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第二章 火焔の国バルダタ

25. NPCの発言権

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「これがこの家の家宝だ。魔王討伐の時に是非使って欲しい」

パイロは、御蔵から伝説の武具である退魔の鎧を取り出した。
溶岩や火山灰で造られたこの鎧は、エンドルフィンの神力によって砲弾をも防ぐ防御魔術が施されていると言われる

「これは俺の先祖が代々魔王を倒す時に勇者に託すモノだと両親から教わってきた。今は力が弱まっているから、一日待ってくれ。魔力の補給をする」

すっかり里長としての威厳が芽生え始めたパイロは、幼いながらもとても逞しくみえた

「魔王が復活したら、これを身に着け必ずヤツを倒します」

ラシエルは新たな火焔の国バルダタの里長の前に膝をつき、頭を下げる
俺もつられてペコリと頭だけを下げた

しかしパイロはラシエルの言葉に疑問を持ったのか、首を傾げる

「何言ってんだ?魔王はもうとっくに復活して……」
「うあぁ!?そうだ!!俺達このあと、溶岩石で作るっていうこの国の名物の焼き芋食べようって言ってて!行こうラシエル!?」

「焼き芋……今ですか?」

「今!!早く行こうぜ!」

「芋屋はこの家を出て左に曲がって少し行った所にあるぞ」

「あ、あぁ!分かった!ありがとなパイロ!」

「夕餉の前には帰って来いよ」

「分かった!」

「ふふ、どっちが子どもか分かりませんね」


危ない危ない!ラシエルにはまだ魔王が復活したことを知られるわけにはいかないのに!
これからは周りのキャラ達の発言にも気をつけていかないといけないのか……!

防御力はこれでかなり上がったけど、まだまだ力が足りない。
今思えば、魔王にはあんな嘘をついてしまったが、俺が転生するより前に、リュドリカがもうとっくにラシエルの聖剣に魔術を施している可能性があるということを全く考えていなかった

これを確認する為にはどうしても王都カタルアローズに入らなければいけない
王城に仕掛けている魔法陣に反応して、聖剣に掛けられた魔術が発動するシステムになっているからだ

そしてその聖剣を抜く為には、とにかく力がいる
力技で抜いてしまうのだ、魔術を掛けられた聖剣を。

「次は……迅雷の国だな」

焼き芋屋に着いた俺達は芋を片手に、ボソリと言う

そこのボスを倒せば、パワーグローブが手に入る
聖剣を引き抜く力を手に入れられれば、魔王の攻撃によって即死する未来をそのパワーグローブのおかげで免れる

そう、俺がラシエルの即死エンドを変えなければいけない。
フフンと得意げに鼻を鳴らし、大きく口を開け焼き芋を齧る。舌を火傷した

「そういや勇者のアンちゃん達こんなところで呑気にしてていいのか?魔王はとっくに王都を占拠してるだろうってのに」

「えっ?」

「ぅゲホッ!ゴホッ!!」

おいNPC!?何余計な事を言ってんだよ!?
人が折角格好良くキメていたところなのに!黙って芋焼いてろよ!?

「それはどういうことですか?」

ラシエルは芋屋のおじさんに怪訝そうに尋ねた
おじさんはその質問に拍子抜けする

「どうってそりゃ言ったまんま……」

「ラシエル!!ちょっと話がある!!」

俺は噎せながらドンドンと拳を鳩尾に叩き、ラシエルをその場から連れ出す

明らかに困惑しているラシエルにどう説明したらいいのか、俺は歩きながら頭をフル回転させた



「待って下さい、リュドリカさん」

そして全く良い考えが浮かばず、三十分ほど歩いたところでラシエルに引き留められる

そしてまだ何も思いついていない

「リュドリカさん、そろそろどういうことか説明してくれますか?」

ラシエルは、困ったように俺に尋ねる
しかしラシエル以上に困ってしまっている俺は、考えあぐねた結果、もうこうなったら事の経緯を正直に話す事に決めた

「ラシエル……ごめん。ずっと黙ってて……その、魔王は、もう復活してる……」

「!!それじゃあすぐに王都に……!」

「けどっ!今のお前じゃダメなんだ……魔王には絶対に勝てない……」

「…ッ」

心苦しい!!正直こんなこと最推しに言うなんて気が引けるが、俺はラシエルに現実を突きつける

「魔王の力は強大で、どうにもならないんだ。俺達は魔王に立ち向かう為の伝説の武器を手に入れていかないといけない。そして俺は、それが何処にあるのか全部知ってる」

「………。」

「ラシエル、俺を信じて欲しい……。まだ王都は助かる……だから……」

魔王はとても傲慢で且つ凶悪で無慈悲だ。
国民に勇者の登場を見届けさせ歓喜させてから、その絶大な力の差で葬り去る
民は自身の王に、名ばかりの勇者に絶望と、憎悪を植え付けて、自身の不幸を嘆きながら滅んでいく

なので!勇者が来ないとアイツ魔王は何もしないということ!ていうかそういうシステム!

今はリュドリカに首を持ち帰れと指示をしているから、その首を掲げて国民の嘆く姿を見ようとかそんな感じのイフルートに転換しているだけだろうし!多分大丈夫!うん!

「………分かりました」

ラシエルは考え込んだ後、真っ直ぐと俺を見つめて言う

「リュドリカさんは……預言者様ですし、その言葉を信じます」

「ラシエル……!」

「それにカタルアローズがもし滅びれば、どこかしらで噂になるはずです。そんな様子もないですしね」

「そ、だな……」

カタルアローズ王国は今洗脳状態にあり、魔王の息がかかったバルダタ含め大きな国以外の外部の人間は、誰もその事実を知ることは出来ない


魔王が自ら出向いてこの国の象徴のエンドルフィンに洗脳でもかける姿を直接見ない限り、魔王の存在を認知することは出来ない
それほどまでにヤツは水面下で勇者の出現を待ち侘びていた
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