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中学生編小話

夏と言えばこれじゃない?

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「やるしかないっ!」
唐突に我が校の生徒会長がトンカチとどこから持って来たのか解らないけど立派な竹を持って寮の自室に戻って来た。
「…美鈴ちゃん?色々突っ込みたい事はあるんだけど、一先ずそれは置いとくね。で、それは何?」
「決まってるでしょ、優ちゃんっ!夏と言えばこれでしょっ!」
「…夏と言えば竹?」
「と言うより、流しそうめん、じゃないか?」
僕の背後からひょこっと顔を出した円ちゃんが言う。
成程。流しそうめんか。確かに夏の風物詩だね。
「……ん?ちょっと待って?美鈴ちゃんが竹を持ってるって事は、流す台から作るって事?」
「ぐっ!」
ぐっ!じゃないよね、美鈴ちゃん。
しかも、もう寮の敷地にある庭に今にも行こうとしている。
「王子は本当唐突だよね」
「愛奈ちゃんも突然現れるよね」
円ちゃんだけでなく愛奈ちゃんまで背後に現れるから、もう慣れっことは言え言いたくもなる。
「待ってっ!王子っ!」
「そうですわ、王子。ちょっと冷静になって」
うん。円ちゃんと愛奈ちゃんがいるんだから、来るって解ってたよ。
止めてくれるなら、二人に任せようかな。
「天ぷらはっ!?薬味はっ!?」
「そうですわ。麺つゆも大事ですわ」
「ふみっ!?確かにっ!!」
うんうん。夢子ちゃんも桃ちゃんも、そうじゃない。突っ込む所はそこじゃない。そして真剣に考えないで、美鈴ちゃん…。
「じゃあ、優とイチ、愛奈で土台作り。調理を王子と私、桃でやるのはどうだい?」
「うぅー…。竹の節をパカンしたいのぉー…」
美鈴ちゃん。そこなの…?
あー…でも、僕美鈴ちゃんのしょんぼり顔に弱いんだよね…。
「仕方ないなぁ。皆で外で準備して皆で料理しようよ。その方が良いんでしょ?美鈴ちゃん」
僕が言うと、美鈴ちゃんの目が輝いた。…可愛いって狡い…。
ひとまず土台を作ろうと、僕達は庭に出る。
そこにあったのは立派な竹が五本。のこぎりとやすり。…本格的過ぎるでしょ。
美鈴ちゃんが担いでいた竹が小さい竹だったから小さいのを作るのかと思いきや…。
「早速作ろーっ!」
のこぎりを持って美鈴ちゃんが荒ぶっている。
これはもう止められないな。
女子五人で楽しそうにのこぎりを振るっている、女子校でこの図は普通なの?異常なの?
「んっ…結構固いんですのね」
「貸しなよ、桃。アタシがやるよ」
「いいよ。桃ちゃんも円ちゃんも、私がやるから」
この中で唯一の男なのは僕なんだから。手を痛める前に僕がやる。
と言う僕もそんなに得意な方ではないけれど。でも女子がやるよりは絶対に早い。
「じゃあ、私も手伝おうかしら」
「私も」
……え?
聞き慣れた声ではあるけれど、ここでする筈の声がする。
「貸して、優ちゃん」
「借りるね、鈴」
美鈴ちゃんと二人キョトンとしてしまうのは仕方ないと思う。
どうして、葵兄と棗兄がここに…?
しっかりと女装して、どこからどう見ても女子にしか見えないけども。
強いて言うなら身長が女子のそれではないけども。
「なんでいるの…?」
僕がぼそっと聞くと、二人はにっこりと微笑み、揃って。
「「禁断症状」」
と答えた。美鈴ちゃんに会えなかったのが余程堪えたらしい。
「えっと…お姉ちゃん達。すっごい美人ね」
「美鈴ちゃん。突っ込む所はそこじゃないと思う」
「ふみぃ?」
「大丈夫だよ、鈴ちゃん。鈴ちゃんを補充したら帰るから」
「ふみみ?」
「こっちは僕…じゃなかった、私達に任せて鈴達は素麺茹でておいで」
ニコニコと笑って美鈴ちゃんを撫でる双子の兄達が幸せそうで何より。
美鈴ちゃんが皆と一緒に寮に入って行くのを見送って、残った僕は二人と向き直った。
「二人共、随分危険な橋を渡るね」
「耐え切れなくて…」
「鈴ちゃんが帰って行く後姿が本当にしんどくて…」
「だからって…まぁ、私が言えた事じゃないんだけど」
美鈴ちゃん達が取り残した竹の節をとってやすりをかける。
外にある水道で竹を綺麗に洗ってつなげて、綺麗なタオルでもう一度拭いて、高低差が出る様に設置して先の方にタライをおく。
「水は…どうしようか」
「流石に水道の水をホースで繋ぐのはあれだよね?」
「アウトドア用の水タンクあれば良いんだけど」
「あー、あの蛇口がついてる?」
「あるよっ!」
「うわっ!?美鈴ちゃん、いつの間に戻って来たのっ!?」
「今っ!」
美鈴ちゃんは手に素麺の入った木のタライを持っていて、後ろには天ぷらや薬味やら色々な具を乗せた皿を持った桃ちゃん、夢子ちゃん、愛奈ちゃんがいる。
円ちゃんはアウトドア用の水タンクを三つ…三つ?
「円ちゃん、重いでしょ。一つ持つよ」
「いや、こっちは大丈夫。それよりも中に後二つあるんだ。それ持って来てくれないか?」
「あ、うん。解った」
僕は頷いて取りに走る。
二つを持って戻ると、水のタンクの準備も流す準備も完了していた。
早速美鈴ちゃんが素麺を流す位置に待機している。
「皆、めんつゆ持ったー?」
「準備オッケーよっ!」
……うん?
「さぁ、美鈴、流しなさいっ!」
……何故、いるのかな、佳織さん…。
それに多分、それ僕の麺つゆだよね…?
「…ママ、ハウスっ!」
「えーっ!?」
「えーっ!?じゃないっ!なんでここにいるのっ!?締め切りはっ!?」
「ふっ、ブッちしたわっ!!」
「なんでドヤッてるのっ!?……ママ、ハウスっ!!」
「嫌よっ!!美鈴のご飯食べるのよっ!!」
…突然の登場の佳織さんとバトる美鈴ちゃん。しかも美鈴ちゃんが劣勢。
これは…でも、美鈴ちゃんの言い分の方が正しいし…。
僕は葵兄と棗兄の方をじっと見た。
すると、二人は顔を見合わせ大きくため息をついて、佳織さんの両サイドを挟む様に脇に腕を回して持ちあげた。
「…帰るよ、佳織母さん」
「折角鈴に会えたと思ったのに…絶対佳織母さん態とだろ」
二人は文句を言いつつ佳織さんを連れ帰って行った。
「えっと、なんだったんだ?」
円ちゃんの言う言葉はごもっとも。
「気を取り直して、食べよーっ!!」
美鈴ちゃんの切り替えって凄いよね、と思いつつ、とりあえずあった事は忘れて。
美鈴ちゃんの作った美味しい流しそうめんを皆で食べるのだった。

中学を卒業して、華菜ちゃんにこの時の写真を見せたらギリギリしてた。
それを知った美鈴ちゃんが皆を招待して白鳥家の庭で改めて流しそうめんをしたのは言うまでもない。
ただ、その時は御三家の先生達が謎に限界に挑戦し、三階の窓から素麺を流す土台を用意したりして、すんごい事になったって言うのは想定外だった…。
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