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小学生編小話
遠足:美鈴小学二年の春
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「美鈴ちゃんっ!」
私は目当ての姿を発見して駆け寄る。
すると美鈴ちゃんも手を振って駆け寄ってくれた。
二人でぎゅっと抱きしめ合う。
「……美鈴ちゃん、華菜ちゃん。僕の存在覚えてるよね…忘れてないよね?」
美鈴ちゃんの背後で何か呟いた声が聞こえた気がするけどきっと気のせいだね。うん。気の所為だよ。
「忘れてなんかないよ。ごめんね、優兎くん。華菜ちゃんに会えたのが嬉しくてついつい」
「うん。美鈴ちゃんはそう言ってくれると思ってた」
ちっ。折角美鈴ちゃんと抱き合えるチャンスを…。じろりと優兎くんを睨むと、平然とした顔で返された。
「聞こえてるよ。華菜ちゃんの心の声。舌打ちなんて女の子がする事じゃ無いと思うけど?」
「べー、だ。ふふん。優兎くん、本当は羨ましいんでしょ」
「うん。そうだね。羨ましいよ」
……そうだった。優兎くんには何故か私の嫌味は通じない。ある時を境に優兎くんはどんどん男らしくなっていってる気がする。
それがいつだったかはもうあんまり覚えてないけど。
そもそも美鈴ちゃんの事以外頭に入れておく必要がないとも言う。
あ、でも、美鈴ちゃんに優兎くんが害をなしたら、それは話が別。その時は叩き潰す。
「二人共ー?仲が良いのはいいけど、そろそろ行かないと集合時間になっちゃうよー?」
集合時間…?
何の話だろうと考えて、ハッと思いだす。
そうだっ!今日は遠足でバス時間があるから早く行かなきゃいけないんだったっ!
「行こっか」
美鈴ちゃんが私と手を繋いでくれて走りだす。
それが嬉しくて私は「うんっ」と頷いて美鈴ちゃんと一緒に走りだした。
その後ろを余裕顔でついてくる優兎くんにはちょっとイラッとしたけど。
美鈴ちゃんに手を引かれてるからその背中が目線に入る。美鈴ちゃんの白猫リュック可愛いなぁ。お耳がついてて尚更可愛い。
これが手作りだって言うんだから凄いよね。しかも美鈴ちゃんの手作り。
そして私が背負ってる白兎リュックも美鈴ちゃんお手製でお揃い。これを貰った時すっごく嬉しかった。
因みに優兎くんもお揃いだ。優兎くんのはクマさんリュック。本当は黒兎にしたかったって言ってたけど、私と優兎くんが断固拒否した。どうして優兎くんと美鈴ちゃん以上にお揃いにしなきゃいけないのよ。
うんうんと頷きながら走っていると、校庭に到着した。
バスが三台。並んで停車している。
えーっと、私達ダリア組はー…一番後ろのバスだね。
三人でそのバスに駆け寄ると、乗り口の前に先生が立っていた。
「おはようございます」
美鈴ちゃんが挨拶をして、それに続くように私と優兎くんも挨拶をする。
「はい。おはようございます。白鳥さんと花崎さん、花島くん…っと」
先生が名簿に出席のチェックを入れ終えるのを待って、許可が出たと同時に私達はバスに乗りこむ。
席番はもう決まっている。この前の学級会で決めた。私と美鈴ちゃんは隣同士。一番後ろから数えて三列目。通路挟んで逆が優兎くんの席だ。
「お、優兎っ。やっと来たのか。座れよっ」
「あ、うんっ。おはよう、逢坂」
優兎くんと比較的仲の良い庶民派の男子が反対の窓際に座っている。その隣に優兎くんは座り、私も美鈴ちゃんが譲ってくれた窓際に座り、美鈴ちゃんも隣に座った。
勿論リュックは降ろして膝の上。
少しだけ美鈴ちゃんと会話してると、先生が乗りこんできてバスのドアが閉まった。
もしかして、私達が一番最後だった?
「まったく。庶民がおそくきたせいで出発がおくれてしまいますわー」
…鬱陶しい貴族派の馬鹿女が前の席でちくちくと下らない事で刺してくるから多分最後だったのは間違いない。
まぁ、相手にしてても仕方ないから私は無視を決め込む。
優兎くんとその奥にいる逢坂くんが心配そうにこっちを見てくる。でもこんな事はなんてことない。気にしてない。
……と思ってないとつらい。だってこのクラス、庶民派の女子は私だけだもの…。
気にしたらどこまでも気になっちゃう…。
「それはごめんなさいね?」
私が無視する事に決めて美鈴ちゃんとの会話に戻ろうとしたら、その美鈴ちゃんから冷え渡った声の謝罪が聞こえた。
なんで、美鈴ちゃんが謝るの…?
慌てて止めようとしたけれど、美鈴ちゃんの言葉は更に紡がれる。氷の糸で。
「私が遅くに出てきちゃったからこんな時間になってしまったの。かわりに私が謝っておくわ?『ごめんなさい』…さ、これでご満足頂けたかしら?」
「み、美鈴さまがあやまられることは…」
「そう?だって、私の所為でバスが遅れたのでしょう?」
「い、いえっ…それはっ、集合時間前でしたしっ」
「そうね。集合時間前についたつもりだったわ。それでも庶民が遅く着た所為で遅れたと言ったのは誰だったかしら?」
「…………もうっ、いいですわっ!」
にこにこと微笑みながら言い返す美鈴ちゃんの強さに惚れ惚れしてしまう。
その笑顔の後ろに沢山の知識が詰まっている。そう考えれば考えるほど、私は美鈴ちゃんのようになりたいと思うのだっ。
「華菜ちゃん。遠足楽しみだね」
しかもこうして私に本当にお日様のような温かさの笑みを向けてくれる。これを喜ばないで何を喜べと言うの?
「うんっ、そうねっ、美鈴ちゃんっ!」
私が笑顔で頷くと美鈴ちゃんは可愛い微笑みを返してくれた。
それからバスは走りだす。小学二年生の遠足なんてそんな遠い所には行かない。
今日は同じ市内にある植物園だ。
バスが到着すると先生の案内で庭園内を回る。色んな花が咲いていて綺麗だなぁと思う。
でもよくよく考えてみると、私見慣れてるんだよね…。実家が花屋だもの…。
それでも退屈しなかったのは…。
「ねぇ、華菜ちゃん。こっちとこっち、どっちが綺麗だと思う?」
美鈴ちゃんが一緒にいてくれるからだ。
美鈴ちゃんは手元のバインダーに挟まれた紙一杯に咲いている花を描いていた。美鈴ちゃんの絵が上手いのは知ってた。知ってたけどこんなに早く綺麗に書くなんて…。
どっちの絵も鉛筆画で白黒なのに、どっちも凄く綺麗で選べない。
「ね、優兎くんと逢坂くんはどう思う?」
「僕は…こっちの方かな?」
「おれはこっち」
一緒に回っていた優兎くんと逢坂くんはそれぞれ別の花を指さした。
「そっかぁ…。ね、ね、華菜ちゃんはどっち?」
結局私に選択権がくるんだね。私は笑いながら、優兎くんと同じ花を指さした。
「こっちのこのアングルが好き」
「そっかーっ。じゃあこっちを提出しようっ」
「あ、そっか。そういえば先生に出す課題に絵をかくとこあったな」
言われてそう言えばと私も課題プリントを捲る。あー…確かにあるー…。
こんなの適当で…。
私は傍にあった花をパパパッと模写する。流石に美鈴ちゃんほどじゃないけど…まぁ上手く描けた方じゃないかな?
「……ねぇ、逢坂。それ…花?」
「てめっ、失礼なこと言うなよっ!どう見てもどっから見ても花だろうがっ!」
「………逢坂くん。ごめん。私にもマンドラゴラにしか見えない…」
「まんど…?白鳥、まんどなんとかってなんだ?」
……引き抜くと奇声を発してその声を聞いた人間は死んでしまうという植物です。
とは言えず、私達はハハハと乾いた笑いを漏らした。
課題も済ませて植物園を回り終わると、植物園に併設している広場でお昼ご飯だ。
私達は木陰へ向かいその下に各々持って来たシーツをくっつけて敷いて座る。
グループで固まっている様にと先生に言われてるから、何時もは私と美鈴ちゃん、優兎くんで食べる所に今日は逢坂くんもいる。
それぞれのリュックからお弁当を取り出して蓋を開ける。
わっ、凄いっ。美鈴ちゃんのお弁当っ!白猫のキャラクターのお弁当だっ!卵とかご飯の上とか全部白猫さんに見える様に作られてるっ!可愛いっ!
ふと横の優兎くんのお弁当を見ると、こっちは同じくクマさんのキャラ弁だった。
「すっげーな。おまえらの弁当。母さんの気合入りまくりじゃね?おれなんてこの握り二つだってのに」
「…いやその二つで十分だと思うよ。僕達の顔の大きさくらいあるじゃないか」
確かに。良くリュックに入ったよねって位の大きさだよ。
「華菜ちゃんのお母さんはサンドイッチ一杯詰めてくれたんだね。美味しそうっ」
美鈴ちゃんが褒めてくれると素直に嬉しい。実際お母さんの作るサンドイッチは最高に美味しいのだ。
「いいなぁ、華菜ちゃんとこは。逢坂くんのとこもだけど。お母さんが料理上手で…」
う、うーん…。これは私と優兎くんは何て言っていいんだろう。美鈴ちゃんのお母さんの料理下手を知ってるから何とも…。
「はぁ?白鳥、それって嫌味じゃね?そんなキャラ弁持ってきといて言える事かよ」
「……あ、あー…あのね、逢坂。僕のお弁当もそうなんだけど。これ作ったの美鈴ちゃん」
「……………………へ?」
分かる。そう言う反応になるよね。でも事実。美鈴ちゃんの作るご飯もおやつもほっぺが落っこちそうになるくらい美味しいんだ。
「マジかよ。すっげーな、白鳥」
「あ、うん。ありがとう。必要にかられて、だけどね…ははは」
美鈴ちゃんの笑みが渇いてる。まぁ、それも仕方ないね。
さて食べようかな。おしぼりで手を拭いて…うん。それじゃあ、いっただきまーすっ。
サンドイッチを一個手に取り口を開けた、その時。
―――バシャンッ。
「ッ!?」
上から冷たい液体がかかった。
これ…お水…?あ、違う。ちょっとべたべたするからサイダーか何かだ。
あ、あーあ、お弁当がぁ…。
「あらっ?そこにいらっしゃったの?花崎さん。ごめんなさい。見えませんでしたわ」
いつかあるかなー?とは思ってたけど。まさか今とは…。
「華菜ちゃんっ!大丈夫っ!?」
「おいっ、お前っ!ちゃんと謝れよっ!」
優兎くんと逢坂くんが心配してくれる。大丈夫かと言われると…ちょっと辛い、かな?
でも、泣いたりはしない。悔しいから。
だからせめて睨み付けてやろうと思って、顔を上げたら。
ビクッと体を大きく跳ねさせてしまうほどに、怒っている美鈴ちゃんがそこにいた。
「どうして、こう…馬鹿が多いのかしら?貴族派とか庶民派とか馬鹿みたいとずっと思ってたけど。この認識が間違いね」
スッと物音も立てずに立ち上がり、美鈴ちゃんの怒りにビビって動けない馬鹿女に近寄って―――。
―――バチィンッ!!
盛大な平手がそいつに飛んだ。
「…な、なっ…」
「もう一発必要かしら?」
あまりの痛みにへなへなと座りこんだ馬鹿女の手をぐいっと掴み無理矢理立ち上がらせると私達のいる場所からぽいっと離れた所へそいつを投げた。
そこで漸く我に返ったそいつは、
「お父様に言いつけてやるわっ!!私のお父様は代議士なのよっ!!」
騒ぎ立てる。けれど、美鈴ちゃんは一切動じない。
「勝手になさいな。ただし、覚悟をもってやるのね。…親の名を借りるのは好きではないけれど。私の名をそのお父様に伝えて尚も私に歯向かえるのならばね」
そう言いながらもう一睨み。馬鹿女は何やらヒステリックに騒いで立ち去っていった。
どうせバスの中でまた会うんだけど…。
「華菜ちゃん…大丈夫?」
心配そうに私を覗き込む美鈴ちゃんに私は笑顔を浮かべたつもりだった。でも…。
「……お弁当、あいつの所為で駄目にされちゃったね」
優兎くんが私の代弁をしてくれた。
うん…。それが辛い…。
「……ねぇ?華菜ちゃん?」
「な、に?」
「私ね。こういう遠足の時ってお弁当を二つ持って来てるの。…昔からこう言う事が多いから、念の為に…」
昔からってどう言う事なのか理解は出来ない。けど、美鈴ちゃんはリュックの中からお弁当箱をもう一つ取り出した。それは見慣れたお弁当箱で。
私は目を見開く。
「ごめんね?いつか、こう言う事があると思って。華菜ちゃんのお母さんと話して私の作ったサンドイッチと交換して貰ってたの」
「えっ!?」
「こっちが華菜ちゃんのお弁当。華菜ちゃんのお母さんお手製のサンドイッチだよ」
私は自分の手元にあるサイダーに濡れたお弁当を見た。確かにこのお弁当箱は見覚えがなかった。それはただ単に新しいのを買ったんだと納得していたけど…。
「あー…分かった。白鳥。お前こうなるってどっかで分かってて俺に大きめのシート持ってこいって言ったんだろ」
「って事は、美鈴ちゃん。もしかして、僕のリュックに預けてたのはお弁当じゃなくて…」
優兎くんがリュックから取り出した袋の中に入ってたのは、私の着替えで。
美鈴ちゃんの対応に私は驚くばかりだ。
「ほら。華菜ちゃん。いつまでもそのままでいると風邪引いちゃうよ?その木の影で着替えよう?それから皆でご飯食べよう?ね?」
優しい美鈴ちゃん。その優しさが胸を包んでくれて。美鈴ちゃんだって本当なら貴族派なのに…。
手を取って歩いてくれる美鈴ちゃんに隠されるように優兎くんが持ってきてくれていた服に着替える。
着替え終わったら私のシートは優兎くんが片してくれていて、逢坂くんが自分のシートの半分を明け渡してくれた。
美鈴ちゃんのくれたお母さんのサンドイッチを口に含む。
色んな優しさとお母さんの作ってくれたサンドイッチの美味しさに胸がいっぱいになって、知らずボロボロと涙が零れた。
「……華菜ちゃん…。ごめんね。私がちゃんと守れてれば…」
そんな事ないっ!絶対にないっ!だって美鈴ちゃんはこんなにも私を守ってくれたっ!
ずっとずっと守ってくれていたっ!私が守るって決めたのにっ!!私はこんなにも守られていたっ!!
「……花崎。やっと泣いたなー。泣くのは我慢しない方がいいんだぜー?」
言って逢坂くんが私を抱きしめる。
我慢しよう。泣かないようにしよう。
…そう、思ってたのに…。我慢出来なくなって私は逢坂くんの腕の中で声を上げて泣いた。
それから皆でお弁当を食べて、集合時間までゆったりと木陰でお喋りして…。
帰りの時間になった。
バスに乗りこんで、帰りは美鈴ちゃんの希望で、私は優兎くんと席を交換した。
なんだか、逢坂くんって安心する…。
何か話してる訳じゃないのに…。私はバスに揺られてる内についうとうとと眠気に襲われた。
話し声が遠くに聞こえる。目を閉じた世界は優しい闇に包まれて…。
「……ふふっ、役得だね、逢坂」
「ほんとほんと。私が代わりたいくらい。くすくすっ」
「うるせーよ、二人共。……別にいいだろ。やっとおれの存在にこいつが気付いてくれたんだからさ」
頭を撫でる感触がある。
この安心感に身を委ねてもいいかな…?
手放したくないもの…。
私は横にいる彼の肩に頭を預けて闇にその身を預けた。
後日。
あの馬鹿女は美鈴ちゃんの名前を親に出し、盛大にお説教を喰らったらしい。当然だよね。
それから、美鈴ちゃんがあの事件に関して何回か謝ってきた。美鈴ちゃんが謝る事ないのに。そう思っていつもそう答えるんだけど、まるで囮に使ったみたいで罪悪感が消えないんだって。
そんな事全くないのに。もし美鈴ちゃんが私を囮にしてたとしたら、美鈴ちゃんはあんなに怒らないもの。美鈴ちゃんはただ予期した事に対応をしてくれていただけ。
私を守ってくれていただけ。
優しい優しい美鈴ちゃん。美鈴ちゃんが謝る事なんてない。
だから、罪悪感の消えない美鈴ちゃんに私はこう答える事にしたんだ。
「美鈴ちゃん、大好きっ!!」
ってね。すると美鈴ちゃんもすっごく幸せそうに私も大好きだと抱きしめてくれる。
私は本当に最高の親友を持つ事が出来て幸せだ。
私は目当ての姿を発見して駆け寄る。
すると美鈴ちゃんも手を振って駆け寄ってくれた。
二人でぎゅっと抱きしめ合う。
「……美鈴ちゃん、華菜ちゃん。僕の存在覚えてるよね…忘れてないよね?」
美鈴ちゃんの背後で何か呟いた声が聞こえた気がするけどきっと気のせいだね。うん。気の所為だよ。
「忘れてなんかないよ。ごめんね、優兎くん。華菜ちゃんに会えたのが嬉しくてついつい」
「うん。美鈴ちゃんはそう言ってくれると思ってた」
ちっ。折角美鈴ちゃんと抱き合えるチャンスを…。じろりと優兎くんを睨むと、平然とした顔で返された。
「聞こえてるよ。華菜ちゃんの心の声。舌打ちなんて女の子がする事じゃ無いと思うけど?」
「べー、だ。ふふん。優兎くん、本当は羨ましいんでしょ」
「うん。そうだね。羨ましいよ」
……そうだった。優兎くんには何故か私の嫌味は通じない。ある時を境に優兎くんはどんどん男らしくなっていってる気がする。
それがいつだったかはもうあんまり覚えてないけど。
そもそも美鈴ちゃんの事以外頭に入れておく必要がないとも言う。
あ、でも、美鈴ちゃんに優兎くんが害をなしたら、それは話が別。その時は叩き潰す。
「二人共ー?仲が良いのはいいけど、そろそろ行かないと集合時間になっちゃうよー?」
集合時間…?
何の話だろうと考えて、ハッと思いだす。
そうだっ!今日は遠足でバス時間があるから早く行かなきゃいけないんだったっ!
「行こっか」
美鈴ちゃんが私と手を繋いでくれて走りだす。
それが嬉しくて私は「うんっ」と頷いて美鈴ちゃんと一緒に走りだした。
その後ろを余裕顔でついてくる優兎くんにはちょっとイラッとしたけど。
美鈴ちゃんに手を引かれてるからその背中が目線に入る。美鈴ちゃんの白猫リュック可愛いなぁ。お耳がついてて尚更可愛い。
これが手作りだって言うんだから凄いよね。しかも美鈴ちゃんの手作り。
そして私が背負ってる白兎リュックも美鈴ちゃんお手製でお揃い。これを貰った時すっごく嬉しかった。
因みに優兎くんもお揃いだ。優兎くんのはクマさんリュック。本当は黒兎にしたかったって言ってたけど、私と優兎くんが断固拒否した。どうして優兎くんと美鈴ちゃん以上にお揃いにしなきゃいけないのよ。
うんうんと頷きながら走っていると、校庭に到着した。
バスが三台。並んで停車している。
えーっと、私達ダリア組はー…一番後ろのバスだね。
三人でそのバスに駆け寄ると、乗り口の前に先生が立っていた。
「おはようございます」
美鈴ちゃんが挨拶をして、それに続くように私と優兎くんも挨拶をする。
「はい。おはようございます。白鳥さんと花崎さん、花島くん…っと」
先生が名簿に出席のチェックを入れ終えるのを待って、許可が出たと同時に私達はバスに乗りこむ。
席番はもう決まっている。この前の学級会で決めた。私と美鈴ちゃんは隣同士。一番後ろから数えて三列目。通路挟んで逆が優兎くんの席だ。
「お、優兎っ。やっと来たのか。座れよっ」
「あ、うんっ。おはよう、逢坂」
優兎くんと比較的仲の良い庶民派の男子が反対の窓際に座っている。その隣に優兎くんは座り、私も美鈴ちゃんが譲ってくれた窓際に座り、美鈴ちゃんも隣に座った。
勿論リュックは降ろして膝の上。
少しだけ美鈴ちゃんと会話してると、先生が乗りこんできてバスのドアが閉まった。
もしかして、私達が一番最後だった?
「まったく。庶民がおそくきたせいで出発がおくれてしまいますわー」
…鬱陶しい貴族派の馬鹿女が前の席でちくちくと下らない事で刺してくるから多分最後だったのは間違いない。
まぁ、相手にしてても仕方ないから私は無視を決め込む。
優兎くんとその奥にいる逢坂くんが心配そうにこっちを見てくる。でもこんな事はなんてことない。気にしてない。
……と思ってないとつらい。だってこのクラス、庶民派の女子は私だけだもの…。
気にしたらどこまでも気になっちゃう…。
「それはごめんなさいね?」
私が無視する事に決めて美鈴ちゃんとの会話に戻ろうとしたら、その美鈴ちゃんから冷え渡った声の謝罪が聞こえた。
なんで、美鈴ちゃんが謝るの…?
慌てて止めようとしたけれど、美鈴ちゃんの言葉は更に紡がれる。氷の糸で。
「私が遅くに出てきちゃったからこんな時間になってしまったの。かわりに私が謝っておくわ?『ごめんなさい』…さ、これでご満足頂けたかしら?」
「み、美鈴さまがあやまられることは…」
「そう?だって、私の所為でバスが遅れたのでしょう?」
「い、いえっ…それはっ、集合時間前でしたしっ」
「そうね。集合時間前についたつもりだったわ。それでも庶民が遅く着た所為で遅れたと言ったのは誰だったかしら?」
「…………もうっ、いいですわっ!」
にこにこと微笑みながら言い返す美鈴ちゃんの強さに惚れ惚れしてしまう。
その笑顔の後ろに沢山の知識が詰まっている。そう考えれば考えるほど、私は美鈴ちゃんのようになりたいと思うのだっ。
「華菜ちゃん。遠足楽しみだね」
しかもこうして私に本当にお日様のような温かさの笑みを向けてくれる。これを喜ばないで何を喜べと言うの?
「うんっ、そうねっ、美鈴ちゃんっ!」
私が笑顔で頷くと美鈴ちゃんは可愛い微笑みを返してくれた。
それからバスは走りだす。小学二年生の遠足なんてそんな遠い所には行かない。
今日は同じ市内にある植物園だ。
バスが到着すると先生の案内で庭園内を回る。色んな花が咲いていて綺麗だなぁと思う。
でもよくよく考えてみると、私見慣れてるんだよね…。実家が花屋だもの…。
それでも退屈しなかったのは…。
「ねぇ、華菜ちゃん。こっちとこっち、どっちが綺麗だと思う?」
美鈴ちゃんが一緒にいてくれるからだ。
美鈴ちゃんは手元のバインダーに挟まれた紙一杯に咲いている花を描いていた。美鈴ちゃんの絵が上手いのは知ってた。知ってたけどこんなに早く綺麗に書くなんて…。
どっちの絵も鉛筆画で白黒なのに、どっちも凄く綺麗で選べない。
「ね、優兎くんと逢坂くんはどう思う?」
「僕は…こっちの方かな?」
「おれはこっち」
一緒に回っていた優兎くんと逢坂くんはそれぞれ別の花を指さした。
「そっかぁ…。ね、ね、華菜ちゃんはどっち?」
結局私に選択権がくるんだね。私は笑いながら、優兎くんと同じ花を指さした。
「こっちのこのアングルが好き」
「そっかーっ。じゃあこっちを提出しようっ」
「あ、そっか。そういえば先生に出す課題に絵をかくとこあったな」
言われてそう言えばと私も課題プリントを捲る。あー…確かにあるー…。
こんなの適当で…。
私は傍にあった花をパパパッと模写する。流石に美鈴ちゃんほどじゃないけど…まぁ上手く描けた方じゃないかな?
「……ねぇ、逢坂。それ…花?」
「てめっ、失礼なこと言うなよっ!どう見てもどっから見ても花だろうがっ!」
「………逢坂くん。ごめん。私にもマンドラゴラにしか見えない…」
「まんど…?白鳥、まんどなんとかってなんだ?」
……引き抜くと奇声を発してその声を聞いた人間は死んでしまうという植物です。
とは言えず、私達はハハハと乾いた笑いを漏らした。
課題も済ませて植物園を回り終わると、植物園に併設している広場でお昼ご飯だ。
私達は木陰へ向かいその下に各々持って来たシーツをくっつけて敷いて座る。
グループで固まっている様にと先生に言われてるから、何時もは私と美鈴ちゃん、優兎くんで食べる所に今日は逢坂くんもいる。
それぞれのリュックからお弁当を取り出して蓋を開ける。
わっ、凄いっ。美鈴ちゃんのお弁当っ!白猫のキャラクターのお弁当だっ!卵とかご飯の上とか全部白猫さんに見える様に作られてるっ!可愛いっ!
ふと横の優兎くんのお弁当を見ると、こっちは同じくクマさんのキャラ弁だった。
「すっげーな。おまえらの弁当。母さんの気合入りまくりじゃね?おれなんてこの握り二つだってのに」
「…いやその二つで十分だと思うよ。僕達の顔の大きさくらいあるじゃないか」
確かに。良くリュックに入ったよねって位の大きさだよ。
「華菜ちゃんのお母さんはサンドイッチ一杯詰めてくれたんだね。美味しそうっ」
美鈴ちゃんが褒めてくれると素直に嬉しい。実際お母さんの作るサンドイッチは最高に美味しいのだ。
「いいなぁ、華菜ちゃんとこは。逢坂くんのとこもだけど。お母さんが料理上手で…」
う、うーん…。これは私と優兎くんは何て言っていいんだろう。美鈴ちゃんのお母さんの料理下手を知ってるから何とも…。
「はぁ?白鳥、それって嫌味じゃね?そんなキャラ弁持ってきといて言える事かよ」
「……あ、あー…あのね、逢坂。僕のお弁当もそうなんだけど。これ作ったの美鈴ちゃん」
「……………………へ?」
分かる。そう言う反応になるよね。でも事実。美鈴ちゃんの作るご飯もおやつもほっぺが落っこちそうになるくらい美味しいんだ。
「マジかよ。すっげーな、白鳥」
「あ、うん。ありがとう。必要にかられて、だけどね…ははは」
美鈴ちゃんの笑みが渇いてる。まぁ、それも仕方ないね。
さて食べようかな。おしぼりで手を拭いて…うん。それじゃあ、いっただきまーすっ。
サンドイッチを一個手に取り口を開けた、その時。
―――バシャンッ。
「ッ!?」
上から冷たい液体がかかった。
これ…お水…?あ、違う。ちょっとべたべたするからサイダーか何かだ。
あ、あーあ、お弁当がぁ…。
「あらっ?そこにいらっしゃったの?花崎さん。ごめんなさい。見えませんでしたわ」
いつかあるかなー?とは思ってたけど。まさか今とは…。
「華菜ちゃんっ!大丈夫っ!?」
「おいっ、お前っ!ちゃんと謝れよっ!」
優兎くんと逢坂くんが心配してくれる。大丈夫かと言われると…ちょっと辛い、かな?
でも、泣いたりはしない。悔しいから。
だからせめて睨み付けてやろうと思って、顔を上げたら。
ビクッと体を大きく跳ねさせてしまうほどに、怒っている美鈴ちゃんがそこにいた。
「どうして、こう…馬鹿が多いのかしら?貴族派とか庶民派とか馬鹿みたいとずっと思ってたけど。この認識が間違いね」
スッと物音も立てずに立ち上がり、美鈴ちゃんの怒りにビビって動けない馬鹿女に近寄って―――。
―――バチィンッ!!
盛大な平手がそいつに飛んだ。
「…な、なっ…」
「もう一発必要かしら?」
あまりの痛みにへなへなと座りこんだ馬鹿女の手をぐいっと掴み無理矢理立ち上がらせると私達のいる場所からぽいっと離れた所へそいつを投げた。
そこで漸く我に返ったそいつは、
「お父様に言いつけてやるわっ!!私のお父様は代議士なのよっ!!」
騒ぎ立てる。けれど、美鈴ちゃんは一切動じない。
「勝手になさいな。ただし、覚悟をもってやるのね。…親の名を借りるのは好きではないけれど。私の名をそのお父様に伝えて尚も私に歯向かえるのならばね」
そう言いながらもう一睨み。馬鹿女は何やらヒステリックに騒いで立ち去っていった。
どうせバスの中でまた会うんだけど…。
「華菜ちゃん…大丈夫?」
心配そうに私を覗き込む美鈴ちゃんに私は笑顔を浮かべたつもりだった。でも…。
「……お弁当、あいつの所為で駄目にされちゃったね」
優兎くんが私の代弁をしてくれた。
うん…。それが辛い…。
「……ねぇ?華菜ちゃん?」
「な、に?」
「私ね。こういう遠足の時ってお弁当を二つ持って来てるの。…昔からこう言う事が多いから、念の為に…」
昔からってどう言う事なのか理解は出来ない。けど、美鈴ちゃんはリュックの中からお弁当箱をもう一つ取り出した。それは見慣れたお弁当箱で。
私は目を見開く。
「ごめんね?いつか、こう言う事があると思って。華菜ちゃんのお母さんと話して私の作ったサンドイッチと交換して貰ってたの」
「えっ!?」
「こっちが華菜ちゃんのお弁当。華菜ちゃんのお母さんお手製のサンドイッチだよ」
私は自分の手元にあるサイダーに濡れたお弁当を見た。確かにこのお弁当箱は見覚えがなかった。それはただ単に新しいのを買ったんだと納得していたけど…。
「あー…分かった。白鳥。お前こうなるってどっかで分かってて俺に大きめのシート持ってこいって言ったんだろ」
「って事は、美鈴ちゃん。もしかして、僕のリュックに預けてたのはお弁当じゃなくて…」
優兎くんがリュックから取り出した袋の中に入ってたのは、私の着替えで。
美鈴ちゃんの対応に私は驚くばかりだ。
「ほら。華菜ちゃん。いつまでもそのままでいると風邪引いちゃうよ?その木の影で着替えよう?それから皆でご飯食べよう?ね?」
優しい美鈴ちゃん。その優しさが胸を包んでくれて。美鈴ちゃんだって本当なら貴族派なのに…。
手を取って歩いてくれる美鈴ちゃんに隠されるように優兎くんが持ってきてくれていた服に着替える。
着替え終わったら私のシートは優兎くんが片してくれていて、逢坂くんが自分のシートの半分を明け渡してくれた。
美鈴ちゃんのくれたお母さんのサンドイッチを口に含む。
色んな優しさとお母さんの作ってくれたサンドイッチの美味しさに胸がいっぱいになって、知らずボロボロと涙が零れた。
「……華菜ちゃん…。ごめんね。私がちゃんと守れてれば…」
そんな事ないっ!絶対にないっ!だって美鈴ちゃんはこんなにも私を守ってくれたっ!
ずっとずっと守ってくれていたっ!私が守るって決めたのにっ!!私はこんなにも守られていたっ!!
「……花崎。やっと泣いたなー。泣くのは我慢しない方がいいんだぜー?」
言って逢坂くんが私を抱きしめる。
我慢しよう。泣かないようにしよう。
…そう、思ってたのに…。我慢出来なくなって私は逢坂くんの腕の中で声を上げて泣いた。
それから皆でお弁当を食べて、集合時間までゆったりと木陰でお喋りして…。
帰りの時間になった。
バスに乗りこんで、帰りは美鈴ちゃんの希望で、私は優兎くんと席を交換した。
なんだか、逢坂くんって安心する…。
何か話してる訳じゃないのに…。私はバスに揺られてる内についうとうとと眠気に襲われた。
話し声が遠くに聞こえる。目を閉じた世界は優しい闇に包まれて…。
「……ふふっ、役得だね、逢坂」
「ほんとほんと。私が代わりたいくらい。くすくすっ」
「うるせーよ、二人共。……別にいいだろ。やっとおれの存在にこいつが気付いてくれたんだからさ」
頭を撫でる感触がある。
この安心感に身を委ねてもいいかな…?
手放したくないもの…。
私は横にいる彼の肩に頭を預けて闇にその身を預けた。
後日。
あの馬鹿女は美鈴ちゃんの名前を親に出し、盛大にお説教を喰らったらしい。当然だよね。
それから、美鈴ちゃんがあの事件に関して何回か謝ってきた。美鈴ちゃんが謝る事ないのに。そう思っていつもそう答えるんだけど、まるで囮に使ったみたいで罪悪感が消えないんだって。
そんな事全くないのに。もし美鈴ちゃんが私を囮にしてたとしたら、美鈴ちゃんはあんなに怒らないもの。美鈴ちゃんはただ予期した事に対応をしてくれていただけ。
私を守ってくれていただけ。
優しい優しい美鈴ちゃん。美鈴ちゃんが謝る事なんてない。
だから、罪悪感の消えない美鈴ちゃんに私はこう答える事にしたんだ。
「美鈴ちゃん、大好きっ!!」
ってね。すると美鈴ちゃんもすっごく幸せそうに私も大好きだと抱きしめてくれる。
私は本当に最高の親友を持つ事が出来て幸せだ。
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