平凡な女子高生だったはずなのに〜転生して冷血公爵と政略結婚しました〜

赤木

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診療と優しい人

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「リオ様、アイル様がお見えになりましたが、ご準備はよろしいですか?」
「あ!⋯⋯はい!大丈夫です」

記憶を失ってから、私は週に一度お医者様の診療を受ける事になっていた。そして今日は初めての診療の日。
お医者様っていくつになっても緊張する⋯⋯そう思いながらそわそわしていると、ザインさんに笑われてしまった。

「信頼の出来る者ですから大丈夫ですよ。さあ、こちらへどうぞ」
「やあ!こんにちは」

ザインさんに連れられてやってきたのは、白衣を着た優しげなお兄さんだった。柔らかそうなクリーム色の髪に蜂蜜みたいな瞳の色が特徴的で、垂れ目がちな眼と口元の黒子がどことなく甘い雰囲気を漂わせている。

この国の人はみんな綺麗な瞳の色をしていて、いつも私はその瞳にしばらく目を奪われてしまう。

「ザインさんの話だと、僕のことも覚えていないかな?」
「すみません⋯⋯」
「いやいや!謝らなくていいんだよ。僕はアイル。一応、君の主治医ということになるかな。緊張していると思うけど、今日はよろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」

ユーリみたいな人だったらどうしようかと思っていたけれど、なんだか優しそうな人で本当に良かった。
アイルさんは私の前の椅子に座り、手にしたバインダーを見ながら私を伺った。

「それじゃあ始めようか。簡単なテストみたいなものだから、気楽に答えてくれていいよ」
「はい」
「うん、それじゃあいくつか質問していくね」

そう言ってアイルさんは何個か私に質問をしながら、手にしたバインダーに書き記していく。質問は記憶喪失に関してのものや心理テストみたいなものだったけれど、答える度に嘘がバレているんじゃないかとヒヤヒヤした。そうしてさらさらと何かを書いていた手が止まると、アイルさんは次に聴診器を手に取った。

「⋯⋯うん、そうだね。次にどこか体に異変はない?どこかが痛いとか、違和感があるとか⋯⋯なんでもいいんだ」

服をお腹のあたりまで持ち上げると、胸にひんやりとした感覚が襲う。

「んっ⋯⋯」

それが冷たくて思わずぴくりと跳ねると「ごめんね」とアイルさんは申し訳なさそうな顔をした。私が勝手に驚いただけなのに、アイルさんを謝らせてしまった申し訳なさと恥ずかしさで顔が熱くなる。

「特にないです」
「⋯⋯そっか。ありがとう、もう大丈夫だよ」

服の裾をサッと下ろしてアイルさんを見ると、アイルさんはバインダーを見つめながら何やら考え込んでいるようだった。

「うーん⋯⋯。今の状況だと、記憶喪失の根本的な原因は何もわからないね。身体的な外傷がないことから精神的なものじゃないかな、と僕は思うんだけれど」

一緒に話を聞いていたザインさんの顔が曇った。きっと罪悪感に苛まれているのではないだろうか。リオの側にいたのに気づかなかった自分に。

嘘をついて本当にごめんなさい。痛む胸を鎮めるように、私は2人から視線を逸らした。

「もし何か思い出したらすぐに呼んでね。僕が出来るこ
となら何でもするから」
「⋯⋯すみません。ありがとうございます」
「気に病むことはないんだよ。君は何も悪くないんだから」

果たして本当にそうだろうか?

私が事故に合わなければ⋯⋯いや、あの時生きたいなんて思わなければ、私はそのまま死んでいたのではないだろうか。後悔のまま死んでしまったから、こうして別の”リオ”の中に入り込んでしまったと考えると、罪悪感でいっぱいになった。

そんな私を知ってから知らずかアイルさんは徐に「ぱん」と手を叩いた。音に驚いて思わずアイルさんを見ると、アイルさんは優しい手つきで私の頭に手を乗せた。

「⋯⋯また良くないことを考えているね。君はもう少しわがままを言ったっていいんだよ。まだ18歳だろう?」

無言のままの私にアイルさんは続ける。

「あまり無理しすぎないように。倒れでもしたら本末転倒だよ。⋯⋯ユーリとの事だって誰にも相談せずに決めてしまったから心配だったんだ」
「⋯⋯ありがとうございます」
「うん、いい子だ」

本当に私を心配してくれているのが声色で伝わってくる。大人しく頷くと、アイルさんに頭をぽんぽんと撫でられる。その手つきはまるで愛おしがるようで、どことなくくすぐったかった。

「⋯⋯それじゃあ、今日の所は帰ろうかな。何かあったら僕の診療所に来てね。まあ、暇だから呼んでくれればすぐ行くんだけどね」
「そんな!⋯⋯そんなことまでしてもらう訳にはいきません⋯⋯」

「いいから」そう言ってアイルさんは一枚の紙を私の掌に乗せた。どうやらアイルさんの診療所の地図らしい。丁寧な説明と綺麗な文字で書かれた診療所は、街のはずれにあるようだった。

「遊びに来てくれても嬉しいからさ、受け取っておいて」
「⋯⋯はい」

これ以上遠慮しても逆に迷惑だろうから、診療所の紙を素直に受け取る。受け取った私を見て満足げに目を細めたアイルさんは、ザインさんに連れられて去っていった。

すごく優しい人だったな。この体の持ち主を本当に大切に思っているような態度だった。それは嬉しくもあったけれど、どこか寂しくもあった。

だけど、窓越しに帰宅するアイルさんを見つめながら、今日診てくれたのがアイルさんで良かったと、私は心の底から思っていた。

⋯⋯今度街に行く機会があったらまた会えるといいな。











  


























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