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情報収集と王子様
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今日は交友関係のある貴族から招待された舞踏会に参加している。しかしメインは交流などではなかった。私とミリアが参加した理由は、多くの貴族が参加するこの場所でなら、何か情報を得られるかもしれないと思ったから。
⋯⋯しかし居心地が悪い。姉の私が顔を出すのは随分久しぶりだからか、はたまたキルシュ家が襲われたのを知っているのか、あちこちからはヒソヒソと話す声が聞こえる。
(やっぱり来るんじゃなかった⋯⋯)
肩身の狭い思いをしながら端の方に移動して様子を伺っていると、背後からは聞き慣れた声。
「⋯なんで君がいるんだ⋯⋯?」
私は驚いて飲んでいた飲み物を落としそうになった。そこにはつい先日、私に婚約の話を持ちかけてきた男がいた。いや、公爵の彼が舞踏会にいる事は何にも不思議ではないけれど、アレンがそういう集まりに好んで参加するとは思えなかった。
むしろこういう集まりには適当な理由をつけてサボるのが彼だと思っていたけれど。
「それはこっちの台詞よ!なんでここにアレンがいるのよ⋯⋯!」
「情報収集するのならこういう場所に顔を出すのが一番でしょ?」
どうやら彼は私と同じ考えだったようで。「私も同じ考えよ」と伝えると、アレンはあからさまに大きなため息をついた。
「俺が探すって言ってるのに、どうして君まで探そうとするのかな⋯⋯」
ジト目でこちらを見やるアレンに(やばい、お説教が始まる)と直感的に感じて身構えていると
「アレン様、ごきげんよう!」
私の背後から天使が顔を出していた。
「⋯⋯ああ、ミリア嬢。ごきげんよう」
ひょっこりと顔を出すミリアの姿を見て毒気を抜かれたのか、アレンはミリアへにこやかに挨拶をした。⋯⋯なんとかアレンの追求を逃れる事が出来たみたい。
「あの⋯犯人が見つかったらお姉様と婚約を結ばれるというのは本当なのですか?」
「本当だよ。俺が絶対に犯人を見つけるから安心して」
そういって微笑むアレンの姿は悔しいけれどかっこいい。私以外の人間には基本的に爽やかなんだよなアレンは⋯⋯。そう考えて少しだけまた胸が痛んだ。彼のことはもう好きじゃないはずなのに、未だに彼のこういう姿を見ると気分が落ち込んでしまう。
アレンとミリアの会話を見守っていると、急に周囲がざわめき始めた。咄嗟に視線をそちらに向けると、そこにはブロンドの髪を靡かせた美青年が一人。
「アレン様だけでなくフィノ様まで⋯⋯!」
そう呟いたほかの貴族の声が耳に入る。ああ、あの方はフィノ・エレディン様。アレンと同じ公爵の位を持つお方だ。柔らかな笑顔はまるで王子様のようで、アレンとはまた系統の違った美青年だった。
(目の保養ね)
まるで太陽を背負っているかのように眩しいお姿に呆気にとられていると⋯⋯当の本人、フィノ様の足がこちらへ向かって来ているような気がする⋯⋯?
驚いてそのまま目でフィノ様の行方を追っていると、私の天使の前でぴたりとその足は止まった。あろうことかフィノ様はミリアの前で恭しくお辞儀をしたのだ。
「ミリア嬢ご機嫌はいかがかな?」
「ご⋯ごきげんようフィノ様⋯!」
驚いて声もでない私をよそに二人は会話に花を咲かせている。なんだろう。二人の間に本当にお花が咲いているように見えるわ⋯。私はしばらく二人の事を食い入るように見つめ、ある一つの答えに辿り着いた。
「ふふーん⋯そういう事ね⋯⋯!彼は今日うちのミリアに会うためにここまでいらっしゃったのよ!」
興奮気味にアレンに食ってかかると、アレンは心底どうでも良さげな返事をした。なによその返事は。
「でもフィノってそんな性格だったかな」
「どちらかと言うともっと打算的だったと思うけど」そう呟くアレンの声は聞こえないフリをして、私は興奮気味に続ける。
「恋は人を変えるものなのよ!真実の愛の前にはなんの障害もないの!」
好きな恋愛小説の一節である。私たちがうまくいかなかったからこそ、私はこういう関係性やお話にめっぽう弱かった。
⋯⋯馬鹿らしいけれど、それは一種の”願望”みたいなものなのだ。
それでもアレンはどうでも良さそうな反応をするから、私はまた自分の胸がじくじくと痛み始めるのを感じていた。
「なんで君は⋯そういう考えを俺にも向けてくれないのかな」
ーー俯いたアレンの呟きは誰にも届かなかった。
⋯⋯しかし居心地が悪い。姉の私が顔を出すのは随分久しぶりだからか、はたまたキルシュ家が襲われたのを知っているのか、あちこちからはヒソヒソと話す声が聞こえる。
(やっぱり来るんじゃなかった⋯⋯)
肩身の狭い思いをしながら端の方に移動して様子を伺っていると、背後からは聞き慣れた声。
「⋯なんで君がいるんだ⋯⋯?」
私は驚いて飲んでいた飲み物を落としそうになった。そこにはつい先日、私に婚約の話を持ちかけてきた男がいた。いや、公爵の彼が舞踏会にいる事は何にも不思議ではないけれど、アレンがそういう集まりに好んで参加するとは思えなかった。
むしろこういう集まりには適当な理由をつけてサボるのが彼だと思っていたけれど。
「それはこっちの台詞よ!なんでここにアレンがいるのよ⋯⋯!」
「情報収集するのならこういう場所に顔を出すのが一番でしょ?」
どうやら彼は私と同じ考えだったようで。「私も同じ考えよ」と伝えると、アレンはあからさまに大きなため息をついた。
「俺が探すって言ってるのに、どうして君まで探そうとするのかな⋯⋯」
ジト目でこちらを見やるアレンに(やばい、お説教が始まる)と直感的に感じて身構えていると
「アレン様、ごきげんよう!」
私の背後から天使が顔を出していた。
「⋯⋯ああ、ミリア嬢。ごきげんよう」
ひょっこりと顔を出すミリアの姿を見て毒気を抜かれたのか、アレンはミリアへにこやかに挨拶をした。⋯⋯なんとかアレンの追求を逃れる事が出来たみたい。
「あの⋯犯人が見つかったらお姉様と婚約を結ばれるというのは本当なのですか?」
「本当だよ。俺が絶対に犯人を見つけるから安心して」
そういって微笑むアレンの姿は悔しいけれどかっこいい。私以外の人間には基本的に爽やかなんだよなアレンは⋯⋯。そう考えて少しだけまた胸が痛んだ。彼のことはもう好きじゃないはずなのに、未だに彼のこういう姿を見ると気分が落ち込んでしまう。
アレンとミリアの会話を見守っていると、急に周囲がざわめき始めた。咄嗟に視線をそちらに向けると、そこにはブロンドの髪を靡かせた美青年が一人。
「アレン様だけでなくフィノ様まで⋯⋯!」
そう呟いたほかの貴族の声が耳に入る。ああ、あの方はフィノ・エレディン様。アレンと同じ公爵の位を持つお方だ。柔らかな笑顔はまるで王子様のようで、アレンとはまた系統の違った美青年だった。
(目の保養ね)
まるで太陽を背負っているかのように眩しいお姿に呆気にとられていると⋯⋯当の本人、フィノ様の足がこちらへ向かって来ているような気がする⋯⋯?
驚いてそのまま目でフィノ様の行方を追っていると、私の天使の前でぴたりとその足は止まった。あろうことかフィノ様はミリアの前で恭しくお辞儀をしたのだ。
「ミリア嬢ご機嫌はいかがかな?」
「ご⋯ごきげんようフィノ様⋯!」
驚いて声もでない私をよそに二人は会話に花を咲かせている。なんだろう。二人の間に本当にお花が咲いているように見えるわ⋯。私はしばらく二人の事を食い入るように見つめ、ある一つの答えに辿り着いた。
「ふふーん⋯そういう事ね⋯⋯!彼は今日うちのミリアに会うためにここまでいらっしゃったのよ!」
興奮気味にアレンに食ってかかると、アレンは心底どうでも良さげな返事をした。なによその返事は。
「でもフィノってそんな性格だったかな」
「どちらかと言うともっと打算的だったと思うけど」そう呟くアレンの声は聞こえないフリをして、私は興奮気味に続ける。
「恋は人を変えるものなのよ!真実の愛の前にはなんの障害もないの!」
好きな恋愛小説の一節である。私たちがうまくいかなかったからこそ、私はこういう関係性やお話にめっぽう弱かった。
⋯⋯馬鹿らしいけれど、それは一種の”願望”みたいなものなのだ。
それでもアレンはどうでも良さそうな反応をするから、私はまた自分の胸がじくじくと痛み始めるのを感じていた。
「なんで君は⋯そういう考えを俺にも向けてくれないのかな」
ーー俯いたアレンの呟きは誰にも届かなかった。
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