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小学生編小話
お墓参り
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「これでお前の墓を見るのは何度目だろうなぁ」
隣で嶺一の墓を見ながら誠さんが呟いた。
私にとっては、唯一の嶺一の墓でも何度も転生を繰り返した記憶を持っている誠さんにしてみたら見慣れたものなのかもしれない。
「でも、こうして毎回佳織と墓参りにくるのをギリギリしながら見てるのだと思うと優越感もあるが」
「もう。何言ってるの。ほら、誠さん。そっち持って」
旦那の子供っぽいセリフに呆れながら、二人で花を活ける。
すっかり綺麗になったお墓の前に並んでしゃがみ、両手を合わせた。
目を閉じて、静かに嶺一の事を想う。
誠さんの事は勿論好きだ。けど、…今世で生まれた時から一緒だった嶺一は今でも私にとって大事な想い人なの。愛おしい人なのだ。
「……佳織。妬いてもいいかい?」
そう言いながら私の肩を抱き寄せる誠さんに苦笑が浮かぶ。
「本当、いつも思うけど。カオリはリョウイチを好き過ぎるだろう」
「そんな記憶のない前世の事を言われても困るわよ。…けど、そうね。嶺一を嫌いになれたのなら、私はこんな苦しい想いをしなくても済んだかもね…」
立ち上がり、そっと墓石を撫でる。
「そう言えば聞きたかったんだけど」
「なんだい?」
「誠さんと嶺一はどうやって互いに連絡を取り合っているの?手紙でってのは聞いたけど。それだって近くに生まれなきゃ無理じゃない?ましてや私と会わないと記憶は戻らないのでしょう?それって私と会っていないパターンもあるんじゃないの?」
「ん?あぁ、それは当然の質問だね。でもね、佳織。私は君と必ず出会っているって断言出来るよ」
「どうして?」
不思議に思って首を傾げると、微笑んだ誠さんが立ち上がり長くなる話だからと場所の移動を提案してきたので、素直に従い寺を出て近くの喫茶店に入った。
外は暑かったので、冷房がとても涼しい。
ウェイトレスに案内された席へつく。適当に注文をして一息つくと誠さんはジャケットの裏ポケットから封筒を取り出した。何の変哲もない茶封筒。
それを私の前に差し出してきた。
意味が分からないながらも受け取り、視線だけで開けていいのか問うと頷かれたので開ける事にする。
中は便箋が四枚。そして書かれた文字を見て驚く。
「…これ、嶺一の文字じゃないっ」
「そうだよ。これが私達の手紙だ。そこにびっしりと羅列されているのはリョウイチが生まれ変わった星、世界、国の名称。そしてその国の言葉でカオリと出会った時間。それから場所が書かれている」
見た事のない文字も沢山ある。ちょくちょく英語やフランス語なども紛れているが、書き方で大体年代が違うのも分かる。日本語も三つ程あるけれど、一つはかなり古いものだ。漢文と言っても良い。古典のレベルだ。
「そして、これは私が書いた私達の手紙だ。一応同じ場所に置く事にしているんだ。今回の分も書き終わったんで持って来た」
もう一つ、今度は白い封筒だ。それを受け取り中を見ると、そこには誠さんの文字でたった今読んだ内容と同じものが書かれていた。
読める物だけを読むとどれもリョウイチとカオリが出会って間もなくマコトと出会っている。産まれた場所も必ずと言って良いほど近くだ。
「…さっき佳織が言っていたように、きっとこの転生の中のどれかにはカオリと出会っていないパターンもあったと思う。だが、その場合、リョウイチか私かどちらか一方だけ会っている可能性もあるはずなんだ。だが、見てわかる通りそれがない」
「確かにこれを見る限り、全て一致しているわ」
「だから私とリョウイチは人になった時は必ず君の側に生まれ変わるように運命が巡っているんだと理解したんだ」
「運命、って…」
「運命だよ。私もリョウイチも君を手放すなんて出来ないんだから」
滅茶苦茶恥ずかしい事を公然で言われた気がする。赤くなっているであろう顔を両手で隠して熱を流していると、丁度良く注文したアイスミルクティーが運ばれて来た。
素直にそれをストローで氷の音を立てながら混ぜて飲む。ふぅ。これで少し落ち着いた。
「ははっ。君は本当にいつも可愛いな」
そう言いながらとろける程の優しい笑みを浮かべて私の頬を撫でる誠さんを見て飲んでいたアイスミルクティーを噴き出しそうになる。あ、駄目だ。恥ずかしさ全然減らない。むしろ増した。
「わ、私だけじゃないでしょ。澪だって」
慌ててグラスをおいて頬にある手をとってぐいぐいと押し戻し、話をそらそうと咄嗟に澪の事を口にした。けれど、気になっていた事でもある。
誠さんは澪と結婚したと言っていた。なら澪だって前世の記憶があるのではないかと。
「…いや。以前も言った通りただでさえ今回、君に前世の記憶があるだけでも異常な事態だ。ましてや美鈴まで華の記憶を持っている。こっちの方があり得ない事なんだ。澪には当然記憶はない。ただ君と澪は記憶がなくてもいつも巡り合い親友になっていた。これは私とリョウイチにしか分からないとは思う。感覚的に、あぁ、この子はカオリの親友なんだと理解するだけだから。澪はたまたま前世と同じ名前だっただけであって私達みたいに何時の世も同じ名前なわけではないしね」
「そう、なの…」
「……寂しいのかい?」
「それは、勿論、そうよ。…何故かしら。心にこう…穴があいたみたいなの」
「そう…。そうかもしれないね。君の親友が君に会う前に死んでいるのは初めての事だから。この世界は本当にどこか歯車がおかしい。ほら、嶺一もそう言ってる」
誠さんの指が嶺一の手紙のある一文を示した。
『多少の運命なら跳ね除けれる力はあるはずなのに、何か抗えない力を感じる。必ずおれの側に死がつきまとっている。この世界のおれなら病気になんてなるような体じゃない。なのに、突然病気が体に現れた。まるで毒を飲まされたみたいに、だ。理解出来ない。だが、これは下手すると佳織にも美鈴にも害を及ぼす可能性がある。流れを変える為にも、その死を受け入れる形でこの世を去ろうと思う。良い機会だからあのバカ女二人を利用させて貰うつもりだが、後々何かあるだろうからマコト、もろもろの事頼むぞ☆』
嶺一…。最後の☆マークで全て台無し感が否めないわ。
「あいつの人を馬鹿にしたような態度はどうにかならないものかな」
「……無理だと思うわ」
はぁと二人で溜息をつく。
「でも、そっか。嶺一も抗おうとしてくれていたのね。…私はてっきり病気にかかったからその前にって意味だと思ってた」
「だから何度も言っただろう。嶺一はそんなに優しい奴じゃないって」
「聞いてはいた、けど…」
「嶺一は最初から私に全ての後片付けを丸投げするつもりだったんだよ。もしくは運命に抗って佳織と二人仲良く暮らすつもりだったんだ。そもそもあいつはいつも碌でもない仕事ばかりついてっ」
「ま、誠さん。どうどう…」
うぅーん…。確かに誠さんはかなり正義感溢れるけど嶺一は悪い事も平気な顔でやってたような気も…。…嶺一?お仕置きが必要かしら?うん。そのつもりで魂に刻んで置こう。
嶺一の性格が悪いのを直す為の決意をして頷いていると、ふと遺書を思い出した。もしかして…?
「誠さんに丸投げする気満々だったのなら、私に村へ行くなって言った理由はなんだったのかしら?」
「そんなの決まってるだろう。あのバカ二人に君を傷つけさせたくなかったから」
「じゃあ、泣くなって言った理由は?」
「殺されたんじゃなくて自殺だったから、ってのもあるだろうけど、一番は泣いてる姿を私に見せたくなかったんだろう。いつ出会うか分からない私に警戒していたんだろうね。ふっ。全くもって無駄な抵抗だったなぁ、嶺一」
「じゃあじゃあ、恨むなって言ったのは?仲良くさせたかったんじゃないの…?」
「佳織。あの二人と仲良くするつもりでいたのかい?」
「そうだと思ってた。だって、恨むなって書いてたから…」
「恨むなと仲良くは別物だ。嶺一は側に行って欲しくなかっただけだよ。恨むなって言ったのは佳織があんな馬鹿な連中と同じ位置に立って争わせるなんてあり得ない。ちゃんと嶺一と私が報復をするつもりでいたんだから恨む必要もないし。さっきも言ったが君を傷つけたくなかったんだよ。まぁ、予想外に君が自分でしっかりと報復してしまったけどね」
私は茫然としてしまった。
こんなにも二人に守られていたなんて…、思わなかった…。
視界が揺らぐ。
頬を温かい滴が伝う。
目の前の誠さんの顔が揺らいで…。
「佳織…泣かないで」
誠さんの大きな手が私の目尻を優しく拭う。
「誠さんっ…ぅっ…」
ぼろぼろと頬を伝う涙をそのままに私は立ち上がって向かいに座る誠さんの側へ移動して抱き着いた。
広くて大きいその胸に顔を埋める。
そんな私の突然な行動に誠さんは嫌がりも驚きもせずにただ優しく抱きしめてくれた。
「誠さん…マコ…。愛してます…心、から…」
「『俺』もだよ。愛してる。ずっと…例え、何度生まれ変わっても。愛してる…」
何度生まれ変わっても、か。これ程説得力のある言葉はないわ。
嬉しくて知らず微笑んでしまう。
―――愛してる。
――――心から愛している。
誠さんも。そしてもちろん、嶺一のことも…。
(嶺一。貴方のことも愛しているわ。だから…また、次の世界で会いましょう。それまで、貴方への愛はこの心の中にとっておくわね…)
記憶があろうとなかろうと。
きっと私の愛はこの二人へ向くのだろう。
そして二人も私へ、その愛を向けてくれる。
前世ではその愛の所為でなにか問題が起きた事だってあるだろう。
二人に愛を向けるなんておかしいのかもしれない。
でも、それでも…。
(愛してる。愛しています。…―――私の運命の貴方達の事を)
顔を上げて、微笑む誠さんに微笑みで返して。
私は静かに誠さんの口づけを受け入れた…。
隣で嶺一の墓を見ながら誠さんが呟いた。
私にとっては、唯一の嶺一の墓でも何度も転生を繰り返した記憶を持っている誠さんにしてみたら見慣れたものなのかもしれない。
「でも、こうして毎回佳織と墓参りにくるのをギリギリしながら見てるのだと思うと優越感もあるが」
「もう。何言ってるの。ほら、誠さん。そっち持って」
旦那の子供っぽいセリフに呆れながら、二人で花を活ける。
すっかり綺麗になったお墓の前に並んでしゃがみ、両手を合わせた。
目を閉じて、静かに嶺一の事を想う。
誠さんの事は勿論好きだ。けど、…今世で生まれた時から一緒だった嶺一は今でも私にとって大事な想い人なの。愛おしい人なのだ。
「……佳織。妬いてもいいかい?」
そう言いながら私の肩を抱き寄せる誠さんに苦笑が浮かぶ。
「本当、いつも思うけど。カオリはリョウイチを好き過ぎるだろう」
「そんな記憶のない前世の事を言われても困るわよ。…けど、そうね。嶺一を嫌いになれたのなら、私はこんな苦しい想いをしなくても済んだかもね…」
立ち上がり、そっと墓石を撫でる。
「そう言えば聞きたかったんだけど」
「なんだい?」
「誠さんと嶺一はどうやって互いに連絡を取り合っているの?手紙でってのは聞いたけど。それだって近くに生まれなきゃ無理じゃない?ましてや私と会わないと記憶は戻らないのでしょう?それって私と会っていないパターンもあるんじゃないの?」
「ん?あぁ、それは当然の質問だね。でもね、佳織。私は君と必ず出会っているって断言出来るよ」
「どうして?」
不思議に思って首を傾げると、微笑んだ誠さんが立ち上がり長くなる話だからと場所の移動を提案してきたので、素直に従い寺を出て近くの喫茶店に入った。
外は暑かったので、冷房がとても涼しい。
ウェイトレスに案内された席へつく。適当に注文をして一息つくと誠さんはジャケットの裏ポケットから封筒を取り出した。何の変哲もない茶封筒。
それを私の前に差し出してきた。
意味が分からないながらも受け取り、視線だけで開けていいのか問うと頷かれたので開ける事にする。
中は便箋が四枚。そして書かれた文字を見て驚く。
「…これ、嶺一の文字じゃないっ」
「そうだよ。これが私達の手紙だ。そこにびっしりと羅列されているのはリョウイチが生まれ変わった星、世界、国の名称。そしてその国の言葉でカオリと出会った時間。それから場所が書かれている」
見た事のない文字も沢山ある。ちょくちょく英語やフランス語なども紛れているが、書き方で大体年代が違うのも分かる。日本語も三つ程あるけれど、一つはかなり古いものだ。漢文と言っても良い。古典のレベルだ。
「そして、これは私が書いた私達の手紙だ。一応同じ場所に置く事にしているんだ。今回の分も書き終わったんで持って来た」
もう一つ、今度は白い封筒だ。それを受け取り中を見ると、そこには誠さんの文字でたった今読んだ内容と同じものが書かれていた。
読める物だけを読むとどれもリョウイチとカオリが出会って間もなくマコトと出会っている。産まれた場所も必ずと言って良いほど近くだ。
「…さっき佳織が言っていたように、きっとこの転生の中のどれかにはカオリと出会っていないパターンもあったと思う。だが、その場合、リョウイチか私かどちらか一方だけ会っている可能性もあるはずなんだ。だが、見てわかる通りそれがない」
「確かにこれを見る限り、全て一致しているわ」
「だから私とリョウイチは人になった時は必ず君の側に生まれ変わるように運命が巡っているんだと理解したんだ」
「運命、って…」
「運命だよ。私もリョウイチも君を手放すなんて出来ないんだから」
滅茶苦茶恥ずかしい事を公然で言われた気がする。赤くなっているであろう顔を両手で隠して熱を流していると、丁度良く注文したアイスミルクティーが運ばれて来た。
素直にそれをストローで氷の音を立てながら混ぜて飲む。ふぅ。これで少し落ち着いた。
「ははっ。君は本当にいつも可愛いな」
そう言いながらとろける程の優しい笑みを浮かべて私の頬を撫でる誠さんを見て飲んでいたアイスミルクティーを噴き出しそうになる。あ、駄目だ。恥ずかしさ全然減らない。むしろ増した。
「わ、私だけじゃないでしょ。澪だって」
慌ててグラスをおいて頬にある手をとってぐいぐいと押し戻し、話をそらそうと咄嗟に澪の事を口にした。けれど、気になっていた事でもある。
誠さんは澪と結婚したと言っていた。なら澪だって前世の記憶があるのではないかと。
「…いや。以前も言った通りただでさえ今回、君に前世の記憶があるだけでも異常な事態だ。ましてや美鈴まで華の記憶を持っている。こっちの方があり得ない事なんだ。澪には当然記憶はない。ただ君と澪は記憶がなくてもいつも巡り合い親友になっていた。これは私とリョウイチにしか分からないとは思う。感覚的に、あぁ、この子はカオリの親友なんだと理解するだけだから。澪はたまたま前世と同じ名前だっただけであって私達みたいに何時の世も同じ名前なわけではないしね」
「そう、なの…」
「……寂しいのかい?」
「それは、勿論、そうよ。…何故かしら。心にこう…穴があいたみたいなの」
「そう…。そうかもしれないね。君の親友が君に会う前に死んでいるのは初めての事だから。この世界は本当にどこか歯車がおかしい。ほら、嶺一もそう言ってる」
誠さんの指が嶺一の手紙のある一文を示した。
『多少の運命なら跳ね除けれる力はあるはずなのに、何か抗えない力を感じる。必ずおれの側に死がつきまとっている。この世界のおれなら病気になんてなるような体じゃない。なのに、突然病気が体に現れた。まるで毒を飲まされたみたいに、だ。理解出来ない。だが、これは下手すると佳織にも美鈴にも害を及ぼす可能性がある。流れを変える為にも、その死を受け入れる形でこの世を去ろうと思う。良い機会だからあのバカ女二人を利用させて貰うつもりだが、後々何かあるだろうからマコト、もろもろの事頼むぞ☆』
嶺一…。最後の☆マークで全て台無し感が否めないわ。
「あいつの人を馬鹿にしたような態度はどうにかならないものかな」
「……無理だと思うわ」
はぁと二人で溜息をつく。
「でも、そっか。嶺一も抗おうとしてくれていたのね。…私はてっきり病気にかかったからその前にって意味だと思ってた」
「だから何度も言っただろう。嶺一はそんなに優しい奴じゃないって」
「聞いてはいた、けど…」
「嶺一は最初から私に全ての後片付けを丸投げするつもりだったんだよ。もしくは運命に抗って佳織と二人仲良く暮らすつもりだったんだ。そもそもあいつはいつも碌でもない仕事ばかりついてっ」
「ま、誠さん。どうどう…」
うぅーん…。確かに誠さんはかなり正義感溢れるけど嶺一は悪い事も平気な顔でやってたような気も…。…嶺一?お仕置きが必要かしら?うん。そのつもりで魂に刻んで置こう。
嶺一の性格が悪いのを直す為の決意をして頷いていると、ふと遺書を思い出した。もしかして…?
「誠さんに丸投げする気満々だったのなら、私に村へ行くなって言った理由はなんだったのかしら?」
「そんなの決まってるだろう。あのバカ二人に君を傷つけさせたくなかったから」
「じゃあ、泣くなって言った理由は?」
「殺されたんじゃなくて自殺だったから、ってのもあるだろうけど、一番は泣いてる姿を私に見せたくなかったんだろう。いつ出会うか分からない私に警戒していたんだろうね。ふっ。全くもって無駄な抵抗だったなぁ、嶺一」
「じゃあじゃあ、恨むなって言ったのは?仲良くさせたかったんじゃないの…?」
「佳織。あの二人と仲良くするつもりでいたのかい?」
「そうだと思ってた。だって、恨むなって書いてたから…」
「恨むなと仲良くは別物だ。嶺一は側に行って欲しくなかっただけだよ。恨むなって言ったのは佳織があんな馬鹿な連中と同じ位置に立って争わせるなんてあり得ない。ちゃんと嶺一と私が報復をするつもりでいたんだから恨む必要もないし。さっきも言ったが君を傷つけたくなかったんだよ。まぁ、予想外に君が自分でしっかりと報復してしまったけどね」
私は茫然としてしまった。
こんなにも二人に守られていたなんて…、思わなかった…。
視界が揺らぐ。
頬を温かい滴が伝う。
目の前の誠さんの顔が揺らいで…。
「佳織…泣かないで」
誠さんの大きな手が私の目尻を優しく拭う。
「誠さんっ…ぅっ…」
ぼろぼろと頬を伝う涙をそのままに私は立ち上がって向かいに座る誠さんの側へ移動して抱き着いた。
広くて大きいその胸に顔を埋める。
そんな私の突然な行動に誠さんは嫌がりも驚きもせずにただ優しく抱きしめてくれた。
「誠さん…マコ…。愛してます…心、から…」
「『俺』もだよ。愛してる。ずっと…例え、何度生まれ変わっても。愛してる…」
何度生まれ変わっても、か。これ程説得力のある言葉はないわ。
嬉しくて知らず微笑んでしまう。
―――愛してる。
――――心から愛している。
誠さんも。そしてもちろん、嶺一のことも…。
(嶺一。貴方のことも愛しているわ。だから…また、次の世界で会いましょう。それまで、貴方への愛はこの心の中にとっておくわね…)
記憶があろうとなかろうと。
きっと私の愛はこの二人へ向くのだろう。
そして二人も私へ、その愛を向けてくれる。
前世ではその愛の所為でなにか問題が起きた事だってあるだろう。
二人に愛を向けるなんておかしいのかもしれない。
でも、それでも…。
(愛してる。愛しています。…―――私の運命の貴方達の事を)
顔を上げて、微笑む誠さんに微笑みで返して。
私は静かに誠さんの口づけを受け入れた…。
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