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第二章 小学生編

第十二話 計画の結果2

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時が過ぎるのは速いもので。
もう私も小学卒業間際になりました。
あのね…一つ、一つだけ言わせて欲しいっ!

どうしてこうなったっ!?

久々の叫びだよっ!!ほんとにさぁっ!!
小学校生活での私の目標っ!

『極力地味に過ごして攻略対象キャラの視界に映らないようにしよう』

何一つ出来てないよっ!!
なんなら世界規模で派手に過ごしてるよっ!!
いや、こう言うと語弊があるかもしれない。
プライベートは地味なまま、毎日家事をやって過ごしてる。
ただ、その合間に鴇お兄ちゃんと一緒に財閥の引継ぎをして、良子お祖母ちゃんと一緒に三年生から始めた薙刀をやって、葵お兄ちゃんと棗お兄ちゃんと一緒に先輩達から逃げ続け、とまぁ忙しいながらも普通で地味な…地味な毎日をね、送っているのよ、うん…。
あ、そうそう。私に旭の他に弟が増えました。…三人。
よりによってママが三つ子を産みました。しかも三人とも男児。名前はここまで来たら皆漢字一文字でという事で、『蓮(れん)』『蘭(らん)』『燐(りん)』に決定したんだけど、皆、誠パパ譲りの蘇芳色の髪とママ譲りの水色の瞳をしていてとても可愛いもののそっくり過ぎて産まれてから暫く区別がつかない日々を過ごした。なので私お手製のブレスレットが彼らの腕につけられている。蓮には水色、蘭にはピンク、燐にはオレンジ。
そういう区別の仕方ってどうなのって思われるとこだけど、名前を間違えて呼んだりして一緒くたにされたら可哀想だし。あ、家族は全員…ママ以外は区別ついてるよ。ママはほら、息子達を一律に野郎共と呼ぶようになったからさ。うん。母親ってこんなだっけ?…こんななのかも。息子だけで七人もいたらそうなるか。あ、でも、ママ嬉しそうだよね。前世では私一人だったから尚更子沢山が嬉しいのかも。
…とは言えもう弟はいりません。妹なら少し考えます。
っといけないいけない。話がそれた。
生活は騒がしくなったとはいえ変わらずな感じ。
問題は外での事。
まずFIコンツェルンが白鳥財閥に吸収合併されて事実上の日本トップの企業に躍り出た白鳥財閥の跡取りな私に物凄い量のお見合い写真が届く。それに伴いお祖母ちゃんが樹先輩、猪塚先輩、優兎くんを婚約者候補として名を上げさせ、他の企業の息子を追い払った。
そんな中、お兄ちゃん達と一緒に財閥の事について勉強を始め、今では私にある程度の事は一任されて、白鳥財閥のトップの人達の間では何やら色々な事が騒がれている。
更に、そんな私の急成長を見ていた商店街の人達が奮起し、今じゃ商店街がまるでショッピングモール並みに立派になっている。
テレビ中継の度に商店街のアイドルがーとか、日本の上層部の方では天才の子現るーとか…。
正直滅茶苦茶目立ってるっ!!
「どうしてこうなったのーっ!」
私がママの部屋のパソコンの前で叫んでいると、
「さぁ?」
ママがあっさりと私の悩みを放棄した。…酷い。
「それより美鈴。更新するならさっさとしちゃいなさいよ」
「……はひ…」
泣きながらパソコンのデータを開く。
お兄ちゃん達に特に思い出したことはないので、一先ず小学校で出会った人について更新しよう。
まずは猪塚先輩。

猪塚要(いのづかかなめ) 一つ年上の先輩。ヒロインの学校の生徒会会計。柔道部に所属。男子柔道部に入部しマネージャーに志願するか生徒会に加入すると好感度が上がりやすく遭遇率アップ。必要パラメータ、文系、優しさ。文系は限界突破ありでMAX状態で攻略可能。限界突破アイテムは『イタリア語入門編』。優しさは四分の一以上。好みのスタイルはCS。メインイベントは図書室での勉強会。イベント発生条件は文系をMAXにして置く事。そして大地との友好度が80以上。内容は猪塚と大地の二人が柔道部に顔を出している時。イタリア語を習いたかったヒロインは大地から猪塚を紹介されて、図書室での勉強会が開かれる。因みにそこで彼が覚えている日本語とイタリア語の相違に気付き、その時アイテム『イタリア語入門編』が渡される。そのアイテムを手に入れる事により、文系のパラメータの限界突破が可能になる。限界突破してから尚数値をMAXにするとエンディングへのフラグが解放される。

猪塚先輩か~。実は、猪塚グループって言う所のお偉いさんの息子だったんだよね。これはゲームにもある設定だけど。
そして、問題の限界突破アイテム。これねぇ、私イタリア語知ってたからいらなかったんだよね…。
でもそのおかげでイベントを無視出来たり、違う展開になるかもと期待して、先輩に日本語を教えていたら、まさかの懐かれるという…。三日に一回は熱烈なラブレターが届き、静かに棗お兄ちゃんが回収していく。その日は一日棗お兄ちゃんがブリザードを吹き荒らしていたりするけどそれはまぁ仕方ない。
猪塚先輩、最近では見た目が怖いってだけで、話すと優しい先輩って人気が出て来たのに。
そう言えば小1の時のあの事件でヴィオラ弾いてたな。弦楽器を弾けるとか知らなかったけど。ほら、こんな風にちゃんと乙女を落とせる攻略対象としてしっかりとした要素もあるんだからちゃんとアピールしたらきちんとした恋人が出来るかもしれないのに。
猪塚先輩の場合は恋人って言うか婚約者かな?…勿体ない。私みたいな男性恐怖症の女を狙うよりいい道に行って欲しいと切に願う。
あれ?そう言えば、本来猪塚先輩って大地お兄ちゃんと仲良くなるはずだよね?今の所全く接点がないんだけど、いいのか、これ?それとも私が知らないだけ?
んん?これから少し変化が起きるのかな?実際ゲーム開始時の年齢所か中学生にもなってない訳だし。まだ何とも言えないか。
次に行こう。次は優兎くん。

花島優兎(はなじまゆうと) ヒロインと同い年の幼馴染。基本的にはヒロインと常に一緒にいる女装男子。デートに誘うと断られる事はないが、好感度が上がるとバッドエンドへの道も開かれる。必要パラメータ、優しさ、色気。優しさは限界突破ありでMAX状態で攻略可能。限界突破アイテムは『母の形見』。色気は四分の一以上。好みのスタイルはSS。メインイベントは、学校行事の帰り道。イベント発生条件は優しさをMAX状態にして置く事。奏輔との友好度が80以上。更に奏輔の女装姿を見ている事が必須条件。奏輔が女装をするのは塾でアルバイト中に一年の春、二年の秋、三年の夏の第一土曜日に各一回だけである。そこへ優兎との好感度を上げて連れて行くことが必要。内容は、学校行事の帰り道に優兎が実の父親に再開して、自分が行った罪の意識を取り戻されてしまう。その時アイテム『母の形見』を落とす。それを使い優兎を助ける必要があり、更に優しさのパラメータが限界突破になるので、その数値をMAXにするとエンディングへのフラグが解放される。

とは言う物の、このエンディングへのフラグが曲者だ。
確かにエンディングへの道は解放される。が、しかし。
優兎くんはバッドエンドがある唯一のキャラクター。
そのバッドエンドも二通りある。

花島優兎(はなじまゆうと) バッドエンド1『優兎、苦悩からの解放』これは優兎が自殺するエンド。発生条件は、『母の形見』をもっておらず、奏輔の女装姿も見ていない。この条件を満たしていると、優兎は血塗られた運命からの解放を求めて、実の父親を殺害後、ヒロインに告白をして自分の喉を掻き斬って死んでしまう。
バットエンド2『優兎と共に…』これは優兎とヒロインが心中するエンド。発生条件は『母の形見』を持っていて、奏輔の女装姿を見ていない。この条件を満たしていると、優兎が自分の祖母を手に掛けた事を知ることが出来るが、己と向き合うだけの力を得る事が出来ない。その為、精神を狂わせた優兎の手をとりヒロインは共に海へと身を投げる。

……奏輔お兄ちゃんの女装ってそこまで重要ですか?
でも、そっか。奏輔お兄ちゃんもどちらかと言えば女顔かも。優兎くんの持ってるコンプレックスと少なからず同じコンプレックスを持ってる年上の男がいれば目標に出来るって事?
そう言えば優兎くんってやたらと奏輔お兄ちゃんに懐いてたな。姉しかいない奏輔お兄ちゃんも満更じゃない感じだったし。良い兄弟って感じ。
私としては、優兎くんのバッドエンドだけは絶対に回避したかったから、この事に関しては何の後悔もしてないな。優兎くんには出会って良かったって本当に思ってる。
何よりもほら、美智恵さんを助けれたし。優兎くんの罪がなくなったんだよ。こんなに良い事はないよね。
……おかげで毎日の様に、優兎くんとの結婚を勧められるけどね…。
優兎くんからは、結婚の話とか全くしてこない。どっちかというともうすっかり家族の一員だよね。誕生日から考えると…優兎くんが弟、かな?あはは。
優兎くんに関してはバッドエンド含めフラグを回避出来てる気がする。優兎くんとはこのままいい感じで友情を築いて行きたいと思う。
さて、最後の問題児だ。

樹龍也(いつきたつや) ヒロインの二個上の先輩で、ヒロインの学校の生徒会長。ヒロインの兄である双子とは仲が良い。双子の兄である葵とは親友関係。メインヒーローなので出会いは強制的。ゲーム開始時に一番最初に出会う攻略対象男子。必要パラメータ、文系、理系、運動、雑学、芸術、優しさ、色気を全てMAX。好みのスタイルはなし。メインイベントもなし。

これだけ見ると攻略しやすそうに見える。実際、この状態で好感度MAXにするとエンディングは見れる。グッドエンディングは、ね。
樹龍也。このメインヒーロー。優兎くんとは逆に唯一トゥルーエンディングがあります。
この条件をやっとのことで全て思い出したんだけど、鬼だよ?

樹龍也(いつきたつや) トゥルーエンド『俺の全てをお前に』これは樹龍也と完全な形で結ばれるエンド。発生条件は、一つは限界突破アイテム『樹家の所有印』を持っている事。二つ目は登場人物全て友好度をMAXに。三つめは限界突破したパラメータ全てMAX状態に。四つ目はデートへのお誘い成功回数が100回以上。五つ目は強制イベント『襲撃』で好感度最下位にして、常に一緒に動く事。六つ目はクリスマスのイベント『婚約者候補』にて彼の婚約者候補として名を呼ばれる事。以上をクリアしているとトゥルーエンドを迎える事が出来る。

当時は、何だこれ、ありえねーと思ってたけど、……実は今も思ってる。
何?完璧な男とくっつくには女も完璧であれ?ふざけんなっての。
でもねー…。皆さん、聞いて下さいな。限界突破アイテム『樹家の所有印』ってあるじゃん?それってね、婚約指輪でね。チェーンに通してネックレスとして渡されるの。
ほーら、思い出して。私、渡されたでしょう?ほっぺにチュウと一緒にさぁ。しかもこの指輪よく見ると、樹先輩の名前と私の名前が彫られてるの。
パラメータがMAXになってるって事だよね。うふふふー…嫌だわー……。
あぁ、でも樹先輩と結ばれるって事はまずないよ。だって、他の条件をMAXにする気も達成する気もないもの。ふふん、どやぁっ。
ちなみに、グッドエンディングだと彼と結ばれはするけど、彼の地位が邪魔をして恋人の関係をいつまで保てるかな?ってヒロインが不安を抱えつつエンディングを迎える。
それに対し、トゥルーエンディングは完璧な女として出来上がってるので、彼の地位を害する事なく嫁に行けるという完璧なエンディングを迎える事が出来る。
私はどちらもノーセンキウ。何故なら、自分の財閥で手一杯だからです。
ただでさえ優兎くんの所のFIコンツェルンが吸収されたおかげでてんやわんやだっつーに、これ以上増やされてたまるかっ!

何はともあれ、今回出会った三人とは、男女の関係になる予感もなく、普通に知り合い、幼馴染、友達(やや嫌い寄り)になりそうで一安心だ。
一通り書き終わり、私はパソコンを閉じて、ふぅと一息ついた。
「ねぇ、美鈴?」
「なぁに?ママ。もう弟はいらないよ?」
「うん。私も産む気はもうないけど、そうじゃなくて」
「うん?」
ママは私の胸元を指さした。
へ?なに?
その指の先に視線を向けると樹先輩から貰ったネックレスがある。
「どうして、そのネックレス毎日してるの?」
「…私だって着けたくないよ。でもね、一日でも外してると…」
このネックレスを貰った冬休み明けの三学期初日。
待ち伏せていた樹先輩が、
『何故つけてないっ。銀川っ。急いでスペア持ってこいっ』
と銀川さんに頼んでまで持って来させて、首につけさせたのだ。
銀川さんを憐れに思い、一応毎日つけるようにしたんだけど、たまに忘れる事もある。すると、
『はぁ。お前は俺の物なんだから、肌身離さず風呂に入る時も寝る時もつけてろ』
とスペアを渡される。
そんな日々が続いたらもう日課になるよね。
最近では朝起きたらネックレスを付けるが普通になりつつある。
その事をママに説明すると、ママは腹を抱えて笑った。
「笑い事じゃないんだけど…」
「だって、美鈴っ。樹君の涙ぐましいアピールを思うと微笑ましくなっちゃって」
「微笑ましいって、大爆笑の間違いでしょ」
言うとママはソファの上に倒れ込んで笑い過ぎて、落下した。天罰は下る。
「にしても、よく葵が黙ってたわね」
一頻り笑ったママに言われ、私は苦笑する。そして、くるっとママに背中を見せた。
「なに?怒ったの?」
「ううん。そうじゃなくて、リボン見て」
「リボン?あぁ、そう言えば最近良く淡いピンクのリボン付けてるわね」
「最近じゃないの。色形違えどリボンは全てこの色なの。このネックレス貰ってから」
「ん?どう言う事?」
「ママ、葵の花って何色か知ってる?」
「青?」
「違うの。多種多様あるけど、基本的にピンクなのよ」
……沈黙が漂う。このネックレスを貰ってから、皆対抗意識が芽生えたのか贈り物ラッシュが続いた。
透馬お兄ちゃんからは銀細工が届くし、奏輔お兄ちゃんからは着物が、大地お兄ちゃんからは野菜が届いた。
「で?」
「何が「で?」なの?」
「猪塚君からは?」
「猪塚先輩の近くには寄れないので一切物を受け取ってません」
「あら、そうなの。なら、優兎くんからは?」
「優兎くん?何も貰ってないよ?あ、でもたまに綺麗な花畑連れてってくれるよ。どこで見つけてくるんだろうね。凄く綺麗な場所なんだ」
「…優兎くん、抜け目ないわね。じゃあ、棗は?」
「棗お兄ちゃん?棗お兄ちゃんは、これ」
そう言って見せたのは小指に嵌ったピンキーリング。本当に小さな黄色の石がついてる。
「それって、カルセドニーね?黄色の」
「流石ママ。見てわかるなんて数多くの男に貢がせただけの事はあるねっ!」
「人聞きの悪い事を言わないで頂戴。それはあくまで前世の話よっ!」
冗談で言ったつもりだったんだけど、前世でそうだったんだ…。知らなくていい事実を知ってしまった。私って馬鹿ね…。
とそれとは別として、棗お兄ちゃんがくれたこの指輪。黄色だし金運なのかな?って思って聞いたら不安解消って意味もあるんだよって言ってた。
棗お兄ちゃん、本当に優しい…。
「にしてもやるわね。棗。一足先に指をゲットした訳か…。そうだ。鴇は?鴇はどうだったの?」
「鴇お兄ちゃん?鴇お兄ちゃんは仕事の報告書、かな。アレ凄く助かったんだー。あ、あと、食事に連れてってくれた。美味しかったよっ!サバ味噌定食っ!」
もう一度食べたいっ!今度は自分でお金払うからもう一回連れてってくれないかな、鴇お兄ちゃん。……おねだり…は、我慢します。鴇お兄ちゃんにも都合があるだろうし。お兄ちゃん達には早めに彼女作って欲しいし。
「皆攻略対象キャラの癖に、なんなの、この最終的な押しの弱さは…ブツブツブツ…」
ママが何やらブツブツ呟いている。しかも悪い顔で呟くから始末に負えない。帰ってこい、ママ。カムバック。
じっとママを観察していると、段々眉間に皺がより険しい顔になっていく。え、ちょっと、なんなのさ。
えーっとえーっと、話題変換話題変換っ。あ、そうだっ。
「ママ、そう言えば聖カサブランカ女学院から入学の手続き書類来てたよ。後で確認して」
突然の話題変更にママは数回瞬きをして、ふと我に返り頷いた。
「あー。忘れてたわ。あそこって母親の認め印じゃないといけないのよね」
「そうそう。ママ達の寝室に一応置いてるから」
「分かったわ」
この様子じゃまた忘れそうだなぁ。後でママの前に全て用意して突き出そう。
ふぅと溜息をついていると、コンコンとノックがされて、ドアが開いた。
「佳織母さん、ここに鈴が…あ、いたいた」
顔を覗かせたのは棗お兄ちゃんだった。
「どうしたの?棗お兄ちゃん」
私が棗お兄ちゃんに向かって微笑むと、中学生になってすっかり身長が伸びた棗お兄ちゃんも少し大人な顔で微笑んだ。
「猪塚と樹が来てるんだけど、何か出せるものあるかな?」
「んー…あったかな?」
作り置きした物は昨日全てお兄ちゃん達が食べたし。いっそ作ろうかな。粉はあるし、卵に牛乳…。
冷蔵庫の中身を思い出して、小さく頷く。
「今から少し時間かかるけど、何か作るよ。甘いのとしょっぱいのどっちがいい?」
棗お兄ちゃんの前に立ち尋ねると、棗お兄ちゃんは私をひょいっと抱き上げて、
「どっちでもいい、って言いたい所だけど、今日は甘いのがいいな」
と嬉しそうに言うから私も任せてと胸を張る。
「あ、美鈴。甘いのだったら私ホットケーキ食べたいわ」
「オッケー」
じゃあママと棗お兄ちゃんのリクエストにお応えして今日はホットケーキっ!ふわふわのホットケーキにしようっ!
棗お兄ちゃんの腕に抱っこされたまま、私達はリビングへ向かった。
そこには確かに猪塚先輩と、樹先輩、そして優兎くんと葵お兄ちゃんが机に座り勉強会を開いていた。
「よぉ、美鈴」
「あぁ、白鳥さん。やっと会えたっ」
「…やっとって猪塚先輩、昨日も会いましたよね。それから樹先輩。真っ先に女の胸元見るのって正直気持ち悪いですよ」
この二人に対する遠慮は小学六年間でほぼほぼ消え失せた。でも、
「いいだろ?いずれ俺のモノになるんだし」
「数時間会えないだけでも恋しいよ」
二人も成長しちょっとやそっとじゃ負けなくなっちゃいました。
「…鈴ちゃん。馬鹿は相手にしなくていいからね」
葵お兄ちゃんが微笑み、
「美鈴ちゃん。今日のおやつ何?」
優兎くんのエンジェルスマイルで二人の印象はかき消される。
「今日はママのリクエストでホットケーキですっ!ふわふわのを焼くんだー」
棗お兄ちゃんの腕から降ろして貰い、キッチンに立つ。
身長もそれなりに伸びた為、キッチンにあった誠パパ特製踏み台は撤去されました。
私も六年の間に結構背が伸びたと思ったんだけど、もともと結構なチビだったから人並になったってトコ?
その点お兄ちゃん達はすくすく伸びて、もうびっくり。攻略対象だから当然と言えば当然で、一番身長が低いと設定されている優兎くんですら170センチ越えするので、まだまだ成長期なんだろう。
流石に鴇お兄ちゃん達は止まってるだろうけどね。確か攻略対象キャラで一番大きいのは大地お兄ちゃんの189センチ、だったかな。ほぼ190だよね、それ。
この前おんぶしてくれたんだけど、怖いコワイ。高いって怖いね。肩車は遠慮して正解だった。
材料を出して混ぜ合わせていると、いつの間にかリビングでママのスパルタ教育が始まっていて、私はそっと視線を逸らし料理に集中する。
すると、大学から帰宅した鴇お兄ちゃん達―――今日は集まる予定だったらしい―――がソファの方に座り教材片手に何やら談笑している。
フライパンを三刀流にして使い、同時にホットケーキを三つ焼いていく。その間にメープルシロップにジャムなどトッピングを器に取り分けて、トレイの上に置く。
「葵お兄ちゃん、棗お兄ちゃん、優兎くん、運ぶの手伝って貰ってもいい?」
「勿論」
「どれから運ぶの?」
「わわっ。美味しそうっ。全部美鈴ちゃんのお手製ジャムだねっ」
「こっちの青いトレイが鴇お兄ちゃん達用、こっちの赤のトレイがお兄ちゃん達用でこの白いトレイがママ」
フライパン片手に指示を出すと、頷いて手慣れた手つきで持って行く。
「美鈴ー。コーヒークリームないのー?」
「あ、ごめん。切れてるのー」
「今から作って」
「ふざけんな。無理」
「ぶー」
ママの我儘を斬り捨てる。あのクリーム作るの超面倒なんだから。今すぐには無理なの。
「明日作っておくから今日は我慢してよ」
「仕方ないわねー」
私とママが丁々発止やり合ってると、何故か鴇お兄ちゃんがこっちを驚いた顔で見ていた。
「おい、美鈴?お前明日受験だろ。いいのか?」
そう言われて私は何の事か解らず小首を傾げる。
「まさか、忘れてるとか言わないだろうな?」
「忘れる?」
「おいおい。本気か。明日花札学園中等部の入試試験日だろ」
「あぁー…そう言えば」
そう言えば明日華菜ちゃん受験だって言ってたもんね。そっか。鴇お兄ちゃん。応援してやれって言ってるのか。
「思い出したよっ。うん、分かったっ。華菜ちゃんの受験日だもんねっ。頑張れって電話しとくっ」
「そうか。そうしておけよ…ってそうじゃねぇよっ」
おお、鴇お兄ちゃんが珍しくノリ突っ込み。
でも、そうじゃないってどう言う事?
「お前は確かに賢いし、会社も経営出来るほどに成長したが、中学は行かなきゃならないだろ」
「うん。そうだね。勿論行くよ?」
鴇お兄ちゃん。何が言いたいのか分からないよ。
取り合えず焼きあがったホットケーキを皿に盛りつけて、新たに焼き始める。
「だったら、こんな事してていいのか?準備とか」
「私の準備?んー…でも私花札学園には行かないから受験の準備しても意味ないし…」
私が通う予定の聖カサブランカ女学院の受験はもうとっくに終わってるし、一体何の準備をしたらいいのかな?
呟きながら首を傾げていると、

『……はぁっ!?』

一斉に驚かれ、私はその声に飛び上がる。
その後は怒涛の問い詰めだった。
「ちょ、ちょっと待ってよっ!姫ちゃんっ。ここいらの進学校って言えば花札だろーっ!?」
「あかんっ!あかんで、お姫さんっ。あんな所行ったらお姉達と同じになってまうっ!」
「姫が七海と同じになったら耐えられないっ」
「おい、美鈴っ!何で言わなかったっ!俺はてっきりお前も俺達と同じ中学に来るもんだと思ってたぞっ!」
「冗談だよね、白鳥さんっ!!冗談だと言ってよっ!!」
「僕も美鈴ちゃんと一緒の中学入ろうって頑張って勉強してたのにっ!」
「鈴っ、僕達も聞いてないよっ!?」
「鈴ちゃんっ!どうして黙ってたのっ!?」
「……美鈴。きちんと、最初から、全て、納得出来るように説明しろ」
………これは、逃げるのが一番ではなかろうか?
フライパンの火を切って、そっと座りこみ、そーっとそーっと床にある食糧庫の蓋を開ける。
大股で歩く足音が聞こえてきたっ。急いで中に潜ろうっ…とする前に、
「逃げるなっ!」
鴇お兄ちゃんに子猫の様に襟首を掴まれ持ち上げられた。ぶらーんぶらーんと揺れる体。にゃーん…。
視線が刺さる刺さる。私は焦りながら説明した。
「あ、あのねっ。私ね、最初から女子中に行くつもりだったのっ。でもねっ、お兄ちゃん達がいるし、普通の中学に行ってもいいかなって思ったんだけど、ママが聖カサブランカ女学院に行けって言うからっ」
鴇お兄ちゃんが私をじっと見てくる。
でも、これは事実だから目を逸らしたりしないもんっ。
実際、本当は女子中に行かなくてもいいかな?って思ったりもしたんだ。だって華菜ちゃんいるし、お兄ちゃん達もいるし心配ないかなって。だがしかし、そうは問屋が…ママが許さなかった。
『美鈴。同性の味方増やした方がいいんじゃない?これからに備えて』
と尤もな事を言われて、素直に納得した。その後に小さく『最近は百合もブームになってきてるわよね…』と言いながらそっとカメラを渡してきたのは、にっこり笑って叩き返してやったけど。
兎に角原因はママ。
それが分かり、皆一様に溜息をついて諦めた。
一方、そんな視線を受けたママは、男達の事など一切気にもとめず、
「美鈴。ホットケーキまだ?」
と鋼の心臓で私にクレームを付けて来たと言う…。

また暫くは油断出来ない日々が続くなと、私は盛大に溜息をつくのだった。
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