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第三章 中学生編
第十六話 文体祭
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申護持の火事から始まった一件も片付き、残りの夏休みを実家で緩やかに過ごして。
私と優兎くんは二人で寮へと戻って来た。そこで待っていたのは勿論生徒会の仕事の山だった。
「文体祭が終われば、全て引き継げるとは言え、何でこんなに多いの…」
ペンを片手に次々と届けられる書類を見つつ私は凹む。それに優兎くんが苦笑して答えた。
「それはまだ文体祭が終わってないから、かな」
ドサッと優兎くんが追加の書類を机の上に置いてきた。うわーん、また増えたー。
「王子ー。先公からこれ預かって来たぞー。交流日程表」
円が生徒会室のドアを開けて、その紙をぺらぺらと揺らした。
その紙を受け取り目を通す。文体祭があるのが11月の第二週。木曜日に開会式兼前夜祭。金曜日に聖マリア女子中学校の文化祭。土曜日に聖カサブランカ女学院の文化祭。日曜日に聖マリア女子中学校と聖カサブランカ女学院の合同体育祭。そして月曜日に閉会式兼後夜祭だ。
他にイベントを作らないからって、何もこんなにひっ詰めてやらなくてもいいんでない?
と思わなくもないけど。でもお祭りだしね。皆に楽しんで貰わないと…。で、えーっと、何だっけ。そうそう。合同でやるお祭りだから聖マリア女子中学校の生徒会長と交友しなきゃならないんだよね。
「あれ?来週なんじゃん?行くの」
後ろから覗き込んできたユメが私の首に抱き着きながら聞いてきた。最近ユメがやたら甘えただ。可愛いから許すっ!
「生徒会メンバーでまずはあっちの視察に行って、再来週はあちら側が来てくれるって感じだね」
「そのようだね。ってー事は、王子。その書類の束。今週中に片づけとかなきゃヤバいんじゃないの?」
「あぁ、うん。そうだねー…」
そう言いながら愛奈が更に書類の山を追加する。
「あ、そうそう。美鈴ちゃん。これ、鴇兄と誠さんからの封筒ね。あの事件の後始末と、仕事の書類だと思うよ」
ふっふっふ。更に仕事が追加で来ましたのことよ。優兎くんから渡された封筒の中を覗く。いつも通り鴇お兄ちゃんからの書類と書類風の手紙。あと誠パパから報告書、かな?これは。
報告書を取り出して内容を読みこむ。
「あ、良かったぁ。ユメの件、完全に無かったことになったみたい。流石誠パパね」
ホッと胸を撫で下ろすと、首に抱き着いていたユメの腕に少しだけ力がこもる。
「ごめんね、王子。私の所為で…」
「何言ってるの。ちゃんと事の顛末は話したでしょう?悪いのは樹元総帥で、ユメじゃないのよ」
背後から座る私の肩に顔を埋めるように震えるユメの頭を撫でてやる。ユメは悪くないって事が伝わる様に。
「あぁ、そうだ。皆にもお礼、言っとかなきゃね。皆も動いててくれたんでしょう?私の悪戯メールで」
「あら?やっぱりバレバレでしたのね」
桃が書類から顔を上げて、苦笑した。
「まぁね。優ちゃんが分かりやすかったし」
「あ、あれ?私の所為?」
四人のじと目が優兎くんに向けられる。たじろぐ優兎くんを見ていると面白くてついつい笑ってしまう。私性格悪いなぁ。でも、四人だって本気で優兎くんを責めている訳じゃないからいいよね。
「そう言えば文体祭の招待券。結局どうなったの?」
優兎くんに助け舟を出すつもりで話をふると、それに答えたのは愛奈だった。
「女の人は以前と変わらず招待券関係なく入場可能。男は家族なら入場可能。それ以外の人は招待券が必要。招待券は各生徒一人に付き三枚渡されるって」
「そっか。今回は三枚か」
以前七海お姉ちゃんがこの学校に通ってた頃に行った事があるけど、その時の招待券は一人に付き一枚だったから、鴇お兄ちゃんに付いて来て貰って行ったんだよね。その時に比べたら大分譲歩されて来たよなぁ…。
「三人。ねぇ、美鈴ちゃん?」
「うん?なぁに?優ちゃん」
「美鈴ちゃん、誰呼ぶの?」
…全く考えてなかったよ。キョトンとした私に優兎くんは仕方ないなぁって顔をして笑った。
「家族は普通に呼べるからお兄ちゃん達や旭は呼べるよね?」
「そうだね。うーん…じゃあ、猪塚先輩は?」
「呼ばない」
「樹先輩とか」
「呼ばない」
優兎くんの提案はたたっ斬る。
「出すとしたら、そうだなぁ…。透馬お兄ちゃん達にしようかなぁ」
鴇お兄ちゃん達の御三家。でもなぁ…正直お兄ちゃん達にも来て欲しくない感もあるんだよねぇ…。だって、皆顔が、ねぇ…。女子校にきたらどうなるか分かりきってるじゃない?
「出さない事にしようかなぁ…。家族用の招待券もいっそ出さずに誰も呼ばないでおこうかな」
ママは呼ばなくても来るだろうし。誠パパや鴇お兄ちゃんには今そんな余裕があるとも思えないし。最終日以外は双子のお兄ちゃんも学校だろうしね。うん。呼ばないでおこう。
「分かった。それじゃあ、私が代わりに出しとくね」
「へっ!?優ちゃんっ!?」
「だって、これ知らせなかったら私が兄達に怒られるのよ。ちゃんと覚悟を決めてね、美鈴ちゃん」
最近優兎くんがスパルタだ。うぅ…可愛かった優兎くんは何処に…。
「さっ、王子が優にいじめられた所で、皆仕事に戻るよっ」
円、それは酷いと思うの…。
と私は肩を落としつつも、円の言葉通り仕事へ戻るのだった。
生徒会の仕事に追われ、あっという間に一日目の交流会の日となった。
聖マリアから教師が迎えにって話だったけど、私は断って真珠さんに迎えに来て貰っていた。
だって、聖マリアって教師に男性もいるんだもんっ。密室空間に男と一緒。絶対お断りっ!
車を回してくれた真珠さんにお礼を言って私と愛奈、円は車に乗り込んだ。因みに優兎くんとユメ、桃はお留守番だ。まだ学校に仕事は一杯残ってるからね。
聖マリアは交流校なだけあって、結構近くにある。街中にあるのも特徴の一つ。聖女みたいに山の上に孤立なんてしていない。
門の前に車は到着し、真珠さんがドアを開けてくれる。私はゆっくりと降りる。うちの学校以上にカトリック系な学校なんだね。少しびっくり。校門をくぐると真っ先に目に着くのはシスター姿の教師とブレザータイプの制服を着て下校する生徒たち。そして、そんな彼女達が出て来てもおかしくないような協会タイプの校舎。三角の屋根の天辺には十字架が立てられていた。何よりマリア様が描かれたステンドグラスがとても綺麗だ。
「それでは、お嬢様。終わり次第また参ります」
「うん。ありがとう、真珠さん」
笑って真珠さんを見送ると、私は歩きだす。
「王子、あそこに」
「あぁ、彼女達が生徒会役員かな?」
愛奈と円が後ろから付いてくるのを確認しつつ、私は生徒玄関の前で待つ三人へと歩み寄った。
「ようこそ、いらっしゃいました。聖カサブランカ女学院の生徒会役員の皆様でお間違いないでしょうか?」
「はい。そうです」
微笑んで肯定する。すると彼女達は少し顔を赤らめた。ん。こっちでも葵お兄ちゃん効果は絶大です。
「私は聖マリア女子の生徒会長をしております吉村百世(よしむらももせ)と申します。これから大体一か月の間ですが、よろしくお願い致します」
そう言って手を差し出された。握手ね。ふとその差し出された手を見ると、小さな傷跡があった。…これは…?
顔を上げてもう一度吉村百世と名乗った生徒の顔を見る。初めて見る顔だ。けど…。私は彼女の顔の頬の後ろ辺りをこっそり窺い見る。
…あー…。間違いない、か…。そうだよね。そう言えばこの人の問題だけは、解決しきれて無かったよね。
私は今気付いたことを心へ押し隠し、笑顔でその手を握った。
「こちらこそ。聖カサブランカ女学院の生徒会長をしている白鳥美鈴と申します。よろしくお願いします」
ニコニコと微笑んでいるのに向けられる隠しきれてない敵意。こんなに分かりやすい敵意を向けられるのは久しぶりだった。
はぁ…。間違いないとは思ってたけれど、もう確定で間違いない。
目の前にいる彼女は『綾小路菊』だ。顔が全然違うけれど、きっと整形か何かしたんだろう。…当り前か。あんだけ全力で殴ったんだから痕になるだろうし。それを隠そうとしたら整形しかないもんね。
握手を解いて、ご案内しますと先導する彼女の後を三人でついていく。
ここは靴を履き替えずに入れる校舎なんだ。便利だけど落ち着かないなと思うのはやっぱり根が庶民だから、なんだろうか。
けど、やっぱりここも落ち着くなぁ…。男がいないって天国だよね。…いや、お兄ちゃん達の事は好きだよ?安心するし。でも世の中お兄ちゃん達だけな訳じゃないし。樹先輩や猪塚先輩みたいなタイプもいるし…。今の世の中草食系男子が流行りなのに、あの二人はがっつり肉食系だし…。年下三人組みたいなタイプもいる…
……やめよ。考えないでおこう。
やっぱりここでも生徒会室は最上階なのね。三階へ上がり、「こちらです」とドアを開けて私達を先に中へと入れてくれる。
そこには既に席についている役員が三人。成程あちらも計六人。こっちも六人。同じくなる様に出来てるのかな?
私達は勧められた椅子へ座り反対側の六人と顔を合わせる。
「早速会議を始めましょう。その前に自己紹介が先かしら?」
にっこりと微笑まれ、それに逆らうのも面倒で。
「では私達の方から」
私は自ら立候補する。
立ち上がり、
「聖カサブランカ女学院の生徒会長を務めています。白鳥美鈴です。よろしくお願いします」
自己紹介をしてにこりと微笑む。
数人が顔を真っ赤にし、コクコク頷いている。じゃあ私はこれでいいかな?
次は円にパスしよう。
円の肩をポンっと叩いてバトンタッチ。
「同じく聖カサブランカ女学院の生徒会役員で三年。向井円です。よろしく」
立ち上がった円が自己紹介を終え礼をして座る。入れ替わる様に愛奈が立ちあがり、
「聖カサブランカ女学院、生徒会役員、三年。新田愛奈です」
本当に自己紹介だけして座った。
「あとは、学校に残してきた花島優兎、一之瀬夢子、綾小路桃。以上がこちらの生徒会役員です。それでは、今度はそちらの自己紹介をお願い出来ますか?」
聖マリアの生徒会長から順番に自己紹介を終えて、早速議題である文体祭についての話し合いに入った。
そこで早速切り出してきたのは、生徒会長である綾小路菊…いや、吉村百世だった。
「白鳥さん。今年は少し趣向を変えてみませんか?」
「…と言うと?」
「いつもであれば聖女、聖マリア、共同で文体祭のイベントを作りあげてきました」
「そうですね。こちらの記録にもそう残っています」
例えば、文化祭で言えば、両校の生徒を半分ずつに割って互いの学校へ行き、出店やら展示物、演劇等々を共同で作り上げる。例えば、体育祭で言えば、チアリーディング、パフォーマンスを二校の生徒全員で披露する。
そんな感じなんだけど…。趣向を変えて、か。何となく想像がつく。
「今年は聖女と聖マリアで『勝負』と言うのはいかがですか?」
…うん。そう来ると思ったよ。
「勝負と言うのは…穏やかではありませんね。今までの形では駄目なんですか?」
にっこりと微笑んで言ってみた。すると数人が顔を赤くして俯く。
そう言う可愛い反応を見せてくれたらいいのに…この人も。…ないな。さっきから睨んでくるし。
「毎回同じものを見せられても観客は楽しくないでしょう?」
「ですが、その同じ物を期待している方もいらっしゃるかもしれない」
「ならば次回に戻せばいい。それとも、聖女は変わり映えもしないものをいつまでも続けて行くと言うのですか?」
「それが伝統という物でしょう?」
「何事も改革や変革は必要です」
これは…平行線、かな。どっちかが妥協しないといけないね…。どっちかがって言うか、あっち側は全然引く気なさそうだし…。となるとこっちが引くしかない、よね。
はぁ…。全くもう。面倒な事ばかりするんだから。
「…分かりました。勝負を行うとして。勝負形式はどうされるのですか?」
私が降参とばかりに手を上げて言うと、吉村は勝ったとふんっと胸を張り、資料を配らせる。
資料まで出来てるって事は最初から勝負する気満々で、譲るつもりなかったんじゃん。
資料を受け取り、ざっと目を通す。
文化祭は投票制。体育祭は得点制で閉会式に結果発表、か。成程、ね。
「ここまで詳細に作られているのならば異議はありません。これで進めて行きましょう」
「ありがとうございます。では、ここからの事ですが…」
役割やこれからの流れが会議の中で少しずつ決められていく。
大雑把な形が決まった所で今日の交流会は終了となった。聖マリアの役員は報告があるのか生徒会室を出て行った。
さて、私達もお暇しようという時に、呼び留められた。吉村に。
「……何でしょう?吉村会長?」
笑顔で答えると、その顔は醜く歪んだ。苛立ち交じりに私を睨み付ける。
「気付いている癖に、白々しい。私がこんな顔になったのも全て貴方の所為だと言うのにっ!」
バンッ!
机を叩きつける音が生徒会室に響く。
「気付いてたら何だって言うの?私を怒らせてもう一度殴られたいの?」
椅子を引いた私はゆったりと足を組んだ。スカートを履いていながら足を組むなんてはしたないとか言わないで頂けるとありがたい。
「…なぁ、王子?どう言う事?知り合い?」
「私もこの顔知らない。誰?」
あらら。円も愛奈も気付いてないのか。
「整形してるから分からないかもね。綾小路菊よ。ユメを苛めた発端で、桃を生贄に逃げようとした、あの馬鹿女」
はっきりとバカ呼ばわりした。だって本当の事だもの。
今だってユメが私と関わった所為であんな目にあったんだと思うと腹が立って仕方ない。目が自然と細まって、目の前の女を思いっきり馬鹿にした視線を送った。
円と愛奈がいざと言う時直ぐに動けるようにと席を立ち私の後ろに立つ。
バカ呼ばわりされたのが腹に据えたのか、吉村はギリギリと目の端を釣り上げて私を睨んでくる。
「私は貴方の所為で、人生を台無しにされたのよっ!!自分の顔すら捨てる事になったっ!!」
「はぁ?ふざけた事言わないで。王子があんたの人生を台無しにしたんじゃなくて、自分から自分の人生を盛大に放り投げたんじゃない」
「黙りなさいっ!何も知らない小娘がっ!」
「はんっ、小娘って。たかが二つや三つしか年が違わない癖に、人をガキ扱いしないで貰いたいね。お・ば・さ・ん」
…あー…本日の人選を間違えたでしょうか?好戦的な二人を選んでしまったからなぁ。心の中で苦笑する。いや、でも待って。もしユメを連れて来ていたら…。
『今度こそ、王子に害をなさないように、消してしまおう。大丈夫。私も一緒に消えてあげるから』
…うん。駄目だ。絶対にダメ。じゃあ、桃なら…。
『お姉様。今度こそ容赦致しませんわ。…綾小路家の為に死んでくださいませ』
あー、駄目だ。うん。ユメ以上に駄目だわ。優兎くん連れて来たら良かったかな…。あ、でもこいつには優兎くんが男だって知られてるんだっけ?
前は余計な騒ぎは危険だから起こさなかっただろうけど、今はあっさりと言いふらしそうだし。
ごめん。前言撤回。この二人で正解。
「白鳥美鈴っ!貴女に勝負を挑みますわっ!」
「ふふ。お断りします」
即決。即答。
だって私に受ける義務がないもの。
「貴女はお断りになれないわっ。私には花島優兎の秘密がありますものっ」
「…そうだね。でも、優兎くん一人位私が守ってみせるわ。…貴女、誰に喧嘩を売っているの?」
優兎くんを盾に出されたらこっちだって黙ってはいない。ママ直伝の圧倒的な威圧感を出し私は目の前の狂った女を睨み付ける。
「…くっ」
貴女は今、綾小路の人間でもない。桃の話によれば、桃の両親と菊は綾小路の姓を剥奪されたとの事。何でも、私の姿が載った悪戯メールを書き替えると同時に、綾小路にまつわる闇の部分を一緒にメールで流したんだって。それによって追い詰められた綾小路なんだけど、桃の両親と菊へ全ての責任を取らせるという名目で家を追い出されたらしい。だから今彼女は綾小路とつながりのあった高瀬へ逃げたのだが、高瀬にも今はそんな余裕がない。その為高瀬が従えている吉村を利用してその名を名乗っているのだ。因みにそんな高瀬不動産は今、白鳥と樹の両サイドから目をつけられ見放され、没落の道をまっしぐら。言い方は悪いがそんな庶民堕ちした人間が白鳥総帥である私に喧嘩を売るとはおこがましい。
おこがましい…が。
ふうと溜息をついて私は前髪をゆっくりと掻き上げて、立ち上がった。
「面倒だけど、受けてあげるよ。その勝負。正直、貴女が持ち出すであろう条件。『樹龍也の婚約者』の立場をかけての勝負なんて私にはこれっぽっちも興味ない、…と言うか熨しつけて差し上げたい位なんだけど。でもそれじゃあ貴女の気が済まないだろうしね。真っ向からその勝負受けて立とうじゃない。勝っても負けても樹先輩を持って行ってくれると私的には万々歳」
「王子。後半本音がダダもれ」
「ふふ。ごめんごめん。つい、ね。じゃあ、行こうか」
こちらをただただ睨め付けてくるその視線を背中で受けて、私達は聖マリアを出た。
車に揺られながら、やっと聖マリアから出て来れた事にホッと息を吐きだす。皮張りの座席の背もたれに背を沈ませる。
「お疲れ、王子」
「うん。疲れたー…」
皆の前でだと素が出せるから、楽だー…。
「お嬢様?何があったんですか?」
あー、真珠さんが心配してるー。
「何かあったって言うか。綾小路菊がいた」
「………どう言う事です?」
「どう言う事も何も言葉通りだよ。整形して聖マリアに乗り込んでた。しかも生徒会長にまでなってた。そもそも本来高校生、下手すると卒業間際の癖にいつまで中学に通ってるつもりなのよ…」
沈黙が車の中に過る。
「所で王子。王子は何であいつが綾小路菊だと分かったの?」
「態度ってのも勿論あったんだけど。一番は手の傷と頬の後ろの整形の痕、かな」
「手の傷?あぁ、そうか。王子、アイツと握手してたもんね。その時に気付いたの?」
「そう。桃に聞けば詳細は解るだろうけど。あの人、手に独特な傷があったのよね。随分昔に刃物で作っただろう傷痕。それを知っていたから握手してる最中にこっそり整形痕を探したの。ちゃ~んとあったよ、整形痕。だから間違いないかなって。まぁ、それ以上にすっごい敵意を向けられてたから気付くなって方が無理なんだけどねー」
ずるずると座席に沈みこむ。
「こら。王子。行儀悪いよ。そんな格好あのキラキラ兄さん達に見られたら何言われるか分かったもんじゃないよ?」
「確かに。怒りそう」
円と愛奈が二人顔見合わせてクスクス笑う。
夏休みの間に遊びに来たから皆はすっかりお兄ちゃん達とも仲良くなっていた。仲良くなる分には全然構わないって言うかむしろ嬉しいけど。こういう時の見張りが増えたのかと思うと少しがっくりくる。
「あっと、いけないいけない。二人共。今日の綾小路菊の件は居残り組三人には内緒だよ?じゃないと、また血の雨が降りそう」
これだけは言っておかないと。二人は一瞬考えた風に見せ、何かに思い当たり神妙な顔で頷いた。そして、真珠さんにも一応お兄ちゃん達に黙っている様に伝えた。
こっちも同じく血の雨が降りそうだからね。
皆には是非中学校生活唯一のお祭りを楽しんで貰いたい。
そう言えば聖マリアの方は毎年文化祭と体育祭あるんだよね。三年に一度文体祭をやるからその年は二つ共やらないらしいけど。その点うちの学校はお祭り自体がなく、文体祭だけが唯一のお祭り。
そんな唯一のお祭り。皆にも勿論楽しんで貰いたいけど、出来れば私も楽しみたい。
そして、売られた喧嘩は買って、きっちり勝利をおさめたい。
真っ向から勝負を挑まれたんだから。真っ向から受けて返さないと。
私は絶対勝つことを決意して、学校へと帰ったのだった。
その日の夜から私達の仕事は山積みから特盛(五割増し)に変化した。
忙しい。忙しくて死ぬ。
「白鳥先輩っ!決裁印お願いしますっ!」
「先輩っ!この種目の出場者の変更をお願いしたいのですがっ!」
「王子っ!一つ書類入れ忘れちゃったっ!どうしようっ!」
……あぁ、今なら以前の鴇お兄ちゃんの気持ちが良く解る。
勝手に入って勝手に喋って勝手に帰れって言いたくなる。
ふみぃ~っ!何でこんなに仕事が多いのぉーっ!?回せる所は全部各クラスにやらせてるのにぃーっ!
なんて泣き事言ってられないのも事実で。
私は書類に印を押しながら、変更届を受理して、ユメにさっさと入れ忘れた書類を届けに行くように指示を出した。
「美鈴ちゃんっ。衣装合わせの時間だよっ、時計見てないのっ!?」
優兎くんが生徒会室に駆け込んできた。顔が真っ赤だよ、優兎くん…って、そうか。衣装合わせの所に引き摺りこまれたらしんどいか。
「ごめん。優ちゃん。今行くよ。あぁ、それから円、そっちの体育祭の選手変更をよろしく。愛奈、文化祭の出店にペットレンタルは却下。苦手な人が来ないとも限らないし脱走されたらそれこそ面倒だ。まぁ百歩譲って動かない動物対象の出店ではなく喫茶とかにするならいいって伝えといて。っと、桃。ユメが帰ってきたら、ユメの分の書類手伝ってあげて」
全員に指示を出して、了承の返事を受け取ってから書類の挟まったファイル片手に歩きだす。
「美鈴ちゃん。それ私に貸して。そのまま歩くと危ないから私がやっておく」
「えっ?」
ファイルをあっさり没収されて私は苦笑しながら教室へ向かった。
自分の教室へ到着すると、メジャーを持ったクラスメートが正座して待機していた。…何で正座…?
いや、いまはそれよりも、謝罪が先。
「ごめんね。クラスの方手伝い出来なくて」
「そんなっ!白鳥さんが忙しいの私達知ってるからっ」
「ありがとう、ららちゃん」
気にしないでと言いながら、気の所為かな?ららちゃんの目が怪しく光っている。え?これは手伝えって事?いや、手伝えるなら手伝いたいけど…。
「私達、白鳥さんの衣装を作れるだけで幸せだからっ!頑張って王子の衣装作るからねっ!」
「うん、ありが…うん?ちょっと待って?王子の衣装ってどう言う事?」
「え?体育祭の方の衣装だよ?白鳥さん、言ってたでしょう?今回のテーマは対決だって。それにこの前配られたプリントに生徒会の衣装も得点にあったよ?」
きららちゃんがキョトンとしながら小首を傾げた。…そんな項目あった?
「腕に寄りをかけて作るからっ!聖マリアの会長なんて相手にならない位の立派な衣装作るよっ!」
「そうだよっ!絶対勝たせて見せるからっ!」
「うちの会長に喧嘩を売った事、後悔させてやるんだからっ!」
ちょ…皆、そのギラギラの目が怖いよ。なんで、そんな戦う気満々なの?
かと言ってやる気を出しているのに水を差す訳には行かず。私は大人しく採寸されることにした。
どんな衣装が出来るか、は……今は考えたくない。
クラスの出し物は、メイドカフェにするらしい。女しかいないのにメイドカフェって…とは思ったんだけど。当日は男も来るからいいんだってさ。
よし。……私は逃げよう。うん。逃げるしかないっ!いっそ執事カフェにしてくれたら良かったのに…。
なんてぶつくさ思いつつ、その後も準備に追われた。
おかげで、日中受けていた授業の内容など全く覚えていない。きっと皆も同じだと思う。
そしてまた、数日が過ぎ。
―――開会式当日。
「…美鈴ちゃん、似合ってる、よ?」
控室で私は椅子に座り、動く事も叶わず、隣で笑っている優兎くんを恨みがまし気に見た。
「なんで、なんで生徒会長はドレスなのっ!?」
「伝統だから、かな?」
「そんなあっさり答えないでーっ!」
私は水色のドレスを身に纏い優兎くんに全力で突っ込みを入れた。
なんでも開会式の時は両校の生徒会長がドレス姿で開会宣言をした後、友好の証として聖女はカサブランカの刻まれたネックレスを。聖マリアは十字架のネックレスを交換する事になっている。昔からの伝統だそうだ。
「うぅ…。恥ずかしい…」
「別に恥ずかしがる必要ないと思うけどなぁ…。美鈴ちゃん、すっごく綺麗だよ?」
ここには私と優兎くんしかいないから、普通に会話が出来る。それに甘えて私は立ち上がり、隣にいた優兎くんにぐっと顔を近づけて睨み付けた。
「じゃあ、優ちゃん、着るっ!?」
「えっ!?い、いや、それは、遠慮したいなー…とか?」
「やっぱり嫌なんじゃんっ!!」
ずいっと更に迫る。すると、優兎くんは私との間に手を挟んで顔を逸らした。
「い、嫌に決まってるでしょっ。そもそも、美鈴ちゃんと根柢が違うよっ。って言うか、美鈴ちゃんっ、近い近いっ」
「あ、ごめん」
言われてすんなりと席に戻る。はぁっと溜息をついて私は俯く。
「出来るだけ目立たなく過ごしたいのに…」
「いや、無理でしょ。美鈴ちゃん、何の寝言?」
し、辛辣…。優兎くんが、私の可愛い優兎くんがいなくなるぅ…。しょんぼりしちゃうぞ。落ち込んじゃうぞ。
「美鈴ちゃん。ちょっとこっち向いて」
つんつんと肩を指で突かれて、顔を上げるとそこには優兎くんの満面の笑みがあった。
「本当に、本当に、凄く綺麗だよ。だから、目立たなく過ごすとか言わないで?皆に見せてきなよ。折角クラスの皆が美鈴ちゃんの為に作ってくれたドレスだよ?相手方に魅せ付けてやろうよ。ね?」
「そう、だね…。うん。皆が作った作品だもんね。私が代表して魅せてこなきゃ、だよね。男の人がいる訳じゃないし。…うん。頑張ってくるっ」
私は覚悟を決めて優兎くんに宣言した。
「………僕も男、なんだけどなぁ…」
何か優兎くんが聞こえないくらい小さな呟きを漏らしたけれど、私にそれは聞きとる事が出来なかった。
何を言ったんだろう?聞き返そうとしたけれど、バットタイミングで係の人が呼びに来てくれて。
私は、優兎くんと一緒に舞台袖へと向かった。
二校合同の体育祭。体育館でやる訳にはいかないからと、市営の会館を使って開会式をやる。だから私と優兎くんは控室にいた訳だけれど。
舞台袖へ向かう途中に、生徒会メンバーと合流する。
「ふわぁ、王子、きれー」
「ありがとう、ユメ」
「大丈夫なの?王子。緊張してない?」
「してるよー。緊張しっぱなしだよー。愛奈変わってくれる?」
「の割には、しゃんとしてるじゃないか」
「あ、円が変わってくれてもいいんだよ?」
「王子。御髪が乱れていますわ。直しますね」
「ありがとう、桃」
好き勝手に話しているようで、皆私を気遣ってくれてるのが良く解る。その事に感謝しながら、私は先程から鬱陶しいほどに向けられている敵意の主に目をやった。
反対側の舞台袖。真っ赤なドレスを身に纏った吉村百世がこちらをギリギリと睨んでいる。
ああやって睨まれると、こっちは全開の笑顔で返したくなる。あんな余裕無さそうな感じで来られたらこっちは余裕をみせつけなきゃ勝負の前から負けを認めてるようなものじゃない?
舞台上では聖女の学園長と聖マリアの学園長が対談形式で生徒達にお言葉をくれている……長ぇ……。
長々とその話は続く。けれど、今年は対戦方式にした所為なのか学園長同士の会話も何か相手を探るような会話だった。
そんな学園長たちの話も終わり、開会宣言をする為に私と吉村百世が呼ばれた。
「さぁ、行こうか。まずは宣誓だよね」
ゆっくりと袖の階段を登り、私と菊、同時に舞台上に姿を表す。
きゃーっと黄色い声が館内に響き渡る。うん、耳が痛いねっ!
っといけないけない。それを顔に出しちゃいけないよね。笑みを浮かべて、中央へと歩いていく。
背後には優ちゃんを始め、生徒会メンバーが控えている。勿論聖マリア側も同じだ。
私達は真正面に対峙する。
「聖カサブランカ女学院と」
「聖マリア女子中学校の」
本当ならこれは在校生に向かって宣言する開会宣言なのだが、今年は対戦方式なのでいつもとは違う。
『永久なる友好を誓い』
私と吉村百世の声が重なる。ここで『今ここに、文体祭の開催を宣言します』と開催を宣言すればこの開会式は終了する…筈なんだけど、吉村百世がにやりと笑った。
これは、何かあるっ…?
思わず眉間に皺を寄せ警戒していると。
吉村百世が背後に手をやった。その後ろに控えていた副会長の手には…模造剣っ!?
うおーいっ!これ開会宣言だよーっ!しょっぱなから飛ばして来ないでーっ!
模造とは言え剣にどうやって対抗しろとーっ!?
一瞬思考が真っ白になってけれど、こんな時に何も対処していない優兎くんじゃないよね?だって毎日あのお兄ちゃん達に鍛えられてたんだもんね?優兎くん、信じて良いよね?
冷静になって私も背後に手をやると、何かを握らされた。
…剣の柄、だ。
振りかざされた剣を同じく振りかざした私の剣が受け止める。
剣がぶつかる激しい音。
そして。
『今ここに、文体祭の開催を宣言しますっ!!』
もうさっさと宣言してしまおうとする私と、剣の圧力に耐えきれなくなった吉村百世の声が重なった。
宣言後に、私達は剣を降ろし、互いの副会長に剣を預け、真正面を見て優雅にドレスを掴み一礼をした。
喝采を浴びながら、私達は生徒へ向けて笑みを送る。
いいか。一つ言わせてくれ。ここは男言葉でも仕方ないと思って私の言を聞いてくれ。
なんだ、この中二病的展開はーっ!?
皆は中学生だし年相応であってるのかもしれないけどーっ!?
しくしくしく…恥ずかしいよぅ…。穴に久しぶりに入りたくなってきたよぅ…。
そもそも友好とか言いながら剣でぶつかり合うっておかしいでしょー…うわあああんっ!
私の精神が氾濫したまま、開会宣言が終わり、私達は舞台袖へと戻る。
これからの日程や予定が舞台上にいる聖マリアの副会長から説明がされているのを横目に自分の中の羞恥心と戦っていると、背後から怒気を感じた。
「……王子?これは一体どう言う事ですの?」
「も、桃?えっ、とー…何が?」
「あらあら。恍けても無駄ですわよ?何故、あそこに私の姉がいるのでしょう?」
「あー…やっぱり気付いちゃった?」
「桃ちゃんの姉って…美鈴ちゃん、どう言う事?」
目の端を釣り上げた優兎くんに、この重たい空気に気付いた残りの三人も集まって来た。
仕方なく、あそこにいる吉村百世の説明をすると、桃の空気が更に冷度を増した。
「成程。…また、脱走されたのね。手引きしてるのはお父様かしら…。全く忌々しいっ」
あれ?桃さん?あのいつもの穏やかさは何処へ?
「落ち着いてよ、桃ちゃん。大丈夫っ。今は皆が味方だしっ。皆で潰そっ?」
あらあら?ユメさんや?笑顔でお目めを『きゅるんっ』として言うセリフかな?それ。
「だな。むしろいいチャンスじゃないか。聖マリアを徹底的に、完膚なきまでにしてやろうっ」
ちょいちょい、円さん。顔が完全にヤンキーに戻ってますよ?
「ふふふっ。私達の王子に喧嘩を売ろうなんて。…良い度胸してるわ」
愛奈、その懐から取り出した謎の液体入り試験官はしまおうか。うん。
「……何か、私の怒りは可愛い方だったね」
「そうだね、優ちゃん…」
優兎くんと二人、遠い目をしたのは言うまでもない。
開会式が終わり、バスで学校へと戻り、その日も文体祭の準備に明け暮れる。
そして、―――文体祭二日目。
聖マリアの文化祭の日である。
因みに私は…お留守番です。生徒会長は学校でお仕事があるのですよ。えぇ、山積みに。それに率先して男に会いにいくような事はしたくないしね。
かわりに優兎くんと桃とユメが行ってくれたから多分大丈夫。きっと大丈夫…?
文化祭は出し物や展示の面白さを投票していくんだったよね?確か。
目の前の書類を一枚持って内容をもう一度確認する。
えーっと…聖マリアと聖女の生徒には投票用紙が三枚、来場者には投票用紙が一枚配られる。評価に合わせて投票用紙を校門の所にある投票箱に入れる事になっている。展示が面白かった場合に投票。在校生は三回投票権がある。来場者は複数投票を避ける為、投票用紙を貰った地点で入場チケットに印を押される。だから再入場した時にもう一度投票用紙を貰う事は出来ない。
こういうのって大抵初日が有利なんだよねぇ…。
それを分かってて初日を選んだんだろうけど。どんな展示をしてるのかなぁ?気になるなぁ。男は嫌いだけどお祭りは好きなんだよねぇ。
………たこ焼き食べたい。綿あめ…林檎飴…。クレープ…。出店の食べ物ってなんであんなに美味しそうに見えるんだろう…。
んん。我慢だ。我慢だ私。
そうだ。今の内に鴇お兄ちゃんから届いた仕事もやってしまおう。そうだ。そうしよう。
私の文体祭二日目はただただ仕事に明け暮れて終わったのだった。
そう言えば鴇お兄ちゃんのくれた書類の中に色々な報告が混じっていた。
主に綾小路の事だ。
綾小路家の本家は、桃が分家に加担した事により瓦解した。それに伴い本当は身を退くつもりであった桃が分家の人間の強い要望もあり頭首となった。これは一応桃に聞いて知っていた。
そんな桃が頭首になった今。高瀬と取引を続けるはずもなく。勿論樹財閥も、あの樹先輩が無能を傘下においとく訳もなく。高瀬不動産はどこからの援助も受ける事が出来なくなった為、倒産したそうだ。でもって、前申護持施設跡地の事業は樹が引き継ぐらしい。樹先輩がそれを宣言したって。…多分下で働く従業員の為じゃないかな…と思う。
それから神薙家は明子さんが顔を出しに戻った為に、一時騒然となったそうだ。けれど、明子さんは神薙に戻る気は毛頭なく自分は今は申護持だからと、ただ事の経緯と挨拶、それから自分の息子三人を紹介だけして神薙家を去った。本当なら明子さんの行方が判明した今、明子さんが神薙の跡を継がなきゃならないんだけど、それは嫌だと跳ね除け、桃の口添えと誠パパの後押しが加わり神薙杏子が次代の跡継ぎになったみたいだった。
どこも一段落したようだ。
…したはずだったのに…。
あの女は…。
私は吉村百世…綾小路菊の存在を思い出す。
正直、こればっかりは私と対決してどうこうなる問題じゃないと思うの。って言うか、樹先輩が吉村百世と話してくれればそれで済むんだけどなぁ…。
ま、売られた喧嘩は買うけどね。…女限定で。
―――翌日。文体祭三日目。
今度はこちらの文化祭。
体育館で挨拶をして、文化祭は開催された。
生徒会の当日は、何か予期せぬ事態の対処と巡回位だから、今日はクラスの方へ顔を出そうと皆で顔を出したが最後。
拉致られて衣装を着せられた。
うちのクラスの出し物はメイドカフェ。だからてっきりメイド服を着せられるものだと恐怖していたら、着せられたのはメイド服じゃ無かった。
立派な、手作りの…『執事服』だった。
「メイド服よりはずっといいけど…優ちゃん、大丈夫?色んな意味で」
優兎くんがばれないか心配だった。けれど、そこはそれ。優兎くんの抜群の演技力で見事に女の子が男装している風に魅せていた。男の娘、面目躍如って感じ?
「問題ないわ。どう?似合う?美鈴ちゃん」
ふふっ、と妖艶に笑う優兎くんに一瞬ドキッとした。
こんなに女の色気を醸し出すとはっ!優兎くん恐るべしっ!
「うん。似合ってるよ。優ちゃん、凄くカッコいい」
私が微笑み返すと、優兎くんは何故か顔を逸らした。耳が赤い…?照れてるのか、恥ずかしがってるのか?どっち?
ワイシャツの袖のボタンを締め黒の光沢入りネクタイを締める。グレーのベストを羽織って最後に燕尾服ジャケットを羽織る。ボタンを占めて、髪を緩く一本にまとめ横へ流した。ジャケットのボタンから飾りのチェーンがポケットへと流れてついていて、その銀がやたらと映える。
白の手袋をはめてっと。準備は完了。
「優ちゃん。私はどうかな?おかしくない?」
「大丈夫。ちゃんと綺麗だよ」
「きっ…あ、あのね?優ちゃん。流石に恥ずかしいんだけど…」
「ふふっ。さっきの仕返しだよ」
顔を片手で覆って私は照れを流そうとした。だけどわざわざ流そうとしなくても空気を破る様にミニスカフリルのメイドさんなユメと和服メイドな桃、そしてクラシカルメイドな愛奈が更衣室として用意された教室へ入って来た。
私達で着替えるのは最後だったから、他に誰もいない。最後に着替えた理由?そんなの決まってるよね。優兎くんが着替えてる最中にばれでもしたら大変だから。とは言え今までバレなかったんだし、平気そうだけど。
うんうんと頷いていると目をキラキラさせたユメがくるくると私の周りをまわり始めた。
「王子、かっこいいっ!」
「ありがとう、ユメ」
跳ね上がりながら喜んでくれるユメの頭を撫でると、ユメは顔を真っ赤にして照れた。うん、可愛い。
「ユメも可愛いよ。すっごく」
「ほ、ほんとに?ありがとう」
もじもじするユメ、マジ可愛い。ごちそうさまですっ!
「あ、勿論、愛奈も桃も可愛いから安心して」
微笑むと、二人共はにかむような笑顔を見せた。よっしゃ、可愛いっ!
「さ、てと。行こうか。館内巡回したらいいんでしょう?プラカード持って」
「そうそう。それじゃあ行こうっ」
「執事とメイドで別れた方がいいよね。じゃあ、ユメと桃と三人で行こうかな。じゃ、優ちゃんまた後で」
「うん。後でね」
私は二人をエスコートするように教室を出た。
いつも姦しい校舎がいつも以上に騒がしい。プラカードを肩にかけてユメと桃先導の下校内を歩く。一般客が多いし、何より女子校な所為かいつもは入る事の出来ない男子が多い多い。
叫びたいのを必死に堪えて回避していく。幸い男の恰好しているからか、話しかけて来る事はなく、前世では文化祭=ナンパ、もしくは文化祭=人がいない所へ連れ込みってのがない。素直に有難なー。
「白鳥先輩っ、後でうちのクラスにも来てくださいっ」
「うん。誘ってくれてありがとう。後で顔出すよ」
「先輩っ、これっ、うちのクラスで売ってるクッキーなんですっ、良かったらっ」
「ありがとう。でもただで貰う訳にはいかないよ。はい、代金」
よく前世で読んだ漫画の、女にモテる女子を思い出した。きっと彼女達はこんな気分だったんだね。ちょっと理解した。女の子にキャッキャッ言われるのそんなに気分悪くない。
「あ、あの人、かっこいいー。誰ー?」
「知らないの?聖女の生徒会長よ。昨日舞台に立ってたでしょ」
「あぁーっ、あの人が聖女の『王子』なんだーっ。成程、かっこいいっ」
騒いでくれる他校の女生徒相手に私は一つ良い案を思いついた。
ゆっくりと彼女達の側へ近寄り、その前で跪く。
「お嬢様。宜しければ私にお嬢様の手に触れる権利を」
目の前の他校の生徒一人へ手を差し伸べ、上目遣いで請う。
「え?え?あのっ」
戸惑いながら手を私の手に自分の手を重ねてくれる。それに心の中でほくそ笑み、その細い手の甲にキスをした。
「ありがとうございます。お嬢様。このまま私にエスコートさせて頂けますか?」
「はっ、はいぃっ!!」
よし作戦成功っ!クラスまで案内しますよ、お嬢様っ!
…所で私が今した行動って、本当に執事?どっちかって言うと騎士かホストな気も…いや、何でもない。触れるな、私。触れたらきっと羞恥心爆発で帰って来れなくなる。青春の思い出として片づける為にも触れてはいけないのだ。
女生徒をクラスまで案内して、もう一度巡回に戻り。それを何度も繰り返し、生徒玄関へ向かうと突然騒がしい声にぶち当たった。
このきゃあきゃあという黄色の声は聞き覚えがある。小学校の頃、学校行事の度に聞いた…。
そっと校門の所を覗くと盛大な人だかり。ただし女のみ。年齢関係なく女性が蟻の様の群がっている。
そこから頭一個分は大きい二つの金色。
「やはりお兄様でしたね」
「だねー。相変わらずカッコいいよねー。王子のお兄ちゃん達」
うん。攻略対象になるくらいのイケメンだからねー…。足を止めて私はお兄ちゃん達を遠目に眺める。
「あれ?王子。会いに行かないの?」
「だって、ユメ。あれ突破するのはちょっと骨が折れるよ…」
「確かに…」
納得してくれるユメに反して。
「あら?大丈夫ですわ。今の王子のお姿ならば。皆様、綺麗な道を作って下さいますわ。それに」
それに?変な所で言葉を切られると気になるんですけど。
首を傾げて続きを待つと。桃は苦笑した。
「あちらの方が既に気付いておりますもの」
桃が手で示す方。お兄ちゃん達の方へ視線を向けると、こっちに気付いた二人が手を振っていた。
「鈴」
「鈴ちゃん」
周りに集う女性なんてまるで見えていないのか、颯爽とその長い足で私の側へ来た棗お兄ちゃんと葵お兄ちゃん。
「会いたかったよっ、鈴ちゃんっ」
「僕も会いたかったっ」
二人にぎゅっと抱きしめられて、今私が思ったのは。…傍から見るとこれBLじゃね?
「お、お兄ちゃん達、苦しいよー」
結構力一杯ぎゅうされると流石に苦しい。そして、ここはものすっごく目立つ。先生に見つかったら怒られる可能性もあるのだ。何せここは普段男子禁制の場所だ。
私が苦しんでいるのに気付いて二人は慌てて体を離してくれた。
「それにしてもお兄ちゃん達、本当に来てくれたんだー」
「勿論だよっ」
「こんな機会でもないと鈴ちゃんの学校に来られないからねっ」
「それに、折角会えるチャンスを逃したくないしっ」
にっこりと微笑まれると、私も笑顔を返したくなる。
三人でニコニコと笑ってると、各方面からきゃーきゃー声が響く。
そしてその黄色い声が更に高くなった。なんだろうと首を傾げると、双子のお兄ちゃん達が苦笑した。
なんで?お兄ちゃん達の隙間から向こうを覗くと、そこには。
「鴇お兄ちゃん?透馬お兄ちゃんに大地お兄ちゃん、奏輔お兄ちゃんまで、え?なんで?」
四人は私に気付くと各々私に軽く手を振りながら歩み寄って来た。
「なんだ、姫。かっこいい姿だな」
「姫ちゃんは何着ても可愛いねー」
「この格好なら、男は寄って来ぃへんな。考えたやん」
「ははっ、葵の真似、か。成程。納得だ」
にやにやと揶揄い混じりの笑みと言葉を向けられた。
「もうっ、四人して揶揄うんだからっ」
ふいっと顔を逸らし怒ったふりをする。するといつの間にか隣に立っていたユメと目があった。
「ユメ?どうしたの?」
「ううん。なんでもない。ただ、イケメン天国って存在するんだなって思っただけ」
「とか仰りつつ、夢子さんの視線は教室を出た時からずっと王子に向いてますけどね」
ユメの奥から口を手で隠して微笑んでいる桃が突っ込みを入れた。
「さて、皆様。ここで話し込んでいると他のお客様の邪魔になってしまいますわ。どうぞ、私達のクラスへいらしてください」
桃の先導で私達とお兄ちゃん達は校舎の中へ戻った。
クラスへ連れて行った瞬間、黄色い声が大爆発。
流石と言うか何というか…やっぱり私みたいな似非王子は本物の王子や王には敵わないようです。合掌。
私と優兎くんは二人で寮へと戻って来た。そこで待っていたのは勿論生徒会の仕事の山だった。
「文体祭が終われば、全て引き継げるとは言え、何でこんなに多いの…」
ペンを片手に次々と届けられる書類を見つつ私は凹む。それに優兎くんが苦笑して答えた。
「それはまだ文体祭が終わってないから、かな」
ドサッと優兎くんが追加の書類を机の上に置いてきた。うわーん、また増えたー。
「王子ー。先公からこれ預かって来たぞー。交流日程表」
円が生徒会室のドアを開けて、その紙をぺらぺらと揺らした。
その紙を受け取り目を通す。文体祭があるのが11月の第二週。木曜日に開会式兼前夜祭。金曜日に聖マリア女子中学校の文化祭。土曜日に聖カサブランカ女学院の文化祭。日曜日に聖マリア女子中学校と聖カサブランカ女学院の合同体育祭。そして月曜日に閉会式兼後夜祭だ。
他にイベントを作らないからって、何もこんなにひっ詰めてやらなくてもいいんでない?
と思わなくもないけど。でもお祭りだしね。皆に楽しんで貰わないと…。で、えーっと、何だっけ。そうそう。合同でやるお祭りだから聖マリア女子中学校の生徒会長と交友しなきゃならないんだよね。
「あれ?来週なんじゃん?行くの」
後ろから覗き込んできたユメが私の首に抱き着きながら聞いてきた。最近ユメがやたら甘えただ。可愛いから許すっ!
「生徒会メンバーでまずはあっちの視察に行って、再来週はあちら側が来てくれるって感じだね」
「そのようだね。ってー事は、王子。その書類の束。今週中に片づけとかなきゃヤバいんじゃないの?」
「あぁ、うん。そうだねー…」
そう言いながら愛奈が更に書類の山を追加する。
「あ、そうそう。美鈴ちゃん。これ、鴇兄と誠さんからの封筒ね。あの事件の後始末と、仕事の書類だと思うよ」
ふっふっふ。更に仕事が追加で来ましたのことよ。優兎くんから渡された封筒の中を覗く。いつも通り鴇お兄ちゃんからの書類と書類風の手紙。あと誠パパから報告書、かな?これは。
報告書を取り出して内容を読みこむ。
「あ、良かったぁ。ユメの件、完全に無かったことになったみたい。流石誠パパね」
ホッと胸を撫で下ろすと、首に抱き着いていたユメの腕に少しだけ力がこもる。
「ごめんね、王子。私の所為で…」
「何言ってるの。ちゃんと事の顛末は話したでしょう?悪いのは樹元総帥で、ユメじゃないのよ」
背後から座る私の肩に顔を埋めるように震えるユメの頭を撫でてやる。ユメは悪くないって事が伝わる様に。
「あぁ、そうだ。皆にもお礼、言っとかなきゃね。皆も動いててくれたんでしょう?私の悪戯メールで」
「あら?やっぱりバレバレでしたのね」
桃が書類から顔を上げて、苦笑した。
「まぁね。優ちゃんが分かりやすかったし」
「あ、あれ?私の所為?」
四人のじと目が優兎くんに向けられる。たじろぐ優兎くんを見ていると面白くてついつい笑ってしまう。私性格悪いなぁ。でも、四人だって本気で優兎くんを責めている訳じゃないからいいよね。
「そう言えば文体祭の招待券。結局どうなったの?」
優兎くんに助け舟を出すつもりで話をふると、それに答えたのは愛奈だった。
「女の人は以前と変わらず招待券関係なく入場可能。男は家族なら入場可能。それ以外の人は招待券が必要。招待券は各生徒一人に付き三枚渡されるって」
「そっか。今回は三枚か」
以前七海お姉ちゃんがこの学校に通ってた頃に行った事があるけど、その時の招待券は一人に付き一枚だったから、鴇お兄ちゃんに付いて来て貰って行ったんだよね。その時に比べたら大分譲歩されて来たよなぁ…。
「三人。ねぇ、美鈴ちゃん?」
「うん?なぁに?優ちゃん」
「美鈴ちゃん、誰呼ぶの?」
…全く考えてなかったよ。キョトンとした私に優兎くんは仕方ないなぁって顔をして笑った。
「家族は普通に呼べるからお兄ちゃん達や旭は呼べるよね?」
「そうだね。うーん…じゃあ、猪塚先輩は?」
「呼ばない」
「樹先輩とか」
「呼ばない」
優兎くんの提案はたたっ斬る。
「出すとしたら、そうだなぁ…。透馬お兄ちゃん達にしようかなぁ」
鴇お兄ちゃん達の御三家。でもなぁ…正直お兄ちゃん達にも来て欲しくない感もあるんだよねぇ…。だって、皆顔が、ねぇ…。女子校にきたらどうなるか分かりきってるじゃない?
「出さない事にしようかなぁ…。家族用の招待券もいっそ出さずに誰も呼ばないでおこうかな」
ママは呼ばなくても来るだろうし。誠パパや鴇お兄ちゃんには今そんな余裕があるとも思えないし。最終日以外は双子のお兄ちゃんも学校だろうしね。うん。呼ばないでおこう。
「分かった。それじゃあ、私が代わりに出しとくね」
「へっ!?優ちゃんっ!?」
「だって、これ知らせなかったら私が兄達に怒られるのよ。ちゃんと覚悟を決めてね、美鈴ちゃん」
最近優兎くんがスパルタだ。うぅ…可愛かった優兎くんは何処に…。
「さっ、王子が優にいじめられた所で、皆仕事に戻るよっ」
円、それは酷いと思うの…。
と私は肩を落としつつも、円の言葉通り仕事へ戻るのだった。
生徒会の仕事に追われ、あっという間に一日目の交流会の日となった。
聖マリアから教師が迎えにって話だったけど、私は断って真珠さんに迎えに来て貰っていた。
だって、聖マリアって教師に男性もいるんだもんっ。密室空間に男と一緒。絶対お断りっ!
車を回してくれた真珠さんにお礼を言って私と愛奈、円は車に乗り込んだ。因みに優兎くんとユメ、桃はお留守番だ。まだ学校に仕事は一杯残ってるからね。
聖マリアは交流校なだけあって、結構近くにある。街中にあるのも特徴の一つ。聖女みたいに山の上に孤立なんてしていない。
門の前に車は到着し、真珠さんがドアを開けてくれる。私はゆっくりと降りる。うちの学校以上にカトリック系な学校なんだね。少しびっくり。校門をくぐると真っ先に目に着くのはシスター姿の教師とブレザータイプの制服を着て下校する生徒たち。そして、そんな彼女達が出て来てもおかしくないような協会タイプの校舎。三角の屋根の天辺には十字架が立てられていた。何よりマリア様が描かれたステンドグラスがとても綺麗だ。
「それでは、お嬢様。終わり次第また参ります」
「うん。ありがとう、真珠さん」
笑って真珠さんを見送ると、私は歩きだす。
「王子、あそこに」
「あぁ、彼女達が生徒会役員かな?」
愛奈と円が後ろから付いてくるのを確認しつつ、私は生徒玄関の前で待つ三人へと歩み寄った。
「ようこそ、いらっしゃいました。聖カサブランカ女学院の生徒会役員の皆様でお間違いないでしょうか?」
「はい。そうです」
微笑んで肯定する。すると彼女達は少し顔を赤らめた。ん。こっちでも葵お兄ちゃん効果は絶大です。
「私は聖マリア女子の生徒会長をしております吉村百世(よしむらももせ)と申します。これから大体一か月の間ですが、よろしくお願い致します」
そう言って手を差し出された。握手ね。ふとその差し出された手を見ると、小さな傷跡があった。…これは…?
顔を上げてもう一度吉村百世と名乗った生徒の顔を見る。初めて見る顔だ。けど…。私は彼女の顔の頬の後ろ辺りをこっそり窺い見る。
…あー…。間違いない、か…。そうだよね。そう言えばこの人の問題だけは、解決しきれて無かったよね。
私は今気付いたことを心へ押し隠し、笑顔でその手を握った。
「こちらこそ。聖カサブランカ女学院の生徒会長をしている白鳥美鈴と申します。よろしくお願いします」
ニコニコと微笑んでいるのに向けられる隠しきれてない敵意。こんなに分かりやすい敵意を向けられるのは久しぶりだった。
はぁ…。間違いないとは思ってたけれど、もう確定で間違いない。
目の前にいる彼女は『綾小路菊』だ。顔が全然違うけれど、きっと整形か何かしたんだろう。…当り前か。あんだけ全力で殴ったんだから痕になるだろうし。それを隠そうとしたら整形しかないもんね。
握手を解いて、ご案内しますと先導する彼女の後を三人でついていく。
ここは靴を履き替えずに入れる校舎なんだ。便利だけど落ち着かないなと思うのはやっぱり根が庶民だから、なんだろうか。
けど、やっぱりここも落ち着くなぁ…。男がいないって天国だよね。…いや、お兄ちゃん達の事は好きだよ?安心するし。でも世の中お兄ちゃん達だけな訳じゃないし。樹先輩や猪塚先輩みたいなタイプもいるし…。今の世の中草食系男子が流行りなのに、あの二人はがっつり肉食系だし…。年下三人組みたいなタイプもいる…
……やめよ。考えないでおこう。
やっぱりここでも生徒会室は最上階なのね。三階へ上がり、「こちらです」とドアを開けて私達を先に中へと入れてくれる。
そこには既に席についている役員が三人。成程あちらも計六人。こっちも六人。同じくなる様に出来てるのかな?
私達は勧められた椅子へ座り反対側の六人と顔を合わせる。
「早速会議を始めましょう。その前に自己紹介が先かしら?」
にっこりと微笑まれ、それに逆らうのも面倒で。
「では私達の方から」
私は自ら立候補する。
立ち上がり、
「聖カサブランカ女学院の生徒会長を務めています。白鳥美鈴です。よろしくお願いします」
自己紹介をしてにこりと微笑む。
数人が顔を真っ赤にし、コクコク頷いている。じゃあ私はこれでいいかな?
次は円にパスしよう。
円の肩をポンっと叩いてバトンタッチ。
「同じく聖カサブランカ女学院の生徒会役員で三年。向井円です。よろしく」
立ち上がった円が自己紹介を終え礼をして座る。入れ替わる様に愛奈が立ちあがり、
「聖カサブランカ女学院、生徒会役員、三年。新田愛奈です」
本当に自己紹介だけして座った。
「あとは、学校に残してきた花島優兎、一之瀬夢子、綾小路桃。以上がこちらの生徒会役員です。それでは、今度はそちらの自己紹介をお願い出来ますか?」
聖マリアの生徒会長から順番に自己紹介を終えて、早速議題である文体祭についての話し合いに入った。
そこで早速切り出してきたのは、生徒会長である綾小路菊…いや、吉村百世だった。
「白鳥さん。今年は少し趣向を変えてみませんか?」
「…と言うと?」
「いつもであれば聖女、聖マリア、共同で文体祭のイベントを作りあげてきました」
「そうですね。こちらの記録にもそう残っています」
例えば、文化祭で言えば、両校の生徒を半分ずつに割って互いの学校へ行き、出店やら展示物、演劇等々を共同で作り上げる。例えば、体育祭で言えば、チアリーディング、パフォーマンスを二校の生徒全員で披露する。
そんな感じなんだけど…。趣向を変えて、か。何となく想像がつく。
「今年は聖女と聖マリアで『勝負』と言うのはいかがですか?」
…うん。そう来ると思ったよ。
「勝負と言うのは…穏やかではありませんね。今までの形では駄目なんですか?」
にっこりと微笑んで言ってみた。すると数人が顔を赤くして俯く。
そう言う可愛い反応を見せてくれたらいいのに…この人も。…ないな。さっきから睨んでくるし。
「毎回同じものを見せられても観客は楽しくないでしょう?」
「ですが、その同じ物を期待している方もいらっしゃるかもしれない」
「ならば次回に戻せばいい。それとも、聖女は変わり映えもしないものをいつまでも続けて行くと言うのですか?」
「それが伝統という物でしょう?」
「何事も改革や変革は必要です」
これは…平行線、かな。どっちかが妥協しないといけないね…。どっちかがって言うか、あっち側は全然引く気なさそうだし…。となるとこっちが引くしかない、よね。
はぁ…。全くもう。面倒な事ばかりするんだから。
「…分かりました。勝負を行うとして。勝負形式はどうされるのですか?」
私が降参とばかりに手を上げて言うと、吉村は勝ったとふんっと胸を張り、資料を配らせる。
資料まで出来てるって事は最初から勝負する気満々で、譲るつもりなかったんじゃん。
資料を受け取り、ざっと目を通す。
文化祭は投票制。体育祭は得点制で閉会式に結果発表、か。成程、ね。
「ここまで詳細に作られているのならば異議はありません。これで進めて行きましょう」
「ありがとうございます。では、ここからの事ですが…」
役割やこれからの流れが会議の中で少しずつ決められていく。
大雑把な形が決まった所で今日の交流会は終了となった。聖マリアの役員は報告があるのか生徒会室を出て行った。
さて、私達もお暇しようという時に、呼び留められた。吉村に。
「……何でしょう?吉村会長?」
笑顔で答えると、その顔は醜く歪んだ。苛立ち交じりに私を睨み付ける。
「気付いている癖に、白々しい。私がこんな顔になったのも全て貴方の所為だと言うのにっ!」
バンッ!
机を叩きつける音が生徒会室に響く。
「気付いてたら何だって言うの?私を怒らせてもう一度殴られたいの?」
椅子を引いた私はゆったりと足を組んだ。スカートを履いていながら足を組むなんてはしたないとか言わないで頂けるとありがたい。
「…なぁ、王子?どう言う事?知り合い?」
「私もこの顔知らない。誰?」
あらら。円も愛奈も気付いてないのか。
「整形してるから分からないかもね。綾小路菊よ。ユメを苛めた発端で、桃を生贄に逃げようとした、あの馬鹿女」
はっきりとバカ呼ばわりした。だって本当の事だもの。
今だってユメが私と関わった所為であんな目にあったんだと思うと腹が立って仕方ない。目が自然と細まって、目の前の女を思いっきり馬鹿にした視線を送った。
円と愛奈がいざと言う時直ぐに動けるようにと席を立ち私の後ろに立つ。
バカ呼ばわりされたのが腹に据えたのか、吉村はギリギリと目の端を釣り上げて私を睨んでくる。
「私は貴方の所為で、人生を台無しにされたのよっ!!自分の顔すら捨てる事になったっ!!」
「はぁ?ふざけた事言わないで。王子があんたの人生を台無しにしたんじゃなくて、自分から自分の人生を盛大に放り投げたんじゃない」
「黙りなさいっ!何も知らない小娘がっ!」
「はんっ、小娘って。たかが二つや三つしか年が違わない癖に、人をガキ扱いしないで貰いたいね。お・ば・さ・ん」
…あー…本日の人選を間違えたでしょうか?好戦的な二人を選んでしまったからなぁ。心の中で苦笑する。いや、でも待って。もしユメを連れて来ていたら…。
『今度こそ、王子に害をなさないように、消してしまおう。大丈夫。私も一緒に消えてあげるから』
…うん。駄目だ。絶対にダメ。じゃあ、桃なら…。
『お姉様。今度こそ容赦致しませんわ。…綾小路家の為に死んでくださいませ』
あー、駄目だ。うん。ユメ以上に駄目だわ。優兎くん連れて来たら良かったかな…。あ、でもこいつには優兎くんが男だって知られてるんだっけ?
前は余計な騒ぎは危険だから起こさなかっただろうけど、今はあっさりと言いふらしそうだし。
ごめん。前言撤回。この二人で正解。
「白鳥美鈴っ!貴女に勝負を挑みますわっ!」
「ふふ。お断りします」
即決。即答。
だって私に受ける義務がないもの。
「貴女はお断りになれないわっ。私には花島優兎の秘密がありますものっ」
「…そうだね。でも、優兎くん一人位私が守ってみせるわ。…貴女、誰に喧嘩を売っているの?」
優兎くんを盾に出されたらこっちだって黙ってはいない。ママ直伝の圧倒的な威圧感を出し私は目の前の狂った女を睨み付ける。
「…くっ」
貴女は今、綾小路の人間でもない。桃の話によれば、桃の両親と菊は綾小路の姓を剥奪されたとの事。何でも、私の姿が載った悪戯メールを書き替えると同時に、綾小路にまつわる闇の部分を一緒にメールで流したんだって。それによって追い詰められた綾小路なんだけど、桃の両親と菊へ全ての責任を取らせるという名目で家を追い出されたらしい。だから今彼女は綾小路とつながりのあった高瀬へ逃げたのだが、高瀬にも今はそんな余裕がない。その為高瀬が従えている吉村を利用してその名を名乗っているのだ。因みにそんな高瀬不動産は今、白鳥と樹の両サイドから目をつけられ見放され、没落の道をまっしぐら。言い方は悪いがそんな庶民堕ちした人間が白鳥総帥である私に喧嘩を売るとはおこがましい。
おこがましい…が。
ふうと溜息をついて私は前髪をゆっくりと掻き上げて、立ち上がった。
「面倒だけど、受けてあげるよ。その勝負。正直、貴女が持ち出すであろう条件。『樹龍也の婚約者』の立場をかけての勝負なんて私にはこれっぽっちも興味ない、…と言うか熨しつけて差し上げたい位なんだけど。でもそれじゃあ貴女の気が済まないだろうしね。真っ向からその勝負受けて立とうじゃない。勝っても負けても樹先輩を持って行ってくれると私的には万々歳」
「王子。後半本音がダダもれ」
「ふふ。ごめんごめん。つい、ね。じゃあ、行こうか」
こちらをただただ睨め付けてくるその視線を背中で受けて、私達は聖マリアを出た。
車に揺られながら、やっと聖マリアから出て来れた事にホッと息を吐きだす。皮張りの座席の背もたれに背を沈ませる。
「お疲れ、王子」
「うん。疲れたー…」
皆の前でだと素が出せるから、楽だー…。
「お嬢様?何があったんですか?」
あー、真珠さんが心配してるー。
「何かあったって言うか。綾小路菊がいた」
「………どう言う事です?」
「どう言う事も何も言葉通りだよ。整形して聖マリアに乗り込んでた。しかも生徒会長にまでなってた。そもそも本来高校生、下手すると卒業間際の癖にいつまで中学に通ってるつもりなのよ…」
沈黙が車の中に過る。
「所で王子。王子は何であいつが綾小路菊だと分かったの?」
「態度ってのも勿論あったんだけど。一番は手の傷と頬の後ろの整形の痕、かな」
「手の傷?あぁ、そうか。王子、アイツと握手してたもんね。その時に気付いたの?」
「そう。桃に聞けば詳細は解るだろうけど。あの人、手に独特な傷があったのよね。随分昔に刃物で作っただろう傷痕。それを知っていたから握手してる最中にこっそり整形痕を探したの。ちゃ~んとあったよ、整形痕。だから間違いないかなって。まぁ、それ以上にすっごい敵意を向けられてたから気付くなって方が無理なんだけどねー」
ずるずると座席に沈みこむ。
「こら。王子。行儀悪いよ。そんな格好あのキラキラ兄さん達に見られたら何言われるか分かったもんじゃないよ?」
「確かに。怒りそう」
円と愛奈が二人顔見合わせてクスクス笑う。
夏休みの間に遊びに来たから皆はすっかりお兄ちゃん達とも仲良くなっていた。仲良くなる分には全然構わないって言うかむしろ嬉しいけど。こういう時の見張りが増えたのかと思うと少しがっくりくる。
「あっと、いけないいけない。二人共。今日の綾小路菊の件は居残り組三人には内緒だよ?じゃないと、また血の雨が降りそう」
これだけは言っておかないと。二人は一瞬考えた風に見せ、何かに思い当たり神妙な顔で頷いた。そして、真珠さんにも一応お兄ちゃん達に黙っている様に伝えた。
こっちも同じく血の雨が降りそうだからね。
皆には是非中学校生活唯一のお祭りを楽しんで貰いたい。
そう言えば聖マリアの方は毎年文化祭と体育祭あるんだよね。三年に一度文体祭をやるからその年は二つ共やらないらしいけど。その点うちの学校はお祭り自体がなく、文体祭だけが唯一のお祭り。
そんな唯一のお祭り。皆にも勿論楽しんで貰いたいけど、出来れば私も楽しみたい。
そして、売られた喧嘩は買って、きっちり勝利をおさめたい。
真っ向から勝負を挑まれたんだから。真っ向から受けて返さないと。
私は絶対勝つことを決意して、学校へと帰ったのだった。
その日の夜から私達の仕事は山積みから特盛(五割増し)に変化した。
忙しい。忙しくて死ぬ。
「白鳥先輩っ!決裁印お願いしますっ!」
「先輩っ!この種目の出場者の変更をお願いしたいのですがっ!」
「王子っ!一つ書類入れ忘れちゃったっ!どうしようっ!」
……あぁ、今なら以前の鴇お兄ちゃんの気持ちが良く解る。
勝手に入って勝手に喋って勝手に帰れって言いたくなる。
ふみぃ~っ!何でこんなに仕事が多いのぉーっ!?回せる所は全部各クラスにやらせてるのにぃーっ!
なんて泣き事言ってられないのも事実で。
私は書類に印を押しながら、変更届を受理して、ユメにさっさと入れ忘れた書類を届けに行くように指示を出した。
「美鈴ちゃんっ。衣装合わせの時間だよっ、時計見てないのっ!?」
優兎くんが生徒会室に駆け込んできた。顔が真っ赤だよ、優兎くん…って、そうか。衣装合わせの所に引き摺りこまれたらしんどいか。
「ごめん。優ちゃん。今行くよ。あぁ、それから円、そっちの体育祭の選手変更をよろしく。愛奈、文化祭の出店にペットレンタルは却下。苦手な人が来ないとも限らないし脱走されたらそれこそ面倒だ。まぁ百歩譲って動かない動物対象の出店ではなく喫茶とかにするならいいって伝えといて。っと、桃。ユメが帰ってきたら、ユメの分の書類手伝ってあげて」
全員に指示を出して、了承の返事を受け取ってから書類の挟まったファイル片手に歩きだす。
「美鈴ちゃん。それ私に貸して。そのまま歩くと危ないから私がやっておく」
「えっ?」
ファイルをあっさり没収されて私は苦笑しながら教室へ向かった。
自分の教室へ到着すると、メジャーを持ったクラスメートが正座して待機していた。…何で正座…?
いや、いまはそれよりも、謝罪が先。
「ごめんね。クラスの方手伝い出来なくて」
「そんなっ!白鳥さんが忙しいの私達知ってるからっ」
「ありがとう、ららちゃん」
気にしないでと言いながら、気の所為かな?ららちゃんの目が怪しく光っている。え?これは手伝えって事?いや、手伝えるなら手伝いたいけど…。
「私達、白鳥さんの衣装を作れるだけで幸せだからっ!頑張って王子の衣装作るからねっ!」
「うん、ありが…うん?ちょっと待って?王子の衣装ってどう言う事?」
「え?体育祭の方の衣装だよ?白鳥さん、言ってたでしょう?今回のテーマは対決だって。それにこの前配られたプリントに生徒会の衣装も得点にあったよ?」
きららちゃんがキョトンとしながら小首を傾げた。…そんな項目あった?
「腕に寄りをかけて作るからっ!聖マリアの会長なんて相手にならない位の立派な衣装作るよっ!」
「そうだよっ!絶対勝たせて見せるからっ!」
「うちの会長に喧嘩を売った事、後悔させてやるんだからっ!」
ちょ…皆、そのギラギラの目が怖いよ。なんで、そんな戦う気満々なの?
かと言ってやる気を出しているのに水を差す訳には行かず。私は大人しく採寸されることにした。
どんな衣装が出来るか、は……今は考えたくない。
クラスの出し物は、メイドカフェにするらしい。女しかいないのにメイドカフェって…とは思ったんだけど。当日は男も来るからいいんだってさ。
よし。……私は逃げよう。うん。逃げるしかないっ!いっそ執事カフェにしてくれたら良かったのに…。
なんてぶつくさ思いつつ、その後も準備に追われた。
おかげで、日中受けていた授業の内容など全く覚えていない。きっと皆も同じだと思う。
そしてまた、数日が過ぎ。
―――開会式当日。
「…美鈴ちゃん、似合ってる、よ?」
控室で私は椅子に座り、動く事も叶わず、隣で笑っている優兎くんを恨みがまし気に見た。
「なんで、なんで生徒会長はドレスなのっ!?」
「伝統だから、かな?」
「そんなあっさり答えないでーっ!」
私は水色のドレスを身に纏い優兎くんに全力で突っ込みを入れた。
なんでも開会式の時は両校の生徒会長がドレス姿で開会宣言をした後、友好の証として聖女はカサブランカの刻まれたネックレスを。聖マリアは十字架のネックレスを交換する事になっている。昔からの伝統だそうだ。
「うぅ…。恥ずかしい…」
「別に恥ずかしがる必要ないと思うけどなぁ…。美鈴ちゃん、すっごく綺麗だよ?」
ここには私と優兎くんしかいないから、普通に会話が出来る。それに甘えて私は立ち上がり、隣にいた優兎くんにぐっと顔を近づけて睨み付けた。
「じゃあ、優ちゃん、着るっ!?」
「えっ!?い、いや、それは、遠慮したいなー…とか?」
「やっぱり嫌なんじゃんっ!!」
ずいっと更に迫る。すると、優兎くんは私との間に手を挟んで顔を逸らした。
「い、嫌に決まってるでしょっ。そもそも、美鈴ちゃんと根柢が違うよっ。って言うか、美鈴ちゃんっ、近い近いっ」
「あ、ごめん」
言われてすんなりと席に戻る。はぁっと溜息をついて私は俯く。
「出来るだけ目立たなく過ごしたいのに…」
「いや、無理でしょ。美鈴ちゃん、何の寝言?」
し、辛辣…。優兎くんが、私の可愛い優兎くんがいなくなるぅ…。しょんぼりしちゃうぞ。落ち込んじゃうぞ。
「美鈴ちゃん。ちょっとこっち向いて」
つんつんと肩を指で突かれて、顔を上げるとそこには優兎くんの満面の笑みがあった。
「本当に、本当に、凄く綺麗だよ。だから、目立たなく過ごすとか言わないで?皆に見せてきなよ。折角クラスの皆が美鈴ちゃんの為に作ってくれたドレスだよ?相手方に魅せ付けてやろうよ。ね?」
「そう、だね…。うん。皆が作った作品だもんね。私が代表して魅せてこなきゃ、だよね。男の人がいる訳じゃないし。…うん。頑張ってくるっ」
私は覚悟を決めて優兎くんに宣言した。
「………僕も男、なんだけどなぁ…」
何か優兎くんが聞こえないくらい小さな呟きを漏らしたけれど、私にそれは聞きとる事が出来なかった。
何を言ったんだろう?聞き返そうとしたけれど、バットタイミングで係の人が呼びに来てくれて。
私は、優兎くんと一緒に舞台袖へと向かった。
二校合同の体育祭。体育館でやる訳にはいかないからと、市営の会館を使って開会式をやる。だから私と優兎くんは控室にいた訳だけれど。
舞台袖へ向かう途中に、生徒会メンバーと合流する。
「ふわぁ、王子、きれー」
「ありがとう、ユメ」
「大丈夫なの?王子。緊張してない?」
「してるよー。緊張しっぱなしだよー。愛奈変わってくれる?」
「の割には、しゃんとしてるじゃないか」
「あ、円が変わってくれてもいいんだよ?」
「王子。御髪が乱れていますわ。直しますね」
「ありがとう、桃」
好き勝手に話しているようで、皆私を気遣ってくれてるのが良く解る。その事に感謝しながら、私は先程から鬱陶しいほどに向けられている敵意の主に目をやった。
反対側の舞台袖。真っ赤なドレスを身に纏った吉村百世がこちらをギリギリと睨んでいる。
ああやって睨まれると、こっちは全開の笑顔で返したくなる。あんな余裕無さそうな感じで来られたらこっちは余裕をみせつけなきゃ勝負の前から負けを認めてるようなものじゃない?
舞台上では聖女の学園長と聖マリアの学園長が対談形式で生徒達にお言葉をくれている……長ぇ……。
長々とその話は続く。けれど、今年は対戦方式にした所為なのか学園長同士の会話も何か相手を探るような会話だった。
そんな学園長たちの話も終わり、開会宣言をする為に私と吉村百世が呼ばれた。
「さぁ、行こうか。まずは宣誓だよね」
ゆっくりと袖の階段を登り、私と菊、同時に舞台上に姿を表す。
きゃーっと黄色い声が館内に響き渡る。うん、耳が痛いねっ!
っといけないけない。それを顔に出しちゃいけないよね。笑みを浮かべて、中央へと歩いていく。
背後には優ちゃんを始め、生徒会メンバーが控えている。勿論聖マリア側も同じだ。
私達は真正面に対峙する。
「聖カサブランカ女学院と」
「聖マリア女子中学校の」
本当ならこれは在校生に向かって宣言する開会宣言なのだが、今年は対戦方式なのでいつもとは違う。
『永久なる友好を誓い』
私と吉村百世の声が重なる。ここで『今ここに、文体祭の開催を宣言します』と開催を宣言すればこの開会式は終了する…筈なんだけど、吉村百世がにやりと笑った。
これは、何かあるっ…?
思わず眉間に皺を寄せ警戒していると。
吉村百世が背後に手をやった。その後ろに控えていた副会長の手には…模造剣っ!?
うおーいっ!これ開会宣言だよーっ!しょっぱなから飛ばして来ないでーっ!
模造とは言え剣にどうやって対抗しろとーっ!?
一瞬思考が真っ白になってけれど、こんな時に何も対処していない優兎くんじゃないよね?だって毎日あのお兄ちゃん達に鍛えられてたんだもんね?優兎くん、信じて良いよね?
冷静になって私も背後に手をやると、何かを握らされた。
…剣の柄、だ。
振りかざされた剣を同じく振りかざした私の剣が受け止める。
剣がぶつかる激しい音。
そして。
『今ここに、文体祭の開催を宣言しますっ!!』
もうさっさと宣言してしまおうとする私と、剣の圧力に耐えきれなくなった吉村百世の声が重なった。
宣言後に、私達は剣を降ろし、互いの副会長に剣を預け、真正面を見て優雅にドレスを掴み一礼をした。
喝采を浴びながら、私達は生徒へ向けて笑みを送る。
いいか。一つ言わせてくれ。ここは男言葉でも仕方ないと思って私の言を聞いてくれ。
なんだ、この中二病的展開はーっ!?
皆は中学生だし年相応であってるのかもしれないけどーっ!?
しくしくしく…恥ずかしいよぅ…。穴に久しぶりに入りたくなってきたよぅ…。
そもそも友好とか言いながら剣でぶつかり合うっておかしいでしょー…うわあああんっ!
私の精神が氾濫したまま、開会宣言が終わり、私達は舞台袖へと戻る。
これからの日程や予定が舞台上にいる聖マリアの副会長から説明がされているのを横目に自分の中の羞恥心と戦っていると、背後から怒気を感じた。
「……王子?これは一体どう言う事ですの?」
「も、桃?えっ、とー…何が?」
「あらあら。恍けても無駄ですわよ?何故、あそこに私の姉がいるのでしょう?」
「あー…やっぱり気付いちゃった?」
「桃ちゃんの姉って…美鈴ちゃん、どう言う事?」
目の端を釣り上げた優兎くんに、この重たい空気に気付いた残りの三人も集まって来た。
仕方なく、あそこにいる吉村百世の説明をすると、桃の空気が更に冷度を増した。
「成程。…また、脱走されたのね。手引きしてるのはお父様かしら…。全く忌々しいっ」
あれ?桃さん?あのいつもの穏やかさは何処へ?
「落ち着いてよ、桃ちゃん。大丈夫っ。今は皆が味方だしっ。皆で潰そっ?」
あらあら?ユメさんや?笑顔でお目めを『きゅるんっ』として言うセリフかな?それ。
「だな。むしろいいチャンスじゃないか。聖マリアを徹底的に、完膚なきまでにしてやろうっ」
ちょいちょい、円さん。顔が完全にヤンキーに戻ってますよ?
「ふふふっ。私達の王子に喧嘩を売ろうなんて。…良い度胸してるわ」
愛奈、その懐から取り出した謎の液体入り試験官はしまおうか。うん。
「……何か、私の怒りは可愛い方だったね」
「そうだね、優ちゃん…」
優兎くんと二人、遠い目をしたのは言うまでもない。
開会式が終わり、バスで学校へと戻り、その日も文体祭の準備に明け暮れる。
そして、―――文体祭二日目。
聖マリアの文化祭の日である。
因みに私は…お留守番です。生徒会長は学校でお仕事があるのですよ。えぇ、山積みに。それに率先して男に会いにいくような事はしたくないしね。
かわりに優兎くんと桃とユメが行ってくれたから多分大丈夫。きっと大丈夫…?
文化祭は出し物や展示の面白さを投票していくんだったよね?確か。
目の前の書類を一枚持って内容をもう一度確認する。
えーっと…聖マリアと聖女の生徒には投票用紙が三枚、来場者には投票用紙が一枚配られる。評価に合わせて投票用紙を校門の所にある投票箱に入れる事になっている。展示が面白かった場合に投票。在校生は三回投票権がある。来場者は複数投票を避ける為、投票用紙を貰った地点で入場チケットに印を押される。だから再入場した時にもう一度投票用紙を貰う事は出来ない。
こういうのって大抵初日が有利なんだよねぇ…。
それを分かってて初日を選んだんだろうけど。どんな展示をしてるのかなぁ?気になるなぁ。男は嫌いだけどお祭りは好きなんだよねぇ。
………たこ焼き食べたい。綿あめ…林檎飴…。クレープ…。出店の食べ物ってなんであんなに美味しそうに見えるんだろう…。
んん。我慢だ。我慢だ私。
そうだ。今の内に鴇お兄ちゃんから届いた仕事もやってしまおう。そうだ。そうしよう。
私の文体祭二日目はただただ仕事に明け暮れて終わったのだった。
そう言えば鴇お兄ちゃんのくれた書類の中に色々な報告が混じっていた。
主に綾小路の事だ。
綾小路家の本家は、桃が分家に加担した事により瓦解した。それに伴い本当は身を退くつもりであった桃が分家の人間の強い要望もあり頭首となった。これは一応桃に聞いて知っていた。
そんな桃が頭首になった今。高瀬と取引を続けるはずもなく。勿論樹財閥も、あの樹先輩が無能を傘下においとく訳もなく。高瀬不動産はどこからの援助も受ける事が出来なくなった為、倒産したそうだ。でもって、前申護持施設跡地の事業は樹が引き継ぐらしい。樹先輩がそれを宣言したって。…多分下で働く従業員の為じゃないかな…と思う。
それから神薙家は明子さんが顔を出しに戻った為に、一時騒然となったそうだ。けれど、明子さんは神薙に戻る気は毛頭なく自分は今は申護持だからと、ただ事の経緯と挨拶、それから自分の息子三人を紹介だけして神薙家を去った。本当なら明子さんの行方が判明した今、明子さんが神薙の跡を継がなきゃならないんだけど、それは嫌だと跳ね除け、桃の口添えと誠パパの後押しが加わり神薙杏子が次代の跡継ぎになったみたいだった。
どこも一段落したようだ。
…したはずだったのに…。
あの女は…。
私は吉村百世…綾小路菊の存在を思い出す。
正直、こればっかりは私と対決してどうこうなる問題じゃないと思うの。って言うか、樹先輩が吉村百世と話してくれればそれで済むんだけどなぁ…。
ま、売られた喧嘩は買うけどね。…女限定で。
―――翌日。文体祭三日目。
今度はこちらの文化祭。
体育館で挨拶をして、文化祭は開催された。
生徒会の当日は、何か予期せぬ事態の対処と巡回位だから、今日はクラスの方へ顔を出そうと皆で顔を出したが最後。
拉致られて衣装を着せられた。
うちのクラスの出し物はメイドカフェ。だからてっきりメイド服を着せられるものだと恐怖していたら、着せられたのはメイド服じゃ無かった。
立派な、手作りの…『執事服』だった。
「メイド服よりはずっといいけど…優ちゃん、大丈夫?色んな意味で」
優兎くんがばれないか心配だった。けれど、そこはそれ。優兎くんの抜群の演技力で見事に女の子が男装している風に魅せていた。男の娘、面目躍如って感じ?
「問題ないわ。どう?似合う?美鈴ちゃん」
ふふっ、と妖艶に笑う優兎くんに一瞬ドキッとした。
こんなに女の色気を醸し出すとはっ!優兎くん恐るべしっ!
「うん。似合ってるよ。優ちゃん、凄くカッコいい」
私が微笑み返すと、優兎くんは何故か顔を逸らした。耳が赤い…?照れてるのか、恥ずかしがってるのか?どっち?
ワイシャツの袖のボタンを締め黒の光沢入りネクタイを締める。グレーのベストを羽織って最後に燕尾服ジャケットを羽織る。ボタンを占めて、髪を緩く一本にまとめ横へ流した。ジャケットのボタンから飾りのチェーンがポケットへと流れてついていて、その銀がやたらと映える。
白の手袋をはめてっと。準備は完了。
「優ちゃん。私はどうかな?おかしくない?」
「大丈夫。ちゃんと綺麗だよ」
「きっ…あ、あのね?優ちゃん。流石に恥ずかしいんだけど…」
「ふふっ。さっきの仕返しだよ」
顔を片手で覆って私は照れを流そうとした。だけどわざわざ流そうとしなくても空気を破る様にミニスカフリルのメイドさんなユメと和服メイドな桃、そしてクラシカルメイドな愛奈が更衣室として用意された教室へ入って来た。
私達で着替えるのは最後だったから、他に誰もいない。最後に着替えた理由?そんなの決まってるよね。優兎くんが着替えてる最中にばれでもしたら大変だから。とは言え今までバレなかったんだし、平気そうだけど。
うんうんと頷いていると目をキラキラさせたユメがくるくると私の周りをまわり始めた。
「王子、かっこいいっ!」
「ありがとう、ユメ」
跳ね上がりながら喜んでくれるユメの頭を撫でると、ユメは顔を真っ赤にして照れた。うん、可愛い。
「ユメも可愛いよ。すっごく」
「ほ、ほんとに?ありがとう」
もじもじするユメ、マジ可愛い。ごちそうさまですっ!
「あ、勿論、愛奈も桃も可愛いから安心して」
微笑むと、二人共はにかむような笑顔を見せた。よっしゃ、可愛いっ!
「さ、てと。行こうか。館内巡回したらいいんでしょう?プラカード持って」
「そうそう。それじゃあ行こうっ」
「執事とメイドで別れた方がいいよね。じゃあ、ユメと桃と三人で行こうかな。じゃ、優ちゃんまた後で」
「うん。後でね」
私は二人をエスコートするように教室を出た。
いつも姦しい校舎がいつも以上に騒がしい。プラカードを肩にかけてユメと桃先導の下校内を歩く。一般客が多いし、何より女子校な所為かいつもは入る事の出来ない男子が多い多い。
叫びたいのを必死に堪えて回避していく。幸い男の恰好しているからか、話しかけて来る事はなく、前世では文化祭=ナンパ、もしくは文化祭=人がいない所へ連れ込みってのがない。素直に有難なー。
「白鳥先輩っ、後でうちのクラスにも来てくださいっ」
「うん。誘ってくれてありがとう。後で顔出すよ」
「先輩っ、これっ、うちのクラスで売ってるクッキーなんですっ、良かったらっ」
「ありがとう。でもただで貰う訳にはいかないよ。はい、代金」
よく前世で読んだ漫画の、女にモテる女子を思い出した。きっと彼女達はこんな気分だったんだね。ちょっと理解した。女の子にキャッキャッ言われるのそんなに気分悪くない。
「あ、あの人、かっこいいー。誰ー?」
「知らないの?聖女の生徒会長よ。昨日舞台に立ってたでしょ」
「あぁーっ、あの人が聖女の『王子』なんだーっ。成程、かっこいいっ」
騒いでくれる他校の女生徒相手に私は一つ良い案を思いついた。
ゆっくりと彼女達の側へ近寄り、その前で跪く。
「お嬢様。宜しければ私にお嬢様の手に触れる権利を」
目の前の他校の生徒一人へ手を差し伸べ、上目遣いで請う。
「え?え?あのっ」
戸惑いながら手を私の手に自分の手を重ねてくれる。それに心の中でほくそ笑み、その細い手の甲にキスをした。
「ありがとうございます。お嬢様。このまま私にエスコートさせて頂けますか?」
「はっ、はいぃっ!!」
よし作戦成功っ!クラスまで案内しますよ、お嬢様っ!
…所で私が今した行動って、本当に執事?どっちかって言うと騎士かホストな気も…いや、何でもない。触れるな、私。触れたらきっと羞恥心爆発で帰って来れなくなる。青春の思い出として片づける為にも触れてはいけないのだ。
女生徒をクラスまで案内して、もう一度巡回に戻り。それを何度も繰り返し、生徒玄関へ向かうと突然騒がしい声にぶち当たった。
このきゃあきゃあという黄色の声は聞き覚えがある。小学校の頃、学校行事の度に聞いた…。
そっと校門の所を覗くと盛大な人だかり。ただし女のみ。年齢関係なく女性が蟻の様の群がっている。
そこから頭一個分は大きい二つの金色。
「やはりお兄様でしたね」
「だねー。相変わらずカッコいいよねー。王子のお兄ちゃん達」
うん。攻略対象になるくらいのイケメンだからねー…。足を止めて私はお兄ちゃん達を遠目に眺める。
「あれ?王子。会いに行かないの?」
「だって、ユメ。あれ突破するのはちょっと骨が折れるよ…」
「確かに…」
納得してくれるユメに反して。
「あら?大丈夫ですわ。今の王子のお姿ならば。皆様、綺麗な道を作って下さいますわ。それに」
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首を傾げて続きを待つと。桃は苦笑した。
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桃が手で示す方。お兄ちゃん達の方へ視線を向けると、こっちに気付いた二人が手を振っていた。
「鈴」
「鈴ちゃん」
周りに集う女性なんてまるで見えていないのか、颯爽とその長い足で私の側へ来た棗お兄ちゃんと葵お兄ちゃん。
「会いたかったよっ、鈴ちゃんっ」
「僕も会いたかったっ」
二人にぎゅっと抱きしめられて、今私が思ったのは。…傍から見るとこれBLじゃね?
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「勿論だよっ」
「こんな機会でもないと鈴ちゃんの学校に来られないからねっ」
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にっこりと微笑まれると、私も笑顔を返したくなる。
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「ううん。なんでもない。ただ、イケメン天国って存在するんだなって思っただけ」
「とか仰りつつ、夢子さんの視線は教室を出た時からずっと王子に向いてますけどね」
ユメの奥から口を手で隠して微笑んでいる桃が突っ込みを入れた。
「さて、皆様。ここで話し込んでいると他のお客様の邪魔になってしまいますわ。どうぞ、私達のクラスへいらしてください」
桃の先導で私達とお兄ちゃん達は校舎の中へ戻った。
クラスへ連れて行った瞬間、黄色い声が大爆発。
流石と言うか何というか…やっぱり私みたいな似非王子は本物の王子や王には敵わないようです。合掌。
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