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第七章 最古の里クラギラ

98.貴方の好きなところ

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まるで見抜いているかのように、ラシエルはリュドリカを安心させる言葉を口々に告げる

「はい。貴方の真っ直ぐ素直で何事にも一生懸命な姿も、」
「魔法に頼らず自分の力でこなそうとする頑張りも、」
「人を疑う事も恨んだりする事もしない優しさも、」

普段から饒舌じゃないのにも関わらず、沢山の好きな所を言葉にして列挙する

「いつも俺を驚かせる突拍子も無い行動も、」
「目を離すとすぐに何処かへ消えてしまう危うさも、」

「……ん?」

それを心地良く聞いていたが、段々と良いことなのか褒められているのか分からなくなる

「……そうですね。あとは……貴方は俺の外見ばかり褒めますが、自分の見た目も自覚して謹んで貰いたい所もあります」

「え……どういう意味だよ?」

ラシエルの声のトーンが少し低くなる。ジッとリュドリカの顔を眺めては、呆れたような含みのある口調で話す

「貴方が余りにも無邪気に誰にでも気安く話しかけるものだから、俺はいつも気が気じゃないんです」

「?」

「……はあ。貴方は気付いて無いと思いますが、貴方の事を如何わしい目で見る不埒者は凄く多いんですよ?」

「……はっ、まさか!そんな如何わしい目を向けるのはお前くらいだぞ」

「俺を含めて、多数いるんです。現に貴方は一度酔って酒場で複数の男に連れ去られそうになったんですから」

「っ!?そ、そうなの!?」

ラシエルは咄嗟にこれは言うつもりは無かったんですが、と目を丸くさせるリュドリカの頬を撫でた
そんな一切の記憶の無いリュドリカは、自分の迂闊さをまた思い知る

「ごめんラシエル……それは、迷惑かけた……」

「……いえ。なので、見ず知らずの人と話すのはやめて下さい。それと何か売り買いする時はまず俺に言って。あと商人におじさん、なんて軽々しく呼ばないで」

「うん……。…うん?」

最終的にラシエルはリュドリカに対する普段の不満をぶつけてきていた。

見ず知らずの人、はこのゲームをやり込んでいるリュドリカからすると、一方的に相手の事を認知しているので、カシミアの時のように見た目がどうであれ、そのキャラの良し悪しが事前に分かってしまっている。

なのでつい何も考えずに突っ走って誰にでも話しかけてしまうのは、ラシエルからするとかなり警戒心の無い奴だと思われても仕方が無かった

しかし後半は、アイテムを売り買いする商人にも話しかけるなというまるで独占欲の塊たいな発言に、少し過敏になりすぎだと感じたが、ここで口答えをするときっとラシエルは静かに気を落とすと察し、リュドリカは素直に聞き入れた

「……分かった。もうお前が心配するような事は……なるべく控える」

絶対。とは流石に言い切れなかった
それでもラシエルは俺の言葉に少し驚いたのか唖然として、パッと表情が明るくなる

「ほんとですか?」

「うん……」

愛しそうに俺のおでこに口付けを落としては嬉しいですと抱き締める。端から見ればこんな束縛発言、どうかと思うのに。いつの間にか完全に身も心もこの勇者に絆されまくってしまっている

「貴方が、危険な目に遭いそうになった時、何度も俺の名前を呼んでくれて嬉しかったです」

「だって、それは……本当に死ぬかと思って……」

しかし契約のワープが発動してこちらに召喚されていただなんて微塵も知らなかった。ただ本当にタイミング良く、危険な場面に登場する正義のヒーローのように思っていたから、疑う事すらしなかった。

そもそも、何で隠してたんだよ。言ってくれれば良かったのに
そう思うとリュドリカは厶、と膨れてラシエルをジト目で訴える

「ふふ、リュドリカさん……あと貴方は、他にも俺の名前を呼んでくれていた時がありますよ」

「……?えっ、いつ……」

正直、どういったタイミングでこの契約が発動してラシエルが俺の元にワープしてくるのかは、実際に目の当たりにした事が無いので実感が湧かなかった。それに、いつも何かしらラシエルの事はずっと頭で考えているし……

ラシエルはリュドリカの手を取り、その細くて白い指先に自身の指を絡め取る

「貴方が……一人の時、何度も俺の名前を呼んでいました」

「……??」

「忘れましたか?一人で、ここを慰めていた時、何度も何度も切なそうに俺の名を呼んでいた事を」

ラシエルの手が絡めた指先から離れ、リュドリカの太ももに滑りそのまま腰付近をグ、と撫で付ける
その動作に、リュドリカは全身を真っ赤に染めた

「~~ッッ!!?はっ!?ッ、なっ!?見てた、のか!?」

「はい。貴方が、毎晩ベッドの上でここをグズグズにして、泣きながら俺の名前を呟いていたから……隣の部屋から喚び出されていました」

「ッッッ!!」 

火を噴くほど顔が熱くなる
わなわなと身体が震えて、羞恥で頭がどうにかなりそうだった。
俺が、一人虚しく自慰行為に励んでいた時、ずっと慰みの対象だった当の本人に見られていただなんて

「む、無理っっ!!そんなの死ぬ!!」

何もかも見透かしたような澄ました目で見つめるラシエルを押し退け、枕に顔を埋め声にもならない音を叫ぶ

「あはは、そんな風にずっと枕に顔を沈めていたから、俺が側にいても全く気づきませんでしたよね」

「や、やめろ!言うなっばかっ!!変態!!」

「はい、本当に……俺は愚か者で情けない男です。疲れてそのまま眠りに就く貴方を、こうして抱き締める事も出来なかったんですから」

ぎゅう、とラシエルは俺の身体を引き寄せ、クスクスと笑いながら強く抱き締める。
もうこれ以上は何も耳にしたくないと、抵抗も見せずにリュドリカはただ突っ伏した状態で、枕に顔を埋め唸る事しか出来なかった

「俺は自身の意思に反してそんな貴方を置いて自室に戻って……はあ、あんな思い、二度としたくないですし、貴方にもさせたくありません」

あぁ、でも俺の名を呼びながら一人でする姿はもう一度見たいです。と恥ずかしげも無く言ってくるので、俺は顔を背けながらラシエルの肩を殴った

「うるさいうるさいっ!もうこんな契約やめてやる!!」

「え?嫌です。契約は絶対解除しません」

ちゅ、ちゅ、とラシエルは嬉しそうに顔を背けるリュドリカの頭にキスを落とす
好き勝手に言ってくるのを、羞恥で涙を浮かせながらギロリと睨みつけた

「ひ、人がオナってるのこっそり覗き見してるなんて悪趣味だぞおまえぇっ」

「そういうリュドリカさんこそ、俺をオカズに使って……凄く良い趣味してますよ」

「ぅああああ゙あ゙っ!!もうっ!嫌だっ!ラシエル嫌い!!」

「ふふ、俺は大好きです」

穴があったら入りたいを具現するかのように、リュドリカはブランケットで身体を覆い被さった。
ラシエルはそれを愛しそうに見つめながらも、同時に少し寂しそうな目を向ける
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