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最終章 未来への選択編
※※※
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「と、鴇お兄ちゃん。お、待たせ…?」
昨日選んで貰ったピンクの太もも丈のタイトワンピとちょっと大きめの白ニットカーデ。更に天使の羽ネックレスにちょっと小さくて紐の長いファッションリュック。そしてブラウンのヒール高めの春ブーツにベレー帽。髪はゆったりとシュシュで結んで横に流した。
一方。車の前で私が出てくるのを待ってくれていた鴇お兄ちゃんは、ジャケットにVネックの白Tシャツ。それから黒のパンツ。…鴇お兄ちゃん。サングラスとか似合うのでズルいです。色々ズルいです。
私隣に並んでいいんでしょうか?…いや、ここは自信もってっ。だって華菜ちゃん達が選んでくれたんだもんねっ。
ゆっくりと歩いて、鴇お兄ちゃんの前に立つ。
「そ、の…似合う?」
くるっとその場で回って見せると、鴇お兄ちゃんは一瞬驚いた顔をして。けれど、次の瞬間には優しく微笑み、
「あぁ、似合ってるぞ。可愛い」
そう言って私の代わりに助手席のドアを開けてくれた。素直に、従って車に乗ってシートベルトを締める。すると直ぐに鴇お兄ちゃんも運転席に乗り込んで車は緩やかに走りだした。
「美鈴。その服。一度も見た事ない服だよな?もしかして、今日の為に買ってきたのか?」
「う、うん…」
「そうか。ありがとな。じゃあそのお礼に思い切り楽しいデートにしないと、だな」
楽しいデート…。えへへ。嬉しい。それに鴇お兄ちゃんが喜んでくれたのも嬉しいな。後で華菜ちゃんと円にお礼しなきゃ。
「そういや、美鈴。この前、棗が…」
鴇お兄ちゃんが暇しないように会話を振ってくれる。こう言う所も鴇お兄ちゃんの凄い所だよね。きちんと気を使ってくれるんだから。
楽しく会話しながら、ふと外の景色を見る。そう言えば、何処に向かってるんだろう?
「鴇お兄ちゃん。今日は何処に行くの?」
「ん?まずは、植物園だな。芝桜と、少し早いが薔薇が見頃らしい」
「そうなのっ?わっ、わっ、楽しみっ♪」
芝桜~♪芝桜って基本的に一面に広がる様に植えられる事が多いから、きっとピンクの絨毯みたいになってるんだっ。
想像するだけで楽しみっ!
暫く車を走らせ、植物園に到着する。駐車場に車を停まったのを確かめてから、車を降りる。
運転席の方に回り、鴇お兄ちゃんが降りて鍵をするのを待つ。
「それじゃあ、行くか、美鈴。ほら、手」
あまりに自然に差し出される手に、恥ずかしいとか思う暇なく。おずおずと出した手をあっさりと握り返されて、私達は並んで歩く。
「快晴で良かったな」
「うんっ」
鴇お兄ちゃんが私のペースに合わせて歩いてくれる。
植物園か~。そう言えば前世の私が死ぬ前日に、好きだった人と約束したデートの場所。植物園だったなぁ~。
植物園でクリスマスフェアってやってて。そのサイトを見ていたら、一緒に行くか?って誘ってくれて。まぁ、実際は行けなかったんだけどさ。
鴇お兄ちゃんが入口で入場料を払ってくれて、代わりに渡されたパンフと案内図を私に渡してくれる。
手は繋いだまま、園内に入って少し道をそれて二人でパンフを覗き込む。
「何処から行きたい?」
「えっとね、えっと…」
結構広いし出来るなら全部見て回りたい。順路で行くなら先に芝桜の見える道なんだろうけど。近くに休憩スペースがあるから出来れば後に行きたい。となると…。
「みーすず。焦らなくていい。時間ならある。ゆっくり好きなように見て歩けばいい」
う…。甘い…。
滅茶苦茶恥ずかしい…。うあああっ、手を繋いでるから顔隠せないっ!鴇お兄ちゃん、計算済みっ!?計算済みなのっ!?
「じゃ、じゃあ、まず、このハウスの方に行きたいなっ」
「うん?…あぁ、温室な。了解。行くか」
入口の樹で出来た自然のアーチを抜けて、真っ直ぐ音温室ハウスの方へ向かう。ガラスのハウスで。しかも結構中が広い。
中に入って、ぼわっと熱を感じた。温室だから当然だけどね。
アマゾンをイメージして作ってるのかな?展示を見る限りそんな感じ。
ハウス内は順路通りに進む。
ハッ!?あ、あれはっ!
「鴇お兄ちゃんっ、見てみてっ!ラフレシアっ!」
「何でそれを真っ先に発見するんだ、お前は」
「あっ!あっちにはウツボカヅラもあるっ!」
「食虫花にしか目がいかないのかっ」
「さ、触っても良いのかな?」
ふみみ…。レアだよね。間近で見れるなんて…。でもラフレシアって確か匂いが…。で、でもちょっとだけ。ちょっと触るくらいなら…。
匂いを我慢して、そっと近づいて…。
「ふみ?」
前に進まない。鴇お兄ちゃんと手を繋いでいる所為で、足が止まる。
「触るのは却下だ。ほら、次行くぞ」
「ふみー」
うぅ…触ってみたかった。…今度こっそり真珠さんに連れて来て貰おう。そうしよう。行く先々で食虫花を見つけては近付こうとして鴇お兄ちゃんに止められを繰り返し、ハウスの展示を全て見て回った。
「くそ。なんでこんなに食虫花ばっかなんだ」
「今日、食虫花のフェアだったみたい」
楽しかったー♪
出来れば一つ位触ってみたかったけど…。ああいうのって気持ち悪いんだけど、ゲーマーとしてはね。ほら、良くモンスターとかのモデルになってたりして…気になっちゃうんだよね。
「帰る時にもう一度よって…一回くらい」
「却下だ」
却下だそうです…しょんぼり。
とぼとぼ…。鴇お兄ちゃんに手を引かれつつ歩く。
「美鈴。ほら、あっちに薔薇園あるぞ」
「ふみっ?」
薔薇園っ?どこどこっ?
鴇お兄ちゃんの指さす方を見ると、多種多様な薔薇が咲き乱れる園。
「しかも中に売店があるっぽいな。薔薇ソフトって書いてある」
「鴇お兄ちゃんっ、行こうっ」
キリリッ。
限定ソフトクリームが私を待っているっ!
「分かった分かった。急ぐと転ぶぞ」
「転ばないもんっ。鴇お兄ちゃんと手繋いでるから大丈夫っ♪えへへ」
あれ?鴇お兄ちゃんが口元に手当てて横向いちゃった。ふみみ?
身長差の所為で顔が見えなーい。覗き込もうとしたら、もう既に何時もの表情に戻ってて。しかも頭撫でられて、
「お前は、色々反則だよなぁ」
と言われた。何故?どゆこと?
首を傾げたら、
「可愛いって事だ」
ド直球で返り討ちにあいました。
「鴇お兄ちゃん。何でそんな恥ずかしい事ばっかり…」
「事実だから仕方ないだろ。それに、もう、手を離したくないからな」
「ふみ?」
あ、あれ?鴇お兄ちゃんと繋いでた手が気付けば恋人繋ぎに…。
昨日から鴇お兄ちゃんが恥ずかしい言葉を言う合間にちょくちょく切なそうな顔して呟く事がある。
でもそれがほんの一瞬だから、私の気の所為なんじゃないかな~?って…うぅ~ん…。
「美鈴。薔薇ソフト、食べるんだろ?行くぞ」
「うんっ」
薔薇ソフトの前ではちょっとの羞恥心などっ。
赤、桃、黄、白、紫、黒…色んな色彩の薔薇を堪能しつつ、真っ直ぐ売店へ。
いや、綺麗ですよ?とってもとっても綺麗なのですが…。
私は目の前の薔薇ソフトも一緒に載っているメニュー票に目が釘付けです。
「ん?美鈴。薔薇ソフト以外にも、薔薇の花びらが入ったドリンクとかあるぞ?」
「ふみっ?うむむ…どうしよう…」
「薔薇飴…へぇ。薔薇園なだけはあるな。美鈴、どれにするんだ?」
これは…悩みますな。脳内口調も変わる位私は真剣です。私のお腹のキャパを考えると注文できるのは一つ。そして、限定商品は五つ。薔薇飴、薔薇ソフト、薔薇ジュース、薔薇サブレ、薔薇パフェ。パフェは食べ切れないだろうからまず除外でー。
なんて私が本当に真剣に考えていると、売店の店員さんが話かけてきた。
「カップルのお客様限定の恋愛成就ソフトもございますよ~」
「カップル限定?それはどんなのなんだ?」
「はい。こちらはミルクソフトとなっておりまして。ソフトの中に薔薇の形をした小さな飴が入っております。そちらの飴の味は何通りかありますが、ランダムで入っておりますのでまず同じ味になる事はございません。ですが、本当に相性の良い二人ならばきっと運も味方します。飴は二つ入っており、中に入っていた飴が二つとも薔薇の味をしていますと、二人の相性はバッチリっ!」
相性…。チラッと鴇お兄ちゃんを盗み見ると、鴇お兄ちゃんが首を傾げた。
えっと…私達はカップルって事でいいの、かな?兄妹、だよね?でも、占い。占い、かぁ…。気になるなぁ。
「彼女が気になってるようだから、カップル限定のを貰えるか?あと、飴とサブレは土産に持って帰ろう?」
「い、いいの?」
「あぁ」
「限定アイスと飴、サブレですね。少々お待ちください」
店員さんが準備に入ってった。
「どんなの来るのかな~」
「メニューには全部シルエットしか載ってないからな。だがこれを見る限りカップに入ってるソフトクリームみたいだな」
「えへへ。楽しみ~♪」
わくわく♪
待ってる間、薔薇見てこようかな~♪
ふらふらら~。
「こーら。美鈴。勝手にどこか行こうとするな」
「ふみっ?」
繋いでいた手を引き寄せられて、腰を抱き寄せられた…瞬間。
『きゃーっ!!』
と黄色い声が響き渡った。
何事っ!?辺りを見渡すと、女性客が一杯。
しかも、皆鴇お兄ちゃんに視線が釘付け……むむっ。何か…もやっとする。こう…ムカムカするというか…。
「どうした?美鈴。頬膨らませて」
「…別に~。…鴇お兄ちゃん、モテモテだなぁって思って」
むっすり。
……ちょっと、鴇お兄ちゃん。何、そのキョトン顔?
って、え?何でそっから蕩けそうな満面の笑みになるのっ?駄目っ!誰にも見せちゃダメっ!
「えいっ」
「うわっぷっ」
帽子をとって鴇お兄ちゃんの顔を叩くように隠す。
その瞬間、今度は。
ざわっ、ざわわっ。
辺りがざわめいた。え?何で?
「美鈴…。微妙に痛いし、お前が帽子脱いで攻撃して来た事で、男共が色めきだったんだが?」
「ふみみ?」
男?くるっと振り返る。彼女連れの男の人が数人?色めきだってなんていないよね?だって、即行で目線逸らされたし。あの人達は皆彼女がいる訳だし。うん。
「大変お待たせしましたー」
店員さんが戻って来た。帽子をかぶり直して、限定ソフトを受け取る。カップにはスプーンが二つ刺さっている。二人で一緒に食べる為かな?にしても結構大きいな。サンデーくらいの大きさはあるんじゃない?
「薔薇園の中にベンチがあったな。そこで食べるか?」
「うんっ」
鴇お兄ちゃんがお土産の飴とサブレを受け取ってくれたので、その逆手を繋いで売店を離れる。
擦れ違ったカップル皆こっちを見てたけど、なんだったんだろう?
美男美女カップルが来たと後々この植物園の伝説になるらしいんだけど、私も鴇お兄ちゃんもそれを知るのはかなり後になってからだった。
ベンチに座ってソフトを食べていると、半分くらい食べてやっと薔薇の飴が出て来た。
じゃあ、まずこっちは鴇お兄ちゃんに食べて貰おう。
「鴇お兄ちゃん。はい、あーん」
「ん」
互いに何の躊躇いもなく食べさせあう。小さい頃からあ~んをし過ぎて、普通になってしまった。あ、一番底に飴もう一つ発見。
最後の一口と一緒に口に含み舌の上に転がしてみる。…あれ?これって…。
「薔薇の味がする」
「俺のもだ」
鴇お兄ちゃんのも?…って事は…その、相性バッチリって事で…?
ボンッ。
瞬間沸騰した気分です。
やややや、でもさっ?これ薔薇の味だと思うけど、もしかしたら薔薇っぽい何かかもしれないしっ。
「間違ってたり、とか…?」
しない、よね?
そっと鴇お兄ちゃんを見ると、鴇お兄ちゃんらしい不敵な笑みを浮かべて、
「交換してみるか?」
と言われたので、慌てて頭を振った。
「美鈴。ちょっとこっち向け。唇の端にクリームがついてる」
「え?どこ?」
どこどこ?鏡出さなきゃっ。
慌てて唇に手をやると、「ここだ」と微笑みながら鴇お兄ちゃんが親指で拭ってくれた。
やばい。照れるっ!
これ以上茹ったら気絶しちゃうっ。頭を冷やす為に、立ち上がって近くにあったゴミ箱にカップとスプーンを捨てに走る。
「そろそろ芝桜見に行くか」
「あ、うん」
後ろを付いて来ていた鴇お兄ちゃんが何事もなく自然に手を繋いで歩くから、私はまだ冷静になりきれていないけど、頷いて一緒に歩きだした。
広い庭園を一面に埋め尽くす芝桜を見ながら道を歩く。
「美鈴。足痛くないか?」
「え?」
「靴も新調してくれたんだろう?靴擦れとか、起きてないか?」
鴇お兄ちゃん。気遣いも完璧ですか?エスコートも完璧だし。でも私だって靴擦れしそうな気がしたから、ちゃんと対策はしてきているのですっ!
「大丈夫だよっ。えへへっ。ありがとうっ」
「そうか。…そうだな。お前は昔から何でも先を読んで行動する奴だったしな。良い子だ」
「えへへ」
褒められると素直に嬉しい。頭を撫でられると更に嬉しい。
にしても、鴇お兄ちゃんのセリフ。昔からって小さい時からって事だよね?それ以外の意味はない、んだよね?
何か昔に意味が込められてそうで、ちょっと違和感がある。
そんな違和感を抱えながらも、芝桜を堪能して私達は植物園を出た。
駐車場に戻り、車に乗りこんで。車が走りだす。
帰るのかな?って思ったら、次の場所へ向かうんだって。何処に行くんだろう?
今の時間はお昼ちょっと過ぎ?
「昼は、…初デートの場所としては、あれなんだが。美味い定食屋があってな」
「行きたいっ!」
デートとか気にするより、美味しいものが食べたいですっ!緊張しながら食べるより美味しいものが食べたいですっ!
車の中だと言う事を忘れ、挙手をしてしまい手が痛い。
にしても、定食屋かぁ。どんな感じの所なのかな?
そう言えば前世で、好きだった人…鷹村先輩に良く食事に誘われた時も良く行ったのは定食屋だったなぁ。
連れて行ってくれる場所、全部好みの味な場所で。そうそう。行く筈だったデートコースにも定食屋が含まれてたっけ?
車で暫く走り、連れて行ってくれた定食屋は、サバの味噌煮が絶品の店で。しかもデザートに抹茶プリン。前世で行く筈だった定食屋もサバの味噌煮が美味いって、しかも抹茶プリンがある店で…同じ店な訳はないけど。
美味しい定食をぺろりと平らげて、最後に見せたいものがあるって言われて、車はまた走りだす。
まさか…とは思う。
でも、心のどこかで、私は期待もしていた。
そうであって欲しいと。
もしも鴇お兄ちゃんがこれから私を連れて行ってくれる場所が―――あの場所ならば…。
そして、車は進み、どんどん時間は過ぎて…。
到着した場所は…。
「―――夜景が、綺麗…」
開けた丘の上にある展望台だった。
誰もいない空間。
そこに私達の歩く靴の音だけが響く。
球体のようにカーブを描いたガラスの向こう。眼下には人の作る明かりが夜の闇を照らす夜景が広がっていた。
「貸切にして正解だったな。今の財力だとこんな事も余裕で出来る」
笑いながら、私の横に立って一緒に夜景を眺める。
『今』の財力…。
昨日から鴇お兄ちゃんはちょっとずつ、言葉に含みがあった。
それは今日一日ずっとあった違和感。だけど、その違和感は…。
私にとって嬉しい違和感かもしれなくて…。
隣に立っている鴇お兄ちゃんをそっと見上げた。
「……ちょっと、世界が変わってはしまったが。お前と一緒にするはずだったデートの約束を叶える事が出来た。楽しかったか?―――西園寺」
「―――ッ!!」
今、鴇お兄ちゃん、私を西園寺って…。やっぱりっ、やっぱりそうなんだっ!
違和感が、確信に。驚きが喜びに変わる。
「たか、むら、先輩…?」
名を呼ぶ声が震えた。
けれど鴇お兄ちゃんは、震える私の肩を掴み抱き寄せて。きつく、きつく抱きしめてくれた。
「あぁ。そうだ。…また、会えたな。西園寺」
胸が熱い。
会えるなんて思わなかった。
抱きしめて貰えるなんて思わなかった。
目頭が熱くなって、視界が歪む。
「ほん、とうに…?」
声が掠れる。
でも、私を抱きしめる腕は、それが真実だと証明してくれていた。
我慢、出来なかった。
ぼろぼろと涙が溢れる。
「鷹村先輩…?、せんぱい?、本当に、先輩っ?」
「あぁ…。やっと、やっと会えた。お前にっ。生きてるお前を、抱きしめる事が出来たっ」
鴇お兄ちゃんの声が掠れてる。
当然、だね。鴇お兄ちゃんも、泣いてる…。
そっと手を伸ばして、その頬に触れると暖かい滴で濡れていた。
頬に触れた手に鴇お兄ちゃんの温かい手が重ねられる。手の平にゆっくりと口づけられた。
でも全然嫌じゃない。むしろその逆で。触れた唇から、鴇お兄ちゃんの気持ちが伝わってくるようで、心がじわりと愛おしさに染められていく。
互いに泣いているのに。
その表情は互いに、柔らかな微笑みを浮かべていた。
「こっちに来い、美鈴」
「え?」
抱きしめられていた腕が解かれ、そのまま手を繋がれて鴇お兄ちゃんは直ぐ近くのソファに座った。
私を足の間に座らせて、まるで離さないと言われてるみたい。けど、それが今は凄く嬉しい。素直に鴇お兄ちゃんの胸に背中を預けると、腰にゆったりと腕を回された。
暫く心地の良い沈黙が流れる。
ドキドキと胸は高鳴ってる。けれど、それすら今の私には心地よかった。
だって、私だけじゃないから。
触れてる背中から、鴇お兄ちゃんの鼓動も聞こえる。小さい頃からずっとこうやって抱きしめられてきたけど、こんな風に高鳴ってるのは初めてだったから。
「ふふっ。鴇お兄ちゃん。ドキドキしてる」
「……当り前だ。惚れた女が自分の手の内にいるんだから」
「鴇お兄ちゃん…」
今、惚れたって、言った?
聞き間違いじゃ、ない?
見上げると、鴇お兄ちゃんと視線が合う。その表情は真剣そのもので…。
「昨日も言っただろう?好きだ、と」
「そ、れは…聞いたけど…。家族愛だと、思って…」
「家族愛がない訳じゃない。だが、俺はお前を異性として好いている。ずっと、ずっとだ。それこそ前世から。俺と言う存在が確立してから、ずっと俺はお前だけが好きだよ」
好きな人から、こんな熱烈な告白を聞いて、幸せじゃない女なんているのかな。
少なくとも私は、幸せで。幸福過ぎて、止まった涙がまた溢れだす。
「初めて、伝えられた。…いつも俺は、お前の亡骸にしか伝えられなかったから…。俺はいつも死ぬ間際に後悔しか、出来なかった。『もっと早く気付けていれば』『もっと早くお前に気持ちを告げていれば』もっと、もっと…。…もう何度、お前の死ぬ場面を見ただろう。何度、この手の内で冷たくなるお前を抱きしめただろう」
「鴇お兄ちゃん…。ごめん…ごめんね」
何度と言う言葉の込められた意味は解らない。けれど、きっと、鴇お兄ちゃんをこんなにも苦しめたのは私なんだ。
お腹にある鴇お兄ちゃんの手にそっと自分の手を重ねた。
「謝るな。謝らなくていい。俺が、悪いんだ。…守りたいのに、いつも守り切れなかった俺が…」
「そんなっ…」
そんな事ないっ!
その台詞を鴇お兄ちゃんは最後まで言わせてくれなかった。
唇に一瞬だけ触れた鴇お兄ちゃんの唇。
触れるだけのキス。
「美鈴。俺にとってはこれが最後のチャンスだ。これで俺がまたお前を失えば、俺は二度とこうして記憶を取り戻す事も、お前を好きになる事もなくなるだろう」
「な、んで…?」
「俺が記憶を取り戻す時に聞こえた声が、もし俺の想像通りの人物だとしたら確実にそうなる。きっと美鈴にとってはそれが一番良いのかもしれない。俺がお前を好きになるから、愛してしまったからどんな世界でもお前は『アイツ』に殺された」
「あいつ…?」
「けど…、けどな、美鈴」
ぎゅっと腰に回された腕に力がこもる。
「俺は、お前を離したくないっ。俺がお前を幸せにしたいっ。俺の手で幸せにしてやりたいんだっ」
「鴇お兄ちゃん…」
見つめ合う視線に、いつも感じる事のない熱を感じる。
「美鈴。お前を一番に見つけたのは、俺だろう?お前と肩を並べられるだけの力を持ってるのは俺だけ、そうだろう?だから、…頼む。―――俺を選んでくれっ。美鈴っ」
鴇お兄ちゃんの懇願。…そんなの…。
「ていっ」
バチィンッ!
私は鴇お兄ちゃんの顔を両手で思い切り挟んだ。とても良い音がしたのはご愛嬌。
「美鈴…?」
驚く鴇お兄ちゃんに私は微笑んだ。
「鴇お兄ちゃんらしくないよ。鴇お兄ちゃんに懇願なんて似合わない。鷹村先輩の時だって、今までずっと一緒に過ごしてきた鴇お兄ちゃんだって、ずっと不敵に笑ってた。笑ってて。鴇お兄ちゃん」
「美鈴…」
叩いた頬をそっと撫でる。
鴇お兄ちゃんの顔に自分の顔をそっと近づけて、キスをした。
私も、触れるだけのキス。
けれど、伝わる筈。鴇お兄ちゃんを想うこの気持ちが。
「好き。私はずっと鴇お兄ちゃんの事が好き。そんな風に願う必要はないの。西園寺華だった時もそう。好き。大好き。私は鴇お兄ちゃんの存在そのものを愛してる。選ぶ必要はないの。だって私の道の先にいつもいるのは『貴方』だけだもの」
「……ッ」
「愛してる。ごめんね、一人で戦わせて。一人で苦しませて。今度は一緒に戦うよ。『貴方』と『私』の気持ちが一つになったんだから、もう、負けないよ。二人で、幸せになろう?」
「美鈴ッ…くっ、…」
ボロボロと透明な滴が鴇お兄ちゃんの頬を流れる。
綺麗な涙だった。
真っ直ぐに私にだけ気持ちを伝える滴。
「好き、だっ。お前、だけを、愛してるっ、これからも、何度、生まれ変わってもっ、俺は、お前だけを愛してるっ」
「うん…。うんっ、私もっ。私も、貴方だけを、想い続けるっ。大好きっ。愛してるよっ」
腕を伸ばして、彼の首に抱き付く。
互いに涙でぼろぼろな顔。
でも、心は幸福感で溢れていて。
やっと、心が通じた喜びで満ち溢れていて。
自然と重なった唇に熱を感じて。
全身が喜びに染まり。
彼の優しい手が触れてくれる場所からじわりと熱が広がって…。
恐怖など無かった…。
彼の全てが欲しいから。
私の全てを知って欲しかったから。
額に、頬に、首に、肩に、素肌に触れる唇から彼を感じられる。
それが嬉しくて。
彼の熱に支配される事が堪らないくらい嬉しくて。
押し倒されたソファの皮の冷たさなど全く感じないくらい、私の体は彼に熱せられて。
離れたくない。
くっついていたい。
肌が重なって…。
一つになる痛みすら、彼がくれた痛みかと思えばそれすらも愛おしい。
これを最後なんかにしたくない。
これからも、ずっと、私は彼といたい。
彼を愛するこの愛おしい想いも記憶も全て私は持っていたい。
愛してるから…。
私を想って、例え記憶がなくても見つけて側にいて守ってくれている彼が、愛おしくて堪らないから…。
今度は、二人で、幸せを手に入れよう?
大丈夫だよ。
だって、私は今貴方といられて、こんなにも幸せだもの―――。
昨日選んで貰ったピンクの太もも丈のタイトワンピとちょっと大きめの白ニットカーデ。更に天使の羽ネックレスにちょっと小さくて紐の長いファッションリュック。そしてブラウンのヒール高めの春ブーツにベレー帽。髪はゆったりとシュシュで結んで横に流した。
一方。車の前で私が出てくるのを待ってくれていた鴇お兄ちゃんは、ジャケットにVネックの白Tシャツ。それから黒のパンツ。…鴇お兄ちゃん。サングラスとか似合うのでズルいです。色々ズルいです。
私隣に並んでいいんでしょうか?…いや、ここは自信もってっ。だって華菜ちゃん達が選んでくれたんだもんねっ。
ゆっくりと歩いて、鴇お兄ちゃんの前に立つ。
「そ、の…似合う?」
くるっとその場で回って見せると、鴇お兄ちゃんは一瞬驚いた顔をして。けれど、次の瞬間には優しく微笑み、
「あぁ、似合ってるぞ。可愛い」
そう言って私の代わりに助手席のドアを開けてくれた。素直に、従って車に乗ってシートベルトを締める。すると直ぐに鴇お兄ちゃんも運転席に乗り込んで車は緩やかに走りだした。
「美鈴。その服。一度も見た事ない服だよな?もしかして、今日の為に買ってきたのか?」
「う、うん…」
「そうか。ありがとな。じゃあそのお礼に思い切り楽しいデートにしないと、だな」
楽しいデート…。えへへ。嬉しい。それに鴇お兄ちゃんが喜んでくれたのも嬉しいな。後で華菜ちゃんと円にお礼しなきゃ。
「そういや、美鈴。この前、棗が…」
鴇お兄ちゃんが暇しないように会話を振ってくれる。こう言う所も鴇お兄ちゃんの凄い所だよね。きちんと気を使ってくれるんだから。
楽しく会話しながら、ふと外の景色を見る。そう言えば、何処に向かってるんだろう?
「鴇お兄ちゃん。今日は何処に行くの?」
「ん?まずは、植物園だな。芝桜と、少し早いが薔薇が見頃らしい」
「そうなのっ?わっ、わっ、楽しみっ♪」
芝桜~♪芝桜って基本的に一面に広がる様に植えられる事が多いから、きっとピンクの絨毯みたいになってるんだっ。
想像するだけで楽しみっ!
暫く車を走らせ、植物園に到着する。駐車場に車を停まったのを確かめてから、車を降りる。
運転席の方に回り、鴇お兄ちゃんが降りて鍵をするのを待つ。
「それじゃあ、行くか、美鈴。ほら、手」
あまりに自然に差し出される手に、恥ずかしいとか思う暇なく。おずおずと出した手をあっさりと握り返されて、私達は並んで歩く。
「快晴で良かったな」
「うんっ」
鴇お兄ちゃんが私のペースに合わせて歩いてくれる。
植物園か~。そう言えば前世の私が死ぬ前日に、好きだった人と約束したデートの場所。植物園だったなぁ~。
植物園でクリスマスフェアってやってて。そのサイトを見ていたら、一緒に行くか?って誘ってくれて。まぁ、実際は行けなかったんだけどさ。
鴇お兄ちゃんが入口で入場料を払ってくれて、代わりに渡されたパンフと案内図を私に渡してくれる。
手は繋いだまま、園内に入って少し道をそれて二人でパンフを覗き込む。
「何処から行きたい?」
「えっとね、えっと…」
結構広いし出来るなら全部見て回りたい。順路で行くなら先に芝桜の見える道なんだろうけど。近くに休憩スペースがあるから出来れば後に行きたい。となると…。
「みーすず。焦らなくていい。時間ならある。ゆっくり好きなように見て歩けばいい」
う…。甘い…。
滅茶苦茶恥ずかしい…。うあああっ、手を繋いでるから顔隠せないっ!鴇お兄ちゃん、計算済みっ!?計算済みなのっ!?
「じゃ、じゃあ、まず、このハウスの方に行きたいなっ」
「うん?…あぁ、温室な。了解。行くか」
入口の樹で出来た自然のアーチを抜けて、真っ直ぐ音温室ハウスの方へ向かう。ガラスのハウスで。しかも結構中が広い。
中に入って、ぼわっと熱を感じた。温室だから当然だけどね。
アマゾンをイメージして作ってるのかな?展示を見る限りそんな感じ。
ハウス内は順路通りに進む。
ハッ!?あ、あれはっ!
「鴇お兄ちゃんっ、見てみてっ!ラフレシアっ!」
「何でそれを真っ先に発見するんだ、お前は」
「あっ!あっちにはウツボカヅラもあるっ!」
「食虫花にしか目がいかないのかっ」
「さ、触っても良いのかな?」
ふみみ…。レアだよね。間近で見れるなんて…。でもラフレシアって確か匂いが…。で、でもちょっとだけ。ちょっと触るくらいなら…。
匂いを我慢して、そっと近づいて…。
「ふみ?」
前に進まない。鴇お兄ちゃんと手を繋いでいる所為で、足が止まる。
「触るのは却下だ。ほら、次行くぞ」
「ふみー」
うぅ…触ってみたかった。…今度こっそり真珠さんに連れて来て貰おう。そうしよう。行く先々で食虫花を見つけては近付こうとして鴇お兄ちゃんに止められを繰り返し、ハウスの展示を全て見て回った。
「くそ。なんでこんなに食虫花ばっかなんだ」
「今日、食虫花のフェアだったみたい」
楽しかったー♪
出来れば一つ位触ってみたかったけど…。ああいうのって気持ち悪いんだけど、ゲーマーとしてはね。ほら、良くモンスターとかのモデルになってたりして…気になっちゃうんだよね。
「帰る時にもう一度よって…一回くらい」
「却下だ」
却下だそうです…しょんぼり。
とぼとぼ…。鴇お兄ちゃんに手を引かれつつ歩く。
「美鈴。ほら、あっちに薔薇園あるぞ」
「ふみっ?」
薔薇園っ?どこどこっ?
鴇お兄ちゃんの指さす方を見ると、多種多様な薔薇が咲き乱れる園。
「しかも中に売店があるっぽいな。薔薇ソフトって書いてある」
「鴇お兄ちゃんっ、行こうっ」
キリリッ。
限定ソフトクリームが私を待っているっ!
「分かった分かった。急ぐと転ぶぞ」
「転ばないもんっ。鴇お兄ちゃんと手繋いでるから大丈夫っ♪えへへ」
あれ?鴇お兄ちゃんが口元に手当てて横向いちゃった。ふみみ?
身長差の所為で顔が見えなーい。覗き込もうとしたら、もう既に何時もの表情に戻ってて。しかも頭撫でられて、
「お前は、色々反則だよなぁ」
と言われた。何故?どゆこと?
首を傾げたら、
「可愛いって事だ」
ド直球で返り討ちにあいました。
「鴇お兄ちゃん。何でそんな恥ずかしい事ばっかり…」
「事実だから仕方ないだろ。それに、もう、手を離したくないからな」
「ふみ?」
あ、あれ?鴇お兄ちゃんと繋いでた手が気付けば恋人繋ぎに…。
昨日から鴇お兄ちゃんが恥ずかしい言葉を言う合間にちょくちょく切なそうな顔して呟く事がある。
でもそれがほんの一瞬だから、私の気の所為なんじゃないかな~?って…うぅ~ん…。
「美鈴。薔薇ソフト、食べるんだろ?行くぞ」
「うんっ」
薔薇ソフトの前ではちょっとの羞恥心などっ。
赤、桃、黄、白、紫、黒…色んな色彩の薔薇を堪能しつつ、真っ直ぐ売店へ。
いや、綺麗ですよ?とってもとっても綺麗なのですが…。
私は目の前の薔薇ソフトも一緒に載っているメニュー票に目が釘付けです。
「ん?美鈴。薔薇ソフト以外にも、薔薇の花びらが入ったドリンクとかあるぞ?」
「ふみっ?うむむ…どうしよう…」
「薔薇飴…へぇ。薔薇園なだけはあるな。美鈴、どれにするんだ?」
これは…悩みますな。脳内口調も変わる位私は真剣です。私のお腹のキャパを考えると注文できるのは一つ。そして、限定商品は五つ。薔薇飴、薔薇ソフト、薔薇ジュース、薔薇サブレ、薔薇パフェ。パフェは食べ切れないだろうからまず除外でー。
なんて私が本当に真剣に考えていると、売店の店員さんが話かけてきた。
「カップルのお客様限定の恋愛成就ソフトもございますよ~」
「カップル限定?それはどんなのなんだ?」
「はい。こちらはミルクソフトとなっておりまして。ソフトの中に薔薇の形をした小さな飴が入っております。そちらの飴の味は何通りかありますが、ランダムで入っておりますのでまず同じ味になる事はございません。ですが、本当に相性の良い二人ならばきっと運も味方します。飴は二つ入っており、中に入っていた飴が二つとも薔薇の味をしていますと、二人の相性はバッチリっ!」
相性…。チラッと鴇お兄ちゃんを盗み見ると、鴇お兄ちゃんが首を傾げた。
えっと…私達はカップルって事でいいの、かな?兄妹、だよね?でも、占い。占い、かぁ…。気になるなぁ。
「彼女が気になってるようだから、カップル限定のを貰えるか?あと、飴とサブレは土産に持って帰ろう?」
「い、いいの?」
「あぁ」
「限定アイスと飴、サブレですね。少々お待ちください」
店員さんが準備に入ってった。
「どんなの来るのかな~」
「メニューには全部シルエットしか載ってないからな。だがこれを見る限りカップに入ってるソフトクリームみたいだな」
「えへへ。楽しみ~♪」
わくわく♪
待ってる間、薔薇見てこようかな~♪
ふらふらら~。
「こーら。美鈴。勝手にどこか行こうとするな」
「ふみっ?」
繋いでいた手を引き寄せられて、腰を抱き寄せられた…瞬間。
『きゃーっ!!』
と黄色い声が響き渡った。
何事っ!?辺りを見渡すと、女性客が一杯。
しかも、皆鴇お兄ちゃんに視線が釘付け……むむっ。何か…もやっとする。こう…ムカムカするというか…。
「どうした?美鈴。頬膨らませて」
「…別に~。…鴇お兄ちゃん、モテモテだなぁって思って」
むっすり。
……ちょっと、鴇お兄ちゃん。何、そのキョトン顔?
って、え?何でそっから蕩けそうな満面の笑みになるのっ?駄目っ!誰にも見せちゃダメっ!
「えいっ」
「うわっぷっ」
帽子をとって鴇お兄ちゃんの顔を叩くように隠す。
その瞬間、今度は。
ざわっ、ざわわっ。
辺りがざわめいた。え?何で?
「美鈴…。微妙に痛いし、お前が帽子脱いで攻撃して来た事で、男共が色めきだったんだが?」
「ふみみ?」
男?くるっと振り返る。彼女連れの男の人が数人?色めきだってなんていないよね?だって、即行で目線逸らされたし。あの人達は皆彼女がいる訳だし。うん。
「大変お待たせしましたー」
店員さんが戻って来た。帽子をかぶり直して、限定ソフトを受け取る。カップにはスプーンが二つ刺さっている。二人で一緒に食べる為かな?にしても結構大きいな。サンデーくらいの大きさはあるんじゃない?
「薔薇園の中にベンチがあったな。そこで食べるか?」
「うんっ」
鴇お兄ちゃんがお土産の飴とサブレを受け取ってくれたので、その逆手を繋いで売店を離れる。
擦れ違ったカップル皆こっちを見てたけど、なんだったんだろう?
美男美女カップルが来たと後々この植物園の伝説になるらしいんだけど、私も鴇お兄ちゃんもそれを知るのはかなり後になってからだった。
ベンチに座ってソフトを食べていると、半分くらい食べてやっと薔薇の飴が出て来た。
じゃあ、まずこっちは鴇お兄ちゃんに食べて貰おう。
「鴇お兄ちゃん。はい、あーん」
「ん」
互いに何の躊躇いもなく食べさせあう。小さい頃からあ~んをし過ぎて、普通になってしまった。あ、一番底に飴もう一つ発見。
最後の一口と一緒に口に含み舌の上に転がしてみる。…あれ?これって…。
「薔薇の味がする」
「俺のもだ」
鴇お兄ちゃんのも?…って事は…その、相性バッチリって事で…?
ボンッ。
瞬間沸騰した気分です。
やややや、でもさっ?これ薔薇の味だと思うけど、もしかしたら薔薇っぽい何かかもしれないしっ。
「間違ってたり、とか…?」
しない、よね?
そっと鴇お兄ちゃんを見ると、鴇お兄ちゃんらしい不敵な笑みを浮かべて、
「交換してみるか?」
と言われたので、慌てて頭を振った。
「美鈴。ちょっとこっち向け。唇の端にクリームがついてる」
「え?どこ?」
どこどこ?鏡出さなきゃっ。
慌てて唇に手をやると、「ここだ」と微笑みながら鴇お兄ちゃんが親指で拭ってくれた。
やばい。照れるっ!
これ以上茹ったら気絶しちゃうっ。頭を冷やす為に、立ち上がって近くにあったゴミ箱にカップとスプーンを捨てに走る。
「そろそろ芝桜見に行くか」
「あ、うん」
後ろを付いて来ていた鴇お兄ちゃんが何事もなく自然に手を繋いで歩くから、私はまだ冷静になりきれていないけど、頷いて一緒に歩きだした。
広い庭園を一面に埋め尽くす芝桜を見ながら道を歩く。
「美鈴。足痛くないか?」
「え?」
「靴も新調してくれたんだろう?靴擦れとか、起きてないか?」
鴇お兄ちゃん。気遣いも完璧ですか?エスコートも完璧だし。でも私だって靴擦れしそうな気がしたから、ちゃんと対策はしてきているのですっ!
「大丈夫だよっ。えへへっ。ありがとうっ」
「そうか。…そうだな。お前は昔から何でも先を読んで行動する奴だったしな。良い子だ」
「えへへ」
褒められると素直に嬉しい。頭を撫でられると更に嬉しい。
にしても、鴇お兄ちゃんのセリフ。昔からって小さい時からって事だよね?それ以外の意味はない、んだよね?
何か昔に意味が込められてそうで、ちょっと違和感がある。
そんな違和感を抱えながらも、芝桜を堪能して私達は植物園を出た。
駐車場に戻り、車に乗りこんで。車が走りだす。
帰るのかな?って思ったら、次の場所へ向かうんだって。何処に行くんだろう?
今の時間はお昼ちょっと過ぎ?
「昼は、…初デートの場所としては、あれなんだが。美味い定食屋があってな」
「行きたいっ!」
デートとか気にするより、美味しいものが食べたいですっ!緊張しながら食べるより美味しいものが食べたいですっ!
車の中だと言う事を忘れ、挙手をしてしまい手が痛い。
にしても、定食屋かぁ。どんな感じの所なのかな?
そう言えば前世で、好きだった人…鷹村先輩に良く食事に誘われた時も良く行ったのは定食屋だったなぁ。
連れて行ってくれる場所、全部好みの味な場所で。そうそう。行く筈だったデートコースにも定食屋が含まれてたっけ?
車で暫く走り、連れて行ってくれた定食屋は、サバの味噌煮が絶品の店で。しかもデザートに抹茶プリン。前世で行く筈だった定食屋もサバの味噌煮が美味いって、しかも抹茶プリンがある店で…同じ店な訳はないけど。
美味しい定食をぺろりと平らげて、最後に見せたいものがあるって言われて、車はまた走りだす。
まさか…とは思う。
でも、心のどこかで、私は期待もしていた。
そうであって欲しいと。
もしも鴇お兄ちゃんがこれから私を連れて行ってくれる場所が―――あの場所ならば…。
そして、車は進み、どんどん時間は過ぎて…。
到着した場所は…。
「―――夜景が、綺麗…」
開けた丘の上にある展望台だった。
誰もいない空間。
そこに私達の歩く靴の音だけが響く。
球体のようにカーブを描いたガラスの向こう。眼下には人の作る明かりが夜の闇を照らす夜景が広がっていた。
「貸切にして正解だったな。今の財力だとこんな事も余裕で出来る」
笑いながら、私の横に立って一緒に夜景を眺める。
『今』の財力…。
昨日から鴇お兄ちゃんはちょっとずつ、言葉に含みがあった。
それは今日一日ずっとあった違和感。だけど、その違和感は…。
私にとって嬉しい違和感かもしれなくて…。
隣に立っている鴇お兄ちゃんをそっと見上げた。
「……ちょっと、世界が変わってはしまったが。お前と一緒にするはずだったデートの約束を叶える事が出来た。楽しかったか?―――西園寺」
「―――ッ!!」
今、鴇お兄ちゃん、私を西園寺って…。やっぱりっ、やっぱりそうなんだっ!
違和感が、確信に。驚きが喜びに変わる。
「たか、むら、先輩…?」
名を呼ぶ声が震えた。
けれど鴇お兄ちゃんは、震える私の肩を掴み抱き寄せて。きつく、きつく抱きしめてくれた。
「あぁ。そうだ。…また、会えたな。西園寺」
胸が熱い。
会えるなんて思わなかった。
抱きしめて貰えるなんて思わなかった。
目頭が熱くなって、視界が歪む。
「ほん、とうに…?」
声が掠れる。
でも、私を抱きしめる腕は、それが真実だと証明してくれていた。
我慢、出来なかった。
ぼろぼろと涙が溢れる。
「鷹村先輩…?、せんぱい?、本当に、先輩っ?」
「あぁ…。やっと、やっと会えた。お前にっ。生きてるお前を、抱きしめる事が出来たっ」
鴇お兄ちゃんの声が掠れてる。
当然、だね。鴇お兄ちゃんも、泣いてる…。
そっと手を伸ばして、その頬に触れると暖かい滴で濡れていた。
頬に触れた手に鴇お兄ちゃんの温かい手が重ねられる。手の平にゆっくりと口づけられた。
でも全然嫌じゃない。むしろその逆で。触れた唇から、鴇お兄ちゃんの気持ちが伝わってくるようで、心がじわりと愛おしさに染められていく。
互いに泣いているのに。
その表情は互いに、柔らかな微笑みを浮かべていた。
「こっちに来い、美鈴」
「え?」
抱きしめられていた腕が解かれ、そのまま手を繋がれて鴇お兄ちゃんは直ぐ近くのソファに座った。
私を足の間に座らせて、まるで離さないと言われてるみたい。けど、それが今は凄く嬉しい。素直に鴇お兄ちゃんの胸に背中を預けると、腰にゆったりと腕を回された。
暫く心地の良い沈黙が流れる。
ドキドキと胸は高鳴ってる。けれど、それすら今の私には心地よかった。
だって、私だけじゃないから。
触れてる背中から、鴇お兄ちゃんの鼓動も聞こえる。小さい頃からずっとこうやって抱きしめられてきたけど、こんな風に高鳴ってるのは初めてだったから。
「ふふっ。鴇お兄ちゃん。ドキドキしてる」
「……当り前だ。惚れた女が自分の手の内にいるんだから」
「鴇お兄ちゃん…」
今、惚れたって、言った?
聞き間違いじゃ、ない?
見上げると、鴇お兄ちゃんと視線が合う。その表情は真剣そのもので…。
「昨日も言っただろう?好きだ、と」
「そ、れは…聞いたけど…。家族愛だと、思って…」
「家族愛がない訳じゃない。だが、俺はお前を異性として好いている。ずっと、ずっとだ。それこそ前世から。俺と言う存在が確立してから、ずっと俺はお前だけが好きだよ」
好きな人から、こんな熱烈な告白を聞いて、幸せじゃない女なんているのかな。
少なくとも私は、幸せで。幸福過ぎて、止まった涙がまた溢れだす。
「初めて、伝えられた。…いつも俺は、お前の亡骸にしか伝えられなかったから…。俺はいつも死ぬ間際に後悔しか、出来なかった。『もっと早く気付けていれば』『もっと早くお前に気持ちを告げていれば』もっと、もっと…。…もう何度、お前の死ぬ場面を見ただろう。何度、この手の内で冷たくなるお前を抱きしめただろう」
「鴇お兄ちゃん…。ごめん…ごめんね」
何度と言う言葉の込められた意味は解らない。けれど、きっと、鴇お兄ちゃんをこんなにも苦しめたのは私なんだ。
お腹にある鴇お兄ちゃんの手にそっと自分の手を重ねた。
「謝るな。謝らなくていい。俺が、悪いんだ。…守りたいのに、いつも守り切れなかった俺が…」
「そんなっ…」
そんな事ないっ!
その台詞を鴇お兄ちゃんは最後まで言わせてくれなかった。
唇に一瞬だけ触れた鴇お兄ちゃんの唇。
触れるだけのキス。
「美鈴。俺にとってはこれが最後のチャンスだ。これで俺がまたお前を失えば、俺は二度とこうして記憶を取り戻す事も、お前を好きになる事もなくなるだろう」
「な、んで…?」
「俺が記憶を取り戻す時に聞こえた声が、もし俺の想像通りの人物だとしたら確実にそうなる。きっと美鈴にとってはそれが一番良いのかもしれない。俺がお前を好きになるから、愛してしまったからどんな世界でもお前は『アイツ』に殺された」
「あいつ…?」
「けど…、けどな、美鈴」
ぎゅっと腰に回された腕に力がこもる。
「俺は、お前を離したくないっ。俺がお前を幸せにしたいっ。俺の手で幸せにしてやりたいんだっ」
「鴇お兄ちゃん…」
見つめ合う視線に、いつも感じる事のない熱を感じる。
「美鈴。お前を一番に見つけたのは、俺だろう?お前と肩を並べられるだけの力を持ってるのは俺だけ、そうだろう?だから、…頼む。―――俺を選んでくれっ。美鈴っ」
鴇お兄ちゃんの懇願。…そんなの…。
「ていっ」
バチィンッ!
私は鴇お兄ちゃんの顔を両手で思い切り挟んだ。とても良い音がしたのはご愛嬌。
「美鈴…?」
驚く鴇お兄ちゃんに私は微笑んだ。
「鴇お兄ちゃんらしくないよ。鴇お兄ちゃんに懇願なんて似合わない。鷹村先輩の時だって、今までずっと一緒に過ごしてきた鴇お兄ちゃんだって、ずっと不敵に笑ってた。笑ってて。鴇お兄ちゃん」
「美鈴…」
叩いた頬をそっと撫でる。
鴇お兄ちゃんの顔に自分の顔をそっと近づけて、キスをした。
私も、触れるだけのキス。
けれど、伝わる筈。鴇お兄ちゃんを想うこの気持ちが。
「好き。私はずっと鴇お兄ちゃんの事が好き。そんな風に願う必要はないの。西園寺華だった時もそう。好き。大好き。私は鴇お兄ちゃんの存在そのものを愛してる。選ぶ必要はないの。だって私の道の先にいつもいるのは『貴方』だけだもの」
「……ッ」
「愛してる。ごめんね、一人で戦わせて。一人で苦しませて。今度は一緒に戦うよ。『貴方』と『私』の気持ちが一つになったんだから、もう、負けないよ。二人で、幸せになろう?」
「美鈴ッ…くっ、…」
ボロボロと透明な滴が鴇お兄ちゃんの頬を流れる。
綺麗な涙だった。
真っ直ぐに私にだけ気持ちを伝える滴。
「好き、だっ。お前、だけを、愛してるっ、これからも、何度、生まれ変わってもっ、俺は、お前だけを愛してるっ」
「うん…。うんっ、私もっ。私も、貴方だけを、想い続けるっ。大好きっ。愛してるよっ」
腕を伸ばして、彼の首に抱き付く。
互いに涙でぼろぼろな顔。
でも、心は幸福感で溢れていて。
やっと、心が通じた喜びで満ち溢れていて。
自然と重なった唇に熱を感じて。
全身が喜びに染まり。
彼の優しい手が触れてくれる場所からじわりと熱が広がって…。
恐怖など無かった…。
彼の全てが欲しいから。
私の全てを知って欲しかったから。
額に、頬に、首に、肩に、素肌に触れる唇から彼を感じられる。
それが嬉しくて。
彼の熱に支配される事が堪らないくらい嬉しくて。
押し倒されたソファの皮の冷たさなど全く感じないくらい、私の体は彼に熱せられて。
離れたくない。
くっついていたい。
肌が重なって…。
一つになる痛みすら、彼がくれた痛みかと思えばそれすらも愛おしい。
これを最後なんかにしたくない。
これからも、ずっと、私は彼といたい。
彼を愛するこの愛おしい想いも記憶も全て私は持っていたい。
愛してるから…。
私を想って、例え記憶がなくても見つけて側にいて守ってくれている彼が、愛おしくて堪らないから…。
今度は、二人で、幸せを手に入れよう?
大丈夫だよ。
だって、私は今貴方といられて、こんなにも幸せだもの―――。
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