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第二章 火焔の国バルダタ

21.俺達結婚してますから

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「おぉ~いラシエルぅ!お前はほんとになんなんだよぉ……」

食事を開始して最序盤で、少量のお酒でリュドリカはもう出来上がっていた

「……リュドリカさん、もう酔っ払ってます?まだ全然少ししか口にしてないのに……」

あんなに楽しみにしていた料理もそこそこに、リュドリカは最近の鬱憤を晴らそうとラシエルをキッと睨む

「うるへっ!そんなことよりっ……イケメンだからって何しても許されると思うなよぉ?」

手に持っていたお猪口を隣に座るラシエルにビシッと向け、グチグチと絡むリュドリカ
呂律が回っていない彼はその拍子でふらっとよろけて倒れそうになり、ラシエルはリュドリカの肩を掴む

「少し水を飲んだほうが……」

自分の手元に置いてあったウォーターボトルをリュドリカの前に差出すと、要らない!といってグッと押し返される

「……勝手に人のファーストキス奪って……なーにが結婚だよ……勇者がそんな勝手なこと言ってて良いのかぁ?俺が本気になったらどうすんだよぅ?ばぁーか!」

リュドリカの白い肌が耳まで真っ赤になり、瞳が潤んで揺れる
ラシエルは困ったように、しかし真剣に答えた

「…………何か勘違いしているみたいですけど、俺は最初からずっと本気です」

リュドリカの肩を支える手に力が入る
大きくて丸々としたヘーゼルの瞳が、涙袋を作りふにゃと崩れる

「へへ……その顔もイケメンだなぁ……ラシエル……大好き……」

「…ッ!リュドリカさんっ……」

リュドリカはそのままコテンと首をラシエルに預け、すぅと寝息を立てる
酒のせいで真っ赤になった肌はぽかぽかと熱くなって、頬がまるで林檎のように朱色に染まっていた

「俺も……好きです……。リュドリカさん……?」

スウスウと安心しきったように眠るリュドリカ
まだ食事もたったの少量しか口にしていないのに、完全に夢の中に落ちてしまった

「……リュドリカさん?もう、寝ちゃったのか……」  

「どうしたんだ?……あれ?隣の勇者様はもうお休みに?」

パイロが見計らったように突然やってきて、リュドリカを見て勇者と呼ぶ
ラシエルはその言葉に怪訝な顔を向ける

「勇者……?あぁ……そう、ですね……。疲れていたみたいです。寝屋はありますか?」

伝説の勇者が代々受け継ぐと言われる服をリュドリカが身に纏っていたので、カロリアの歴史にまつわる勇者の壁画を知っていたパイロは、リュドリカを勇者と勘違いした

「それはこっちに任せて。今従者に運ばせるから、アンタはもう少し食事を楽しんでいけよ」

後ろに立つ複数の男達が、寝ているリュドリカに手を伸ばす
ラシエルはその手を払った

「結構です。俺が運びますから、案内して下さい」

パイロは一瞬顔を顰めたがすぐに作り笑顔に戻り、分かったといいラシエル達を寝屋に案内した

「ここがソイツの部屋だ。オマエには離れに部屋を用意しているから……」

「いえ、俺もここでいいです。お気遣いありがとうございます」

ラシエルは淡々と用意された部屋に入り、扉を閉めようとする
それにパイロは驚き、必死に引き留めた

「え……?……いや、この部屋の寝具は一人用だ。二人には手狭だぞ?」

「構いません」

ラシエルはリュドリカを抱えたまま振り返ることなく冷たく言い捨てる
パイロは半ばやけになって、焦りからか早口でラシエルを説得しようと試みた

「床で寝るには身体を痛める。明日はエンドルフィンと戦うんだ。万全な状態で挑んだ方が……」

「大丈夫です、同衾するので。俺達結婚してますから」

「………け……結婚……??」

ラシエルは漸くパイロを一瞥する。そして少し勝ち誇ったように目を細めて笑みを浮かべ呆然と立ち尽くすパイロを置き去りに、境界線を貼るかのように再び部屋の扉を閉めた




.




リュドリカをベッドの上に横たわらせ、その横にラシエルは腰掛けた
寝ている姿はまるで少年のように幼く、長いまつ毛が真っ直ぐと伸び、熱く火照った肌が妙に色っぽかった
スウスウと小さくて可愛い小鼻から息が漏れ、一文字を結ぶ唇は今すぐ吸い付きたくなるほど魅力的だ

「二十二歳……ね」

ふわふわの銀髪を指を掬い取ると、手触りが気持ち良くてずっと触っていられそうだった。そのまま頭を撫でるとううん、とリュドリカは顔を横に振り閉じていた口がだらしなく開く
余りにも無防備なその姿に、ラシエルの庇護欲が掻き立てられた

「貴方があまりにもウブな反応をするから、もう少し待とうと思っていたのですが……俺より歳上なら、少しぐらい手を出してもいいですよね?」

それと同時に、どうしようもない劣情が湧き立つ

「早く本気になってください。……もう限界なんです」

頭に触れていたラシエルの手がスルリとリュドリカの頬を撫で、そのまま口づける
柔らかく膨らんた肌触りの良い唇が、ちゅ、とリップ音を鳴らして触れると、無意識にそこを尖らせた

「ッ!」

寝ているリュドリカが、応えるように唇を突き出し、ラシエルの口付けを待っている。それは条件反射のようにリュドリカの身体に刻まれていた

ごくりと息を呑み、瞳孔が開く
それがラシエルのタガが外れる合図だった

「……今のは貴方が悪いです」

ラシエルの節くれだった大きな指先が、リュドリカの身体に落ちていく

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