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第六章 雪原の国マリスノウ

91.今のままでいい1

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「……っあ、あははっ」

脳天気な笑い声に二人が振り向く
二人が見たのはリュドリカが声を出して笑っている姿だった

「何が面白い」

「リュドリカさん……?」

「あっいや……ごめん。ラシエルの言葉が嬉しくて……つい……」

一生を賭ける。なんて
そんな歯の浮くセリフがたまらなく嬉しい気持ちになるなんて思わなかった。
俺はこの先も、ずっとラシエルの側に居ていいんだと言われているようで、顔が綻びまた目頭が熱くなる

「リュドリカさん……」

ラシエルは困ったように俺を見る
ラセツはうんざりした顔でまた大きくハァと息を漏らした

「ハッ、性懲りも無く惚気おって。あーやめだやめだ、興が醒めた。早くここから消え失せろ」

「えっと、それなんだけど……ラセツ、」

「銀灰のヌシーー!!!このおバカーー!!」

突如、小屋の外から高い叫び声が響き渡る
その声に一番に反応を示したのはラセツだった

「なっ、この声は……ルル……!?」

窓の外から風切音がする
何枚かの鳥の羽がひらひらと舞い落ちるのを目で追っていると、バンッと窓が全開に開きその後に勢いよく何かが小屋の中に飛び込んできた

「あーーっいたたっ!もっと丁寧に扱ってよ!」

ドシンと鈍い音が鳴り飛び込んできたその小さな動物がすぐ立ち上がると、すぐさま後ろを振り返り文句を垂れる

「うっせ!お前重いんだよ!少しは痩せろ!」

「何ですって!?後で覚えてなさい!!」

窓の付近でオオワシとキツネがぎゃいぎゃいといがみ合っている
それを見てラセツは酷く狼狽えた

「な、何故……お前達……死んでいなかったのか……?」

「はぁ!?勝手に殺さないでちょうだい!ワジム、銀灰のヌシは無事よ。麓に降りてみんなに伝えてきて!」

「なにっ!?お前っまだ真夜中で夜目が効かねえってのに……ワシ使いが荒いぞ!?」

「ここには来れたじゃない!大丈夫でしょ!」

「それはここだけ妙に明るかったからだよ!」

「いいから早く行きなさいよ!」

オオワシは全く……とぶつくさ言いながら再び窓の外から羽ばたき山を降りていく

ルルはそれを見届けるとすぐさまラセツの方に顔を向けた

「うん、うん!無事に元に戻ったみたいね!良かったわ。本当にありがとう二人とも」

ルルは歓喜に満ちた顔でラシエルとリュドリカを交互に見た
ラセツは一人置いていかれた状態で、困惑している

「な、何の事だ……」

衣服は掛けられているが素っ裸のリュドリカと、聖剣を構えてラセツに立ち向かうラシエルの様子を見てルルはすぐさま状況を察した

「まぁ!?何の事だじゃないわよ!彼らのおかげで貴方も私達も元に戻れたのよ?ちゃんとお礼を言ったの!?」

「っっ!」

ラセツは目をぱちくりとさせ、唖然とする
そしてすぐ分が悪そうにラシエル達に目を向けた

「あー……なんだ、その、悪かった。色々と誤解があったようだ」

頬を掻きながら二メートルの大の男が小さなキツネ相手に身を竦めている
それを見てまたリュドリカは笑った

「あはははっ全然いいって!無事に元に戻れたんだし、本当に良かったよ」

そこまで言うと、グイッと腕を引かれる
振り向くとラシエルはまだ警戒した視線をラセツに向けていた

「リュドリカさん……貴方は本当に甘すぎる……」

ラシエルはハァ、と息を吐き眉間に皺を寄せリュドリカを見下ろす。
よっぽど先程の事が許容できないのか、構えた聖剣を下ろすことをしない 

「ラシエル……」

リュドリカはそれを見て、怒りを抑えるようにラシエルの握る聖剣に手を伸ばした

「ラシエル聞いて……俺な、本当はラセツが元に戻った事よりも……お前が、前みたいに俺の事を見てくれてる事が嬉しいんだ」

リュドリカは微笑む

こんなにも真っ直ぐ俺の事を見つめて、俺の事で怒りを露わにすることが、今ではどうしようもなく嬉しいなんて、前までの自分では感じなかったはずなのに

「だからもうソレ降ろせよ、な?」

ラシエルはその言葉で漸く気持ちが少し落ち着いてきたのか、聖剣を握る手を緩めた

「リュドリカさん……」

ラシエルは申し訳が立たないのか、分が悪そうに萎縮する。
それを見て次に、リュドリカは頬を膨らませた

「……でもお前、本当に冷たかったよな!そりゃ確かに俺だって凄く悪かったけどさ……めちゃくちゃ寂しかったし、辛かったんだぞ!」

場を和ませようと照れ隠しのつもりで冗談めかしたのだったが、ラシエルは更に深刻に焦りの表情を浮かべた

「そ、それはっ……!本当に、俺がいけないんです……変な魔術に掛かってしまって……彼女がそれを解いてくれたんです」

「……え、魔術……?」

ラシエルは頷きルルに目を向ける
リュドリカもそれにつられて同じ方向を向いた
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