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第五章 光風の国ブリサルト

64.動けません

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ラシエルは早速、堂々とサラに治療を行って貰う為に中央広場に人を集めた。
そこから噂が噂を呼び、カタルアローズ王国のサラ王女が、女王なきブリサルトの危機を救う救世主様だと瞬く間に噂が広がっていった

数日も経たない内に、やはり噂を聞きつけた魔王軍の一味がサラの拉致を狙いに来るが、リュドリカは何度も襲い来る敵の大体のリスポーン位置は覚えていたので、ラシエルに事前に伝える事が出来た。

ラシエル達は敵を殲滅し、病気にかかった人々を見つけ出し治療を行い、順調にサラの評判を上げていった


「今はどこを歩いてもサラの話を聞くよな~」

ラシエル達は、残り少ない厄病患者を見つけ出す作業をする為に、城下街を歩いていた。
数週間も経つと、街の人々は救世主サラ王女の話で持ち切りになり、話題が絶えない様子だった

「そうですかね」

「お前……」

ラシエルはそこまで関心が無さそうに答えるので、少しでもサラに興味を持って貰う為にも、リュドリカはサラの良いところを次々に口にした。

「サラってめちゃくちゃ美人だよな。特にあの目、初めて見た時はドキドキした!」

「それに、ローブを着てるから分かり辛いけど胸も結構あるよな」

「お淑やかで優しくて美人で、まさに才色兼備ってヤツだな!」

へらへらと笑いながらサラの事を褒めちぎるが、そのどれもラシエルからの返事は無かった。

「ラシエルも、ああいう人がお嫁さんになったら……」

「さっきから何を言ってるんですか?」

酷く冷たい声色が、鮮明に鼓膜に響く
驚いて横に顔を向けると、ラシエルは立ち止まったまま冷ややかな眼差しで俺を見下ろしていた

「え?な、何って……別に、本当の事を……」

あまりに冷酷な視線に、リュドリカは動揺し戸惑いを見せる

「貴方の考えている事はよく分かりません。俺を怒らせたいと言うのならば、もう十分です」

ラシエルはかなり怒っている様子で、それ以上言葉を口にすることは無かった

「え……なに、俺、なんか変なこと言った……?」

「……。」

ラシエルは答えない。
人の行き交う街の真ん中で、ただ黙ったまま俺を見ている

「ラシエル?そんな所にいたら邪魔に……」

「動けません」

「は?」

ラシエルは、俺を見つめたまま淡々と告げる

「急に身体が動けなくなりました。なんとかして下さい」

「な、なんとかって、何で急に……だって、キ、スならもう今朝したのに……」

「足りなかったみたいですね。リュドリカさんからして下さい」

「えっ!?いやいや。こんな街中でするなんて無理……手繋ぐから、今はそれで……」

ラシエルの袖を掴むと、パシンとその手を払い除けられた
リュドリカは唖然と目が開く

「嫌です。キスして下さい」

「なっ、お前っ!……てか待てよ。動けてるよな!?危うく騙される所だった……そんな冗談言ってないで早く行くぞ」

「………。」

ラシエルはジトっと目を細めて、責めるような視線を送り続けてくる
負けじと手を引いても、当然強く引き返されてしまう

「フードを被っているので周りからは分かりません」

「そっ、そういう問題じゃないだろ……ほらっこんな街のど真ん中に突っ立ってるから邪魔になってるし……!」

街の人々は道の中央に立ち往生する俺らを怪訝な目で見ている
到底そんな状況で、キスなんて出来る筈もない

「なら早く済ませて下さい。堂々とすれば挨拶とでも思うでしょう」

しかしラシエルも一歩も引かない。分かっている、ここまでいくと意地でも譲らないのがこの男だ。俺は言葉が詰まる

「っ……、どうしていきなり……」

「どうして?それは俺のセリフです。どうして分からないんですか?俺はずっと、ずっと我慢しているのに。貴方は俺を困らせる事しかしない」

ラシエルの声量が大きくなり、段々と周囲の人間もざわつき始める。ローブを着ているのは他所そとから来た人間だ。外部の人間が揉め事を起こしていると思われ兼ねない

「わ、かった……分かったから!」

焦ったリュドリカは早く済ませてしまおうと、ラシエルの胸ぐらを掴んで精一杯背伸びをする。が、しかし身長差は20センチ以上もある。棒立ちしたまま動かないラシエルに当然届く筈もない

「な、なぁ……っ、ちょっと……しゃがんでくれないと、届かないんだけど……!」

「はい」

ラシエルは前屈みになり、俺がちょうど届くところまで頭を下げる。
内心でこういう時は素直に動きやがって!と文句を言いたいところだが、早くこの状況をなんとかしたい為、グッと堪えて目を瞑り、唇を合わせた。

「……ッ、ふ」

「……!」

「ん……ンぁ、はぁ……」

俺の方から口を割り、舌を絡ませる。
ラシエルは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにそれに応えた。
どうせいつものことだ。パッと離れても全然足りないだとか、もっとして下さいっていうのは目に見えてる。
なので敢えて俺の方からしつこく迫ってみた。周りの声がざわつくのも聞こえている。恥ずかしさで心臓が破裂しそうで、フードを更に深く被った

「……ふゥ……ハッ、ンン……ッ、はぁ、これでいいだろっ」

「……俺のこと、分かってきましたね」

分かってたつもり、だったんだけどな。最初は
正直今ではもう、この勇者ラシエルの考えている事が全然分からない。
俺は熱く火照る顔を冷まそうとローブのフードでうちわを扇いだ


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