65 / 144
第五章 光風の国ブリサルト
64.動けません
しおりを挟むラシエルは早速、堂々とサラに治療を行って貰う為に中央広場に人を集めた。
そこから噂が噂を呼び、カタルアローズ王国のサラ王女が、女王なきブリサルトの危機を救う救世主様だと瞬く間に噂が広がっていった
数日も経たない内に、やはり噂を聞きつけた魔王軍の一味がサラの拉致を狙いに来るが、リュドリカは何度も襲い来る敵の大体のリスポーン位置は覚えていたので、ラシエルに事前に伝える事が出来た。
ラシエル達は敵を殲滅し、病気にかかった人々を見つけ出し治療を行い、順調にサラの評判を上げていった
「今はどこを歩いてもサラの話を聞くよな~」
ラシエル達は、残り少ない厄病患者を見つけ出す作業をする為に、城下街を歩いていた。
数週間も経つと、街の人々は救世主サラ王女の話で持ち切りになり、話題が絶えない様子だった
「そうですかね」
「お前……」
ラシエルはそこまで関心が無さそうに答えるので、少しでもサラに興味を持って貰う為にも、リュドリカはサラの良いところを次々に口にした。
「サラってめちゃくちゃ美人だよな。特にあの目、初めて見た時はドキドキした!」
「それに、ローブを着てるから分かり辛いけど胸も結構あるよな」
「お淑やかで優しくて美人で、まさに才色兼備ってヤツだな!」
へらへらと笑いながらサラの事を褒めちぎるが、そのどれもラシエルからの返事は無かった。
「ラシエルも、ああいう人がお嫁さんになったら……」
「さっきから何を言ってるんですか?」
酷く冷たい声色が、鮮明に鼓膜に響く
驚いて横に顔を向けると、ラシエルは立ち止まったまま冷ややかな眼差しで俺を見下ろしていた
「え?な、何って……別に、本当の事を……」
あまりに冷酷な視線に、リュドリカは動揺し戸惑いを見せる
「貴方の考えている事はよく分かりません。俺を怒らせたいと言うのならば、もう十分です」
ラシエルはかなり怒っている様子で、それ以上言葉を口にすることは無かった
「え……なに、俺、なんか変なこと言った……?」
「……。」
ラシエルは答えない。
人の行き交う街の真ん中で、ただ黙ったまま俺を見ている
「ラシエル?そんな所にいたら邪魔に……」
「動けません」
「は?」
ラシエルは、俺を見つめたまま淡々と告げる
「急に身体が動けなくなりました。なんとかして下さい」
「な、なんとかって、何で急に……だって、キ、スならもう今朝したのに……」
「足りなかったみたいですね。リュドリカさんからして下さい」
「えっ!?いやいや。こんな街中でするなんて無理……手繋ぐから、今はそれで……」
ラシエルの袖を掴むと、パシンとその手を払い除けられた
リュドリカは唖然と目が開く
「嫌です。キスして下さい」
「なっ、お前っ!……てか待てよ。動けてるよな!?危うく騙される所だった……そんな冗談言ってないで早く行くぞ」
「………。」
ラシエルはジトっと目を細めて、責めるような視線を送り続けてくる
負けじと手を引いても、当然強く引き返されてしまう
「フードを被っているので周りからは分かりません」
「そっ、そういう問題じゃないだろ……ほらっこんな街のど真ん中に突っ立ってるから邪魔になってるし……!」
街の人々は道の中央に立ち往生する俺らを怪訝な目で見ている
到底そんな状況で、キスなんて出来る筈もない
「なら早く済ませて下さい。堂々とすれば挨拶とでも思うでしょう」
しかしラシエルも一歩も引かない。分かっている、ここまでいくと意地でも譲らないのがこの男だ。俺は言葉が詰まる
「っ……、どうしていきなり……」
「どうして?それは俺のセリフです。どうして分からないんですか?俺はずっと、ずっと我慢しているのに。貴方は俺を困らせる事しかしない」
ラシエルの声量が大きくなり、段々と周囲の人間もざわつき始める。ローブを着ているのは他所から来た人間だ。外部の人間が揉め事を起こしていると思われ兼ねない
「わ、かった……分かったから!」
焦ったリュドリカは早く済ませてしまおうと、ラシエルの胸ぐらを掴んで精一杯背伸びをする。が、しかし身長差は20センチ以上もある。棒立ちしたまま動かないラシエルに当然届く筈もない
「な、なぁ……っ、ちょっと……しゃがんでくれないと、届かないんだけど……!」
「はい」
ラシエルは前屈みになり、俺がちょうど届くところまで頭を下げる。
内心でこういう時は素直に動きやがって!と文句を言いたいところだが、早くこの状況をなんとかしたい為、グッと堪えて目を瞑り、唇を合わせた。
「……ッ、ふ」
「……!」
「ん……ンぁ、はぁ……」
俺の方から口を割り、舌を絡ませる。
ラシエルは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにそれに応えた。
どうせいつものことだ。パッと離れても全然足りないだとか、もっとして下さいっていうのは目に見えてる。
なので敢えて俺の方からしつこく迫ってみた。周りの声がざわつくのも聞こえている。恥ずかしさで心臓が破裂しそうで、フードを更に深く被った
「……ふゥ……ハッ、ンン……ッ、はぁ、これでいいだろっ」
「……俺のこと、分かってきましたね」
分かってたつもり、だったんだけどな。最初は
正直今ではもう、この勇者ラシエルの考えている事が全然分からない。
俺は熱く火照る顔を冷まそうとローブのフードでうちわを扇いだ
145
お気に入りに追加
844
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる