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第一章 冒険の始まり

4.口は災いしか生みません

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「え?」

「湖に手を突っ込んでくれないか?」

「湖に?」

「うん……」

沈黙が流れる
やっぱ変だよな
そんな事を急に言われても……

「分かりました」

ラシエルは俺の手を引きながらしゃがみ込み、そのまま湖に手を突っ込む
何の躊躇いも無くすぐに行動に移したことに、リュドリカはよろけながらも目を丸くさせた

「これで良いですか?これで一体何が……あれ?」

ラシエルが湖に手を入れた瞬間、まるでそれに引き寄せられるかのように聖剣は光り、スゥ、と浮かび上がる。そして勇者の手に綺麗に収まった

「なっ、どうして……!?」

勇者は困惑しながら俺の顔を覗き込む

「困った顔もカッコいいなぁ……」

「え?」

やべ、声に出てた
俺をゴホンと咳払いをし、気を取り直す

「その剣はな、主を見つけて……」

「はい、どうぞ」

「ん?」

ラシエルが湖から拾い上げた聖剣をこちらに手渡そうとする
リュドリカは数秒固まり、それに上手く反応が出来ない

「これ、預言者様のですよね?どうぞ」

あーっ!バカ俺ホントに余計なこと言った

「あっあー、あぁうん。ありがと、それさ……」

俺を見つめるラシエルのキラキラな笑顔が眩しい
えっと、何を言おうとしてたんだっけ…

「そっ、それやるよ。俺が持ってても扱いきらないし」

「えっ、えぇ?そんな、悪いですこんな貴重そうな剣……」

そりゃ貴重な剣だよ。だって今もめっちゃ光ってるし
眩しすぎて俺なんか霞んでしまうほど神々しいよ
俺が持ったら多分それ一瞬で錆びるぞ

「い、いいんだよ!お前に持ってて欲しい」

「預言者様……」

ん?俺なんか今変な事言った……
言葉を反芻するよりも先に、森の奥から動物とは思えないけたたましい咆哮が響き渡る

「えっ!?あっ!」

そ、そうだ!今からチュートリアル!!

気付いて振り返る頃にはもう既にリュドリカの背後は取られ、大きな四脚の犬型の魔物の群れが口から涎を垂らし鋭い爪を振り落とす瞬間だった

「や、やっば……」

成す術もなく硬直するリュドリカは、まるでスローモーションのように降り掛かる大きな魔物の手を目で追うことしかできなかった

目を瞑り死を覚悟した瞬間、ガキィンと鉄の鈍い音が鼓膜に響く

「ッ!?」

次にはドスン、ドスンという地響きが鳴り辺りはシンと静まり返る
恐る恐る目を開くと、リュドリカは勇者に手を引かれ、きつく抱き寄せられていた
そして直ぐ目の前には、大きな爪のある魔物の群衆は地にひれ伏せる凄惨な光景が広がっていた

「危なかった、大丈夫ですか?」

背の高いラシエルが、ホッとした顔でリュドリカを見下ろす
太陽の逆光で目が眩んでも、その新緑の瞳が揺れているのははっきりと分かる

「う、わ、ほ……惚れちまう」

まるで勇者みたいじゃん!いや、勇者なのか!
リュドリカは口をパクパクとさせ、その姿に釘付けになっていた

「ど、どこかケガしましたか!?」

勇者が心配して聖剣を投げ捨て、俺の身体を両手でまさぐる
ひぇっそんなペタペタと触らないでくれ!

「だっ、大丈夫だから!全然平気!ラシエルのおかげで助かった!」

「そうですか……?良かったです。俺が強引に引っ張っちゃったからどこかケガしたのかと……」

勇者はそう言って、聖剣を拾い直す
そして次はリュドリカの腰に手を回し、強く抱き寄せた

「なっ、なに!?」

「俺、今こんなだから、貴方に凄く不便な想いをさせていると思って……凄く申し訳ないです」

「いやっいやいや!そんな事ないよ!俺も結構楽しいし!」

いや楽しんじゃダメか!さっきから言葉のチョイスがミスりまくってる!
それに、どう考えてもラシエルがこうなったのは少なからず俺のせいでもありそうだし……

「アハハ、優しいんですね……。俺、絶対貴方のこと守りますから、俺の側にいてくれませんか……?」

「えっ。へっ!?」

そ、そそそれってなんかぷ、プロポーズみたいに聞こえるんですけど……っ、俺別にソッチの気は無いよ!?こう見えて!
訥々と動揺を隠しきれずに返答に戸惑っていると、ラシエルはフッと笑みを溢す

「急にそんな事言われても困りますよね……せめて、俺の身体が元に戻る間だけでいいんです」

「そっそうだよな……しょうがないし!俺が出来ることなら任せて!」

へへへ、と笑って見せると、ラシエルもニコリと微笑む。凄く綺麗な顔で微笑んでくれる

「あの…もし差し支えないなら…貴方の名前を聞いても良いですか?」

「お、俺の名前!?……名前……」

流石に仲野大地なかのだいちって本名言う訳にはいかないよな…ここはちゃんとリュドリカ・ユニソンの名を名乗ろう…

「り、リュドリカ…」

「……リュドリカ?リュドリカさん、これからよろしくお願いしますね」

「うん……よろしく……」

また勇者は俺に笑顔をくれる。良い顔の男が笑顔の安売りしすぎてもうお腹いっぱいだ

「そしたら、一度俺の村に行きましょうか?ここから近いので、案内します」

「あ、う、うん……」

そこは俺もよく知ってるルートだ
ここから村までの間にお金の入った宝箱と、序盤であったら嬉しい回復薬の薬草もあるけど、流石にそこまでの口出しは控えた
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感想 8

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