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第一章 冒険の始まり
1.ゲームの中で人生やり直します
しおりを挟む爽やかなそよ風に吹かれ、俺は目を覚ました
絵の具で描いたような真っ青な空
草が互いに擦れ合い、さわさわと耳に心地良い
目を開いた状態で、瞬きも忘れてその余韻に浸っている
「今日は天気が良いな……」
地面に仰向けに倒れた状況で、未だ意識ここにあらずと独り言をいう
しかし段々と脳が覚醒し、今この状況がとても異様な光景であるものだと、漸く我に返る
「……あれ、てか、ここ、どこだ?なんで……外?」
意識がはっきりしだすと、次はそこはかとなくじわじわと焦りが生じ始める
だって目覚めたら野外で、しかも森っぽいとこで、そこで寝てるって、おかしくね!?
「どこだよ!?ここは!?」
勢いに任せて起き上がり、自分でも驚くほど大きな声で叫んだ
辺りの木々に止まっていた野鳥たちが、一斉に飛び立つ
「一体どうして……俺、何してたんだっけ……」
とにかく状況を整理しようと、一旦深く深呼吸をし思い出せるところから記憶を辿る
確か昨日は大学受験の合格発表があった日で、俺は見事にそれに落ちて、ヤケになるどころか寧ろ開き直って、俺の大好きな長編作であるブレイク・ソード・ブレイブ通称BSBというゲームをリセットさせて最初からやり込もうと意気込んでいたんだ
BSBは何度も繰り返し遊んでいて、縛りプレイやRTAやTAS動画なんかも作っていたりした
そんな俺がこのゲームに最も入れ込んだ理由が、ストーリーよりも勇者で且つ主人公であるラシエル・アーマイトに強い憧れがあったからだ
これはもう恋だと言っても過言ではない程このヒーローに魅了されていた
より強く、より格好良くラシエルを美化していきたいと考えた俺は、ゲームをリセットさせてはプレイを重ねて、どんどん自身の腕が上手くなるほどラシエルの剣技、立ち振舞、その全てが磨かれていき…まあ、要は俺が受験落ちたのはそのせいだってことである。
両親には見せる顔が立たないと思いつつ、過ぎたことはしょうがないと開き直り、まずはゲームの電源を入れ、そして思い出す
やる時は集中して一気にやり込むタイプなので、小腹が空いた時用にと、お菓子やジュースなんかを部屋に持参しておこうと
二階に部屋がある俺は、一階に降りて抜き足差し足忍び足で母親の目を掻い潜り、手に持ったお菓子やジュースを片手に、確か俺は、その時階段で足を滑らせ頭から落ちた
あれ、俺、もしかしてそれで死んだ?
え、しかもダサくね?
死因何になるの?受験失敗によるやけ食い現実逃避にも失敗して、親に顔向け出来ないようなめちゃくちゃ不孝者の死に方じゃん
下手したら友達笑ってんじゃないか?
「不謹慎な奴らめ!!」
また大声で叫んだ。だって叫ばずにいられるか、恥ずかしいにも程がある。穴があったら入りたい。あ、なるほどだからわざわざ森に来て、ここに穴を掘れってか?やかましいわ!
多分笑ってはいないだろう友達を罵倒して、羞恥心で爆発してしまいそうな程ひとしきり無意味に叫んだ後、少しずつ冷静さを取り戻す
「あああ……いや、てか、ここはどこなんだ?天国か?」
改めて辺りをキョロキョロと見渡す
見渡す限り木、草、青空!ただの森だよ本当に!
「でも何だか、見覚えあるような……?」
どことなく既視感を覚えるが、どこなのか見当もつかない
それもそうだよ、俺は基本引きこもりゲームオタクだし、こんなウェイ系パリピがキャンプでもして可愛い女の子とファイヤーしそうな場所、縁もゆかりも有るはずない
「うーん、ここに座っててもしょうがないしな」
俺は立ち上がり、周りの景色に目を凝らす
そして気づく、何だか視界が少し低いことを
「ん?何だ?」
それを不自然に思い、なんとなく自身の腕を見る
太陽の光に照らされてるからだとか、それ依然に自分の腕とは思えないほど透き通る白くて細い腕
「ん?え?」
本当に今更だが、声にも違和感があった
何だか妙に幼くて高い声、明らかに俺の声じゃない
これは、もしや、俗に言う、異世界転生?
確かめずにはいられない
仲野大地18歳、不慮の事故で異世界生活スタートか!?
普通ならば落胆するところなんだろうけど、現実は受験に失敗してジュースとポテチ片手におっ死んでてもっと辛い
だったらこの世界でもう一度人生リスタートだと、楽観的に考えた方が良いに決まってる
とりあえず自分がどんな姿になっているんだろうと気になってしょうがない俺は、鏡はないだろうから川でも探そうと、辺りをうろつく
そして木々の隙間から、青空が反射して青く光る地面が目に入った
「もしかして、湖か!?」
嬉々として草木をかき分け、その広い湖の元へ駆け寄る
「どれどれ~俺は一体どんな奴に転生を……」
透き通る澄んだ湖に顔を近づけようとした瞬間、周囲に人の気配を感じ取る
「!?」
その気配に驚いて振り向くと、そこには確かに人が立っていた
「ひわっ!?」
思わず変な声が出る。そして無様に尻餅までついて
うわぁ草が柔らかい、全然痛くなーい!て言うてる場合か
異世界転生早々黒歴史を生み始めている俺は、そそくさと立ち上がり苦笑いしながら恥ずかしさを誤魔化す
「い、いやぁ、ビックリ!まさかこんなところに人がいるなんて思わなくてさ~!腰抜かしちゃった~タハハ…」
冗談めかしながら、そこに立つ人物の顔を見る
背がスラリと高く、恐らく地毛であろうムラのない綺麗な金髪に、パッチリとしたエメラルドグリーンの瞳、そして極めつけは外国人のような端正な顔立ち
思わず口を開けて見惚れてしまったが、これは…この人物は……!
俺が何度も何度もやり込んだブレイク・ソード・ブレイブの主人公且つ勇者のラシエル・アーマイトじゃないか!?
まさか、ゲームの中に転生!?これはもしや夢!?
アホ面のまま自分の頬を思い切り叩いてみる
パチンと小気味の良い音が鳴り響いたが普通に痛い
「あいてて…うっわぁ、カッコいい…すっげえ」
まるで小学生のような感想を口に出しつつ、マジマジとその人物を見つめるが、妙な事にピクリとも動かないのだ。この勇者
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