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小学生編小話

皆で遊ぼうっ!:美鈴小学四年の夏

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……。
…………おかしい。
何がおかしいのかと聞かれると、説明が難しいんだけど。それでもやっぱりおかしい。
僕の気の所為かな?とも思ったんだけど、でも…。
「ねぇ?鈴?」
「なに?棗お兄ちゃん」
にこにこ笑ってるはずの鈴ちゃん。それはいつも通り。
いつも通りなんだけど…。そう、いつもなら、僕達が鈴ちゃんの名を呼ぶと、「なぁに?葵お兄ちゃん」って優しく返してくれる。
それが、今は返事を返してくれはするけれど、どこか棘を感じると言うか…。
僕は優兎を手招きした。
気付いた優兎がテレビの前のソファから立ち、僕の側へ駆け寄ってくる。
「鈴ちゃん、何かあったの?」
こそっと聞くと、
「それが、良く解らなくて。夏休みが始まるまではむしろ上機嫌だったんですよ?」
夏休みが始まったのは一週間前。
って事は、一週間もこの調子ってこと?
「僕はてっきり佳織さんが何かやらかしたのかと…」
「その線もなくはないけど…」
佳織母さんにはむしろ、ここ数日鈴ちゃんは甘えたになってる気がする。
本当に何があったんだろう?何も出来ないってもどかしい…。
僕がじっと鈴ちゃんを見ると、小首を傾げて、にこにこ。
うん。可愛いよ?可愛いんだけど…。
どうしたらいいんだろう…?
僕も棗も鈴ちゃんにこんなに壁を作られた事がなかったからどうしたらいいか対処に困る。
そんな時、学校から帰って来た鴇兄さんがリビングのドアを開けて「ただいま」と入って来た。
天の助けとばりに僕達は鴇兄さんに視線を飛ばす。
けれど、鴇兄さんは僕達に視線を飛ばされずとも、すぐに鈴ちゃんの異変に気付いた。
「美鈴?ただいま?」
「うん。おかえりー。鴇お兄ちゃん」
にこにこ。変わらない笑顔。
鴇兄さんはそんな鈴ちゃんを見て、ふっと笑みを浮かべて鈴ちゃんを抱き上げて一緒にソファに座った。
珍しくジタバタと暴れる鈴ちゃんにやっぱり何かあったのだと僕達は確信して鴇兄さんの両隣に陣取る。優兎も僕の隣にある一人掛けのソファに座った。
「みーすーず」
ぎゅむっと両手でほっぺを包まれ、鈴ちゃんは強制的に鴇兄さんと視線を合わせさせられた。
「なに拗ねてるんだ?」
「ふみっ!?」
えっ!?
僕達は声に出さずに驚く。
え?え?鈴ちゃんは怒ってたとか何かあった訳じゃなくて拗ねてたのっ!?
驚きに目を見開いていると、鈴ちゃんの顔が真っ赤になっていくのをみて更に驚いた。
「す、拗ねてないもんっ!拗ねてなんかないんだもんっ!」
何とか鴇兄さんの手を解こうと頑張っているけれど、力の差は歴然で。
「ふみぃ~…拗ねてなんかないもぉん……うぅ…」
「んな泣きそうな顔して言われても説得力がないぞ。ほら、美鈴。言ってしまえ」
うんうんと僕達も頷いて促すと、鈴ちゃんが顔を真っ赤にしたまま。
「………だって。だって、お兄ちゃん達…夏休みは一杯遊んでくれるって言ったのに…いないんだもん…」
と呟いたのだ。
やばい…鈴ちゃんが滅茶苦茶可愛いっ!
俯いて、ぼそぼそと話す内容も可愛くて仕方ないっ!
「分かってるもん。お兄ちゃん達だって自分達の用事があっていっつも遊んでる訳にはいかないって分かってるもん…。でも、でも……寂しいんだもん…」
ぎゅっと鴇兄さんのシャツを握る鈴ちゃん。
僕と棗はもう悶えそうだ。今すぐ鈴ちゃんをぎゅっとしたいっ!抱きしめたいっ!
「あぁ、そっか。美鈴ちゃん。夏休みに入ったらやっとお兄ちゃん達と遊べるって喜んでたもんねっ。でも、毎日鴇さん達が留守にしてるから」
優兎の言葉に鈴ちゃんは益々小さくなっていく。きっと恥ずかしくて仕方ないのだろう。…可愛いよっ!
「全く、馬鹿だな。美鈴」
「どうせ、ばかだもん…」
しょんぼり。
肩を落とす鈴ちゃんを鴇兄さんがぎゅっと抱きしめて微笑んだ。
「美鈴。俺達がどうしてお前と一週間遊べなかったと思う?」
「……え?」
「お前と一緒に遊ぶために必死こいて夏休みの課題を全て終わらせてたんだぞ?」
「え?え?」
確かに、僕達も鴇兄さんに言われて宿題を全て終わらせて、部活もやれるだけやりだめしろと言われたからその通りにした。
それは要するに、皆で遊びたいって言う鈴ちゃんの希望を叶えるためであって…。
「明日から、俺達は皆で白鳥家の別荘へ二週間旅行だ」
「ええっ!?」
「透馬達やお前の友達の華菜ちゃんも誘ってる」
「ほ、ほんとっ!?鴇お兄ちゃん、ほんとっ!?」
「あぁ」
頷いている鴇兄さんだけじゃ納得出来ないのか、鈴ちゃんが僕達の方を交互に見る。
それに笑顔で頷くと、それはそれは嬉しそうに微笑んで。
やっぱり僕の妹は可愛いと心の底から思った。

そして翌日。
僕達は白鳥家の別荘へ金山さんの車で向かった。
因みにメンバーは良子お祖母さんと美智恵さん、それから鴇兄さんと、透馬さん、大地さん、奏輔さん、棗に優兎に旭に華菜ちゃん、そして鈴ちゃんだ。
今回は父さんと母さん、そして三つ子はお留守番。抜けられない仕事とパーティがあるんだって。三つ子の面倒は僕たちを送り次第戻る金山さんが見てくれるはずだ。
…まぁ、ご飯は鈴ちゃんが作ってくれるし、大人はお祖母さん達と鴇兄さん達がいるから問題はない。
避暑地として過ごす為に建てられた別荘は、僕達の家よりは若干小さいログハウス風の建物だった。大きな木が別荘を覆って影を作りより涼しい空間を作っている。
到着して僕達は金山さんから受け取り、そのまま建物の中へ入る。
靴を履いたまま入れる建物のようだ。
「じゃあ、女は下、男は上で部屋を分けようか。下の方に寝室は一つしかないからね。上は二つあるから自由に決めて頂戴」
そう言ってさっさと奥へ行くお祖母さん達を見送ってから。
「華菜ちゃん、行こうっ」
「うんっ」
鈴ちゃんが楽し気に華菜ちゃんと手を繋いで奥へと行こうとして、
「旭っ。旭もこっちにおいでっ」
「うんうん。旭くんならこっちでもいいよねっ」
旭の存在に気付き、旭を真ん中に両側から手を繋いで駆けて行った。
「昔はお前らがああやって美鈴を真ん中にして走ってたのにな」
「ちょっと寂しいね。葵」
「そうだね、棗。…でも、もう少し大きくなって旭が今の鈴ちゃんくらいになったら取り戻す」
「うん。取り戻そう」
「……ま、嫌われないように頑張れ」
ぐりぐりと鴇兄さんに頭を撫でられる。
「んで?部屋割りどうすんだ?鴇」
「あー…部屋見てから決めるか。でないと俺達のサイズではみ出す可能性もある」
「そりゃそうだー」
「優兎は姫さんの所に行かなくて良かったん?」
「い、行けるわけないじゃないですかっ!」
わいわいと騒ぎながら階段を登ると、小さな踊り場があり、左右にドアが二つ。
大地さんが右の、透馬さんが左のドアを同時に開ける。
「ってあれ?この部屋全部繋がっとるんちゃう?」
繋がってる?どう言う事だろう?
中に入ると、確かに大きな部屋なようで全方位ガラス。どうやらオーシャンビューを望める部屋のようだ。
ざっくりと例えると階段を中心にコの字型になってるみたい。
僕は右手側のドアから入ったんだけど、更に右手側にドアがありそこを開けると、ベッドが四つ。大地さんが足を延ばしても余裕で寝れるサイズだから問題ない。
ベッドルームには小さな窓しかないんだ。充分だけどね。
「左側にも同じベッドルームがあったよ?」
「なら、じゃんけんで部屋割り決めるか」
鴇兄さんの言葉に否はない。全員でじゃんけんをして勝った順から部屋を決めて行く。
三番目に勝った僕は右側の部屋を希望した。
部屋割りの結果は、右に鴇兄さん、大地さん、棗に僕。左側は透馬さんに奏輔さん、優兎になった。
ベッドの下に棚があり、そこに数日過ごす分の荷物を入れる。
手早く終えて、ベッドルームを出ると階段下から声が聞こえた。
「お兄ちゃん達ーっ!海いこーっ!!」
鈴ちゃんの声だ。
「鈴、海初めてだもんね」
「だね」
棗とクスクスと笑い合い、僕達は水着に着替えて階段を降りた。
この別荘。後ろを抜けるとプライベートビーチに着く。
ここならば鈴ちゃんも下手な男に怖がる必要がない。
「俺達がパラソル立てておくから、お前ら先に行っていいぞ。ただしちゃんと柔軟してから入れよ?」
こくこくこく。
鴇兄さんの言葉に鈴ちゃんが全力で頷く。
「あぁ、お姫さん。ちゃんと日焼け止め塗らなあかんで?」
「大丈夫っ!ちゃんと塗ってきたよっ!」
「姫、エアボート持って来たけど、乗るか?」
「乗りたいっ!」
「……っと、良しっ。はい、姫ちゃん、浮き輪膨らましといたよー」
「ありがとうっ、大地お兄ちゃんっ」
浮き輪を受け取り、華菜ちゃんと二人走りだす。
見事に浮かれてる。
僕は棗と優兎と顔を合わせ、クスクスと再び笑みを浮かべて鈴ちゃんの後を追った。
「葵お兄ちゃーんっ、いっくよーっ!えいっ!」
「っと。はい、華菜ちゃん、パスっ」
「わわっ!?」
「よっとっ。葵、どこに飛ばしてるのさっ。華菜ちゃん、パスっ」
「っとと。よーし、旭くん、いくよー。えいっ」
「はーいっ。えいっ」
五人で楽しくビーチボールを弾いて遊ぶ。膝下くらいまでは海に浸りながらやってるので暑くもないし。ここの浜は全然汚れてないから、砂の中にガラスが混じってたりもしないから裸足でも全然問題ない。
そんな僕達の横では。
「おらぁっ!!大地喰らえっ!!」
「なんのっ!!奏輔っ!上げるぞっ!!」
「オッケーやっ!!今度はこっちから行くでーっ!!うらぁっ!!」
「ふっ、甘いってのっ!!」
鴇兄さん達が本気のビーチバレーを繰り広げていた。
トバッチリが来るかもしれないなぁ…。ちょっとだけ避難しておいた方がいいかも…?
僕に飛んできたボールをキャッチする。
「ねぇ、皆。そろそろ一旦休まない?」
「うん。僕もそう思ってた。パラソルの下に戻ろうか」
賛成と皆が手を上げたのを確認して戻る事にする。
旭を棗が抱き上げて、砂の上は暑いから少し早足で戻った。
鴇兄さん達が敷いてくれた大きなシートの上に座ってタオルで軽く体を拭く。
「えっとー…確かクーラーボックスの中にー」
ごそごそとクーラーボックスの中を鈴ちゃんが漁る。
「あ、あったあった」
と言いながら、何かを取り出した。
どうやらそれはゼリーのようで。サイダー系のゼリーかな?綺麗な水色をしている。
「美鈴ちゃんが作ったの?」
「うんっ。昨日、鴇お兄ちゃんから今日の旅行を聞いてすぐに」
えへへっと笑う鈴ちゃんが可愛い。
余程今日からの旅行が楽しみで仕方なかったんだろう。
……って、あれ?
「鈴ちゃん。髪型が崩れてるよ。直してあげるからおいで」
「あ、うんっ。ありがとう、葵お兄ちゃん」
華菜ちゃんと優兎、旭にゼリーと一緒に使い捨てのスプーンを渡すと、鈴ちゃんは僕の前に来て、足の間にちょこんと座った。どうしよう、可愛いっ!
って、鈴ちゃんの可愛さに悶えてる暇はない。
鞄の中にタオルと一緒に入っていたブラシを手に取って鈴ちゃんの髪型を直していく。
「ね?ね?葵お兄ちゃん」
「うん?どうしたの?鈴ちゃん」
「華菜ちゃんの水着姿どう思う?似合うよね?可愛いよね?」
嬉し気に話す鈴ちゃんが可愛い。
何でも一緒に水着を選んだと言っていた。ビキニタイプの水着。上は猫耳パーカーを羽織り、下はハーフパンツを履いているから露出が少なくて一安心。白でコーディネートされている鈴ちゃん。それと色違いでお揃なピンクでコーディネートされた華菜ちゃん。
二人共本当に似合っていて可愛い。
「うん。二人共、本当に似合ってて可愛いよ。ね?棗」
「うんうん。似合ってるよ」
華菜ちゃんも勿論可愛いけれど、それ以上に鈴ちゃんが可愛いからちゃんと二人共褒めておく。
えっと、髪ゴム…折角だから、前に貰ったのにして置こうかな。鈴ちゃんが貰った後に楽し気に弄って遊んでた奴。白猫がイチゴを抱き込んでるようなビーズと小さな水玉ボールのついた水色のヘアゴム。
髪を降ろしていると暑いだろうからお団子にしておこう。
綺麗に丸く出来た事に満足して、うんと頷く。
「出来たよ、鈴ちゃん」
「ありがとうっ、葵お兄ちゃん」
いそいそとクーラーボックスの方まで戻り、鈴ちゃんは僕と棗にもゼリーをくれた。
うん。やっぱり鈴ちゃんのお菓子はどんなのでも美味しいっ!
暫く皆で休憩していると、疲れ切った鴇兄さん達が戻って来た。
兄さん達にもゼリーを渡して、皆で休憩。
それから僕達は再び遊び出した。今度は透馬さんが用意してくれたエアボートに鈴ちゃんと華菜ちゃん、旭が乗りこんで、僕と棗、優兎はそのボートに捕まる様にして海の上を漂う。
「あー…気持ちいい…」
「ちょっと、葵。おっさんくさいよ」
「えー…だって、冷たくて気持ちいいんだから仕方ないよ」
「まぁ、分からなくもないけどさ」
僕達の会話を聞いて鈴ちゃんがクスクスと笑う。
「あ、ちょっと旭くんっ、身を乗り出すと危ないよっ」
「だって、したになにかいるんだもんっ、うわっ!」
「えっ!?ちょっ!ええっ!?」
華菜ちゃんと旭が片方に寄ってしまった所為か、ボートが浮き上がり優兎の方へ裏返る様に転覆した。
茫然と僕と棗はそれを見ていたんだけれど。
「ぷはっ!こら、旭っ。気を付けなきゃ駄目だよっ」
「ふえぇ…ゆうとにいちゃ、ごめんなさぁい…」
優兎がボートを寄せて旭と一緒に水面から顔を出した。
「ぷはっ!あー…びっくりしたっ」
「ぷはっ!一体何が起きたのー?」
華菜ちゃんと鈴ちゃんも水面から顔を出し、僕達と話をしていた鈴ちゃんは現状が分からず首を傾げていた。
そんな四人が面白くて。僕と棗は顔を見合わせて笑った。
つられるように四人も笑い、僕達はまたボートで遊び出した。
…そう言えば鴇兄さん達は何してるんだろう?
ふとそちらへ視線をやると、水中に潜って何かをしていた。良く解らないけど楽しそうだからいいか。
どうせならそっちへ行こうかと棗とアイコンタクトをして、鈴ちゃん達の乗ったボートを引っ張りながらそちらへ向かった。
「お、こっちに来たのか?」
「うんっ。鴇お兄ちゃん達は何してるのー?」
「うん?あぁ、何かこの下に綺麗な貝殻が落ちててな。それを透馬に言ったら見るってうるさくて。んで透馬が潜ったら真珠を見つけてな。もっとあるかもしれないって三人で潜って捜索してるんだ。俺はそれを呆れながら見てる」
言いながら鴇兄さんがボートに片腕をのせた。こっちは少し波が荒いから流されないようにしてるんだろう。
「ぶはっ!ちょっ!今の見たかっ!?」
「は?」
いきなり浮上した透馬さんがこちらへ向かって叫ぶ。
すると、奏輔さんと大地さんも同時に浮上して、
「な、なんやあれっ!!」
「うっわ、マジきもーっ!!」
叫ぶ。
三人が行き成り何を言いだしたのか分からない。全員で首を傾げている中。
「何かあるのー?」
鈴ちゃんが中を覗こうとして。
「見るなっ!絶対見たら駄目だっ!姫と華菜は特に駄目だっ!トラウマになるっ!」
「すでに俺達がなりかけとるっ!」
「きもーっ!!」
「……良く解らんが、ここを離れた方が良さそうだな」
鴇兄さんの言葉に頷き、僕達は離れる事にする。
透馬さん達は鴇兄さんにそのキモイ何かを見せたいのかその場に残った。
僕達は陸に上がって、波打ち際で砂遊び。
「何作るー?」
「落とし穴」
「おっけーっ」
鈴ちゃん。なんで、落とし穴?そして華菜ちゃん。何故、違和感なくそれを受け入れるの?
普通は砂を盛り上げてお城を作るものじゃないの?どうして減らすの?
と思いはするものの、僕達は対して止めもせずにそれを見守った。
そんな時。

「…あっれー?何か可愛いのがいる」
「おれたちの穴場に何でガキがいんだよ」
「おいおい。そのガキに何喧嘩売ってんだよ」

突然のチンピラ登場。
日に焼けて…焼けすぎて丸焦げで馬鹿丸出しの男三人。兄さん達よりは年上そう…仕事はしてなさそうだから…フリーター?
僕と棗は咄嗟に鈴ちゃんを背に庇う。
華菜ちゃんも同じく鈴ちゃんを庇おうとして、その前に優兎がぐっと腕を引っ張って旭と鈴ちゃん三人を一か所にまとめた。
「何か、ご用ですか?」
棗が慎重に牽制する。
「ご用っつーか?ここって俺達の縄張りなんだよね」
「そうそう。むしろ君達の方が不法侵入なわけ。わかる?」
……さっぱり分からないんですけど。
むしろ君達の方がって、こっちが言いたい。
お前らの方が不法侵入だろ。ここは白鳥家所有のプライベートビーチなんだから。
とは言え、鴇兄さん達はこういう奴らに出会った時は相手にするなって言ってたから声は出さない。無視する。
「…行こうか、皆」
僕が声だけで促すと、棗が代表して「そうだね」と返事をして立ち上がる。
「おいおいおい。勝手に俺達の縄張りで遊んで置いて、何も言わずにいなくなるのか?」
「何かあるだろー?感謝の言葉とか、ほら、感謝の気持ちとかさー」
「いっそ、その女の子達でもいいぜぇ?隠してるってことは可愛い子なんだろぉ?」
無視だ。無視。
鈴ちゃん達が歩きだすのを確認して。僕達はそいつらを睨み付けたまま、後退する。
「逃げんなよ。ガキが」
「お綺麗な顔してるよなぁ。これなら俺、男でもいけっかも」
「マジかよっ!ありえねーっ!」
気持ち悪いっ!!
鈴ちゃんが捕まる前に逃げなきゃっ!!
僕は棗と優兎に視線で合図をする。こくりと頷いた二人は、僕が頷いたと同時に優兎は旭を、棗は華菜ちゃんを抱き上げ、僕は鈴ちゃんを抱き上げて一斉に走りだした。
ちっと舌打ちをして追い掛けてくる奴らから必死に距離を稼ぐ。
別荘までは距離がある。
だから僕達が逃げるべき場所は一つ。
「鴇兄さーんっ!!」
鴇兄さん達が遊んでいる場所だ。
僕達の必死な声に気付いた鴇兄さん達が海から上がってこっちに来てくれる。
そして、鴇兄さんと合流した僕達はその後ろへと隠れた。
「……家の弟妹に何か用か?」
威圧感が半端ない。
それにびくびくと怯えてる位なら帰ればいいのに。
なのに、そいつらは無謀にも、
「ここは俺達の縄張りなんだよっ」
反発し、
「縄張り?そんなの知らないね。とっとと帰れ」
奏輔さんが叩き斬る。
「なんだとっ!?」
「おっ?やるー?………一切手加減はしてやらねぇけど。いいんだな?」
大地さんの脅しにさらに顔を青褪めさせるチンピラ達。
そんなに怖いなら帰ればいいのに…。
「あー…今になって、姫と初めてあった時を思い出したわー。ほんっと悪かったな、姫。怖い思いさせて」
僕の腕に抱っこされてる鈴ちゃんの頭を透馬さんが撫でる。
そしてそのまま鴇兄さん達は僕達を守る様に前に出た。
……この落差、凄いな。ビジュアル的にも頭の中的にも。兄さん達に勝てる要素が向こう側に一つもない。
蛇に睨まれた蛙?もしくは追い詰められた鼠?窮鼠猫を噛むとは言うけれど。
「ちょっと顔がいいからってっ!!」
「ちょっとスタイルがいいからってっ!!」
「いい気になってんじゃねーぞっ!!おらぁっ!!」
褒められてるんだか、喧嘩売ってるんだか良く解らない。ほんと馬鹿って救いようがない。
僕達は兄さん達の邪魔にならないように後ろに避難する。
でも勝負はほんの一瞬だった。
殴りかかってきた三人をあっさりと避けて、鴇兄さんの蹴りと奏輔さんと大地さんの殴りが同時にそいつらに叩き込まれ砂に沈んだ。
弱すぎる…。これなら僕達でも勝てたかもしれない…。
「ち、ちくしょーっ!」
「お、覚えてやがれっ!」
「いや、覚えるなっ!綺麗さっぱり忘れろっ!今度あった時知らないふりしてリベンジしてやるからなーっ!」
お決まりの捨て台詞を吐いて、よろよろと走り去って行こうとした奴らに、
「おっ、どうせだからこれ持ってけよっ!」
何時の間に海に入ったか分からないけれど、透馬さんが手に何かを持って海から戻って来たかと思うと何かを放り投げた。
「あん?これな……ぎゃーっ!!」
「きめーっ!!」
「しかも離れねぇしっ!!何だこれーっ!!」
叫ぶ三人。え?何?なんなんだ?
「と、鴇お兄ちゃん?見えないよ?」
「奏輔さん?なんで私達目隠し?」
「だいちにいちゃ、おめめまっくら」
それぞれ腕に抱かれてる三人は兄さん達に目隠しされている。
一体何を投げられたんだろう?
喚きながら走り去ったそいつらの腕にはタコがくっついていた。
普通のタコだよね…………あ…。
……見るんじゃなかった…。
僕が思わず顔を顰めて棗の方を見ると、棗も同じ顔をしていた。
「きもい…」
優兎の呟きに大きく頷く。
忘れよう…。タコの足が全て人の足になっていたなんて…絶対忘れよう。アニメとかにあるコメディ系で出てくる魚人なんかより余程トラウマになる。うん、絶対に忘れよう。
そう思ってたのに、その日は流石にあの生き物の衝撃が強すぎて僕達は別荘へと帰った。
その日の夜、あのタコが出て来て夢にうなされたのはどうやら僕だけではなかったらしい。
翌日は海で遊ぶのを止めて付近の散策をしたのは言うまでもない。
でもよくよく考えたら、あいつらがあの生き物を持って行ってくれたから海で遊んでももう問題ないと言う結果に辿り着き、僕達は二週間楽しく過ごしたのだった。
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