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小学生編小話

七夕:美鈴小学二年の夏

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「た~な~ぼ~た~、さ~らさら~♪」
「ねぇ、鈴。棚ぼたなのにさらさら流れてしまって良いの?しかもその歌詞。最初は笹の葉じゃなかってっけ?七夕ではなかった気が…」
鈴の鼻歌に思わず突っ込みを入れてしまった。
そもそもが替え歌なんだから真っ当な歌詞な訳はないんだけど。
僕の突っ込みに悪戯っ子の顔して鈴が笑う。あぁ、もう、何で僕の妹はこんなに可愛いのかなっ!
繋いでいた手をぎゅっと握る。
「にしても鈴ちゃんもまめだよねぇ。僕こんなの書いたこともないや」
「うん。僕も」
「僕も初めてです」
僕と葵、それから優兎の三人で頷き合う。
今日は七夕。学校で鈴が華菜ちゃんに貰ったという短冊。それは僕達の分も入っていて、優兎は華菜ちゃん本人に鈴と一緒に貰ったと言っていた。
部活も終わり帰り着いた僕に鈴が抱き着きながら一緒に書こうと提案してきたので皆で仲良く書いて、今現在商店街の大きな笹に飾ろうと商店街に向かっていた。
商店街の中央。通路の両側に大きな笹が飾られている。笹の葉がアーチ状になっていて、短冊が風で綺麗に揺れている。
「ふわぁ…。去年こんなのなかったよね?」
「うん。なかったね」
「そうなんですか?」
「そうそう。今年に入ってやたらとイベントに力入れるようになったよね。この商店街」
そう言いながら僕達は書いた短冊を持って笹に近寄った。
結構一杯下がってるなぁ。
皆どんな事書いてるんだろう?
上の方は見上げるしかないけど、近くのなら手に取って見れる。
「えーっと…『妹が弟になりませんように』…どう言う事?妹は弟にはなれないよね?」
意味不明だ。首を傾げてしまう。
「……『いつかオレにも可愛い彼女が出来ますように。兄貴ばっかりずるい』……。これって大地さん?」
「葵の読んだのが大地さんのだとしたら、僕が読んだのは透馬さん?」
「だと思いますよ。えっと…『お姉達の女子力向上切に願う』…奏輔さん。もう他に頼むしかないんですね…」
何か、読んではいけないものを読んでしまった気がする。
そっと手を離して、違う短冊に手を伸ばした。
「あれ?これ、鴇兄さんのだ」
「鴇兄さんの?」
「どれですか?」
「鴇お兄ちゃんのもあるの?私も見るーっ」
四人で僕の手にある短冊を覗く。
「『弟達四人と妹の未来が幸福なものでありますように』だって」
「鴇お兄ちゃん…ちゃんと優兎くんの分も入れてる」
「鴇さん…」
「鴇兄さんらしいね。父さん達を入れてない辺りがまたらしいよ」
まぁ、父さん達なら自力で幸福になれそうだしね。
他に知り合いのはないかな?
ちょっと楽しくなって僕達は近くの短冊を手に取った。
「これは…、あ、華菜ちゃんだっ。『美鈴ちゃんともっと仲良くなれますように』って…華菜ちゃんっ!私が絶対その願い叶えて見せるからっ!」
「あははっ。鈴ちゃんしか叶えられないお願いだね。こっちは、えっと…『愛しの鴇様の汗付シャツを入手できますようにっ!!!!!!!!』………棗。これは取り外して燃やしておこう」
「自分で触るのは嫌だから誰かに頼んでおこうね。えーっと、そっちのは…あ、父さんのだよ。何時の間に書いてたんだろう…?何々?『家内安全』ってこれだけ?確かに大事だけど…。あぁ、でもすっごい殴り書き。急いで書いたのかな?」
「誠さん。最近忙しいですしね。これ、お祖母様のだ。『優兎の歩む道が光輝く道でありますように』か。ありがとう、お祖母様…」
他にも奏輔さんの所のお姉さん達が書いた『彼氏ができますように』だったり、大地さんの所のお兄さんの『急募、彼女』と『七海ちゃんといつまでも仲良くあれますように』って奴だったり、七海さんの『将軍さんとずっとずーっと仲良くいれますように』ってやたら可愛いのだったりと様々あった。
さて。人のを見て楽しむのも良いけど、そろそろ自分が書いたのをとりつけないとね。
「って、あれ?これ、猪塚のだ。……『白鳥さんと恋人同士になれますように』…ふぅん」
ぶちっ。
葉っぱ事千切って、短冊をもぎ取ってぐしゃりと握りつぶしポケットに突っ込む。
これでよし。
満足していると、ぶちっと隣から同じ音が聞こえた。
「葵?」
「…何が『白鳥妹を自分のものに出来ますように』だ。…絶対後で絞め殺すっ」
あぁ、うん。それは仕方ない。葵、頑張れ。
僕も後で猪塚を思い切り投げ飛ばしておこう。
「そう言えば、お兄ちゃん達は何て書いたの?」
にこにこと微笑んで抱き着いてきた鈴を撫でながら僕は短冊を手渡した。
「『妹が健やかに過ごせますように』…?」
鈴が僕の顔を見上げる。
「はい。鈴ちゃん。僕のも」
「え…?『僕の妹が笑って過ごせますように』…?棗お兄ちゃん、葵お兄ちゃんも…」
潤んだ瞳で泣きそうに眉を寄せる鈴の額にそっとキスをする。同じく葵も横から僕の後に鈴の額にキスをした。
「はい。美鈴ちゃん。これ、僕の分」
「優兎くん…?『美鈴ちゃんが幸せでありますように』…?優兎くんまで…」
微笑む優兎に若干嫉妬を覚えつつ、僕は必死に涙を堪える鈴の頭を撫でた。
「あの、ね。葵お兄ちゃん、棗お兄ちゃん。それに、優兎くん。これ、私の短冊」
鈴の短冊?
僕は両手で鈴を抱きしめているし、葵もなんだかんだで鈴を撫でているから必然的にその短冊を受け取るのは優兎になる。
それを受け取って短冊を読んだ優兎は少し頬を赤らめて、それでも嬉しそうに笑った。
「美鈴ちゃんのお願いは『私の家族が幸せを掴めますように』だそうですよ」
「鈴っ」
「鈴ちゃんっ」
嬉しくて葵と二人、ぎゅうぎゅうと鈴を抱きしめる。
「お、お兄ちゃん達、苦しいよ~」
「鈴が可愛いんだから仕方ないよっ」
「うんっ。仕方ないよっ」
「なぁに、それ。くすくすっ」
笑う鈴がまた可愛い。
けどいい加減、時間も遅くなっちゃうし、短冊をつけようかな。
名残惜しいけど鈴を離して、僕達はようやく短冊をつけた。
「じゃ、帰ろうか」
「うんっ」
行きは僕が手を繋いでいたから、帰りは葵の番。
商店街の外へ行こうと足をむけた、その時。
何故か頭上が気になり、ふと上を見上げた。
ひらひらと揺れる一枚の短冊。
あんな高い所に、誰がつけたんだろう…?
えっと…『大事な娘が今度こそ幸せを掴めますように』…か。誰が書いたんだろう…?
名前を見ようとしたけれど、余程小さい文字で書かれているのか、僕の目には見えなかった。
「棗お兄ちゃーん?」
すっかり先に行ってしまった鈴がこっちを振り返り手を振っている。
僕は慌てて三人の後を追い掛けた。
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