ!!そう!イカかな!?海底ででっかいダイオウイカがいて!それかな!?うん!それだ!」
なんとも心苦しい言い訳……!!
ていうかなんで俺がそんなバカみたいなことを言わないといけないんだ!?
ニコニコと笑うラシエルに、顔を真っ赤にさせながら必死に睨みつけて、喋るな!と念を押す
ライダンは納得したのかしていないのか、そうなのか、とそれ以上追求する事はなかった。
そしてライダンの気の済むまで膝枕をしたあと、俺達はサファルトビーチを出発した
光風の国ブリサルトには、ライダンのペガサス飛行を要しても、丸二日とかかった。
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