平凡な女子高生だったはずなのに〜転生して冷血公爵と政略結婚しました〜

赤木

文字の大きさ
上 下
3 / 7

最悪の出会い

しおりを挟む
 次に目が覚めた時、あのお爺さんは部屋にいなかった。状況を把握するために、ゆっくりと体を起こして周りを見回してみても、やはりここが日本だとは思えない。部屋にはアンティーク調の家具が揃っていて、煌びやかだけど派手すぎない、落ち着きのある場所だった。

「ここは一体どこなんだろう⋯⋯」

歩き回ってみれば何かがわかるかもしれない。そう考えてふわふわの掛け布団を捲ると、自分の体にどこか違和感を覚えた。白く、そして細いのだ。パジャマから伸びる手や足が、驚くほどに。

事故のせいで部屋の中にいたからだろうか?いや、それにしても白すぎると思う。元から色白の方だったとはいえ、ここまで白くなるのは無理なんじゃないだろうか。それに細さも、私はこんなに華奢ではない。

「⋯⋯鏡は」

自分の顔が見たい。そう思いたってベッドから降りると、ひんやりとした床の冷たさが素足に伝わった。事故の時はあんなに痛かった足は、今では痛みの一つも感じなくなっている。

ゆっくりともう一度部屋を見回してみると、部屋の隅に白いドレッサーを見つけた。ドレッサーには綺麗な鏡が備え付けられていたから、慌てて近づいていく。ドレッサーの前の椅子に座って恐る恐る鏡を覗いてみると、その光景に私は絶句した。

「え?」

鏡の中の私は私ではなかった。
黒かった髪はミルクティーのような柔らかいブラウンになっていて、色素の薄いエメラルドの瞳は丸く大きい。顔は雪のように真っ白で、赤色の艶々とした唇がよく映えている。全体的に華奢な印象を受ける、いわゆる守ってあげたくなるような少女だ。

これは夢の続きだろうか?そう思って頬をつねると、痛い。どうやらこれは夢ではないらしい。色々な事が重なりすぎて泣きそうだ。しかも、更に謎が増えてしまった。

”私”はどうなってしまったんだろうか。魂こそ死んでない事は確かだけれど、肉体はどこへ行ってしまったのだろう。

混乱した頭でしばらく考え込んでいると、入り口の扉が開く音がした。咄嗟に鏡を見つめていた顔を扉に向けると、そこから現れたのは先ほどのお爺さんではなく、若い男の人だった。

その人は遠目からでもわかるようなイケメンだった。何頭身なんですか?と聞きたくなるほど顔は小さくて、目鼻立ちは綺麗に整っていた。それに、きっと生まれた時 からその色だったのであろう、青くくすんだ髪はまるで深い海のようで、思わず見惚れてしまう。足だってすらりと真っ直ぐ伸びていて、どこかのモデルや俳優だと言われても納得してしまうだろう。

「リオ様!お目覚めになられましたか!」

ひょっこり。男性の後ろから先ほどのお爺さんが顔を覗かせていた。お爺さんは私を見るやいなや心底安心したような顔で「良かったです」と胸を撫で下ろしていて、私はお爺さんのその姿になんだか嬉しくなって、つい頬が緩んでしまった。

「⋯⋯なんだ、倒れたと聞いて来てみれば、元気じゃないか」

一つ、落とすようにため息をついた男の人は、私の顔を見るなり踵を返した。

「俺はもう帰るぞ」

「まだいらっしゃったばかりではないですか。リオ様もお目覚めになった事ですし、少しばかりご一緒に過ごされてみては⋯⋯」

そう言って男性を引き止めようとするお爺さんを、男性は手で制するようにして「断る」とでも言いたげにジェスチャーした。

「いや、いい。屋敷の外に馬車を待たせているからな。自分の顔に見惚れているくらいならば、体調も大丈夫だろう」

「⋯⋯見惚れていた訳じゃありません」

その人の嫌味な言い方にかちんときてしまい、思わず反論してしまった。

「聞こえていたのか。気を引きたいのかなんだか知らないが、馬鹿な真似はやめろ」

な、なんだこの男は!!
自分に見惚れていた訳でも、ましてや男の気を引きたい訳でもない。けれど黙りこんだ私を見て、図星だと思ったのか、男はやれやれとでも言いたげに目を細めて、硬い革靴の音を響かせてこちらに近づいてきた。

近づいてきた男に対して、つい身構えて睨むように見上げていると、冷たく見下ろした男は薄い唇を開いた。

「いいか?あまり良い気になるなよ」

その時、自分の中でぷつん、と何かが切れる音がした。

「⋯⋯なんで名前も知らない貴方にそんな事を言われなきゃいけないの。性格が最悪な貴方なんかの気を引きたい訳がないでしょう!ちょっと顔が良いからって調子に乗らないでください!!」

そう早口で捲し立てると目の前の男も、お爺さんも目を丸くして私を見つめていた。

「嫌味か?それは」

眉間の皺を更に深くした男はそう呟いた。
やってしまった。一気に冷静になった頭をフル回転させる。よく考えたら、この人たちは”私”について何か関係がある可能性が高い。そんなの少し考えればわかる事なのに、怒りでつい言わなくて良い事まで言ってしまった。後悔先に立たず。必死で更に頭をフル回転させて、この場を切り抜ける方法を考える。

この二人を騙す方法。

元々脳みその容量の少ない私が導き出した答えは一つだった。

「⋯⋯記憶喪失になっちゃったみたいです」

これしかない。
お爺さんも男もぽかん、とした顔をしたまま固まってしまった。これは成功したのだろうか、それとも失敗したのだろうか。未だに固まったままの二人を見つめながら、私は成功を祈っていた



















 






































しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト

待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。 不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった! けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。 前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。 ……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?! ♡コミカライズされることになりました。詳細は追って発表いたします。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

処理中です...