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第三章 迅雷の国カンナル
28.宿屋のひととき2
しおりを挟む「何してたんですか?凄く心配しました」
部屋に戻ると扉を開けてすぐにラシエルが立っていた
顔には焦りの表情を浮かべていて、今にも部屋から出ていきそうな雰囲気だった
「あ、ごめん…ちょっと宿ん中散歩してて」
「なら俺も誘って下さい。一人では危険です」
ラシエルに手を引かれる。探しに行くところでした。良かったです無事でと本気で心配しているように言うから少し過保護過ぎると思った俺は、笑いながら突っ込んだ
「アハハ、そんな大袈裟だな~宿に魔物なんか出ないぞ?」
そのままベッドまで連れて行かれ、ぎゅうと抱きしめてきて、ラシエルは深い溜息をついた。そして深刻そうに
「魔物よりも危険なケダモノがいますから……」
なんて言うから、俺は爽やかに微笑んだ
お前が一番のケダモノだけどな
「分かった。次からはそうする……だからもう放せよ!」
当然のようにベッドの中に引き入れようとするラシエルの肩を叩く
ラシエルはお得意の寂しそうな顔をしてくるが、今回ばかりは俺も負けない
「どうしてですか?もう何度も寝てるのに」
「その言い方は誤解を生むからやめろ。俺は今日絶対一人で寝るからな」
抱きついてくるラシエルの腕を強引に引き剥がそうとすると、意外にもそれはアッサリと解放された
「わかりました。諦めます」
「お?おう…」
余りの聞き分けの良さに、何だか嫌な予感がする
「その代わり朝になったらリュドリカさんからキスして下さい。それで起きたいです」
「はぁ!?やだよ!」
やっぱり!この男の脳内は世界を救うよりも欲求に従う事にかまけすぎてないか!?
「なら一緒に寝てください。俺達結婚してるんですよ?」
「うっ…」
次は切り札として持ってる最強のカードを忘れかけている頃に出してきやがった
俺は数分悩んだあと、ハァと溜息をつく
「分かったよ…キスするから、今日は別々で寝る」
ラシエルの表情が一気に明るくなる
「ホントですか!嬉しいです!」
無邪気に笑顔を振りまくラシエルは、布団に潜り込みおやすみなさいと言ってそのまますぐに入眠に移った
取り残された俺はまたいいように絆されてると溜息を吐いて頭を掻く
「はぁ……まあいいや。俺も寝よ」
それだとしても、ある目的を遂行する為に別々で寝ることに成功したので、やむを得ないと言い聞かせ俺も無理やり枕に顔を埋めた
明朝、目が覚めたリュドリカは、ふと隣を見る
最近はずっと動いている姿しか見てこなかったから、石のように動かないラシエルを確認してポツリと独り言を漏らした
「良し…今がチャンスだ」
自分のベッドを抜けて、ラシエルの眠るベッドへと近付く
ラシエルの身体に触れないように、ゆっくりとブランケットを外しその姿を目に焼き付ける
「やっぱりめちゃくちゃカッコイイ…黙ってれば本当に文句無しなんだよな」
寝ているラシエルは、目を瞑っていても分かるくっきりな二重線に切れ長の眉、筋の通った鼻に少し焼けた小麦色の肌、そして血色の良い唇……そのどれもが魅力的で感嘆と息が漏れる
「ハァ……って見惚れてる場合じゃない。早速これを使おう」
俺は昨日露天で買ったとあるアイテムを取り出して、それをラシエルに向ける
五十四箇所ある内のいずれか一つのボタンを適当に押すと、フォンと音が鳴りそこに寝ているラシエルの姿を映し出した
「うわ!すげえ!ほんとに撮れた!」
露天で買ったアイテムは、写し絵キューブといって九掛ける六面の全五十四箇所に、映像を残す事が出来るアイテムだ
その映像は写真にだけに留まらず動画も撮ることができ、4D画像のように立体的に映し出す
そして何と言っても凄いのが、際限なく大きさを変えられ写した映像を映画館のスクリーンのような大きさまで拡大化させることが可能だった
「この世界にいるのに写真が撮れないなんて考えられないよな~いっぱい撮っとこ」
一枚二枚と写真を追加させ、悦に入る俺はふとラシエルの足に目が行く
「ん?」
普段はブーツを履いているので分からなかったが、ラシエルの脚のくるぶしに何やらタトゥーのような模様が入っている事に気づいた
入れ墨…?意外とヤンキーなんだな…
またラシエルの新たな一面を知った俺はほう、と感心しつつ、ふと昨日の魔術師の言葉を思い出す
“お互いの家紋をお互いの身体の何処かに印を刻む”
まさか…これどっかの家紋か…?そう言えばどっかで見たような紋様…
「あっ」
そう言えば、後々出てくる第二ヒロインのサラは、実は魔王が占拠する前に唯一逃げ切れたローズ王家の姫で、高い能力を持った治癒士でもあった
「治癒士ってことは…それも魔法?だもんな」
ラシエルは幼少期に父親に連れられて近衛騎士の演舞場で剣の稽古を受けていた過去があり、そこで実はサラと出会っている
本ストーリーには無かったけど、裏設定などで契約してたりするのかな?だとしたら奥が深いゲームだなぁ
でも…王家の紋様ってこんなだっかなぁ…
うーん、と頭を悩ませてまあ考えてもしょうがないと思った俺はラシエルに直接聞こうと思った
「そろそろ起こさないとな」
そして昨夜ラシエルに言われた言葉を思い出した
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