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新しいリオ・グランドール
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二人に疑惑の目を向けられて思わず後ずさりをしてしまう。お願い、信じてと祈りながら言葉を待っていると、ついに男が口を開いた。
「本当にそうなのか?」
「⋯⋯はい。何も思い出せません」
出来るだけ平静を装ってそう答えると、今度はお爺さんが割って入るかのように口を開いた。
「ご自分のお名前はお分かりになりますか?」
無言で首を横に振る。私の本当の名前は結城莉緒だけれど、そんな事を口走る訳にはいかない。すると、お爺さんは少しだけ寂しそうな目をした。ように見えた。けれどそれは本当に一瞬で、お爺さんはすぐにこほん、と一つ咳払いをした後、私に向かって恭しく頭を下げた。
「それではまず初めに自己紹介を。私は貴女様の身の回りのお世話をさせて頂いております。ザインと申します。そして貴女様はリオ・グランドール。この領地を治めるレオン・グランドール様の唯一の御令嬢であります。」
「なっ!信じるのか⋯⋯?」
「私は常にリオ様を信じております。」
信じられないと言いたげにザインさんを見る男に、ザインさんは真っ直ぐにそう答えた。
どうやらこの体の持ち主は本当にお姫様のような立場らしい⋯⋯。そんな人とこんな私が成り代わってしまって本当に良いのだろうか。この体の持ち主は今、どこにいるのだろう。もし、事故にあった私の体と入れ替わってしまっていたら⋯⋯。
そう考えて感じたのは恐怖と罪悪感。
⋯⋯そんなのは駄目だ。この体は持ち主にきちんと返さなければ。
「そしてこのお方はリオ様の婚約者であるユーリ・ベルモント様でございます」
「⋯⋯へ?」
いろいろな事に気を取られていたら、ザインさんの聞き捨てならない言葉に返事をするのが遅れてしまった。
この失礼な男が婚約者⋯⋯?
音がするんじゃないかってくらい勢いよく男を見ると、男はやれやれとでも言いたげに大きなため息をついた。
「⋯⋯不本意だがな」
「本当に!?」
最悪だ。よりによって何でこんな失礼な男と!
悔しいけれど顔はかなり良い。だけど性格はかなり最悪だ。⋯⋯もしかして政略結婚という奴だろうか。それならばまだ理解できる。そうでなければこんな男と結婚したがるような人は余程のMでなければいないだろう。
一気に不安が押し寄せてしまい頭を抱えていると、男は心底面倒くさそうな顔をしながら口を開いた。
「しかし、バレないようにしてくれよ。領主の娘であるお前が記憶喪失なんて知れたらどうなるか。いいか、別にお前の心配をしているんじゃないぞ。婚約者である俺の立場も危うくなるからだ」
「わかってるわ」
売り言葉に買い言葉。やってやる。
彼女にこの体を返すまで、他の誰にもバレないように過ごしてやる。
その為にはまず、目の前のこの男が問題だ。
いつ体が戻るかわからない以上、あまり反感を買うのは良くないだろう。深呼吸をして目の前の男ーーユーリ・ベルモントを見つめる。
そして、にこりと微笑んだ後に手を差し出した。
「さっきは取り乱してしまってごめんなさい。改めてよろしくね、ユーリ」
「⋯⋯ああ、よろしくな。新しいリオ・グランドール」
触れたユーリの手は氷のように冷たかった。それは想像通りで、ずっとこの男の側にいたら心まで凍りついてしまいそうなほどだった。だけど、私はこの冷たい手を離すつもりはない。少なくともこの体を持ち主に返すまで、私はこの男の婚約者、リオ・グランドールとして生きるのだ。
「本当にそうなのか?」
「⋯⋯はい。何も思い出せません」
出来るだけ平静を装ってそう答えると、今度はお爺さんが割って入るかのように口を開いた。
「ご自分のお名前はお分かりになりますか?」
無言で首を横に振る。私の本当の名前は結城莉緒だけれど、そんな事を口走る訳にはいかない。すると、お爺さんは少しだけ寂しそうな目をした。ように見えた。けれどそれは本当に一瞬で、お爺さんはすぐにこほん、と一つ咳払いをした後、私に向かって恭しく頭を下げた。
「それではまず初めに自己紹介を。私は貴女様の身の回りのお世話をさせて頂いております。ザインと申します。そして貴女様はリオ・グランドール。この領地を治めるレオン・グランドール様の唯一の御令嬢であります。」
「なっ!信じるのか⋯⋯?」
「私は常にリオ様を信じております。」
信じられないと言いたげにザインさんを見る男に、ザインさんは真っ直ぐにそう答えた。
どうやらこの体の持ち主は本当にお姫様のような立場らしい⋯⋯。そんな人とこんな私が成り代わってしまって本当に良いのだろうか。この体の持ち主は今、どこにいるのだろう。もし、事故にあった私の体と入れ替わってしまっていたら⋯⋯。
そう考えて感じたのは恐怖と罪悪感。
⋯⋯そんなのは駄目だ。この体は持ち主にきちんと返さなければ。
「そしてこのお方はリオ様の婚約者であるユーリ・ベルモント様でございます」
「⋯⋯へ?」
いろいろな事に気を取られていたら、ザインさんの聞き捨てならない言葉に返事をするのが遅れてしまった。
この失礼な男が婚約者⋯⋯?
音がするんじゃないかってくらい勢いよく男を見ると、男はやれやれとでも言いたげに大きなため息をついた。
「⋯⋯不本意だがな」
「本当に!?」
最悪だ。よりによって何でこんな失礼な男と!
悔しいけれど顔はかなり良い。だけど性格はかなり最悪だ。⋯⋯もしかして政略結婚という奴だろうか。それならばまだ理解できる。そうでなければこんな男と結婚したがるような人は余程のMでなければいないだろう。
一気に不安が押し寄せてしまい頭を抱えていると、男は心底面倒くさそうな顔をしながら口を開いた。
「しかし、バレないようにしてくれよ。領主の娘であるお前が記憶喪失なんて知れたらどうなるか。いいか、別にお前の心配をしているんじゃないぞ。婚約者である俺の立場も危うくなるからだ」
「わかってるわ」
売り言葉に買い言葉。やってやる。
彼女にこの体を返すまで、他の誰にもバレないように過ごしてやる。
その為にはまず、目の前のこの男が問題だ。
いつ体が戻るかわからない以上、あまり反感を買うのは良くないだろう。深呼吸をして目の前の男ーーユーリ・ベルモントを見つめる。
そして、にこりと微笑んだ後に手を差し出した。
「さっきは取り乱してしまってごめんなさい。改めてよろしくね、ユーリ」
「⋯⋯ああ、よろしくな。新しいリオ・グランドール」
触れたユーリの手は氷のように冷たかった。それは想像通りで、ずっとこの男の側にいたら心まで凍りついてしまいそうなほどだった。だけど、私はこの冷たい手を離すつもりはない。少なくともこの体を持ち主に返すまで、私はこの男の婚約者、リオ・グランドールとして生きるのだ。
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