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第七章 最古の里クラギラ
101.瀬戸際で見たもの
しおりを挟む「ルルだ!」
「え?」
「えっ!?」
ラシエルが驚く。目前に来た女の子も同じようにたじろぎ動揺している。
予想もしていなかったその意外な反応に、リュドリカはドキリとした
「何故ルルだとすぐ分かった」
後からやって来たラセツが怪訝な顔でそう尋ねた
ラセツはまた人型の姿に戻っているが、人の姿をしているルルのこの姿を見るのは、リュドリカ達にとって今回が初めての筈だった。
「あっ……え、と」
完全に墓穴を掘ってしまった
ゲーム内ではマリスノウの動物達は、山を降りた人里に出る時は何かしら人の姿を模している事が多い。
リュドリカは勿論ルルの人型の姿を知っており、何の躊躇いも無く声に出してしまった
「やだっ!?私ったら変身解けかかっているのかしら……。妖術を使いすぎて人型を保つの結構辛いのよね……」
「大丈夫だ、解けてはいない。おい、何で分かったと聞いているんだ」
ラセツが冷たい視線を静かに向ける。
リュドリカは戸惑い狼狽えていると、ラシエルが一歩前に出て牽制した
「図体のデカいアナタの姿が見えたんだ。考えなくても側にいるのがあの女狐だと分かる」
「フン、お前に聞いているんじゃない。おいチビスケ、貴様は一体何者なんだ?」
「な、何者、って……」
ラセツは鋭い眼差しのまま、咎めるような視線をリュドリカに注ぐ
「俺が洗脳を受けていた時、確かに貴様から魔王の邪気を感じた。お前達がこの国の脅威じゃないとは到底思えない」
「……ッ!そんな、」
「はあ!?何言ってるのよ!?この国を救ったのも彼らでしょう!?それは揺るがない事実だわ!」
ルルは興奮して頭に被るニット帽が二つ山を作る
どうやら種族体の耳が出てきてしまったようだ
「む……それは、そうだが……」
「第一ラセツこそ魔王の洗脳を受けていたのよ?邪気を感じるなんて当然じゃないの!」
「いや、それとは違う。別の……」
「何がどう違うのよ!?」
「それは……」
ラセツは完全に言い包められてしまい、口籠ってしまう。
リュドリカは内心助かったとホッとし、魔王の名が出てしまい不安を覚えラシエルをチラリと見る
「……。」
ラシエルはラセツを睨みつけたまま、無言のままでいる。
大袈裟に怒りを出すこともしなければ、そこには少しの焦燥感のようなものも感じ取れた
「ラシエル……?」
「もうっ、いがみ合ってる場合じゃないのよ!急に夏が来たせいで川が決壊しそうなのに!早く妖術で溶かして蒸発させなきゃ!」
ルルは私先に行くわと走り出す
走り去るルルの背中にラセツはすぐに慌てた声を掛けた
「ま、待て!昨日から力を使いすぎてまだ回復しきってないと言うのに!せめて宿屋で買った魔力補填のポーションを……!」
ルルは聞く耳を持たずメルトグリースリバーの川沿いの際に立ち、妖術を発動させる。
熱による影響で足元は更にぬかるみ、泥でバランスを崩した
「ーーあッ」
「ルルッ!?」
「マズい!落ちる!」
小さな身体が、カロリア最大の運河へと呑まれようとしている
リュドリカは考えるよりも先に、身体が動いていた
「り、リュドリカさん!!」
落ち行くルルを追いかけるようにして、リュドリカは川へと身を投げた。
それを見たラシエルもほぼ同時に、濁流へと飛び込んで行く
「チッ、余計な事を!」
ラセツは懐からジャラジャラと音を立て、シルバーチェーンを取り出し、直ぐ様川面へ向けて投げつける
鎖が捉えたのはルルのみで、二人は激流へと呑まれていった
「ッッゔ!……あぁッ!二人が!!」
「暴れるなルル!」
ラセツはルルを引き揚げた後、すぐに指笛を唱えた
すぐに近くにいたと思われるオオワシがラセツの元へと飛んでくる
「どうしたんだヌシ?」
「人間が二人川に落ちた。頼めるか」
「なにぃっ!?ったくどいつもこいつもワシ使いが荒いっつーの、……わぁったよ」
オオワシはブツクサと言いながら、大きく翼を広げ激しく流れる河川へと飛び立った
身体が沈む
確かに流れは激しいが、前世では泳ぎは得意だったハズなのに
浮き上がる事が出来ない。手足も上手く動かせない
だめだ。もう、息が……
何も考えずに飛び込んで、やっぱりバカだなぁ俺
ルルは助かったんだろうか。最後に見たのは、ラセツのシルバーチェーンが目の前を横切ったところ
ラシエルが驚いて凄く大きな声を出してたな。
ああ、だめだ、もう、意識が……
ゴポゴポと口や鼻に川水の侵入を許し、肺が詰まっていく
締め付ける水圧が、全身を雁字搦めにする
ーーリュドリカさん!
最後に聞こえたのは、自身の名を呼ぶラシエルの声だった
.
どうしたの?
『うるさい、あっちに行け』
魔法の杖、湖に落としちゃったの?
『お前には関係ない。僕に構うな』
取って来ようか?
『余計なお世話だ。勇者の末裔様の手を煩わせるなんて、死んでも御免だね』
でも……
『ああもう、うるさいっ早くどっか行けよ!僕一人で何とかするから!』
パシャンと、飛沫が上がり
その数秒後、また別の水飛沫が視界の端に映り込んだ
.
「ーーカさん!」
「ーードリカさん!リュドリカさん!!」
「……っ、ゔ、ぐ、ゲホッ!!ゴホッ!!」
肺を強く押される圧迫感に、息苦しさと鈍痛が走る
体中が危険信号を脳内へと送り、肺に酸素を目まぐるしく取り込む
暫く荒い呼吸と、流れ込んだ川の水を咳と共に吐き出すのを繰り返して、漸くリュドリカは意識を取り戻した
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