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小学生編小話

御三家の暗躍

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「透馬透馬透馬、うまーっ!!」

―――ズバァンッ!!

おい…。七海。一体何度俺の部屋のドアを破壊したら気が済むんだ…。そして、誰が馬だ。
最近、銀細工より大工仕事の方が上手くなりそうな自分にちょっと落ち込む。
深くため息をついて、部屋に飛び込んできた七海を見ると、そこには泣きそうな顔をした妹の姿があって。
「なんだ?どうしたっ?」
ハッキリ言って七海が泣くなんてこと、こんなに長い間兄妹をやっていてその姿を見た事は数える位。それこそ赤ん坊の時くらいじゃないか?
そんな七海が泣きそうっ?動揺しても仕方ないだろっ。
慌てて七海に歩み寄ると、ガシッと腕を捕まれ、
「テレビっ!とにかくテレビ見てっ!」
「お、おいっ!?」
問答無用でリビングのテレビの前まで連れて行かれた。
そして、そのテレビに映っていたのは…。
「おいおい…なんだよ、これっ…」
佳織さんが必死に緊急の連絡をしている姿が映っており、ワイプでキャスター達が速報としてホテルの現状を伝えている。
そう言えば、鴇が今日ホテルで祖母さんの会見があるって言ってたな。まさか、これか…?
「どどど、どうしようっ、透馬っ。美鈴ちゃんが、美鈴ちゃんがぁっ!」
「……俺達が動揺してもどうしようもないだろ。とは言え…気になることがある。あいつらの所行ってくる。七海、大地に言って将軍さんに来て貰うから戸締りして待ってろ。いいなっ」
「う、うんっ」
俺は上着を羽織って家を飛び出す。
すると示し合わせた訳でもないのに、こちらへ向かって走ってくる奏輔と大地の姿があった。
「奏輔っ、大地っ」
「透馬っ」
「お前も見たかっ?」
奏輔の言葉にしっかり頷く。
「透馬っ。七海ちゃんはっ!?」
大地の後ろから凄まじいスピードで駆けてきた将軍さんが擦れ違いざま声をかけてきた。
「家にいますっ。あいつ、結構怯えてるのでお願いします」
早口に言ったけど。最後まで聞く前に走って行ってしまった。頼むからこれ以上ドアを破壊しないでくれよ、と心の中で祈っておく。
「透馬。家のドアの心配は後にしろ。それより、今は」
「そうだな。鴇達の方が心配だ」
「ホテルでパーティがあるって言ってたけど…まさかあんな事になるなんて…」
「…まぁ、誠さんと佳織さんがいる限りは大丈夫かと思うが…」
最強の二人がいる。そんじょそこらのテロリストなんぞに負ける訳がない。
だけど…俺は一つ気になる事があった。それはあいつらの…。

『白鳥邸がどうなっているか』だ。

正直な話、もし俺がテロリストならば。そして、それを雇ったのが犯人の身内ならば。
俺は間違いなく部隊を二つに分ける。一つは本人達の襲撃班。もう一つは、重要な書類を狙う隠密班だ。
「何もないんなら、いいんやけどね…」
「それでも行くだけ行っといた方がいいんじゃない?オレ達じゃ手に負えないかもしれないけど、妨害役くらいにはなるだろうし」
「相手は武器を持っている可能性もある。テロリストだからな。こっちも何かしらの準備が必要だろ」
とは言え、銃に抵抗できるものなんて…。
どんだけ喧嘩が強くても俺達は所詮高校生のガキだ。白鳥家のような馬鹿みたいな力も頭脳もない。
「何男達が揃って足踏みしとるん?情けない」
「男なら己の体を武器にして駆けて行く位の気概見せなさいよ」
奏輔の姉貴達…?二人並んで、俺達より低い位置にある頭なのに、圧倒的な威圧感で見降ろしてる感万歳だ。…正しくは見下してる、なんだろうが…。
「お姉達。流石に今日は男遊び、勧めへんで?」
「うるさいわね、奏輔。今日はちゃんと自重するわよ」
「それより、ほら、これ」
ぽいっと俺達三人に何か投げられる。……まさか、これ…防弾チョッキか?
「お姉様達、なんでこんなの持ってるのー?」
「元カレの残骸」
………残骸。置いてったとか忘れたとかじゃなくて残骸?
「これでもあるとないのとじゃ大分違うでしょう?奏輔。私達の、商店街の天使の為にとっとと行って来なさいっ」
「良い事っ!?絶対に白鳥邸を守るのよっ!犯人の髪の毛一本でも敷地に入れたら…アンタ達。死ぃ覚悟しなさいよ…?」
やべぇっ!?奏輔の姉貴達の背中に鬼がいるっ!?佳織さんの般若よりこえぇぞっ!?
俺達は必死に頷き、渡された防弾チョッキを着こむ。
「念の為にこれも持って行きなさい」
今度渡されたのは…スタンガン…。……奏輔…お前の姉貴達って…。
同情の瞳を奏輔に向けると、放心状態の奏輔が見えて。ぽんっと肩を叩いてやった。七海で文句を言っていた俺は贅沢だったな。悪かった、奏輔。
「いつまでここにいるの?さっさと行きなさいっ!」
バンッと奏輔の背が叩かれる。それに我に返った奏輔と共に俺達は白鳥邸に駆け出した。
そんなに遠くない距離。
坂道はきついけれど、もういっそ慣れた道。問題の欠片もない。
駆け抜けて白鳥邸に着くと。
誰もいないはずの家なのに、その周囲に人が動く気配がする。
庭の方かっ!?
足音を消して移動しようとしたら、ぐっと肩を捕まれる。
振り返ると大地の顔があって、親指で反対を回れと指示された。
確かに、正面からぶつかるのは大地の方が良いだろう。俺は素直に頷き逆方向へと回る。
その後ろを奏輔が付いてくる。
……優兎の家の方から裏に回った方が良さそうだ。
急ぎ、それでも足音を立てずに花島邸から屋敷の裏へ回る。
壁に背をくっつけ、そっとその侵入者の行動を窺う。
「………白鳥良子、白鳥の息子夫婦、共に部屋は一階だ。そっちの首尾はどうだ?」
「問題ない。侵入者対策のセキュリティは全て解除した」
「こっちも問題ない。だが、ホテルの方はどうやら苦戦しているらしい。早急に手を打たなければ…」
おーおー…こっちの気配にも気付かないテロリストが何かボロボロ情報を落としてくれるぜ。
……人数は三人、か。
なら…。
俺は後ろにいる奏輔に目配せをする。
奏輔はそっと眼鏡の位置を直した。それは了解の意味を表している。

「あっれー?お兄さん達、おれ達の友達の家で何してんのー?」

大地が陽気な口調で一歩踏み出した。
突然現れた存在に三人が慌て始める。…こりゃ三流のテロリストだな。むしろテロリストって言葉を使う方が勿体ない。ただの馬鹿な犯罪者で十分だ。
「…誰だっ?」
「誰って。そりゃこっちのセリフだ。てめぇら、ここで何してやがる」
「全くや。さっきそいつが言うてたやろ。俺達の友達の家で何しとるん?」
背後から姿を現した俺と奏輔にそいつらは更に慌てふためく。
「くそっ!」
一人がナイフを取り出す。
「馬鹿がっ!てめぇらが武器を持ってる事なんて重々承知してるんだよっ!」
一斉に走りだし、俺はナイフを持った男の懐に入りこみ腰に渾身の一撃を顔面に叩き込み、奏輔が咄嗟に屋根に登ろうとした男の腕を掴み引き寄せ、首に腕を回してぐっと締め上げ意識を失わせる。崩れ落ちたそいつの上に大地の殴りを喰らった男が吹っ飛び重なった。
「おら、命が惜しかったら、ここを狙った人間は何人いるのか吐けっ!」
俺に殴りを喰らって地面に転がった男の腕を踏み、転がり落ちたナイフを拾って屈むとそいつの首元へとあてる。
「ひぃっ!」
「テロなんてやらかしてる人間がナイフ如きに怯えてんじゃねぇっ。……さっさと吐けよっ」
ぐっとナイフを握る手に力を入れる。あ、ちょっと切れたか。血が滲んでいる。…まぁ、いいか。
「……死にてぇのか?」
もう一発、止めとばかりに睨みをきかせる。
「ひっ、さ、三人だっ!俺込みで三人っ!」
……やけにあっさり吐いたな。
それを疑問に思っていると、

「透馬っ!」

奏輔の焦った声と、

「おらぁっ!!」

大地のどすの効いた声。そして…。

―――ドゴォッ!!

人を殴る音とは思えない音が聞こえ、俺の足下へもう一体意識不明の男が転がってきた。
「な、なっ、なんだっ!?お前達は本当に人間かっ!?」
悲鳴を上げる足元の男に、
「うるせぇってのっ!!」

―――ゴスッ!

大地の踵落としが決まり、俺がナイフをあて脅していたそいつは意識を飛ばしてしまった。
「どうやら、全部で四人やったようやね。…もう、何の気配もせぇへんわ」
「…だな」
「……とりあえず、こいつら縛って警察に連絡しようぜ」
「せやね。それともう少しここ見張ってよか。次が来たらまた対処出来るように」
「なら、是非中にいて下さいませ。明かりがついている中に入ってこようとする者は中々いないでしょうし」
「だねー。流石金山さん」
「そうそう。流石金山さんだな」
「そや。流石金山さん…やないでっ!?金山さん何でここにおんねんっ!?」
確かにっ!?
俺達三人、目ん玉が飛び出そうな程驚く。
さっきテレビに金山さん、映ってなかったかっ!?そもそもホテルにいるんだろうがっ!?
何で俺達の前にいて、しかも俺達の足下に転がっていた犯罪者を縛り上げ終えてるんだよっ!?
「………白鳥邸を守って頂きありがとうございます。それでですね。先程の話に戻りますが、是非中でお待ちになって頂いても宜しいでしょうか。人がいると思わせておけば下手に近寄らないでしょう。坊ちゃま達の無事が確認され次第ご連絡差し上げます。もし気付かれずにお帰りになられる場合にはもう少し早めにご連絡を差し上げますが…」
「う、あ、あぁ。じゃあ、それで…」
「畏まりました。それでは、こちらを…」
手に何か握らされて、え?何これ?って三人で俺の手に注目した。
………って、これ、この家の鍵かっ!?
目を白黒させて、我に返った俺達は同時に顔を上げると、そこには既に金山さんの姿はなく…。
「……金山さんが味方でほんっと良かったわ」
「俺もそう思う…」
「とりあえず、その金山さんに逆らわない為にも家の中に上がらせて貰おうよー」
縛り上げられた犯罪者も金山さんが同時に連れて行ったようで、もう庭にいる必要もない。
大地の言葉に素直に頷き、家の玄関に向かうと鍵を開けて中に入る。
勝手知ったる何とやらで。
リビングに入って電気を点けて。悪いとは思うがテレビを点ける。そこには先程と変わらない光景が流れていて。
佳織さんの必死の叫び。そしてその後ろにはおんぶ紐を点けた金山さんの姿がちらっと…。
「……なぁ、奏輔?」
「……言うたらあかん」
「いや、俺も金山さんの生態については言わない。そうじゃなくて。さっき金山さんの背中に旭いたか?」
「いなかったよー」
…………。
流れる沈黙。
よし。気付かなかった事にしようっ!

……鴇、姫。無事に帰ってこいよ。それから…金山さんの生態をあとで俺に教えてくれ…。

俺は心の中で静かに祈り、目の前のテレビのニュースを見詰めていた。
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