上 下
100 / 359
小学生編小話

美鈴のスパルタ教育

しおりを挟む
来た…。ついに来たっ!
白鳥先輩が授業から抜けられず、僕と白鳥さんの二人きりがようやく来たっ!
「それじゃあ、始めましょうか。猪塚先輩」
『うんうんっ!』
図書室の一角に向き合って座る。
……つい何時のも癖で向き合って座っちゃったけど…隣に座れば良かったんじゃ…?
座ってからじゃもう遅いしっ!
しくしくしく…。心の中で逃したチャンスに盛大に泣いておこう。
「問題集、作って来たんでこれをやりましょう。とは言っても、先輩は多分、敬語と普段の言葉を覚え間違ってるだけでしょうから必要ないかも知れませんが」
うん?
目の前に差し出された問題集と書かれたプリントの束。
「ちゃんと文章を読みこんで、問題に答えてくれたら解ける筈ですよ~」
白鳥さんがにこっと微笑んだ。
そうだ。折角白鳥さんが時間を割いてくれたんだ。
ちゃんとやらなきゃ失礼だ。よしっ!
「それじゃあ時間計りますよー」
『え?時間?』
「少しでも遅れたら、問題追加ですよー。追加の問題は難しくなりますよー」
『え?え?』
「ではー、よーい、スタートっ!」
ピッ。
どっからストップウォッチがっ!?
いや、そんな事より急がなきゃっ!!
僕は鉛筆を手に取り、白鳥さんが作ってくれた問題に取り掛かる。
ガリガリと書いて、次の問題を解いて。
必死になって解いてる最中、そう言えば白鳥さんは何をしてるんだろうと視線だけを上にあげると、そこには同じく問題を解いている姿があった。
ふと僕の視線に気付いたのか白鳥さんが顔を上げる。
『どうかしました?』
イタリア語でどうした?何か分からない問題でもあったか?と聞いてくる白鳥さんに慌てて首を振り問題に戻る。
また問題を解いて、それでもやっぱり気になって白鳥さんに視線を向けると、小首を傾げてくる。
………可愛いな。
触っちゃ、駄目、かな…?

『駄目に決まってるだろ。何をふざけた事を言ってるんだ?猪塚』

『はいっ!すみませんっ!』
思わず立ち上がって頭を下げる。
「せ、先輩?どうかしたんですか?いきなり立ち上がって…?」
『え…?』
頭を上げてきょろきょろ周りを確認する。
あれ?白鳥先輩がいない?
今声がしたのに……幻聴?
『い、今、白鳥先輩の声が…?』
『棗お兄ちゃん?え?いませんよ?』
気のせい、だった…?
なんだ…良かった…。
ほっとして椅子にとんっと腰を落とす。
『ふふっ。おかしな先輩、ふふふっ』
笑われた。でもいっか。白鳥さん可愛いし。笑うと増々可愛いし。
『そ、そうかな…?』
『はい。ふふ。先輩っぽい。ふふふっ』
僕っぽい?
どう言う意味だろう?僕は普段どちらかと言えば怖いイメージで通ってるはず。
なのに、おかしな行動が僕っぽいってのはどう言う事?
分からず首を傾げて答えを求めるけど、白鳥さんはただ首を振って微笑むだけだった。
うむむ?
取りあえず問題に戻ろう。
かりかりかり…。
鉛筆が机を叩く音だけが響く。
……さっきの白鳥さんの笑い顔。可愛かったなぁ…。
もう一度、見れないかな…。
せめて…その可愛い手に触りたい…。
そっと手を伸ばしかけて。

『猪塚…?』

ビクゥッ!!
ま、また幻聴っ!?
声がっ!
…いや、きっと気の所為だ。これも気の所為だよっ!だって白鳥さんが反応してないっ!
そっと手を伸ばして、白鳥さんの手に触れようとした、その時。

「何をしているのかな?猪塚君?」

驚きに全身を跳ねさせた。
ギギギッと錆びついたロボットの様に声のした方を見ると、そこには白鳥先輩がいた。
今日、来れないって言ってたのに…。
「あれ?葵お兄ちゃん?どうしたの?」
「やぁ、鈴ちゃん。棗に頼まれてね。どうしても抜けられない授業があるから代わりに鈴ちゃんと一緒にいてあげてくれって」
白鳥先輩がにこにこと白鳥さんに微笑んでいる。
その微笑みがいつもと違うような…?
そもそも今、僕の事を猪塚君って言ってたような…?
「棗お兄ちゃん…。葵お兄ちゃんも優しい…。大好きっ!」
あぁっ!?白鳥さんが、先輩に抱き着いてるっ!!羨ましいっ!!
「僕も鈴ちゃんが大好きだよっ。…さ、てと」
しかもそれを素直に受け入れて抱きしめてるっ!!ズルいっ!!
更に横の席に座るなんてっ!!うぅぅ…。
「鈴ちゃん。僕も一応参考書持って来たんだ。ちょっと覚えたい言語があって」
「フランス語?」
「そう。鈴ちゃんなら解ると思って。教えてくれる?」
「勿論、良いよっ」
白鳥先輩、イタリア語も覚えてフランス語も覚えるのっ!?
嘘だろ…。
驚いて口をぽっかり開けていると。
「…全く。まだ気付いてないのかい?僕は棗の双子の兄だよ。さっき鈴ちゃんも葵と呼んでいただろう」
「えっ!?双子っ!?」
まさかの返答が返って来てつい反射的に答えてしまった。
「…それすらも知らなかったのか」
呆れられた視線を向けられる。
その時、タイミングがいいのか悪いのか。ピーッとストップウォッチが音を鳴らした。
「はい、終了ー。先輩、出来たー?」
「え?え?」
机の上の問題集を白鳥さんが持って行く。正直半分も出来てない。
それを見て白鳥さんがにっこりと微笑む。
「猪塚先輩。はいっ!追加ーっ!」
ドサドサドサッ!
目の前に山の様に積まれる問題集。
「…えーっと…」
これは一体…?
「さっき言ったじゃないですか。少しでも遅れたら追加するって。量は倍々で増えますよー」
「ええっ!?」
これの倍になるのっ!?
白鳥さん、にこやかに鬼だよっ!?
「はい。次行きますよ。制限時間はさっきと同じ。よーい、スタートーっ」
「うええっ!?」
問答無用だねっ!?
これ以上増やされても困るっ!
慌てて目の前の問題集に取り掛かる。
「…馬鹿だねぇ。鈴ちゃんの見た目に騙されるからそうなるんだよ…」
白鳥葵先輩の言葉は、目の前の問題集に必死な僕には届かなかった…。
しおりを挟む
感想 1,230

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...