7 / 144
第一章 冒険の始まり
6.勇者と結婚したようです
しおりを挟む「な、なぁ大丈夫なのか?さっきの子、あんな態度取って……」
「……え?あぁ、メルサのことですか?良いよ、俺の大事な人を傷つけたんですから」
「いやぁ、その、そんな言い方するからぁ、誤解して……」
「誤解?うーん、俺にとっては村のみんな全員家族のように大事な人だと思っています。もちろんメルサも。でも貴方は俺にとってもっと特別な人なんですよ」
「う、うーん……」
そりゃそうかもしれない。だって俺はラシエルにとってのコントローラーだもん。言うならば司令塔だもん。それにしてもかなり自我が強めで俺がオマケみたいになっちゃってるけど。オートモードなのかな?これがいわゆる放置系?
「それよりも、村長のところに着きました。かなりクセの強い人ですけど、良い方なんです」
「へえ……」
うん。それも知ってる
まるで仙人のように長生きをしている御老公で、勇者の誕生を心から夢見る乙女のような人だ
本来ならば聖剣を携えて戻ったラシエルを讃え、村の全員と祝杯をあげる
そして魔王討伐の任を受ける為に、カタルアローズ王国へと出向く事になる
俺はまたラシエルが余計な事を言わないようにと、先に先手を打つことにした
「なっ、なぁラシエル、お願いがあるんだけど……その剣、もうお前のってことでいいから……俺のことは触れないでおいてくれない?」
「えっ、そんなこと!……出来ないですよ!これは貴方のものなのに」
「ホントにお願い……!俺には荷が重すぎるんだって……!」
若干泣きそうになりながらフードの隙間からラシエルを見上げる
ラシエルが握る手さえも、無意識に強く握り返していた
「…ッ、分かりました……そこまで言うなら、俺に合わせて下さい」
「おっ、おう!任せとけ!」
ラシエルはコホンと咳払いをし、村で一番大きな村長の屋敷の扉をコンコンと叩き、中にいる人物から返事を貰うと、失礼しますと戸を開ける
「村長、ただいま戻りました」
「お~ラシエルか。してどうじゃったか?今日は何か変化はあったかの?わざわざワシのとこに出向くと言うことは……その者は……?」
「この人はリュドリカさんと言います。俺の……命の恩人なんです」
「あ、はい!俺は……ん?」
何か話が誇張されてないか?
寧ろ救われたのは俺の方だよな?
「命の恩人だぁ?ラシエルよ、何があった……んん?よく顔が見えぬが、其奴はおなごか?嫁入り前の娘が、殿方とそんな堂々と手なんか繋ぎおって……」
「あっ、それは……」
リュドリカは居た堪れなくなって更に深くフードを被り直す
明らかに不審な目を向ける長老に、勇者は毅然とした態度で話した
「村長、俺はもうこの人無しでは生きていけないんです。嫁入り前と言うならば、俺はこの人と結婚します」
「ッ!?……おっ、お前何言って……!?」
「ふむ、そうか?お主がそこまで言うって事はよっぽどじゃな。それならば別に構わん」
構ってくれ!どう考えてもおかしいだろ今日会ったばかりの見ず知らずのヤツとお手々繋いでランランしてる状況を!もっと村長としての威厳を見せろよ!
「そんなことより……」
そんなことより!?
「ラシエルよ。お主の片手に握るその剣は、もしや……」
「はい、聖剣です。これもこの方のおかげで見つける事が出来ました。なので一刻も早く王国に……」
「そういうことなら先に言わんかい!おぉ、遂に勇者の誕生を目の当たりにすることが出来るとは……!長生きはするものじゃな。今日は祝杯をあげるぞ!村の者全員を集めてくるんじゃ!」
「分かりました」
なんか淡々とストーリー進んでるけど、勇者とんでもないこと口走ってたよね!?結婚とか!もうちょっとそこ食い下げても良くないか!?軽くないか結婚!いや俺がまさか勘違いしてる!?結婚じゃなくて血痕!?魂に結びつくと書いて結魂か!?ソウルメイト的な!?分かんねぇよ村のケッコン事情!
愕然としながらリュドリカは村長と勇者を交互に見やる
もう話は聖剣に全て持っていかれて、村で祝杯をあげる前に一度自分の家に帰るよう言われる
そして村長宅からラシエルの家までの道のりで、リュドリカは勇者に食ってかかる
「なっ、何とんでもないこと言ってるんだよお前!ダメだろあんな冗談言ったら!」
「冗談……?俺は結構本気で言ったんですけど……」
「えっ!?そ、そうなの……?で、でも俺まだ十八だし……これから大学とか就職とか色々と……」
ないわ。そもそも死んでる
「シュウショク?」
「ごめんこっちの話」
良いのか?こんな軽々しく勇者と結婚なんかして?
まあ確かに村に着いてから今までまるでバカップルみたいにずっと手繋いでて、村の住人が流石にざわつき始めてるしなんならメルサが振られただのメルサお気の毒だのとヒソヒソ話まで聞こえてしまってる!全然ひっそりしてない!
「着きました。何もないところですがゆっくりしてください。まあ手が放せないからゆっくりは無理かもですけど……」
「う、ううん。それは別に大丈夫だけどさ……」
「……兄ちゃん?誰だよソイツ」
家に着くと、奥から少年が駆け寄ってくる
小学校低学年ぐらいの容姿に、ラシエルと同じく金髪で瞳の色は濃いオレンジをしている
可愛らしい見た目のこの少年は、間違いなくラシエルの弟のタリスだ
「うっわ!めっちゃ美少年!!」
「ッ!?なんだよコイツ!!」
「ウグッ」
思わず間近で見ようとつい勇者の手を離しかけるが、後ろからお腹に手を回されグイッと強く引かれる
タリスはビクビクしながら後退りをし、リュドリカはまた迂闊に手を放してしまい申し訳無さで押し黙る
「タリス、戻っていたんだね。兄ちゃんはちょっと用事があるから、今日はミラおばさんのところに泊まってくれないか?」
「はぁ!?なんでだよ!?」
「…………兄ちゃんの言う事聞けるね?」
「ウッ、わ、分かったよ……」
明らかに声のトーンが下がり、タリスの顔色が悪くなる
俺の後ろで俺を拘束する人物は、一体どんな顔をしていらっしゃるのか、想像もつかない
タリスは足早と手荷物を抱えると、そそくさと家を後にした
127
お気に入りに追加
855
あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる