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第三章 迅雷の国カンナル
39.旅での足手まとい
しおりを挟む丸一日走り続けた翌日、リュドリカ達はチート能力が消えてのんびりと探索をしながらカンナルに向かっていた
川を見つけ、その周囲に野生動物が残した足跡を見つける
ラシエルはしゃがみ込み、それがまだ真新しいものだと確信した
「そろそろ食糧の補給もしときましょうか」
辺りに顔を向け、手頃な枝を拾い削り始める
その手際の良いラシエルの動作をただ呆然と見つめながらリュドリカは遠い目をする
「……カンナルは遠いなぁ。ラシエル、その前にちょっと休憩したい……」
体力のないリュドリカの身体はすぐにバテてしまい、ふらふらと近くの木陰に座り込む
ラシエルは心配そうにリュドリカの元に寄り、しゃがみ込んで目線を合わせた
「大丈夫ですか?俺はまだ動けるので、そこで休んでて下さい。狩りをしてきます」
ラシエルはそう言って自身のウォーターボトルをこちらに差し出し額に伝う汗を拭い取る
「ん……ごめん」
「何かあればすぐ駆けつけますので、大声で俺を呼んでください」
「うん、分かった」
ラシエルはニコリと微笑むと立ち上がり、途中だった木の枝をサバイバルナイフで先端を仕上げる
そしてそのまま遠くに見える鹿の群れへとゆっくりと近づいていった
「ラシエルは元気だなぁ。そういえば俺も筋トレするとか言っておいて全然してなかったな……」
ふぅ、と一息吐きぼんやりと空を眺めていると、ヴヴヴと首にぶら下がるパールのネックレスが震えた
「ッ!魔王からの通信……!?」
しまった、火焔の国でエンドルフィンの洗脳を解いたのがきっとバレたんだ。マズい……どうしよう
考えるよりも先に口が動いてしまい、リュドリカは魔王との通信に応答してしまう
「はい、ガヴァルタ様……」
『貴様……何をしている?エンドルフィンの洗脳が解けていたと、バルダタに向かわせた遣いから聞いたぞ』
「それは……」
『もう良い。お前は俺を裏切ったと判断する。そのままくたばって魔物のエサになれ』
「ッ…と、お待ち下さい!実は……手違いで俺が里の人間に捕まってしまい、成す術がなかったのです……」
これは間違ってはいない。実際何も出来なかったんだし……
『言い訳は聞きたくないと言っておるだろうが』
「そっその代わり……!今は迅雷の国に向かっています!そこの神獣ライダンに、勇者に雷を撃ち落とすように……」
『………。フンッ、少しは頭が回るようになったんだな。しかし次はない。いいか、そこで必ず勇者を始末しろ。さもないと貴様を殺す』
「は……はい……」
真珠のネックレスの光がスッと消える
それを見届けると大きな溜息を吐いて頭をグシャグシャと掻いた
「マズいな……本当にそろそろ何とかしないと……」
流石の魔王も三度目はないだろう
もういつこの首にぶら下がる遠隔爆弾が作動してもおかしくはない
リュドリカは木に背もたれて、木漏れ日から差し込む光をボーッと見つめた
「何か策は……」
ぼんやり空を見上げていると、鼻頭に葉っぱが落ちる
リュドリカはそれを拾い上げ数秒と考えた。そして一つの案を思いつく
「リュドリカ……頼む……お前が優秀な魔術師であってくれ……」
懐からロッドを取り出し、元の大きさに戻す
辺りの落ち葉を掻き集め、数分と熟考を重ねた後、とある念を頭で唱える
ロッドは光を放ち、その後の光景に目を見開いた
「これなら……いけるかもしれない……」
縋るように拳を握り締め、ごくりと息を呑んだ
ラシエルが遠くで、声を掛けてくる
リュドリカは何食わぬ笑顔で手を振った
.
「うーん……」
「どうしました?」
迅雷の国へ歩を進めるリュドリカ達。そこに向かうまでの道のりに旅宿は少なく、幾日も野営を繰り返していた
既に補給した食糧も底を尽きかけ、リュドリカは木陰に座り込みラシエルは再び狩りの準備を進めている
「……ラシエル、ごめん」
「え?どうしてですか?」
本当ならとっくに迅雷の国に到着していてもおかしくない頃なのに、俺の身体の体力の無さが何日もラシエルの足手まといになり、到着を随分と遅らせていた
「俺が体力無くて……ラシエルだけならとっくにカンナルに着いててもおかしくないのに」
「そんな事か。気にしないで下さい、俺はのんびり旅が出来て楽しいですよ」
「そ、……か」
ラシエルは何の嫌味も無く純粋にそう言う
しかしリュドリカにとってはここまでの道筋が“のんびり”などという腑抜けた表現で言い表せない程過酷なものに感じていた
ゲーム内では特に気にしなかった天候の移り変わりや、気温の落差に体調は崩され、ただでさえ遠回りの平地や舗装された道を選んで進んで行っているのに、高低差のある崖や山間の止むを得ない通過には、どんどん体力を削られていった
そのおかげで何度も休憩を繰り返しては、何度も日が沈みまた朝日を迎える日々を過ごし旅をしている
「えっと……あ、それに俺だけなら一生着くことも出来ない筈です。迅雷の国が西方面にあるというのは知っていますが、詳しい場所なんて知らないですし」
「……。……うん」
ラシエルは明らかに気を落とすリュドリカの様子を見て察したのか気を遣うように付け足した
ラシエルが場所を知らないのは当然だ
今俺達が進んでいるのは所謂二周目ルートになるんだから
一周目では必ず最古の里クラギラに向かわなくてはいけなかった
そこでこのカロリアの地図とコンパスを手に入れる
それを見ながら旅をして行くのに、俺は何度もプレイした事のあるこの世界の風景を熟知しているため、その過程をすっ飛ばしていた。なのでこの世界の地理の事は当然俺しか知り得ない
……それでも、道行く他の旅人や宿の店主などに話しかければ大体の方角のヒントなどは貰える筈だ
戦闘能力の皆無の俺は、唯一のアイデンティティであろう魔法もろくに扱う事もせず、とことんラシエルの足手まといにしかなっていなかった
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